富士時報
第63巻第11号(1990年11月)

分散電源の重要性と課題

茅  陽一

リン酸形燃料電池開発の現状と展望

三重野 勲,古賀  浩

富士電機は、長年自主技術により燃料電池の開発を進めてきた。商品開発のベースになる要素技術開発についても、電池をはじめとし、改質器、インベータなどの各構成要素の開発に注力し、成果を上げている。商品計画としてはオンサイト用、分散配置用、車両など用の3分野に主眼をおき、いずれにおいても標準化によって実用可能な商品を世に出すべく総力をあげている。

リン酸形燃料電池の商品化への取組み

岡野 一清,近藤 一夫

リン酸形燃料電池の商品化は長年の懸案であったが、技術開発の進展と、政府機関や関係業界のバックアップによりその見通しが得られるようになってきた。富士電機ではすでに燃料電池の量産工場を建設し、商品化への体制づくりを行っているが、現在、ガス3社と協同で進めているオンサイト発電用燃料電池の商品化をまず実現し、引き続いて分散配置用、車両用と商品化を進める計画である。商品化を数年後に控えて、開発の重点は要素技術開発から発電装置の信頼性向上とコスト低減に移されている。

オンサイト用燃料電池発電装置の開発
発電装置

辻  義克,鴨下 友義,小野 春雄

富士電機は平成元年5月に東京ガス(株)、大阪ガス(株)、東邦ガス(株)の大手ガス3社と共同で天然ガス、LPGを燃料とする50kWおよび100kWオンサイト用リン酸形燃料電池発電装置の商品機開発に着手した。順次、開発成果を織り込んだ試作品を製作し、性能試験、現地試験などの運転・評価を行い、平成3~4年度の量産試作機によるモニタテストなどを経て、平成5年度から商品機の販売を開始する計画である。本稿では50kW機を中心に、オンサイト用燃料電池発電装置の内容を紹介する。

オンサイト用燃料電池発電装置の開発
燃料電池スタック

広田 俊夫,中島 憲之

オンサイト用燃料電池発電装置の実用化のためには、体積、重量ともに最も大きく、コストも高い部品である燃料電池スタックの小形化、軽量化、低コスト化が重要である。同時に信頼性および保守性を向上することも必要である。そのために、電極の高出力密度化による電極面積およびセル数の減少、これらを達成するための電極基材およびセパレータの開発、またその他の構造部品の小形・軽量化・さらに信頼性の向上など各種開発を行ってきた。本稿では、現在の開発状況について紹介する。

オンサイト用燃料電池発電装置の開発
改質装置

新海  洋,吉岡  浩

オンサイト用燃料電池発電装置の改質装置について、都市ガスを原燃料とした場合の改質器を中心に、開発経過を述べる。
第一世代の改質器は、昭和62年から開発に着手し、現在50kW発電装置に搭載され、順調に運転を続けている。
第一世代の開発に引き続き、昭和63年から第二世代の改質器の開発を行っている。第一世代器に比べ大幅な小形化が達成され、性能的にも同等の結果が得られた。

オンサイト用燃料電池発電装置の開発
インバータ

高林 泰弘,黒木 一男,番場 忠省

オンサイト用燃料電池発電設備は、ビル、病院、レストランなどに設置されることを目的とするため、小形化、軽量化、低騒音化が望まれる。今回、高速スイッチング素子を用いた第二世代の50kWオンサイト用インバータを開発した。これは、第一世代のインバータに比較して大幅な小形化、軽量化、低騒音化を達成したので紹介する。

オンサイト用燃料電池発電装置の開発
制御システム

古澤  明,横山 尚伸

オンサイト用燃料電池発電装置の制御システムについて、運転方式の基本と制御方式の特徴を説明し、発電装置の起動・運転・停止動作の制御内容を解説する。オンサイト用燃料電池発電装置の制御は化学プラントの制御に似ているが、ガス量の変化スピードが大きい特徴がある。また、起動するときと停止するときは、外部から補機の電力供給を受けるが、運転で発電が始まったときの電力切換についても説明し、発電電力を外部へ供給する基本形態についても解説する。

分散配置用燃料電池発電設備の開発
プラント計画

山川 嘉之,才善 信吾,中島 由嵩

リン酸形燃料電池は早期の実用化が有望視されており、活発な研究開発を行っている。昭和56年以来、新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託を受けて実施してきた1MW発電プラントの試作研究および実証運転を成功裡に終えることにより、基本的な技術の完成をみるに至った。富士電機は、これらの成果を基に、さらに大容量・実用規模プラントの検討を行ってきた。本稿では、これらの中から分散配置用5MW燃料電池プラントについて、基本コンセプト、仕様、主要機器の特徴、レイアウトなどの概要を述べる。

分散配置用燃料電池発電設備の開発
大面積燃料電池スタック

広田 俊夫,原嶋 孝一

分散発電用燃料電池発電設備の実用化開発にあたって、燃料電池スタックとしては、コストダウン、コンパクト化および寿命の向上、保守の容易化を図らなければならない。このための大面積燃料電池スタックの開発目標仕様と主な開発内容を紹介する。

