富士電機技報
第86巻第2号(2013年3月)

特集 創エネルギー技術 - 発電プラントと新エネルギー -

特集 創エネルギー技術 - 発電プラントと新エネルギー -

企画意図

CO2の排出による地球温暖化の問題に加えて、東日本大震災後の原子力発電所の長期停止に伴う電力需給の逼迫により、環境負荷が少なく信頼性が高い発電プラントが要求されています。富士電機は、環境にやさしいクリーンエネルギーを創る“創エネルギー”技術として、発電プラントと新エネルギーの技術開発を進めています。発電プラントでは、“火力”“回転機”“水力”“原子力”の各分野で高効率化や高信頼性化の技術で地球環境保全と電力供給に貢献しています。新エネルギー(再生可能エネルギー)では,普及に向けて、地熱発電(バイナリー式、フラッシュ式)、風力発電、太陽光発電(メガソーラー)などの開発を進めています。本特集では、地球環境保全と安定した電力供給に寄与するこれらの創エネルギー技術を紹介します。

〔特集に寄せて〕復興後の電力供給と電力産業の課題

内山 洋司
筑波大学システム情報系教授
産学リエゾン共同研究センター長

〔現状と展望〕創エネルギー技術の現状と展望

米山 直人

世界のエネルギー需要は、経済成長と人口の増加を背景に年率3.3%で伸びると予想されている。富士電機は、エネルギーの安定供給や環境負荷低減に貢献するために、“創エネルギー”分野でさまざまな研究開発を進めてきた。火力発電分野では、コンバインドサイクル発電や石炭火力発電における高性能化や信頼性の向上に取り組んできた。再生可能エネルギー分野では、地熱発電や太陽光発電、風力発電、水力発電にも積極的に取り組み、発電設備の高性能化や富士電機が得意とするパワーエレクトロニクス技術を生かした新技術の導入などを進めてきている。

火力・地熱発電所のプラント技術

尾上 健志 ・ 山形 通史 ・ 上野 康夫

火力・地熱発電所の建設では、多くの要素技術が関わりを持っている。近年、建設を終えたプラントで、その主要な技術を説明する。吉の浦火力発電所は、沖縄電力株式会社が燃料に初めてLNGを採用した一軸式コンバインドサイクル火力発電所で、沖縄本島の最大容量機を持つ。ガスタービンと蒸気タービンにガバナフリー制御を導入して、応答性能を向上させた。ウルブル地熱発電所は、インドネシア政府の第二次電源開発計画の下に開発された最初の地熱発電所であり、モデルプラントとして注目された。ガス抽出設備のハイブリッド化や主要機器の配置の全体最適化などを行った。

最新の地熱タービンにおける耐食性・性能向上技術

森田 耕平 ・ 佐藤 雅浩

地熱エネルギーは、CO2 をほとんど排出しないクリーンなエネルギーであり、富士電機は、国内外に約60 台の地熱タービンを納入している。地熱タービンにおける耐食性向上技術では、翼脚や翼溝へのショットピーニング、2%Cr 鋼のロータ や溶射によるコーティング技術を開発した。性能向上技術では、地熱用新世代低圧翼や高負荷高効率反動翼を開発するとともに、最適化設計により高性能コンパクト型の排気ケーシングを実現した。さらに、トリプルフラッシュ発電の採用により、地熱単機容量では世界最大出力となる地熱タービンを実現した。

地熱熱水利用バイナリー発電システムにおけるシリカスケール対策技術

川原 義隆 ・ 柴田 浩晃 ・ 久保田康幹

フラッシュ式地熱発電システムの還元熱水を熱源とする地熱熱水利用バイナリー発電システムは、地熱流体から効率良く熱を取り出すことができるので、高い経済性が得られる。しかし、熱水温度の低下に伴い、シリカスケールが発電設備や井戸に付着する懸念がある。東北水力地熱株式会社葛根田蒸気基地での現地試験により、シリカ濃度の低い熱水の場合は、シリカ重合反応が停止しているため、温度によってシリカスケール付着速度が変わらないことを明らかにし、このシステムの実用化のめどを立てた。また、アルカリ間欠注入法により、シリカスケールの抑制・溶解が行えることを実証した。

火力発電所向け蒸気タービンの最新技術

和泉  栄 ・ 森山 高志 ・ 池田  誠

ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電は、発電効率が高い、CO2排出量が少ないなどの特徴があり、採用が拡大している。コンバインドサイクル発電である沖縄電力株式会社吉の浦火力発電所に、発電機と蒸気タービンとの間にクラッチを備えたことを特徴とする単車室軸流排気再熱蒸気タービンを納入した。また、オマーン・SURプラントに、左右2方向排気を特徴とする二車室両サイド排気再熱蒸気タービンを納入した。火力発電所向け蒸気タービンにおける最新技術として、溶接技術,USCタービン技術および低圧翼の信頼性向上技術を開発している。

一軸式コンバイドサイクル発電設備用全含浸絶縁水素間接冷却タービン発電機

山﨑  勝 ・ 新倉 仁之 ・ 谷藤  怜

富士電機は、全含浸絶縁システムの空気冷却タービン発電機において多くの実績を持っている。沖縄電力株式会社 吉の浦火力発電所1・2 号機向けに全含浸水素間接冷却タービン発電機の設計・製作を行った。これは、構造・製造方法の多くを空気冷却タービン発電機と基本的に同一とする両軸駆動の一軸式コンバインドサイクル発電設備用の発電機である。実績から得られたデータや通風解析および強度解析により、最適化や信頼性の向上を実現している。各種試験において、性能を満足する結果を得ており、現地でも良好な運転状態にある。

