日本のエネルギー需給で
直面する3つの課題
――脱炭素社会実現に向けて、日本の電力にはどのような課題があるのでしょうか。

東京大学大学院教授
エネルギー・資源学会 会長
工学博士
松橋隆治氏
松橋 多くの国や地域が2050年までにカーボンニュートラル社会を実現すると宣言し、日本は現在、第7次エネルギー基本計画を指針に実現を目指しています。そこでは2040年度に再生可能エネルギーを全体の4割から5割を占める主力電源とし、原子力発電が2割、残りの3割から4割を火力発電にすることを目標としています。
問題はこれらの指標はあくまで平均値だということです。再生可能エネルギーで最大の容量を持つ太陽光発電は夜間には出力がゼロになるため、時間によってそれぞれの割合は大きく変化します。原子力はフラット運転が基本ですから、需給調整にどう取り組むのかが問題になります。
従来、需給調整の役割を担ってきた火力発電の割合が少なくなると、蓄電池や電気自動車、家電製品など、今までの電源以外のリソースによる調整が必要となり、こうした新しい調整資源が需給調整市場に幅広く参画することが求められます。これが第1の課題です。
第2の課題は再生可能エネルギーの比率が上がることで、安定した電力供給を実現するための慣性が不足することです。何らかの要因で需給バランスが崩れた場合でも、火力発電は周波数の急速な変化を抑えられる大きな慣性を持っていますが、太陽光発電には慣性がありません。電力の安定供給を実現するには、不足する慣性をどう補うかが課題になります。
第3の課題は電力需要の不確実性です。AI(人工知能)の普及は生活が便利になる一方、膨大な電力消費につながります。現在、AIに関連するデータセンターの開発が進んでおり、電力系統接続の打診が殺到しています。全てが実現されないにしても相当な電力需要が発生するのは間違いないでしょう。省エネ技術が進化したとしても設備の増設などもあり、電力需要がどこまで増加するのか先行きは不透明です。
需給調整市場の活性化が
解決策の1つに
――そうした中で需給調整の役割を担う需給調整市場が注目されていますが、順調に進んでいるのでしょうか。
松橋 火力発電による調整力の供給が減少することを考えると、他の資源による調整力の強化が求められるようになります。需給調整市場は既に開設されて入札が始まっていますが、順調なのは5つのカテゴリーのうちの1つだけです。
市場には秒単位から30分まで供給に必要な時間により5つのカテゴリーが設けられ、需給調整の商品が取引されていますが、順調なのは最も遅い30分の商品だけです。最終的には5つのカテゴリー全てが欠損なく取引されないと、調整力の強化は実現できません。
機能していないカテゴリーでは入札段階で応札する事業者が少なく、欠損が生じているのが現状です。理由は将来の天気予報が外れるリスクがあることで、入札に参加するにも大きなリスクが伴うためです。
制度設計上の問題もあります。最も長い30分の商品は1日前までに入札する決まりですが、他は1週間分の入札を1週間前にしなければなりません。再生可能エネルギーで1週間分を確実に予測するのは難しく、入札参入者のリスクが大きくなっています。
ただ、全てのカテゴリーが1日前までになれば活性化するはずですし、系統用蓄電池の技術の進化も期待されています。系統用蓄電池はまだ過渡期といわれていますが、技術的にはスタンバイされている状況です。特にB2B向けのソフトとハードが一体となったトータルシステムの開発は日本企業の強みが生かせる分野だと考えています。
参入事業者のビジネスを
ワンストップで支援する
――需給調整市場への事業者の参入を促すという点で富士電機はどのように貢献できるのでしょうか。

富士電機
エネルギー事業本部
エネルギーマネジメント事業部長
大野健氏
大野 系統用蓄電池は、調整力として社会貢献するという意義は高いですが、事業者にとってもう一つ重要なのはビジネスとして成立し、継続できるということです。そのためには収入とコストのバランスが重要であり、システムの導入や運用にかかる負担の低減が必要です。エネルギーと環境の分野で事業を展開してきた当社は培ってきたシステム技術でお客様を支援します。
