富士時報
第73巻第4号(2000年4月)

新エネルギー(燃料電池・太陽光)特集

新エネルギー特集に寄せて

小長井 誠

燃料電池発電の現状と展望

鴨下 友義,中島 憲之

富士電機が開発しているりん酸形および固体高分子形燃料電池のシステム構成,他社の動向,開発状況,今後の展望について述べる。りん酸形燃料電池は,無停止連続運転時間が10,000時間を超えるサイトもあり,商用レベルに達している。固体高分子形燃料電池は,電池本体の信頼性の向上を終了し,改質ガスを用いる固体高分子形燃料電池システムの開発に注力している。商用化には両者ともコスト低減が大きな課題である。今後は,環境性,省エネルギー性という燃料電池の特徴を生かした用途開発をする。

燃料電池発電装置のホテルへの適用

中島 憲之,堀内 義実

富士電機は,東邦ガス(株)の協力を得て,「名古屋栄ワシントンホテルプラザ」に100 kWりん酸形燃料電池を1999年2月に設置した。この事例では,燃料電池はコージェネレーションシステムとして利用されている。低温排熱(約50℃)を温水ヒータの給水予熱に利用している。また,高温排熱(約90℃)を吸収冷温水機により冷暖房および貯湯槽の熱源に利用している。燃料電池導入による環境保全の効果は一次エネルギー量を9.5%削減した。また,炭酸ガス排出量も12%削減した。

燃料電池発電装置の生ごみ再資源化システムへの適用

東郷 芳孝,中島 憲之,黒田 健一

富士電機は,現在までにりん酸形燃料電池発電装置の燃料として都市ガス以外に,液化石油ガス(プロパン,ブタン)やナフサ,電解工場からの副生水素の適用技術を蓄積してきた。最近では,上記燃料のほかに,有機性廃棄物を嫌気処理して発生したバイオガスの適用も検討している。今回,鹿島建設(株)が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受けたプロジェクトに協力する機会を得た。本稿では,りん酸形燃料電池を用いた生ごみ発電の特徴と実験運転の概要について紹介する。

りん酸形燃料電池の開発

瀬谷 彰利,原田  孝

富士電機では,りん酸形燃料電池本体の高信頼性化,低コスト化検討を進め,第一次商品機用新形燃料電池を開発した。現在,さらに低コストの第二次商品 機用電池を開発中である。第一次商品機用電池セルは,りん酸マネジメント検討結果をもとに,新セル構造を採用し,外部からのりん酸補給を不要とし,60,000時間運転のめどをつけた。また,スタック構造部品の各機能を見直し,コストダウンを図るとともに,冷却板の信頼性を向上させた。第一次商品機は,現在,各サイトで順調に運転を継続している。

燃料電池用コンパクト形改質器の開発

工藤飛良生,横山 尚伸

燃料電池発電装置の市場導入を図るうえで,現在最も重要な課題はコストダウンである。そのなかで改質装置に要求されている課題は,改質装置全体としての簡素化および小形化である。そのため第一ステップとして,機器数の削減を目的とした熱交換機能を内蔵した改質器および複合形の脱硫/一酸化炭素(CO)変成器を開発した。次に第二ステップとして,第一ステップで開発した改質器の小形化を目的としたコンパクト改質器を製作し評価中である。本稿では, これらの開発状況について説明する。

オンサイト用りん酸形燃料電池発電装置の開発

大内  崇,長谷川雅一,竹田 治正

さらなる低コスト化,耐久性向上,高機能化を目標とする第二次商品機の開発を行い,1号機を社内設置して運転を開始した。その開発ではシステムの簡素化,部品点数の削減などを進め,40万円/kWのコストを目標としている。また,蒸気取出しなどの高機能化開発を進め,熱利用設備を含めたシステム開発を行っている。

燃料電池発電装置の燃料切換技術

小松  正,千田 仁人,項  東輝

発電中に燃料の種類を切り換える技術を開発し,100kW発電装置にて都市ガスー液化石油ガス(LPG)間の切換実証試験を行い成功した。この技術では,改質用水蒸気量の調節と,改質器入口でのガス組成変化の対応が重要である。そこで,燃料切換システムの動的モデルを構築することで,シミュレーションにより各部のガス組成などの挙動を把握し,得られた結果を実証試験に反映した。

固体高分子形燃料電池の開発

青木  信,瀬谷 彰利

固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発状況について概説した。 信頼性,コスト,小形化の点で有利な無加湿PEFCの開発に取り組み,水素ー空気で,50cm2単セルおよび100cm2×10セルスタックにて高出力で安定な運転を達成した。これらの成果を踏まえ,現在は無加湿1kWスタックの製作に取り組んでいる。また,改質ガスー空気形PEFCスタックおよびPEFC用改質器の開発についても並行して開発を進めており,2000年度にはこれらを組み合わせ, PEFC発電システムの開発・評価を実施する計画である。

