富士時報
第78巻第4号(2005年7月)

半導体の現状と展望

藤平 龍彦・金田 裕和・久祢田修一郎

世界の生活水準の向上と経済発展,これらと地球環境の保護を両立させるためには,電力の利用効率を高めなければならない。富士電機は,パワーエレクトロニクス機器の利用拡大と,その電力利用効率の改善,省資源化を通して世界の電力消費量の増大抑制に貢献するために,パワー半導体製品の性能向上,小型化,高信頼化,低コスト化を進めてきている。本稿では,富士電機の代表的な半導体製品であるパワーモジュール,パワーディスクリート,パワーICについて,その現状と展望を紹介する。

U4シリーズIGBTモジュール

原口 浩一・宮下 秀仁・小野澤勇一

汎用インバータや無停電電源装置に代表される電力変換機器は,常に高効率化・小型化・低価格化・低騒音化が要求されている。このインバータ回路に用いられる電力変換素子にも高性能化・低価格化・高信頼性が求められており,第四世代IGBTモジュール(Sシリーズ)に対して大幅に特性改善された第五世代IGBTモジュール(Uシリーズ)の開発を行った。本稿では,ノイズ対策とさらなる特性改善のためにU4シリーズを開発したので,最新の素子技術とその製品系列について紹介する。

小容量IGBTモジュール

小松 康佑・早乙女全紀・井川  修

電力変換装置に使用されるパワーモジュールは,常に低損失化・小型化・軽量化が求められている。この要求に対し,家電製品などの低出力の負荷に対応する小容量IGBTモジュール「Small-Pack」「Small-PIM」を開発した。主な特徴は次のとおりである。
(1)定格電圧・電流:10から50A/600V,10から35A/1,200V
(2)小型・軽量化:同定格の従来製品に比べ,取付け面積25%低減,銅ベースレス構造の採用により,質量87%低減および低コスト化
(3)環境規制への対応(鉛フリーパッケージ)

産業用大容量IGBTモジュール

西村 孝司・柿木 秀昭・小林 孝敏

富士電機は,近年,多様化するニーズにきめ細かく対応するため,最近市場が伸長している大容量分野への製品展開を図るべく開発を積極的に行ってきた。銅ベースを用いた1,200Vおよび1,700Vの耐圧を有し,600から3,600Aの電流容量を持つ産業用大容量モジュールを開発した。パッケージは,130×140(mm),190×140(mm)のサイズを持ち,1in1および2in1モジュールを構成する。

鉛フリーIGBTモジュール

西村 芳孝・大西 一永・望月 英司

近年,環境問題への対応から,エレクトロニクス実装において従来の鉛はんだの代替として鉛フリーはんだの実用化が始まっている。このような背景から,IGBTパワーモジュールにおいても鉛フリー化が望まれている。絶縁基板の熱膨張係数を最適化したこと,SnAgInはんだを使用することで優れた信頼性を確保した鉛フリーIGBTモジュールの実用化に成功したので報告する。

自動車用ワンチップイグナイタ

逸見 徳幸・高橋 作栄・山本  毅

富士電機は, 自動車イグニッションシステム用イグナイタとして,スイッチング素子であるIGBTと自己分離型構造の制御部をシリコンチップ上に集積したワンチップイグナイタ「F5025」を1998年に量産化した。本稿ではその後系列化を進めてきた製品を紹介する。具体的には高クランプ電圧の「F6007L」,過熱保護機能を搭載した「F6008L」,面実装パッケージの「F6010L-S」などである。

超小型インテリジェントパワースイッチ

木内  伸・吉田 泰樹・岩水 守生

自動車電装システムの小型化に対応するため,パワー半導体と,従来システム側で付加していた周辺保護回路・制御回路をワンチップ化し,そのパッケージにCSP(Chip Size Package)を適用した超小型IPS(Intelligent Power Switch)F5054Hを開発したので紹介する。本製品は,過電流・過電圧・過熱などの保護回路,自己診断,状態出力回路をパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)とワンチップ化し,その実装面積を従来のSOP-8パッケージIPSに比べ70%ダウンした8.4mm2を実現している。

ショットキーバリヤダイオード

森本 哲弘・一ノ瀬正樹・掛布 光泰

高効率,低損失化が要求されるスイッチング電源では,電子機器の小型・軽量化が求められる。特に携帯小型機器・充電器などは,その市場が伸長する中で半導体への小型化・薄型化要求が強く,この要求に対応したのが2端子SD型パッケージである。今回,4A定格・低VF特性・低IR特性のショットキーバリヤダイオード(SBD)を系列拡充した。一方で,高電圧の低容量電源用途には120から200V SBDのリードパッケージも系列拡充した。両系列ともに,ウェーハ仕様,バリヤメタルを最適設計・製品化したので,その概要について紹介する。