収益を最大化するためには、市場価格を精度よく予測して、最適な取引計画を立案して提供することが必要です。当社は市場価格予測機能と蓄電池の最適計画機能を核とする蓄電取引運用システムを提供しています。当社の蓄電システムはもちろん、他社の蓄電システムを使用している場合でも当社の蓄電取引運用システムを利用して最適に取引することができます。
システム導入時のお客様の負担の低減に対しては、蓄電取引運用システムと蓄電システム、および連系設備まで全体を提供することで実現します。現在、上位システム(電力市場取引)と下位システム(蓄電システム)間ではインターフェイス仕様が標準化されていません。当社はワンストップで提供することでお客様の負荷を低減できます。もちろん個別提供も行っており、お客様の要望に合わせた形で柔軟な対応が可能です。
特に蓄電取引運用システムは、最適な取引計画を提供するAC(アグリゲーションコーディネータ)機能と調整力を管理するRA(リソースアグリゲータ)機能を個別・組み合わせの両方で提供でき、お客様の事業形態に合わせた提案ができます。また、自動運転を実現することで、運用に必要なマンパワーも軽減します。
さらに、再生可能エネルギー施設に併設する蓄電システムや、需要家の蓄電システムによる需給調整市場や卸電力市場への取引に対応できる、マルチユースなシステムとしていきます。
――富士電機の優位性はどこから生まれたのでしょうか。
大野 パワー半導体を用いたUPS(無停電電源装置)やインバーターなどの技術をベースに以前から系統安定化用の蓄電システムの開発に取り組んできました。2004年は風力発電の安定化実証実験装置の提供、2009年には離島マイクログリッド実証設備システムなどを通して、電力品質を確保する技術を磨いてきました。
電力の安定供給を実現するための需要予測にも長年取り組み、旧一般電気事業者や新電力に採用されてきました。関連する技術者の育成にも注力し、高い技術力を保持していることも大きな強みです。
制度変更などに対し
システムを継続的に進化させ
お客様の電気事業を支援
――今後はどのような展開が期待されますか。
松橋 この数年の大きな流れとしては、需給調整市場の改善が期待されるとともに、2028年ごろには同時市場の実現が想定されています。卸電力市場と需給調整市場が統合され、kWhとΔkW、ΔkWhの価格が同時に決定されるという大きな改革です。
そうなればトータルでコストが最適となる経済合理性が得られますが、参入する事業者にはトータルシステムの最適化モデルを含む新たな技術開発とシステム開発力が求められるようになります。
そこではソフトとハードが一体となったシステムを提供できる日本企業の強みがさらに生かせるはずです。種類の異なる蓄電池をトータルで制御してミラーモデルで状況を適切に予測するなど、各企業に合わせたきめ細やかなサービスを提供できる富士電機に期待しています。
大野 前日取引化や同時市場など制度が変わるとシステムもそれらの要件を取り込んで進化させなければなりません。当社は新たに求められる機能を遅れなく開発し、提供できるよう体制を強化します。
また、系統の接続要件がますます厳しくなっていく中で、当社の持つノウハウを生かしてお客さまへの支援をより強化するとともに、慣性力不足に対する技術開発やグリッドコードの検討など、国の実証事業や検討会にも関わって最新の情報を積極的に取り込んでいます。
富士電機はシステム全体を取りまとめることができ、コアの技術も手がけてきました。今後も事業を拡大して系統の安定化における中心的な役割を果たし、脱炭素社会の実現に貢献します。
このたび、需給調整市場の運営者である(一社)電力需給調整力取引所にも、蓄電池などを用いた市場参入に関して、市場運営者としてどのような期待を持っているかうかがったところ、次のような回答を受領しましたので、ここにご紹介いたします。
