富士電機技報
第85巻第5号(2012年9月)

特集 自動販売機の省エネルギー・新機能技術

特集 自動販売機の省エネルギー・新機能技術

企画意図

富士電機の自動販売機事業は“街のオアシス創生企業”を目指して社会に貢献するために自動販売機およびフード機器の開発を行っています。自動販売機市場では、東北地方の震災を機に節電・省エネルギーへの要求が高まっています。富士電機では以前から継続して省エネルギーに取組んで来ましたが、さらに2011年には、缶・ボトル飲料自動販売機のハイブリッドヒートポンプ方式や、カップ式飲料自動販売機のヒータレスペーパードリップ抽出機などにより大幅な省エネルギー化の技術を構築しました。また、従来の自動販売機にはない機能を持ったデジタルサイネージ自動販売機などを展開して、利用者の快適性と利便性も追求しています。これらの自動販売機の省エネルギー・新機能技術について紹介します。

〔特集に寄せて〕社会に貢献する自動販売機技術への期待

丸山 直樹
三重大学大学院工学研究科准教授工学博士

〔現状と展望〕自動販売機の省エネルギー・新機能技術の現状と展望

北出 雄二郎

自動販売機では、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)の特定機器に指定されている缶飲料自動販売機を中心に、省エネルギー(省エネ)や環境対応のためのさまざまな技術開発が進められてきた。富士電機は、缶飲料自動販売機の冷熱技術を追求し、究極の省エネ機であるハイブリッドヒートポンプ機を開発した。このほか、断熱技術やピークシフト技術などにより、年間消費電力量を15年前に比べて1/5以下に削減した。また、カップ式飲料自動販売機では、ヒータレスペーパードリップシステムにより大幅な省エネを実現した。さらに、これまでにない新機能のデジタルサイネージ自動販売機やセールスプロモーションマシンの企画・生産など、社会の変化に対応した取組みを行っている。

ハイブリッドヒートポンプ飲料自動販売機

滝口 浩司 ・ 高松 英治

飲料自動販売機の省エネルギー(省エネ)技術の主流であるヒートポンプ技術の理想を追求し、究極の省エネ機“ハイブリッドヒートポンプ飲料自動販売機”を開発した。従来のヒートポンプは、冷却室の熱のみを加熱室に利用する庫内熱利用方式であったが、外気の熱も利用して庫内と熱利用を切り替えるハイブリッドヒートポンプ方式を開発し、搭載した。また、周囲環境の変化に応じて能力を調整するインバータ圧縮機と、各熱交換器の冷媒流量を調整する新型電子膨張弁を開発した。これらを最適に制御することで、年間を通して大幅な消費電力量を削減できる。

自動販売機の高効率熱交換器

土屋 敏章 ・ 倉 馨

自動販売機は、環境負荷の低減を図るため消費電力の低減が求められている。消費電力の低減には冷却ユニットの運転効率向上が必須であり、高効率熱交換器を開発した。熱交換器の性能向上を図るため、フィンはルーバフィンを採用し、形状を最適化した。また、配管は管内に細穴を複数持つ多孔管を用い、解析と実験で性能の検証を行い、最適化を図った。開発した熱交換器を自動販売機に組み込んで実験した結果から、年間消費電力量を7% 低減できることを確認した。また、アルミニウム管と銅管の接合は電位差から腐食が促進されるため、中間材料を介した新接合法で腐食を防止した。

カップ式飲料自動販売機の省エネルギー技術

江利川 肇 ・ 中島 規朗 ・ 牧野 道彦

カップ式飲料自動販売機のレギュラーコーヒーの調理システムを中心に、省エネルギーと風味の向上を目的とした要素技術の開発を行った。 ヒータレスペーパードリップ抽出機を開発し、カップ式飲料自動販売機全体の消費電力量の25% に当たる713 kWh/ 年の削減を実現した。同時に省エネルギーと組み合わせた抽出回路の衛生性改善により、コーヒーの飲料品質も向上させることができた。 また、コーヒーミルにおいては、粉砕した粉の搬送経路の半減と静電気の低減により、1 回の販売当たりの消費エネルギーを従来比25% と大幅な削減を実現した。

低GWP冷媒の自動販売機への適用

石田 真 ・ 起 賢一

環境配慮型社会を構築する上で、自動販売機における環境性能がいっそう重要視されている。富士電機では、低地球温暖化係数(GWP)冷媒であるHFO-1234yf を自動販売機へ適用し、その性能と環境への影響を現行冷媒のHFC-134a と比較して評価した。HFO-1234yf を適用した自動販売機の年間換算の消費電力量は、1% 低減してほぼ同等であった。また、総 合等価温暖化因子(TEWI)指標により評価した環境負荷への直接影響は、99% の大幅低減であった。このように、HFO-1234yfの適用により、自動販売機の環境性能が向上することを明らかにした。

多品種対応 清涼飲料ディスペンサ

遠藤 伸之

富士電機では、多業種・多業態にわたるニーズに対応可能な清涼飲料ディスペンサの開発を行った。多様化したニーズに対応するため、最大で6 品種の飲料を販売できる新型ノズルを開発し、業界最小の製品寸法で多品種の飲料の販売を可能にした。 新型ノズルは、富士電機独自の空中ミキシング方式を採用しており、希釈液とシロップとの混合が空中で行われるため衛生性に優れている。さらに、炭酸水を利用したノズル洗浄機能を付加することで、ワンタッチで誰でも簡単に日常の清掃作業を行うことができる。

汎用型食品・物品自動販売機「FNX118NR」

市原 史基 ・ 堀口 剛史 ・ 富樫 大

食品・物品自動販売機市場向けに汎用型食品・物品自動販売機「FNX118NR」を開発した。省エネルギー(省エネ)を進めるとともに、販売商品の汎用性の拡大を行った。省エネ達成のため、品質工学と流体シミュレーション(FLUENT)を組み合わせて庫内の冷却性能の最適化を行い、従来機に対し、消費電力量を30% 削減した。また、構造シミュレーション(I-deas)により搬出ギアボックスの体積を半減し、商品収納棚を多段にした。さらに、棚段の設定を可能にしたことで汎用性の拡大を実現した。

デジタルサイネージ自動販売機「JX34」

横田 義剛 ・ 武藤 健二 ・ 後藤 友宏

近年、液晶ディスプレイや発光ダイオードを用いたデジタルサイネージ(電子看板)が活発に展開されている。この技術を取り入れ、従来にない快適性と利便性を持つデジタルサイネージ自動販売機「JX34」を開発した。従来は飲料サンプル展示部であった自動販売機前面に、タッチパネル付きの液晶ディスプレイを配置したことにより、商品を選択する機能だけでなく、広告や商品情報などの発信が可能となった。 利用者の性別や年齢層を識別するカメラおよびネットワーク通信機器などを搭載したことによって、これまでの自動販売機では成し得なかった利用者とのコミュニケーションが実現できる。

セールスプロモーションマシン

柴田 義人 ・ 吉野 正洋 ・ 石原 雄大

近年、電子媒体のインターネットやモバイル機器を使う広告が多くなっており、デジタルサイネージ(電子看板)が注目されている。自動販売機の技術とデジタルサイネージ技術を組み合わせ、新たな広告・プロモーションを実現する、セールスプロモーションマシンを開発した。
市場導入に際して凸版印刷株式会社と共同で進めた“サンプリン”は、常設型で双方向のコミュニケーションが可能であり、消費者にお得な体験を提供することで来店を促進できる。

解説

略語・商標

新製品・新技術紹介

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。