分散配置用燃料電池発電設備の開発
大容量改質器

新海  洋,大澤  勇

分散配置用の燃料改質装置として種々の形式の改質器が開発されているが、採用するにはどの形式が良いかを考察した。
試験運転の経験を持つ3種類の改質器形式について考察した。その結果、富士電機が計画する5MW燃料電池発電設備用としては、単管多重円筒方式を推奨している。

分散配置用燃料電池発電設備の開発
大容量インバータ

河野 正明,荒井 研一,江口 直也

燃料電池発電プラントでは、燃料電池の発生する直流電力を商用の交流電力に変換し、系統へ供給する直交変換装置が必要となる。電力事業用分散配置用燃料電池発電プラントでは、容量が20~30MWと大容量であり、必要な要件は、(1)高機能でかつ充実したRAS機能、(2)価格の低減はもちろん、高効率であること、(3)装置の小形化、である。今回、これらの要件を満たす燃料電池発電プラント用直交変換装置として5MW級インバータを取りあげ、構成、仕様、基礎技術を説明する。

離島用燃料電池発電設備の開発

野木 俊秀,山崎 善文,永井 寿夫

商品化を間近に控えたリン酸形燃料電池は、オンサイト用途での初期導入が期待されており、具体的な適用事例の一つとして離島用燃料電池発電設備を開発した。離島での貯蔵・取扱いが容易なメタノールを原燃料とし、工場での調整試験を経て沖縄の渡嘉敷島へ搬入後、平成元年10月には島の電力系統と連系した運転に成功した。良好なプラント性能を確認するとともに、燃料電池の発電電力を当初消費させていた模擬負荷抵抗を順次少なくして、平成2年1月からわが国初の送電連系運転を開始し、運転研究を続けている。

車両用燃料電池発電装置の開発

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富士電機は、昭和63年に米国エネルギー省からの委託により、小形都市バス用燃料電池発電装置の開発を進めている。開発のフェーズIとして、25kWメタノール改質・油冷却式リン酸形燃料電池発電装置を開発し、米国エネルギー省に納入した。米国での評価試験において、排ガスがクリーン、発電効率が高くさらに主要部品がコンパクトであるとの評価を得、フェーズIの目標である燃料電池のバス駆動電源への適用の可能性を実証した。本稿では、フェーズIの成果とフェーズIで計画しているバス用50kW電源について紹介する。

燃料電池発電プラントの製作実績

辻  義克,長村 正夫,西垣 英雄

富士電機は最初の燃料電池発電プラントを昭和57年に納入して以来、22台のリン酸形燃料電池を出荷している。現在受注済みの案件も含めた富士電機のリン酸形燃料電池の実績を一覧表に示している。本稿では、新エネルギー・産業技術総合開発機構、関西電力(株)向け、1,000kWと東北電力(株)向け50kW発電プラントの運転実績を紹介している。また、オンサイト用50kW燃料電池発電装置について、東京ガス(株)向け機と関西電力(株)六甲アイランド向け機の内容および出光興産(株)向けナフサ燃料50kW機の内容を紹介する。

要素技術開発
高性能セルの開発

原嶋 孝一,榎本 博文,仲西 恒雄

リン酸形燃料電池の実用化を図るうえでは、安価で信頼性の高い電池を開発することがポイントになる。本稿では、コスト低減のための空気電極触媒と電極構造などの開発と、寿命評価試験など信頼性の向上について開発状況を紹介する。

要素技術開発
各種改質装置の開発

大澤  勇,梅本 真鶴

燃料電池発電装置用の改質器には、従来とは異なる性能、機能が要求されている。その要求を満たす種々の改質装置が開発されたので、それらについて紹介する。改質器は電気出力で50~100kWクラスを対象とし、原燃料として都市ガスを用いるオンサイト用およびメタノールを用いる車両用とについて紹介しているほか、LPGやナフサを用いる改質器についても言及する。

燃料電池の環境特性

谷口 善貞

リン酸形燃料電池発電プラントからの排出物のうち、特に大気汚染に関する窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、二酸化炭素(CO2)、ばいじんについて述べる。特に、最近わが国において規制が強化されつつあるディーゼル機関、ガスタービンの排出規制値および実績値と燃料電池の値を比較することにより、燃料電池の排出量が非常に少ないことを数値的に示している。

燃料電池発電設備の熱利用と運用方法

長村 正夫

燃料電池発電設備は、排熱が比較的取り出しやすく、熱利用に適した発電設備と言える。排熱は、電池系からの高温回収と排ガス系からの低温回収が可能である。高温回収量は発電設備側の運転条件で決定されるが、低温回収量は冷却水側(熱利用側)の条件によって変化するので、熱利用方法との合理的な組合せを配慮する必要がある。また、オンサイト用コージェネレーションにおいては、需要(電気、熱)と設備容量のバランスおよび運転方法についての最適値を見出すべく解析する必要がある。

電気事業法と燃料電池

金子 秀男

平成2年6月1日をもって燃料電池など新エネルギー発電技術に関する工事計画の認可、検査について電気事業法の施行規則、技術基準などが改正され実施されるに至った。新エネルギー技術についてはその普及のために、電気事業法に基づく規制の緩和、手続きの簡素化の要望が出され、今回の改正はそれらが十分考慮されたものとなった。本稿では、それら改正点の概要とさらに電気事業法以外の法規との関連についても簡単に述べる。

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