富士電機技報
第88巻第3号(2015年9月)

特集
食品流通の冷熱技術とグローバルソリューション

特集 食品流通の冷熱技術とグローバルソリューション

企画意図

食品流通の分野では,省エネルギー性に優れた自動販売機をはじめ,安全・安心に食材を届ける輸送・貯蔵機器,店舗関連機器,ならびに,これらをITと組み合せたソリューションが求められています。富士電機は,これらに応えて“高品質”“多様化”“環境” “グローバル化”をキーワードに掲げ,関連技術の研究開発に取り組み,お客さまのニーズにマッチした製品を市場に展開しています。
本号では,省エネルギー化に欠かせない冷熱技術と,それを適用した製品およびグローバル市場に向けた特徴ある製品,ならびに商品販売機構や貨幣識別を可能とする要素技術などについて紹介します。

〔特集に寄せて〕食品流通技術の発展への期待

大越 ひろ
日本女子大学家政学部食物学科 教授

〔現状と展望〕食品流通の冷熱技術とグローバルソリューションの現状と展望

杉本 幸治

市場のさまざまな状況変化に伴って食品流通事業に求められる要求は変化してきており,富士電機では,“高品質”“多様化”“環境”“グローバル対応”の四つをキーワードに挙げ,研究開発に取り組んでいる。高品質・多様化においては,超小型カップ式自動販売機やインバータ冷凍機搭載のドリンク用ショーケースを開発した。環境対応においては,エジェクタ冷凍サイクルを適用したCO2冷媒ヒートポンプ式自動販売機やヒータ電力ZERO自動販売機「ハイブリッドZERO」を開発した。また,グローバル対応の貨幣識別装置や,DCギアモータを採用した缶・ボトルの搬出機構などの開発を行い,グローバルプラットフォーム化を推進している。

エジェクタ冷凍サイクル適用のCO2 冷媒ヒートポンプ式自動販売機

鶴羽 健 ・ 山上 雄平 ・ 松原 健

富士電機は,飲料用自動販売機の冷凍機にCO2 冷媒とハイドロフルオロカーボン冷媒を採用しているが,CO2冷媒の使用圧力がハイドロフルオロカーボン冷媒より高いため,圧縮機を駆動する電力も大きくなるという課題があった。そこで,使用圧力が高いことを利用し,損失していたエネルギーを回収するエジェクタを採用するとともに,エジェクタを最適に制御する冷凍機を開発し,飲料用自動販売機に搭載した。冷凍機の成績係数(COP)の向上によって,従来機に比べ消費電力量を25% 低減できる。

ヒータ電力ZERO 自動販売機「ハイブリッドZERO」

石田 真

富士電機は,環境負荷の低減のため,大幅な省エネルギーとピーク電力低減をコンセプトに,電気ヒータを搭載しないヒータ電力ZERO 自動販売機「ハイブリッドZERO」を開発した。従来は,貯蔵庫の一部を電気ヒータで加熱していたが,ハイブリッドZERO は全ての加熱室をヒートポンプで加熱する。熱交換器や圧縮機を高効率化するとともに,冷媒流路の切換弁を新規に開発することでこの機能を実現した。これによりハイブリッドZERO は,実使用を想定した運転モードにおいて年間消費電力量の15% の低減と,冬季の運転モードにおける消費電力の最大55% の低減を達成した。

オフィス向け超小型カップ式自動販売機「FJX10」

畔栁 靖彦 ・ 伊藤 修一 ・ 西川 洋平

富士電機は,カップ飲料オペレータ企業である株式会社ジャパンビバレッジホールディングスと共同でオフィス向け超小型カップ式自動販売機「FJX10」を開発した。コンパクトサイズ,低消費電力など,オフィスへの設置に適した仕様であり,身近でおいしいコーヒーを提供できる。また,衛生性・清掃性に優れたカップミキシング方式を,業界初となる横一軸搬送機構で実現した。さらに,真空断熱構造による省エネルギー温水タンクや高効率な省エネルギー製氷機の搭載により,業界トップの低消費電力量849 kWh/y を実現した。

保冷コンテナ「チルドタイプD-BOX」

隠塚 将二郎 ・ 石野 裕二 ・ 富樫 大

近年,食に対する安全・安心の意識が高まり,食品流通業界ではサプライチェーン全体を通した商品の温度管理に対する要求が厳しくなっている。富士電機は,物流工程においてコストの低減を図りながら商品の温度管理を徹底したいというニーズに応えるため,保冷コンテナ「チルドタイプD-BOX」を開発した。チルドタイプD-BOX は,周囲温度32 ℃の環境においても電源なしでチルド温度帯の商品を5 時間保冷することが可能であり,また,蓄冷材を3 時間で同時に4 台凍結することが可能である。