大規模太陽光発電システム技術

中川 雅之 ・ 項  東輝

太陽光発電システムの国内市場は、大規模太陽光発電(メガソーラー)に拡大し、高効率・高信頼性・省スペースのニーズが高まっている富士電機は、沖縄電力株式会社 安部メガソーラー向けに機器・遠方監視制御システムを含めた機電設備一式を納入し、2012 年3月末から運転を開始した。パワーエレクトロニクス技術を用いた高効率大容量パワーコンデショナや大規模監視制御システムを適用している。 また、再生可能エネルギーの大量導入時の電力系統における課題を解決するため、安定化システムを用いた離島向けマイクログリッド実証設備などを通じ、系統連系技術を開発している。

風力発電用のパワーコンディショナおよびコンバータにおける回路・制御技術

梅沢 一喜 ・ 上原 深志 ・ 山田 歳也

風力発電は、風速の変動による発電変動があるため系統電圧に影響を与える。風力発電を大量に導入するために、系統における電源品質が要求されている。発電変動を補償するものとして、電力安定化用パワーコンディショナ(PCS)がある。 これにAT-NPC 3 レベル変換回路を使用してIGBT素子のスイッチング損失を大幅に低減するとともに、高調波成分の半減により業界最高効率98.1% を達成した。また、落雷などの系統電圧低下時においても解列しないで運転継続を行うFRT(Fault Ride Through)機能を組み込み、系統連系が可能な電源品質を実現した。

風力発電用永久磁石同期発電機

真下 明秀 ・ 星  昌博 ・ 梅田 望緒

再生可能エネルギーへの注目が集まる中、風力発電分野においても世界的に市場が伸長している。富士電機では,風力発電の高効率運用を目指した風力発電装置の製品化を進めている。発電機には永久磁石同期発電機を採用しており、国内最大級の3,000 kW級試作機の製作、検証を完了した。ダイレクト駆動方式の風力発電システムに適用する低速の発電機である。 軽量化、耐環境性および多台数生産に適した構造を実現するための新しい技術を盛り込んでいる。試作機の検証結果は良好であり、風力発電機としての性能を十分に満たしていることを確認した。

新規ニーズに対応した燃料電池

腰  一昭 ・ 黒田 健一 ・ 堀内 義実

東日本大震災以降、高効率な分散型電源である100 kW 燃料電池の導入による電源セキュリティの向上や、再生可能エネルギーである下水消化ガス発電への燃料電池の適用が広く検討されてきている。
富士電機は、停電時の自立運転への切替え技術やLPガスへの燃料の切替え技術などを適用して、電源セキュリティを向上した燃料電池を開発し,川崎工場に設置した。また、小規模下水処理場向けの下水消化ガスと都市ガスが併用可能な機種や、EU 向けのCE マーク適合機種など、新規ニーズに対応した燃料電池を開発している。

水車・発電機の最新技術

塚本 直史 ・ 高橋 正宏 ・ 藤井 恒彰

水車・発電機は、コスト低減や保守の簡素化に加え、環境に配慮した製品が望まれており、水車では、冷却水や操作油を不要にする水レス・油レスの技術開発が、発電機では補機省略と高速度化の技術開発が進められている。富士電機ではこれらに応えるため、水車ではハイブリッドサーボをガイドベーン操作だけでなく、ランナベーンの開閉操作にも適用した。また、高速で大容量の水車発電電動機においては、回転子の強度解析技術、可変剛性型防振システム、ならびに補機の省略のための高速機向けスラスト軸受自己循環ポンプシステムを開発し、適用した。

水力発電プラントの機器更新技術

高橋 正宏

水力発電では、老朽化した機器の更新計画が増加する傾向にある。特に韓国では,既設の構造物を流用し、設備保全と出力増を目的とした水車・発電機および制御装置の更新が順次進められている。 ゲサン発電所では,運転開始から50年以上経過した吸出し管、ケーシングなどの埋設部を流用し、その他の老朽化した機器の更新を行った。水車の効率特性およびキャビテーション特性を流れ解析により予測して、確実な性能設計を行った。水車では、水潤滑軸受,無給水メカニカルシール、ガイドベーン操作のハイブリッド化などを採用し、発電機では樹脂軸受を採用して保守を簡素化した。

汚染土壌乾式除染・減容技術

神坐 圭介 ・ 富塚 千昭

東日本大震災により発生した福島第一原子力発電所の事故によって放射性物質が放出され、環境汚染が生じている。除染のために削り取った土壌から汚染レベルの高い土を分離すれば保管が必要な量を減らすことができる。
富士電機は,宇部興産機械株式会社と共同で汚染土壌乾式除染・減容技術の開発を行った。一般産業で使用実績のある乾式分級・研磨装置と放射能計測装置を組み合わせたものであり、大量処理が可能な技術である。実際の汚染土を用いた実証試験において、研磨・分級後の放射能濃度が半分以下に低下していることが確認できた。

新製品・新技術紹介

略語(本号で使った主な略語)

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