富士時報
第67巻第4号(1994年4月)

特集論文

システム制御に思う

土谷 武士

アドバンスト制御の技術動向と富士電機の取組み

浅見  昭,黒谷 憲一,黒岩 重雄

アドバンスト制御は実際の機器ならびに産業プラントに広く適用されてきている。制御理論は現在も進展中で、ロバスト制御、適応制御、モデル予測制御、ディジタル制御、非線形制御など実用性のある方法が注目されている。富士電機ではアドバンスト制御の応用に積極的に取り組み、これらの技術を応用した多くのシステムや機器を納入してきた。制御系設計のためのソフトウェアも早くから開発し拡張を図ってきた。制御対象の抱えている問題点を十分に分析し、それに向いた方式をいかに応用するかが重要である。 

制御系設計・解析パッケージSAPLシリーズ

菅野 智司,新貝 和照,伊藤 正満

アドバンスト制御システムを構築するためには、コンピュータによる解析やシミュレーションなどのエンジニアリングが不可欠である。このため制御系設計・解析ソフトウェアパッケージとしてSAPLシリーズを開発し、社内で利用するとともに社外にも提供してきた。SAPLシリーズの概要、特長ならびに新たにラインアップに加えた機能、応用事例を紹介する。

H∞制御による鉄鋼プロセスラインの張力制御

高橋 孝一,小楠 喜昭,大内 茂人

鉄鋼プラントの一つである材料の表面処理設備(プロセスライン)においては、材料の張力を所定の値に保つことが常に要求される。現在は、PI 調節器をベースに張力制御を行っているが、複数の入出力を持ち、かつ強い干渉系であるため、満足できる制御性能を得ることは非常に困難である。そこで、多入力多出力系で、高いロバスト性を有するH∞制御を用いて制御系を設計し、シミュレーションを行ったので、その概要を紹介する。

化学プラントへのモデル予測制御御技術の適用

山地 智文,高野 正心

化学プラントにおいては分散形制御システム(DCS)化が進み、かなりの自動化が図られてきた。しかし、DCSだけでは十分な制御が難しい所も存在し、運転員の調整に頼らざるを得なかった。今回、プラント制御の高度化、充実のため、モデル予測制御技術を適用したアドバンスト制御システムを開発、実用化したことにより、生産性の向上、品質安定、運転員の制御操作介入度の低減が実現できたので紹介する。 

浄水場凝集プロセスのアドバンスト制御

窪田 真和,大戸時喜雄,風間  清

浄水場の凝集プロセスは、原水水質によるフィードフォワード制御が主であり、ある程度人手を介する必要がある。フロック粒径を計測する凝集センサを開発し、これを用いることにより混和池のフロック粒径が制御可能となった。制御方式としてモデル予測制御を応用した方式を開発した。混和池のフロック粒径を制御することにより処理水質が良好に保たれ、凝集プロセスのフィードバックによる自動制御が可能であることを実験により確認した。今後は、実プラントに適用し、検証する予定である。

電動機駆動への適応制御の応用

海田 英俊,藍原 隆司

さまざまな分野で広く使われている可変速駆動装置では、近年、オートチューニングの適用が広まってきた。富士電機では、適応制御技術をベースとして、機械系やベクトル制御系のオートチューニングを開発してきた。最近では、用途の拡大に伴って、運転前の無調整化だけでなく、運転中のパラメータ変化への対応が要請されるようになり、運転中に制御パラメータの最適調整を行う技術の開発を進めている。本稿では可変速駆動装置の速度制御系に適応制御を適用した製品および開発中の例について概要を述べる。

学習制御によるロボットの振動抑制

和田 正義

近年、ロボットに対する高速動作の要求はますます高まるばかりである。ロボットの高速動作時にはアームの剛性不足に起因する振動が発生し問題となる場合がある。従来の振動抑制制御は、その複雑さ、モデルの必要性などから実用化することが困難であった。本稿では学習制御を振動抑制の一手法として用いることを提案し、実験装置による基礎実験および産業用ロボットによる応用実験を通して、学習制御の振動抑制に対する有効性を確認した結果について紹介する。

普通論文

エポキシモールド品の応力解析

西澤 龍男,前田 孝夫,森谷  廣

エポキシ樹脂はその優れた絶縁特性と機械的特性のため電子機器用の部品から電力用高電圧機器の構造材まで幅広く用いられている。モールド品では一般に、内部に電極などの異種材料が埋め込まれることが多く、外部からの荷重や温度変化によって埋込物と樹脂との間に応力が発生する。
近年、機器の小形化や複雑化により、それらの構造設計における三次元応力解析の重要性は増してきている。本稿では、性能検証試験として実施される耐圧力試験とヒートサイクル試験を例に、測定結界との照合により解析の信頼性を検証した。

三次元磁界解析技術

藤田  満,芦田  有,武  達男

富士電機が自主開発した三次元磁界解析のなかで、積分形解法についてその解法の概要と適用例を紹介する。静磁界問題では磁性体の磁化モーメントベクトルを未知数にした解法を、渦電流問題では導体中の電流の流れを表す電気ベクトルポテンシャルを未知数にした解法を、さらにアテンナ問題ではアンテナ上の電流を未知数にした解法をそれぞれ採用し、計算時間の短縮と解析精度向上のため、種々工夫し汎用性を有するようにした。

照度分布シミュレーションの電力機器への適用

芦田  有,甲斐 慎一,藤田  満

開閉装置などの電力機器において、放電現象を光センサにて検出し事故を未然に防ぐ研究が行われている。本稿ではそのための光センサの設置場所を決めるためのプログラムの概要と計算例を紹介する。放電光を粒子の集まりで考え、それぞれの粒子の軌跡を乱数を用いて追うことで機器の内壁面の光の分布をシミュレーションする。円筒形のモデルタンクにおける模擬放電光での実測値と計算値とを比較し、その妥当性を示したのち、ガス絶縁開閉装置の母線断路部における計算を示す。

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