マイクロ電源

佐野  功・林  善知・江戸 雅晴

富士電機では携帯機器の小型化・薄型化の要求に合った,インダクタと制御ICを一体化したマイクロ電源「FB6800シリーズ」を開発したので紹介する。リチウムイオンバッテリー2セル用の入力電圧範囲で,さまざまな出力電圧に対応するため降圧,昇圧,反転昇圧を行うコンバータ用に7種類のマイクロ電源を製品化した。マイクロ電源は比較的実装面積が大きくなるインダクタを内蔵し,外形サイズを3.5mm×3.5mm,厚さ1mmを実現しており,セットの小型化・薄型化に寄与できる。

2チャネル電流モード同期整流降圧電源IC

中森  昭・野中 智己・一岡  明

近年,ディジタル家電機器の普及が進んでいる。特に,日本では,2003年から地上波ディジタル放送が開始され,2011年には,すべてのテレビがディジタル化へシフトされ,ディジタルテレビがネットワーク社会の中心となる見込みである。急速に普及しているディジタルテレビのチューナ用電源として,CPU用に適した2チャネル電流モード同期整流降圧電源IC「FA7731F」を開発したので,その概要を紹介する。

擬似共振電源制御IC

丸山 宏志・城山 博伸・打田 高章

近年,地球温暖化問題が注目され,電気製品全般での省エネルギー化要求が年々厳しさを増している。富士電機では500V高耐圧起動素子を内蔵し,高圧系からの起動電流を制御することで待機電力を低減することができる擬似共振電源制御ICを開発したのでその概要を紹介する。このICでは,軽負荷時にスイッチング周波数の上限値を引き下げてスイッチング損失を低減する。また,擬似共振電源制御方式のためノイズが少なく,プリンタや液晶テレビ用電源に適している。

PDPアドレスドライバIC

川村 一裕・福知 輝洋・野口 晴司

現在,PDP(Plasma Display Panel)市場は,順調に拡大してきているが,それを牽引(けんいん)しているのが大画面テレビでの低価格化である。PDPのキーデバイスの一つであるドライバICにおいても,ますます低価格化の要求が強まってきている。富士電機ではさらなる低価格化,高機能化に対応するため,新たに0.6μmの微細加工技術と高耐圧デバイス技術を組み合わせたプロセス・デバイス技術を開発し,第四世代アドレスドライバICに適用した。本稿では,この第四世代アドレスドライバICとデバイス技術の概要について紹介する。

PDPスキャンドライバIC

小林 英登・多田  元・澄田 仁志

フラットパネルディスプレイが普及し,液晶・PDP(Plasma Display Panel)による競争が激しさを増している。その中で,PDPには高画質や低消費電力などの性能向上と,低価格化が求められている。この市場の要求に応えるために,低オン出力抵抗で大電流を流すことができ,低コスト化が可能なスキャンドライバICを開発し製品化した。

マルチラインセンサモジュール

泉 晶雄・榎本 良成・山本 敏男

今回開発した小型マルチラインセンサモジュールは,二次元の距離分布の検出ができるため,三次元の空間認識への応用が可能である。本稿ではその機能,構成,構造を紹介する。またDSP(Digital Signal Processor)による高速演算処理を使った計測事例を紹介し,応用分野を提案する。

プラズマCVD窒化膜の組成制御技術

成田 政隆・横山 拓也・市川 幸美

プラズマCVDにより生成される窒化アモルファスシリコン(a-SiN:H)膜は組成比を変えることで物性が大きく変わる興味深い材料であり,現在では種々の半導体デバイスに応用されている。しかし,成膜時の反応が複雑であることから,その成膜機構については不明の点が多い。本稿では,組成比を広い範囲で変化させたときの物性と成膜条件の関係について報告し,それらの成膜機構を明らかにするために行っている最近の基礎的な研究成果についても紹介する。

パワーCSPバンプ設計のシミュレーション技術

桐畑 文明・安部 信一・吉田 泰樹

車載用途として高い完成度を実現するため,チップサイズパッケージ(CSP)のバンプ設計へ熱応力および伝熱シミュレーション技術を適用したので報告する。このシミュレーションは,バンプ高さが15μmから400μmまで,そして,CSPとセラミック基板の間に充てんされるアンダーフィル材の有無について実施した。アンダーフィルありで高さの高いバンプは,長いヒートサイクル寿命を持ち,また,熱放散においても基板温度140℃でCSPのMOS部で0.4Wのパワーの処理が可能であることが分かった。

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。