富士時報
第77巻第5号(2004年9月)

特集1 半導体
特集2 放射線システム

半導体の現状と展望

金田 裕和・松田 昭憲

富士電機は,「パワーエレクトロニクス」をキーワードとして,ダイオード,MOSFETなどのディスクリート半導体,IGBTモジュール,およびパワーICなど,パワーを制御するための半導体製品に特化して製品を提供してきている。本稿では,われわれが重要な市場ととらえている産業分野,自動車電装分野,情報・電源機器分野の三つの用途分野の代表的な製品群について,その基盤となる富士電機の半導体技術の特徴と今後の動向について概要を紹介する。

UシリーズIGBTモジュール

宮下 秀仁

汎用インバータや無停電電源装置に代表される電力変換機器は,常に高効率化・小型化・低価格化・低騒音化が要求されている。このインバータ回路に用いられる電力変換素子にも高性能化・低価格化・高信頼性が求められており,第四世代IGBTモジュール(Sシリーズ)に対して大幅に特性改善された第五世代IGBTモジュール(Uシリーズ)の開発を行った。本稿では,NPT,トレンチゲート,フィールドストップおよび新型FWDの構造といった最新の素子技術とその製品系列について紹介する。

UシリーズIGBT-IPM(600V)

関川 貴善・遠藤  弘・脇本 博樹

600V系U-IPM(20から160A)の開発を行った。トレンチゲート構造のIGBTを使用することにより大幅に定常損失を低減した。また,FWDチップにソフトリカバリー化を行った新規開発チップを使用することにより,ノイズを増やすことなくターンオンdi/dt を大きくできたため,ターンオンロスに関しても低減することができた。以上の損失低減を行ったことで実使用においては,R-IPMからU-IPMに置き換えることでキャリヤ周波数を2倍にすることが可能である。

新絶縁基板を用いた次世代IGBTモジュール技術

西村 芳孝・望月 英司・高橋 良和

近年,電機製品の省エネルギー化の要求によりIGBTモジュールは従来の産業用途ばかりでなく,家庭用電気製品用途にまで幅広く適用されている。したがって,IGBTモジュールへの市場デマンドは,低コストと高信頼性はもちろんのこと,さらなる軽量・コンパクト化を強く望まれている。このようなニーズに対応するために,低熱抵抗・高強度の絶縁基板を開発し,従来同等構造比で,熱抵抗を約30%改善した新構造IGBTモジュールについて紹介する。

パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術

松本 良輔・加藤 博久

シリコンデバイスの微細化に伴い,最近では極薄酸化膜に注目が集まっている。しかし,MOSFETやIGBTなどのパワーデバイスでは,非常に厚いゲート酸化膜や,高温アニールを必要とするなど特有のプロセスを用いる場合があるため,極薄酸化膜では見られないさまざまな現象が生じる。本稿では,パワーデバイス用ゲート酸化膜における酸化方法,酸化膜厚,アニール条件の違いに対して,電気的特性により比較,検討した結果について述べる。

ワンチップ技術による高圧センサ

上柳 勝道・篠田  茂・芦野 仁泰

自動車用,産業用として用途の拡大が期待される高圧センサ分野に対応するため,富士電機では,世界最小のワンチップ技術による高圧センサセルを開発した。本稿では,製品の概要,耐圧設計検討,製品性能,信頼性性能について検討した結果を報告する。開発した高圧センサセルは,基本仕様として1から5MPaの圧力レンジの用途に適用可能で,エアコン用や油圧制御用の高圧センサへの適用に最適である。

電源二次側整流器用ダイオード「低IR-SBDシリーズ」

掛布 光泰・一ノ瀬正樹

電子機器の小型・軽量化,高性能化が急速に進み,その中でも特にACアダプタなどは小型化・高出力化傾向が顕著であり,半導体デバイスの使用環境は厳しくなる一方である。これを踏まえ,特に高温環境下でのスイッチング電源の二次側整流用に最適な低IR-SBDを製品化した。その特長は,チップ比抵抗・厚さ,ガードリング濃度,拡散深さ,バリヤメタルの最適化を図ることで,従来のSBDに比べIRを約一けた低減し,さらにVFの増加を極力抑えたことであり,発生損失の低減による使用温度限界の向上が図られている。

60V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源IC

藤井 優孝・米田  保

近年,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が進んでおり,この電子機器を駆動するための電源においては小型・高出力・高効率の要求がなされている。富士電機ではこの要求を満足するために,低オン抵抗の高耐圧パワーMOSFETをメイン側と同期整流側にそれぞれ内蔵した3チャネル出力および2チャネル出力の降圧型DC-DCコンバータIC「FA7726F」および「FA7730F」を開発・製品化した。本稿ではこの制御ICの特長および応用回路例を紹介する。

PDP用中耐圧MOSFET

原  幸仁・井上 正範

大画面で高精細画像を実現するプラズマディスプレイパネル(PDP)が急速に普及している。低オン抵抗に対するニーズが大きいサステイン回路をターゲットに,150から300VのSuperFAP-Gを新たに系列化した。また,さらなる小型化・高効率化の要求に対応するため,より低オン抵抗特性を有するトレンチMOSFETの開発を行っている。PDP用MOSFETの系列および特徴について紹介する。

汎用PDPスキャンドライバIC

小林 英登・多田  元・澄田 仁志

フラットパネルディスプレイ(FPD)が普及し,かつFPDの中での液晶・PDP・プロジェクタによる競争が激しくなってきている。その中で,PDPには消費電流低減や発光効率などの性能向上と,低価格化が求められている。この市場の要求に応えるために,大電流を流すことができ,出力オン抵抗が低いスキャンドライバICを低コストで供給することが可能な技術を開発し製品化した。