インバータ冷凍機搭載のドリンク用ショーケース

村林 謙次 ・ 影山 利之 ・ 張 軼広

近年,震災の影響からさらなる省エネルギー(省エネ)製品への置換えが求められている。また,コンビニエンスストアでは商品陳列面積を拡大したオープンショーケースの要求がある。富士電機は,インバータ冷凍機を搭載し,展示面積が従来の1.57 倍の8 段棚ショーケースを開発した。細分化気流を用いた新冷却方式を採用するとともに,新型スクロール圧縮機を用いて省エネと庫内温度の安定化を図る最適インバータ制御運転を行っている。また,省エネと省オペレーションを狙い,蒸発ファンによるドレン水の強制蒸発機構を開発した。単位面積当たりの消費電力量は,67% の削減を達成した。

冷凍冷蔵倉庫向け省エネルギー制御システム

加藤 博志 ・ 白木 崇志

食品の流通過程における保管や仕分けを目的とした冷凍冷蔵倉庫では,電気料金の値上げなどを背景に,省エネルギーのニーズが高まっている。富士電機は,倉庫内の冷凍冷蔵設備 (冷凍機,ユニットクーラ)の稼動を最適化するとともに,運用管理を効率的に行うことができる集中管理型の冷凍冷蔵倉庫向け省エネルギー制御システムを開発した。独自のアルゴリズムによる庫内の負荷状況に応じた冷凍機の低圧側圧力制御や,ユニットクーラの最適制御などにより,倉庫における年間消費電力量を12.3% 削減できることを確認した。

自動販売機のグローバル対応商品搬出機構

福田 勝彦 ・ 岩子 努 ・ 中島 規朗

飲料自動販売機を海外市場に展開するに当たり,地域により不安定な電源事情や電源電圧の差異の影響を受けずに,電源電圧を安定化させる必要がある。富士電機は,電源事情の影響を受けずに法規制を満足させるために,商品搬出機構のDC 低電圧化を行った。商品搬出機構に使用する駆動源をDC ギヤモータにカム・リンク機構を組み合わせた構造にすることで,低電圧においても十分な駆動エネルギーを確保した。また,検知スイッチを組み合わせることによる故障検知機能や,商品形状に影響を受けない売切れ検知構造を実現し,販売時の購入トラブルを大幅に削減した。

IEC 規格対応グラスフロント自動販売機「Twistar」

阪 光広 ・ 松本 雅弘 ・ 渡辺 忠男

小売業における自動販売のニーズが高まっている中国やASEAN 地域の需要に応える自動販売機には,国際認証の取得や販売商品の多様化への対応が必要である。そこで,IEC 規格に対応したグラスフロント自動販売機「Twistar」を開発した。本製品は,海外生産に適した省エネルギーのパネル式筐体(きょうたい)構造を採用し,制御基板およびソフトウェアをそれぞれ1 本化したシンプル制御とした。また,4 種類の販売モジュール機構を搭載することにより,1 台で全商品を販売できるようにするとともに,搬送エレベータには,ソフトハンドリング機構を開発して商品の変形防止を実現した。

グローバル対応貨幣識別装置「FGC シリーズ」「FGB シリーズ」

大岩 武 ・ 田中 伸幸 ・ 山根 拓也

中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)地域を視野に入れたグローバル対応の貨幣識別装置「FGC シリーズ」「FGB シリーズ」を開発した。各国のさまざまなサイズや模様の貨幣に対して,迅速に製品化をするため,ベースとなる部品や構成は共用化し,一部の部品とソフトウェアの変更のみで対応できる共用化設計を行った。さらに,硬貨処理装置(コインメック)では,材質の識別を強化した新検銭アルゴリズムや現物エスクロ機能の搭載により,紙幣識別装置(ビルバリ)では,識別アルゴリズムの構築やラインセンサの搭載により,貨幣の識別性能を満たして信頼性を確保した。

高温・高湿環境に対応したグローバル自動販売機の冷却技術

村瀬 孝夫

中国の主要都市部の最高気温・湿度を考慮し,周囲温度40 ℃,相対湿度75% の環境下で運用できるグローバル自動販売機の開発に取り組んだ。目標とする周囲温度の上昇に伴い,増加する熱負荷を効率良く冷却する断熱・冷却技術と,効果的な運転制御技術の開発を行った。また,高温・高湿環境下で蒸発器に発生する着霜の影響については,その成長過程を観察した結果,着霜量の低減対策として蒸発温度の設定レベルに着目し,再調整を行うことで着霜量を制限した。これらの対策により,高温・高湿環境下でありながら,必要冷却能力の低減と初期冷却時間の短縮を実現した。

新製品紹介

  • 操作性およびネットワークの利便性を追求したプログラマブル表示器「MONITOUCH V9 Advanced」

  • グローバルスタンダード温度調節計「PXF シリーズ」

  • IEC 規格適合7.2 kV スイッチギヤ

  • トップランナー基準を満足したギヤードモータ「MGX シリーズ」「MHX シリーズ」とブレーキモータ「MKS シリーズ」

  • 常時商用給電方式小容量UPS「UX100 シリーズ」

略語・商標

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