富士電機技報
第90巻第3号(2017年11月)

特集
受配電・開閉・制御機器コンポーネント

特集 受配電・開閉・制御機器コンポーネント

企画意図

安全かつ効率的に安定した電気エネルギーを供給することは,受配電・開閉・制御機器コンポーネントの重要な役割であり,その信頼性と効率の向上に対する期待はますます高まっています。
富士電機ではこの期待に応えて,受配電・給電システムおよび機械類の構成に最適な小型機器,省エネルギー機器,高圧機器について,系列拡大やリニューアルなどを実施し,市場ニーズにマッチした製品をタイムリーに展開することでご好評を得てきました。本特集では,富士電機の開閉・遮断技術をさらに進化させ,安全で効率的な電力供給に貢献することと同時に,使い勝手も向上させた受配電・開閉・制御機器コンポーネントの最新技術と製品について紹介します。

〔特集に寄せて〕『富士電機時報』発刊の意義を再認識

吉田  清
日本工業大学 電気電子工学科 教授 博士(工学)
IEC/TC94 国内委員会委員長

〔現状と展望〕受配電・開閉・制御機器コンポーネントの現状と展望

鈴木 健司 ・ 岡本 泰道

富士電機の受配電・開閉・制御機器は,電気設備や機械装置の中で多用される主要コンポーネントとして世の中の産業を支えており,これらの機器においては,昨今の市場要求とメガトレンドを捉えた製品開発を行っている。開閉機器では,電気自動車やメガソーラーなど直流システムに対応した。制御機器や低圧機器では,組立やメンテナンス作業の工数削減,省線化要求に対応した。高圧機器では,安全性と使いやすさを両立するとともに小型化した。電力監視機器では,IoTへの対応やフレキシブル性を高めた。製品開発に必要なコア技術においては,国内有数の短絡発電機や高度な分析機器を活用しながら,材料,シミュレーション,評価,ものつくりなどの技術力向上を精力的に行っている。

盤製作の省工数に貢献するねじレス端子技術と製品群

町田 謹斎 ・ 浜田 佳伸

受配電・開閉・制御機器コンポーネントの多くが,制御盤や受配電盤で使用されている。近年では熟練作業者の減少により,配線工数の削減,スキルレス,メンテナンスレスのニーズが高まっている。このニーズに応える省工数機器を具現化するため,顧客の声を直接聞きながら,問題解決を図るためのプロトタイピングを行った。これにより,配線工数の削減,盤の小型化,使いやすさ・信頼性・メンテナンス性の向上に寄与するねじレス端子技術を開発した。また,省工数機器としてプラグインブレーカが普及しており,信頼性と利便性が向上した新たなプラグインブレーカを開発した。

スマート社会の発展に貢献する電子式漏電遮断器「EX シリーズ」

佐藤 佑高 ・ 橋本  貴 ・ 細岡 洋平

スマート社会の発展により,受配電設備は高い給電信頼性が求められており,そこで使われる保護機器には,不要動作の抑制や計測・通信機能による状態監視が必要となっている。これらの要求に応えるため,電子式漏電遮断器「EX シリーズ」を開発した。センサや導体の最適配置のための構造設計技術,ZCTによる漏電検出技術,耐ノイズ性を向上させた電子回路設計技術を適用している。配線用遮断器と同一外形寸法の電子式漏電遮断器とすることで,漏電モジュールを付加した場合と比較して,設置面積を30%削減し,配電盤の省スペース化に貢献した

安全性・配線作業性が向上するサーキットプロテクタ「CP30F シリーズ」

江村 武史

サーキットプロテクタは,過電流保護機能とスイッチとしての機能を併せ持つ遮断器である。富士電機は,小型で,安全性と配線作業性が向上するサーキットプロテクタ「CP30F シリーズ」を開発した。端子ねじを緩めると座金と端子ねじが持ち上がり,ケース・カバーに保持されるねじアップ構造を採用した。また,端子ねじの外側をケース・カバーで覆い,作業者の指先が充電部に触れないIP20構造を採用した。これにより,配線に必要な作業を従来の6工程から2工程に削減し,体積と専有面積はともに20%減を達成した。

中国・アジア向けコマンドスイッチ(φ22) 「AY22 シリーズ」「DY22 シリーズ」

高野 芳弘 ・ 井上 辰志 ・ 山田 正士

コマンドスイッチの取付け穴は,IEC規格で,φ16,φ22,φ30を標準としている。中国・アジアではφ22の取付け穴が多く用いられ,日本市場を上回る規模で拡大している。富士電機は,中国・アジア向けに,φ22コマンドスイッチ「AY22 シリーズ」「DY22 シリーズ」を発売した。本シリーズは,高級感のある外観やフレキシブルな組合せが可能なモ ジュール構造を採用した。照光品では,トランスレス方式のLEDランプを開発し,小型化と低価格化を実現した。また,端子構造はIEC規格の保護構造(IP2X)に標準で対応することにより,安全性の向上を図った。

IEC規格に準拠した東南アジア向け高圧真空遮断器(12kV,24kV)