オンサイト形水素発生装置の開発

久保田康幹,西垣 英雄

富士電機と大阪ガス(株)は都市ガスやプロパンガスを燃料とした100m3/h(Normal)のオンサイト形水素発生装置「HG-100」を開発した。この装置は,都市ガスの水蒸気改質装置と改質ガス圧縮機およびPSA(Pressure Swing Adsorption)を組み合わせた構成となっている。主な仕様は次のとおりである。
(1) 水素発生量:100m3/h(Normal)
(2)水素純度:99.999%以上
(3)都市ガス:35m3/h(Normal)

部分酸化改質技術の開発

大賀 俊輔,清田  透,中川 功夫

固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発状況について概説した。 信頼性,コスト,小形化の点で有利な無加湿PEFCの開発に取り組み,水素ー空気で,50cm2単セルおよび100cm2×10セルスタックにて高出力で安定な運転を達成した。これらの成果を踏まえ,現在は無加湿1kWスタックの製作に取り組んでいる。また,改質ガスー空気形PEFCスタックおよびPEFC用改質器の開発についても並行して開発を進めており,2000年度にはこれらを組み合わせ, PEFC発電システムの開発・評価を実施する計画である。

燃料電池発電装置の予防保全技術

岡  嘉弘,三上  誠,三輪 英幸

富士電機はオンサイト用りん酸形燃料電池の商品化をめざし,低コスト化と信頼性の向上を推進している。本稿では,サイトでの運転実績から信頼性の現状を紹介する。また,信頼性向上をサポートするプラント監視システムによる予防保全技術について説明する。90台を超える燃料電池の運転実績を反映させ,信頼性は着実に向上しつつある。特に,第二世代機以降の信頼性は,商品化レベルに到達してきている。

太陽光発電システムの現状と展望

蟹江 範雄,藤田  満

地球温暖化を防止するため,太陽エネルギーを直接電気に変換できる太陽光発電が注目されている。富士電機では,結晶系に比較して効率は低いが,エネルギーペイバックタイムが短く,低価格化も狙えるフィルム基板のアモルファスシリコン太陽電池の開発を進めている。また,発電した直流を交流に変換するパワーコンディショナのシリーズ化を完了している。さらに天候に左右される欠点を補うため,風力発電やマイクロ水力発電と太陽光発電を組み合わせたハイブリッドシステムについてもシステム開発を行っている。

アモルファスシリコン太陽電池の開発

市川 幸美,原嶋 孝一

SCAF構造と名付けた独自の集積形直列接続構造をもつプラスチックフィルムを基板に用いたアモルファスシリコン(a-Si)太陽電池を提案し,その効率向上技術と製造プロセス技術の開発を進めている。開発した量産試作ラインを用い,40cm×80cmのa-Si太陽電池で変換効率を9%を達成し,現在10%をめざしたデバイス構造およびプロセスの改良に注力している。また,フィールドテストや各種信頼性試験を通じて,これらの太陽電池の特長を生かした新しい利用技術の開発も進めている。

太陽光発電利用貯水池水質保全システム

山本総一郎,小野 正敏

本システムは,太陽光発電で得た電力を用いて,貯水池に発生する藻類を回収・処理して湖の外に排出する一連の装置を稼動させるシステムである。このシステムは,水質保全を目的に湖面に設置された湖面設置太陽光発電設備・水質保全装置を核として,ここで回収・処理した藻類を運搬する電動船「ひだまり」と,その充電設備としての陸上設置太陽光発電設備の3設備から構成されている。これらは,1998年度に設置され,1999から2002年度の4年間でその効果の検証を東京都水道局と共同で行う予定である。

太陽光発電システム用パワーコンディショナの開発

楠本  敏,加藤 正樹,藤本  久

太陽光発電システムは,シリコン結晶からなる太陽電池,太陽電池出力を集める集電箱,太陽電池の直流電力を一般の交流電力に変換するパワーコンディショナから構成されている。今回開発したパワーコンディショナは,従来のトランス絶縁方式に代わるトランスレス方式を採用し,小形化・軽量化・高効率化を図っている。本稿では,単相出力の住宅用(200V,3.5kW)と三相出力の産業用(200V,10kW)の2種類を紹介する。

太陽光マイクロ水力ハイブリッドシステム実証研究

大田 洋充,桜井 正博,蟹江 範雄

太陽光発電システムと誘導発電機を適用したマイクロ水力発電システムを組み合わせた独立形ハイブリッドシステムにおいて,最も経済的かつ信頼性の高いシステム構成,運転方法を確立することを目的に,新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託を受け,ベトナム中部高原地方において,1997年度から2000年度までの予定で研究を実施している。機器設計,工事などを経て,1999年9月にシステムの立上げを完了し,現在は試運転をしながら気象およびシステム関連データを収集解析している。

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