PDPドライバIC用デバイス・プロセス技術

澄田 仁志

本稿では富士電機のプラズマディスプレイパネル(PDP)ドライバIC用デバイス・プロセス技術について紹介する。PDPドライバICはアドレスドライバICとスキャンドライバICに大別される。それぞれのICの要素技術となる素子間分離技術,プロセス技術,そして高耐圧横型デバイス技術について概説する。あわせて,両ドライバICの開発技術動向に関しても触れる。

放射線システムの現状と展望

河野 悦雄

放射線システムは,原子力発電所やラジオアイソトープ(RI)を使用する病院・研究所の放射線監視に使われている。最近では,より精度の高い測定を行うためにディジタル信号処理技術が導入されてエネルギー分析やゲイン安定化,ノイズ低減などに活用されている。シリコン半導体検出器は,α線・β線・γ線・中性子の測定ができ,従来型の放射線検出器はシリコン半導体検出器に置き換えられてきている。燃料加工工場や加速器施設の建設に伴い,中性子測定に適した放射線モニタの開発が進められている。

個人線量モニタリングシステム

青山  敬・上田  治・河村 岳司

個人線量モニタリングシステムに電子式個人線量計を適用することによって,測定値のリアルタイムな評価,線量計一本化による合理化などのメリットが期待できる。富士電機は半導体検出器を用いたγ(X)線,β線,中性子が測定できる電子式個人線量計を開発し,入退域管理装置と組み合わせてシステム化を図っている。さらにJIS体系に準拠した線源校正装置も開発済みである。今後は,多くの施設で利用できる低価格,高精度かつ使いやすい製品を開発していく。

環境放射線モニタリングシステム

高木 俊博・木村  修・皆越  敦

原子力発電所では,周辺監視区域近傍や周辺市町村の環境γ線の線量率を連続的に測定・監視する必要がある。環境放射線モニタリングシステムは,測定ポイントの環境γ線量率を連続測定し,測定データをリアルタイムに中央制御室に伝送することで環境放射線の変動を集中監視するとともに,測定データを一般公開することで発電所の運転に対する理解を得るための重要な設備である。本稿では,富士電機の最新の環境放射線モニタリングシステムについて紹介する。

環境放射線測定器

小林 裕信・酒巻  剛・増井  馨

放射線測定器は,原子力発電所,研究所,病院などで放射線の監視や管理のため,多く用いられている。富士電機では,用途に応じたさまざまな放射線測定器を供給している。本稿では,環境測定用の放射線監視装置として近年開発した次の2機種について紹介する。
(1)従来に比べ感度を約100倍に高めた低線量環境線量計
(2)ワイドNaI(Tl)シンチレーション検出器を用いた可搬式モニタポスト

放射性物質汚染検査装置

長谷川 透・橋本 忠雄・橋本  学

原子力発電所では,管理区域外へ放射性物質による汚染が広がるのを防止するため,管理区域から外へ移動されるすべての物品の表面汚染を監視している。本稿では,(1)作業者の身体の表面汚染を測定する体表面汚染モニタ,(2)大物から小物までの物品の表面汚染を測定する物品表面汚染モニタ,(3)管理区域内で着用する作業服などの表面汚染を測定するランドリモニタ,(4)作業者の体内被ばくを測定するホールボディカウンタ,(5)手足および着衣の表面汚染を測定するハンドフットクロスモニタなどについて,装置の概要・特徴を説明する。

大規模放射線監視システム

藤本 敏明・伊藤 勝人・中島 定雄

原子力施設では,従事者および周辺住民の放射線防護の観点から適切な放射線管理を行っている。放射線監視システムは,施設内の作業環境の放射線状況や施設外に放出する気体・液体の放射能濃度の監視を連続で行うものであり,非常に重要なシステムである。富士電機は,各現場に分散配置される放射線検出部を高機能化して放射線計測特有の機能を放射線検出部に集約し,中央への情報伝送にEthernetおよび情報処理にUNIXサーバを適用した高機能・高信頼性の大規模放射線監視システムを開発した。

放射線管理計算機システム

三保谷英一・田辺 健一・明石 倫雄

富士電機では,電力会社の原子力発電所向けに初めてブラウザ方式画面を採用して放射線管理業務に合致したきめ細かいワークフロー機能を開発し,2003年3月に北海道電力(株)泊発電所に納入した。このシステムでは,個人管理業務における煩雑な書類の申請業務や通知業務の大幅削減を可能にした。さらに協力会社が自社データを任意様式で取り出せるようにした。また,発電所内外の放射線データ管理機能では,監視機能を強化するとともに,システム状態やシステムの管理データの異常時に自動通報する機能を持たせた。

RI利用施設向け放射線管理システム

佐藤 正昭・水野 裕元・籔谷 孝志

大学・病院・研究所などの放射性同位元素(RI)を使用する施設向けの放射線管理システムを紹介する。近年,研究所・医療機関などにおいてRI利用が活発になっている。一方,環境に対する社会の関心が高まる中で放射線管理システムは,ますます重要性が増してきている。システムの概要と最近の動向について紹介する。

放射線応用機器

門野 浅雄

熱間圧延制御用の大規模なシステムの例,厚板ミル直近γ線厚さ計,シームレス鋼管熱間肉厚計の最近の進展を紹介する。従来機に比して,計器の飛躍的な高速応答化,インテリジェンス要素の多用,データの大容量化,データベース化などが特長になっている。
また,日立製作所製放射線応用計測器の互換機の製造・販売を行っており,すでに多数の納入実績がある。

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