富士時報
第72巻第2号(1999年2月)

特集論文

大競争時代の中で

伊瀬 敏史

電気鉄道技術の現状と21世紀への展望

衛藤 福雄

最近の電気鉄道には安全性,高速性,快適性に加えて,経済性,省電力,省力,省保守,地球環境対応など幅広い期待が寄せられている。パワーエレクトロニクス技術や制御技術などのめざましい発展は,これらのニーズや期待の実現に大きく貢献してきた。富士電機は電力供給を主とした交通地上分野と,車両駆動用電気品を主とした車両電気システム分野でこれらのニーズにこたえるべく技術開発を行い製品を提供してきた。本稿では,これらについての取組みの現状と21世紀に向けた展望を紹介する。

電気鉄道地上システム

田中 滋夫

電気鉄道地上システムは,パワーエレクトロニクスやマイクロエレクトロニクス技術をベースとしてさまざまな技術革新が行われてきた。電力供給面では,電鉄負荷の特殊性から派生する課題(回生,高調波,電圧変動,逆相など)を主としてパワーエレクトロニクス技術により解決してきた。情報処理システムはコンピュータの小形化や通信技術の向上に伴い,光LANを適用した分散形システムが普及していくであろう。また,駅においては省エネルギー,省人化や利便性向上がキーワードとなっていくであろう。

電気鉄道用地上設備におけるパワーエレクトロニクス応用システム

牧野 喜郎,小高 英明,山本 光俊

地上設備にパワーエレクトロニクス応用装置が多用されている。高調波抑制対策として12パルス整流器,回生電力対応として電力回生インバータと回生電力吸収装置,電圧変動・三相不平衡対策として単相SVCと三相自励式SVCを取り上げ,概要と現地測定データによる効果を紹介する。今後の大容量変換装置は平形IGBTを適用することにより,小形化・高効率化・高機能化がさらに進展する。

電気鉄道変電所用新形直流高速度遮断器

粟飯原一雄,鈴木 伸夫,菊地 征範

電気鉄道用直流変電所では従来から直流高速度気中遮断器が使用されてきたが,遮断時に爆発的なアークが発生するので,頻繁な保守点検を要した。今回,これらの短所をすべて解決した,真空遮断器を応用したアークレス遮断器を開発した。直流電流に振動電流を重畳して電流零点を生成することにより遮断する原理である。機械的損耗が微少で,省保守化が実現できるため,ランニングコストが低下する。結果的にライフサイクルコストの低減や小形化・安全性の向上などが実現できる付加価値の高い装置である。

電気鉄道変電所用新形直流高速度遮断器の性能検証

昆野 康二,清水 直樹,菅野 朋人

真空遮断器を応用した新形の電気鉄道変電所向け直流高速度遮断器を開発した。本装置は電磁反発駆動機構をもった真空遮断器本体,主振動回路,副振動回路,非線形抵抗,検出制御ユニットなどから構成されている。機械的な開閉器と電子回路の複合化された装置であり,性能検証では機械的性能,電気的性能,および組合せ性能検証が必要となる。本稿では性能検証試験と,結果の概要について述べる。

鉄道車両システム

廣津 和則,尾崎  覚,星野 栄雄

21世紀に向けた鉄道車両システム用電気品の技術開発の取組みを紹介する。パワーデバイスはIGBTが主流となり,今後素子の高耐圧化と性能向上の開発が推進される。主回路システムには3レベル構成と2レベル構成が適用されているが,素子の高耐圧と性能向上が進めば,2レベル構成が多用されるようになるであろう。また,大容量素子の冷却は地球環境対策のため不凍液冷媒などを適用したものとなろう。制御装置の高性能化,高機能化はデバイスの進歩に連動して発展し,開発の効率化のためさらにシミュレーションの活用が推進されるであろう。

新幹線車両用主回路システム

井上 亮二,土橋 栄喜,大澤 千春

新幹線車両用主回路システムは,東海道新幹線の開業以来,安全性,信頼性,経済性に対する要求とその後の高速化,省エネルギー化,環境問題への対応などの時代の要請にこたえながら,技術革新を実現してきた。その技術進歩は,主電動機を制御する変換器の主回路用パワーデバイスの高耐圧・大容量化とマイクロプロセッサの高性能・高速化といったパワーエレクトロニクス技術のめざましい進歩に負うところが大きい。本稿では,新幹線車両用主回路システムの技術変遷における現状と,主回路システム電気品の今後の技術動向について紹介する。

在来線車両用VVVF駆動システムと補助電源システム

岩村 光二,岩堀 道雄,野中 政章

VVVF駆動システムにおける富士電機の実績として,高耐圧IGBTを使用した3レベルインバータの適用例を述べるとともに, 今後の方向として,コストパフォーマンスに優れた2レベルインバータの開発を行ったので,その概要を紹介する。また,将来の応用分野の一つとして注目されるDDMシステムの開発にも取り組み,その成果を上げつつあるので,それについても述べた。  補助電源システムでは各種車両のニーズに対応しており,最近の適用例を電気車,気動車について紹介する。

普通論文

直列補償形節電装置「省エネ名人」

石川 吉浩,山本  弘,大熊 康浩

交流チョッパ技術と高周波スイッチング技術により実現した多機能電源MPSと,直列補償回路技術を適用した直列補償形節電装置を製品化した。節電装置はIGBTを用いた16 kHzの高周波PWM制御によりパワーCTを介して,負荷電圧を適正な電圧に一定制御する。そのため,高い節電効果が得られる。また,主回路には電解コンデンサや冷却ファンなどの寿命部品はなく,メンテナンスフリーとなっている。本稿では,標記節電装置の特長,製品仕様と系列, 回路構成と動作,試験結果の4項目を中心に紹介する。

インバータ駆動誘導電動機の軸電圧

奥山 吉彦,藤井 秀樹

PWMインバータの技術進歩により,誘導電動機の可変速運転はますます増加している。しかしその反面,インバータで駆動される電動機は商用電源駆動時に比べ,種々の性能面で責務が増大する。 その代表的な例は,インバータサージによる絶縁責務である。本稿では,いまだ明確な解析がなされていないPWMインバータ駆動誘導電動機の軸電圧について,その発生機構を解説し,解析のための等価回路を提案した。また実機を用いた実験結果により,これらの妥当性を証明した。

低価格・高効率を志向した永久磁石形同期機の設計法

奥山 吉彦

非常に特性の良い希土類永久磁石の出現と省エネルギーという時代のすう勢が符合し永久磁石形同期機が脚光を浴びている。  本稿では従来形同期機の設計法を基本にし,それに界磁起磁力一定の条件を導入した永久磁石形同期機の基本的設計法について述べ,さらに,高効率で低価格な永久磁石形同期機とするために,高価な希土類磁石使用量を最小にし,しかも機能・性能を満足するための設計上の考慮点について具体的に理論的に述べる。

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