岡﨑 貴幸 ・ 菊地 征範 ・ 徳永 圭秀

安定的な成長を続ける東南アジアに高圧真空遮断器(VCB)を展開していく上で,IEC規格への対応が必須である。 今回新たに東南アジア向けに,IEC規格に準拠した12 kV定格と24 kV定格の製品を拡充した。IEC規格に準拠するため,作業者がスイッチギアの外部からVCBを出し入れできる機構を追加した。12kV VCBでは,高電圧が印加される主回路部をカバーするために接地された金属製のシャッタを具備するなど,安全性と機能の向上を図りながら小型・軽量化を実現した。24kV VCBでは,固体絶縁方式を採用することにより,従来品よりも容積比で約40%の小型化を実現した。

視認性・操作性が向上するディジタル形多機能リレー「F-MPC60G シリーズ」

工藤 英樹

富士電機は,顧客ニーズを取り込み,視認性・操作性が向上するディジタル形多機能リレー「F-MPC60G シリーズ」を開発した。従来品の二重化回路構成および事故診断機能による警報出力をそのまま引き継ぐとともに,製品外形,取付方法はもちろんのこと,配線方法にも互換性を確保している。ユーザインタフェースを強化したカラーLCD搭載による操作 表示機能,ならびに事故発生時の記録・解析手法を手助けする事故時波形記録機能を搭載している。また,海外でのスペックインを可能にするためIEC規格にも準拠している。

エネルギー管理システムを実現する「F-MPC Web ユニット」「F-MPC ZEBLA」

圓淨 義紘 ・ 高橋 秀夫

受配電系統における電力供給の高信頼性の実現や省エネルギー化に向けたニーズが高まっている。このニーズに応えるため,受配電盤などの電力使用量を計測する「F-MPC シリーズ」の計測データを一元管理する新型「F-MPC Webユニット」と,建築物のエネルギー消費状況を監視し,自動制御で快適な室内環境を整えるとともに,エネルギー管理機能を持つ「F-MPC ZEBLA」をラインアップした。F-MPC ZEBLAは,F-MPCシリーズで計測した各種エネルギーデータをF-MPC Webユニットで収集し,今後の電力の需要予測や省エネルギー制御のマネジメントを実現する。

高過電流耐量を備えた密閉型高電圧コンタクタ「SVE135」

中  康弘 ・ 柴  雄二 ・ 櫻井 裕也

大容量バッテリを搭載した環境対応自動車の普及に伴い,その急速充電用回路には,事故時を想定した高い過電流耐量を備えたコンタクタが求められている。富士電機はこの要求に応え,環境対応自動車における安全性向上に寄与するため,独自接点構造を採用した密閉型高電圧コンタクタ「SVE135」を開発した。独自の接点構造により,接点の接触圧力を高めることなく短絡電流が流れた際に発生する電磁反発力の大部分を相殺可能とし,小型・軽量でありながら,従来比で2倍以上となる20 kAの高過電流耐量を実現した。

密閉型高電圧コンタクタの開発を支えるシミュレーション技術

坂田 昌良 ・ 竹本 貴紀

富士電機は,バッテリの高出力・大容量化に対応できる高過電流耐量を備えた,車載向けの密閉型高電圧コンタクタを開発してきた。高電圧コンタクタは,密閉容器となるカプセル内に接点を配置し,遮断性能の良いガスを封入することで,小型でありながら大容量の開閉性能と遮断性能を実現している。電磁界,伝熱,熱などのさまざまな解析にシミュレーション技術を効果的に活用した解析主導型の開発を行うことで,実現可能性の可否を事前に判断するとともに,製品の性能や信頼性の向上を図った。

受配電・開閉・制御機器コンポーネントを支える材料技術

原  永治 ・ 吉澤 利之 ・ 小宅 美晃

さまざまな地域で使用される受配電・開閉・制御機器コンポーネントは,人体や環境に有害な特定有害物質の使用を制限するRoHS 指令への対応をはじめ,IEC,UL,CCCなどの規格に適合することが求められる。富士電機は,特定有害物質の代替化をRoHS 指令の適用時期以前に完了し,2021年7月から新たに使用が制限されるフタル酸エステルの代替材の開発に取り組んでいる。また,新製品には複雑な形状でも破損や剥がれの起きにくい絶縁コーティング材の開発や,生産性に優れた加工方法と材料の組合せなどにより,製品の小型化や省エネルギー化に加えて品質と性能の要求を達成した。

受配電・開閉・制御機器コンポーネントを支える評価技術

秦 淳一郎 ・ 野村 浩二 ・ 庄司 和樹

低圧から高圧まで,小電流から大電流までといった多種多様な仕様となる受配電・開閉・制御機器コンポーネントにおいて,市場の要求を満足する高い品質の製品を提供していくためには,開発工程においてさまざまな評価が必要となる。富士電機は,要素技術の評価,信頼性評価,ユーザ視点での評価,製品規格に基づく特性評価の四つの観点で,2014年12月に竣工したテクノラボを活用し,製品の信頼性向上と開発の効率化を可能としている。また,評価試験設備の充実を図り,低圧製品では日本で唯一のカスタマーラボ認定試験所としての認証を受けている。

新製品紹介

  • 車載用第4世代ハイサイド型IPS「F5112H」

  • DFN8×8パッケージの「Super J MOS S2シリーズ」「Super J MOS S2FDシリーズ」

略語・商標

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、Web掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。