富士時報
第77巻第4号(2004年7月)

特集1 磁気記録媒体
特集2 感光体

磁気記録媒体の現状と展望

今川  誠・小沢 賢治

磁気記録媒体の高密度化技術の進展と,従来のディジタルデータを取り扱うパソコン(PC)用途から,映像,音楽を取り扱う情報家電への搭載が進むことで製品応用の幅が広がっている。本稿では,磁気記録媒体が搭載されるPCおよびハードディスク装置(HDD)の市場動向について述べるとともに,高密度化・小型化に大きく寄与する磁気記録媒体の開発状況について概説する。面記録密度は2004年には100Gbits/in2の大台に乗るといわれており,垂直磁気記録方式の本格的採用によって大容量化が進行し,応用製品がさらに広がると期待されている。

アルミポリッシュ基板

矢吹 和彦・増田 光男

容量進化に伴い,アルミ基板に対し要求される表面清浄性と表面平滑性はますます高度化している。ここではその2点における最近の開発状況の概略を紹介する。研磨剤の開発により,表面清浄性の改善およびスループットの改善が図れるめどがつきつつある。また,表面形状に関しては,パッドのサプライヤーと共同開発を行い,主要特性の最適化とパッドの製造技術の高度化により,表面特性が大きく改善され,ヘッド浮上性の改善に寄与した。

長手アルミ基板媒体

坂口 庄司・二村 和男・柏倉 良晴

長手アルミ基板媒体は,主にパソコンやサーバに使用されている。その記録容量は,3.5インチサイズ1枚あたり80Gバイトを超えている。この高い記録容量は,媒体表面形状をnm以下の精度で制御する基板表面微細加工技術,nmレベルで結晶構造を制御する磁気記録層形成技術,わずか10nm程度の間隔で磁気記録媒体上を浮上する磁気ヘッドの浮上安定性を保証する媒体表面制御技術に支えられている。これらの技術革新の速度はきわめて速く,現在では160から200Gバイト/枚を目指す技術開発が続けられている。

ガラス基板媒体

松尾 壮太・増田 克也・白井 信二

ガラス基板媒体は,主にノートPC(パソコン),ノンPCに使用されている。その特徴である表面硬度と耐衝撃特性を生かし,今後市場の伸びが期待される小径モバイル用HDDへの搭載が予定される。富士電機では,異方性媒体化することで従来のガラス基板媒体と比較し高いSNR特性を有することができた。それを達成するためガラス基板に直接テクスチャを行い,その上に独自のシード層を成膜する方法を開発した。またHDI技術に,特許技術を採用し,他社にない特徴的な設計により顧客から高い評価を得ている。

グラニュラー型垂直磁気記録媒体

上住 洋之・川田 辰実・横澤 照久

従来の長手磁気記録媒体を超える高密度化が期待される垂直磁気記録媒体の実用化には,低ノイズかつ高い熱安定性を有する磁性層と,垂直磁気記録媒体特有の厚膜軟磁性裏打ち層の開発が不可欠である。富士電機は,SiO2を添加した低温成膜グラニュラー磁性層と,低コスト化が可能な無電解めっきニッケルリン合金軟磁性裏打ち層の実用化にめどをつけ,120から160Gbits/in2以上の高密度垂直磁気記録媒体の製品化に向けた開発を現在推進中である。本稿では,これらの開発成果を報告する。

400Gbits/in2を目指す垂直磁気記録媒体技術

河田 泰之・及川 忠昭

垂直磁気記録媒体は次世代の高密度記録方式として期待されているが,さらなる高記録密度化の達成には,新たな磁性層構造や材料技術の開発が必要である。本稿では,富士電機が参画している,東北大学電気通信研究所を中心とする国家プロジェクト「IT21プロジェクト」におけるCoPtCr-(SiO2)系垂直磁気記録媒体の研究成果とRu下地上にSiO2を添加したCo/Pt人工格子多層膜を積層した垂直磁気記録媒体の検討結果を挙げながら,富士電機の400Gbits/in2を目指した垂直磁気記録媒体技術を紹介する。

低浮上状態におけるヘッド試験評価技術

佐藤 公紀・片野 智紀

磁気ディスクのGH(Glide Height)試験において,GHヘッドの浮上量は10nmを下回っている。LDVとPZTセンサの同時計測により,低浮上状態のGHヘッドはピッチング動作しながらディスクと接触していることを明らかにした。浮上安定性の向上にはピッチ角の大きいGHヘッド,振動減衰性の高いGHヘッドが有効である。また,突起衝突時に生じる衝撃力から突起欠陥を検出する新しいGH試験方式を開発し,3dBのSNR改善を確認した。低浮上状態であっても,従来のPZTセンサから検出する方法に比べ,高い精度を期待できる。

感光体の現状と展望

成田  満・田中 辰雄

情報技術の高度化により画像入出力装置の普及が急速に進んでおり,特に電子写真方式の複写機およびプリンタ装置において,ディジタル化,カラー化が急激に進行している。本稿では感光体全般についてこれらの市場動向および技術動向の概要を述べるとともに,そのトレンドに対応した富士電機の感光体について概説する。モノクロプリンタは16から20枚/分,カラープリンタは7から10枚/分と21から30枚/分,そしてディジタル複写機は16から30枚/分が主流になると予測されている。

プリンタ用有機感光体

寺崎 成史・池田  豊・小日向俊紀

オフィス環境の変化に伴い,プリンタはシステムの中の出力機器という位置づけに変わってきており,高速機やカラー機が大きく伸長すると期待されている。富士電機ではこれらの要望に応えるべく,各種ニーズに適した感光体を開発・製造している。本稿では,特に負帯電型プリンタ用有機感光体の概要とその特徴について紹介する。

ディジタル複写機用有機感光体

篠崎 美調・宮本 貴仁

複写機市場では,アナログ式に代わって,ディジタル式の発展期にある。ディジタル化により,低・中速機ではプリンタとファクシミリとの融合が進み,高速機ではポスト印刷機としてより一層の高速化・動作安定性(プリンタの2から10倍)が求められている。このため感光体にも感度特性・動作安定性などの改善が要求されている。富士電機は多様な市場要求に応えるため有機感光体の高性能化を図り,幅広い製品群をそろえている。本稿では動作安定性を中心に複写機用有機感光体を紹介する。

正帯電型有機感光体

中村 洋一・面川 真一・竹嶋 基浩

近年,プリンタ・複写機・ファクシミリなどの感光体応用機器は,ディジタル化・カラー化などの進展に伴い,企業向け・個人向けともカラー・高解像度といった,従来と比べて情報量が多い原稿・データの取扱いが増加している。富士電機では豊かな情報を安定して再現できる感光体として,独自の化学技術による電荷輸送材料と感光体技術を適用した,高感度・高解像度かつ接触帯電方式にも好適な感光体を開発した。また,さらなる高解像度を目指して液体現像方式に適用できる感光体の開発も進めている。

1ドット潜像電位評価技術

会沢 宏一・上野 芳弘・竹嶋 基浩

電子写真方式の情報出力装置であるプリンタ,ディジタル複写機の高画質化に向けた研究が進められている。富士電機では独自の測定技術を開発し,潜像電位の測定を可能とした。潜像電位評価装置の原理,得られる情報の解釈および感光体特性との関連について述べる。また,感光体の構成と潜像プロファイルの対応,感光体特性を変えた場合の潜像プロファイルの変化についても紹介する。今後は,装置のさらなる高度化を図ることで,高画質化技術の発展に貢献する。

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