富士時報
第64巻第3号(1991年3月)

電力系統監視制御技術特集/予防保全技術特集

電力系統監視制御技術特集論文

電力系統監視制御技術の展望

鈴木  勇

エレクトロニクスの進展によって自動化推進のための構成機器はますます小形、高集積、高信頼化されつつあり、また約20年になろうとする集中制御システムの経験から、自動化機能の高度化要求も増進する傾向にある。そのなかには従来手法の適用上の困難さから、並行して発掘されてきていた新しい手法による試みも広がりつつある。経験が進んだとは言え、このような状況はこれから先まだまだ変遷を遂げることを予想させる要因を大変多く含んでいる。そこで現状をもとに近未来の状況を概観する。

電力系統監視制御システム

藤本 明夫,西山 和男,藤岡 勝徳

電力系統監視制御システムは電力系統運用の高度化、大規模化に伴い、より高度な機能、性能、信頼性が求められている。電力系統監視制御システムの課題としては、信頼度向上のための分散化、親しみやすいヒューマンインタフェース、通信ネットワークによる階層制御の連係、運用支援機能の充実、コンピュータシステムの品質向上が要求される。これらへの富士電機の対応をスーパーAを適用する大規模システム、コンパクトAを適用する中・小規模システムを例に紹介する。また、システム製作の支援システムや高機能テレコンシミュレータについても紹介する。

水系運用監視制御システム

本波 秀一,早福 正明,白戸 真樹

マイクロコンピュータの高性能化とLANの普及に伴い、機能分散形システムが実現して久しい。水系運用監視制御システムにおけるダム管理のような機能残存性重視のシステムにおいては、機能分散形システムは、コンピュータの二重化と組み合わせることにより高度な信頼性を得ることができる。今回、このような機能分散形システムを北陸電力(株)神通川水系笹津管理所、浅井田ダム、新猪谷ダムに納入したので、その機能と合わせて紹介する。

中部電力(株)電力所指令・情報システム

安藤 皓二,山口 勝美,下村  智

中部電力(株)では保守第一線事業所である電力所での日常の指令・操作業務および制御所後備運転の強化・改善のための本電力所指令・情報システムの管内各電力所への導入が進められている。本システムは従来の後備テレコンに代わる装置であり、テレコン対向数110チャネル、電気所数80か所の監視制御規模を有するものである。本稿では、システム構成、構成装置、機能について概要を紹介する。

電力系統分野におけるAI適用技術

植木 芳照,竹中 道夫

エキスパートシステムの開発のためにはその構築ツールが不可欠である。特に、適用対象分野の特徴を反映した、利用しやすいツールであるドメインシェルが効率的開発のためには必須である。本稿では、電力系統のドメインシェルであるFREXS/PSの概要、AIシステムの構築例として事故区間判定エキスパートシステム、事故時の復旧手順作成エキスパートシステム、二次系統復旧エキスパートシステムについて概説する。

新形遠方監視制御装置STC-1500/500

佐藤 弘俊,石井敬次郎,桐山 和高

電子分野では、高度情報化社会への移行に伴い、電力供給のより一層の信頼度向上が叫ばれており、変電所の総合ディジタル化をはじめとして、電力制御システムの大規模化、高機能化、高性能化の機運が高まっている。テレコンの分野においてもインテリジェント化テレコンの実用化機運が急速に高まっている。富士電機では、これらの顧客ニーズに合わせ、高機能コントローラMICREX-F500アーキテクチャを採用した新形遠方監視制御装置STC-1500/500を開発したので紹介する。

予防保全技術特集論文

予防保全技術の歩み

和田 いくじ

設備保全は、定期保全(時間基準形保全)で設備の信頼性を維持することを目的に、多くの技術者を動員して実施されてきた。近時、設備の高稼働率とともに、長年月使用のために老朽化が進み、設備の寿命を見極めようとする要求がでてきた。これに呼応するため、状態基準形保全が採用されることとなり、設備診断の自動化、オンライン化、そして知能化とインテリジェントメンテナンスを志向している。その実用化にあっては、設備のライフサイクルコストとして評価されなければならない。

インテリジェントメンテナンスと設備診断エキスパートシステム

伊藤欣二郎

設備機器をメンテナンスする目的は、設備が常にその機能を発揮して生産に支障を与えないように稼働させることである。そのためには日常の点検や定期的な保全も大切であるが、最新の診断技術、情報処理技術、AI技術を統合した知識と経験に基づくインテリジェントメンテナンスが重要である。本稿では、インテリジェントメンテナンスの中核となる設備診断エキスパートシステムの位置づけについて論説し、富士電機で開発した代表的な故障診断エキスパートシステムについて紹介する。

エキスパートシステムにおけるヒューマンインタフェース

細川 正人,渡邊  勇

エキスパートシステム(ES)の利用は、ESが専門家の意図したデータを利用者から正しく得て推論を行い、導かれた結論に対する対処などの指示を利用者へ的確に伝えることが重要であるが、専門知識を表現するのに文章やグラフィック表現のみでは困難な場合もある。本稿では、知識の表現に対して補助的に画像や音を使用することでヒューマンインタフェースの向上を図り、ES構築での知識表現を容易にし、利用者への理解しやすい情報提供を可能としたCOMEXビジュアルインタフェースシステムを開発したので紹介する。

回転機械故障診断エキスパートシステム

和田 博義

最近、設備診断分野においてエキスパートシステム(ES)の研究が盛んである。本稿では、構築ツール「COMEX」で構築した一般回転機械診断用のプロトタイプESの概要について紹介する。このESは、二つの知識ベースから成り、「一次診断」では機器仕様、五感情報、簡易診断情報に基づいて前向き推論で診断が実行され、大まかな結論を得ることができ、次いで「二次診断」では絞り込まれた結論を結論仮説として、精密診断情報に基づいて後向き推論で診断を実行し、最終的な結論を得ることができる。

情報処理・制御装置の遠隔保守

北谷 保治

近年のシステム高機能化、省力化の要求に伴い情報処理・制御装置はますます複雑化、高度化してきている。そのため従来以上の高度な保守体制および保守技術が必要とされ、遠隔保守が普及してきた。本稿では富士電機の遠隔保守システムFAMSの構成および機能を紹介する。

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