化学業界向けコラム
スマートファクトリー化と脱炭素化が進む化学業界の現状と課題

スマートファクトリー化と脱炭素化が進む化学業界の現状と課題のイメージ

化学業界はDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが活発です。IoT・機械学習を活用したデータ解析や自動運転、ロボット・ドローンの活用など最先端技術が活用されており、スマートファクトリー化が進められています。

一方で、化学業界は、製品の高付加価値化や国際競争力の強化を目指しつつ、温暖化対策として「カーボンニュートラル」への取り組みが求められています。

例えば、経済産業省は新技術を活用して人手不足やプラント設備の高経年化等を解決するためにIoTやAI(人工知能)技術を活用したスマート保安が推進されています。 経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」によると、化学業界関連の課題として「CO2排出量の大幅削減が必要」とされており、CO2削減に向けた工程表が策定されています。

このように、スマートファクトリー化と脱炭素化は化学業界にとって必要な取り組みであり、今後の業界の動きに注目が集まっています。 以下ではスマートファクトリー化と脱炭素化に関連した重要キーワードの解説と、化学工業を対象とした意識調査についてご紹介します。

化学業界のスマートファクトリー化と脱炭素化に関連する意識調査

今回、富士電機の化学業界向けソリューションでは、化学業界に勤務している方を対象にデジタル化と省エネルギー対策に関連する重要なキーワードの意識調査(以下、本意識調査)を実施しました。

調査対象のキーワードはDX(デジタルトランスフォーメーション)、スマート保安、デジタルツイン、ソフトセンサ―、GX(グリーントランスフォーメーション)、カーボンニュートラル、EMS(エネルギー管理システム)です。

調査概要

対象エリア:全国
調査対象者:化学工業従事者
回答者属性①経営層・役員クラス:1.0%、部長クラス:12.5%、課長クラス:34.7%、係長・主任クラス:51.7% 回答者属性②製造・生産部門:77.1%、生産管理部門:12.8%
有効回答数:749人
調査方法:インターネット調査
調査期間:2023年02月22日から23日

以下では、これらキーワードの解説と調査結果を紹介します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術とデータを活用して、社会やビジネスの変革を進める取り組みのことを指します。

産業分野ではIoTを含むさまざまな技術が向上しており、扱えるデータは爆発的に増えています。これらデータを活用し、デジタル技術をビジネスに取り込んでいくことで、競争力維持・強化することなどが可能になります。

またDXはカーボンニュートラル化を推進するうえでも必要な取り組みであり、化学業界に限らず多くの業種で取り組みが進んでいます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の意識調査結果のグラフ

DX(デジタルトランスフォーメーション)について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の18.4%、「ある程度知っている」が34.7%、「言葉を聞いたことがある」が27.1%となりました。「全く知らない」の回答は全体の19.8%という結果になりました。

スマート保安

プラントの安定運営に保安・保全活動は欠かせません。一方で、プラント設備の老朽化、これを支える人材の不足、熟練作業者の高齢化・退職などの課題があります。これを解決するのがスマート保安です。

保安・保全作業の効率化・高度化・省力化のためにデジタル技術やIoTを活用し、遠隔作業支援による作業効率化、工場や設備のリアルタイムモニタリングによる予兆保全・予知保全なども可能にします。

まるごとスマート保安サービスのイメージ

また、スマート保安により、化学プラント・工場の突発的な故障やトラブルをなくすことで、CO2排出量の削減効果も期待されます。

スマート保安の意識調査結果のグラフ

スマート保安について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の10.1%、「ある程度知っている」が13.2%、「言葉を聞いたことがある」が26.7%となりました。「全く知らない」の回答は全体の50.0%という結果になりました。

デジタルツイン

産業分野におけるデジタルツインとは、例えば化学プラントなどの実在する設備情報を取得して仮想空間に再現するテクノロジーのことです。これにより化学プラントの稼働状況や設備の状態をリアルタイムで把握したり、シミュレーションしたりすることが可能になります。

今までのやり方と比較して短期間で効率的なプラントの設計や運用、AI技術やシミュレーションによる高度な改善策の検討などが可能になり、コスト削減、リードタイムの短縮や製品品質の向上などが期待されています。

デジタルツインの意識調査結果のグラフ

デジタルツインについて、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の4.2%、「ある程度知っている」が9.0%、「言葉を聞いたことがある」が24.3%となりました。「全く知らない」の回答は全体の62.5%という結果になりました。

ソフトセンサ―

ソフトセンサ―とは、物理センサーでは測定が直接できない値を、他の変数や統計的な手法を用いて推定する技術のことです。

例えば、ソフトセンサ―を活用することで測定可能な温度や圧力などのデータから、測定が困難な他の変数を推定できるようになります。これにより製品品質の把握や、プロセス制御の最適化が可能になります。

また、設備の状態を推定することで、メンテナンスコストの削減や設備投資の最適化、予知保全による突発的な故障の回避などの効果が期待されています。

ソフトセンサ―の意識調査結果のグラフ

ソフトセンサーについて、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の6.9%、「ある程度知っている」が13.5%、「言葉を聞いたことがある」が25.3%となりました。「全く知らない」の回答は全体の54.2%という結果になりました。

GX(グリーントランスフォーメーション)

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する取り組みのことです。

化学プラント・工場の場合、エネルギー安定供給の確保に向け、プラント・工場全体の省エネに加え、再生可能エネルギーなどを活用しエネルギーの自給率の向上させることなどを意味します。

GX(グリーントランスフォーメーション)の意識調査結果のグラフ

GX(グリーントランスフォーメーション)について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の6.9%、「ある程度知っている」が14.9%、「言葉を聞いたことがある」が26.7%となりました。「全く知らない」の回答は全体の51.4%という結果になりました。

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量と吸収量の合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

日本政府は20250年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにするカーボンニュートラルを目指す宣言をしており、また、内閣府と各省庁で「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定、公開しています。

化学業界におけるカーボンニュートラルは工場のエネルギー消費量やCO2排出量を測定・管理し、CO2排出量を低減する必要があり、化学製品や素材の生産・開発においても低炭素化やカーボンリサイクルへの対応が求められています。

カーボンニュートラルの意識調査結果のグラフ

カーボンニュートラルについて、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の27.8%、「ある程度知っている」が42.7%、「言葉を聞いたことがある」が23.6%となりました。「全く知らない」の回答は全体の5.9%という結果になりました。

EMS(エネルギー管理システム)

EMS(エネルギー管理システム)はエネルギーの需要と供給を最適化するシステムです。とくにプラントや工場で利用されるEMSをFEMS(Facility Energy Management System)と呼ぶことがあります。

プラントや工場のエネルギー管理をデジタル化・自動化することで、工場内のエネルギー使用量の見える化・可視化や、需要予測、デマンド制御、これらを組み合わせた省エネなど支援する役割を持っています。

また、従来のEMSといえば電力を対象としたエネルギー管理が注目されていましたが、近年では電力と熱エネルギーを対象としたものになりつあり、脱炭素化にむけたシステムとしての期待が高まっています。

蒸気用超音波流量計/EMSソリューションのイメージ

経済産業省によると「生産プロセスとエネルギー(熱、電気)/ユーティリティ(冷温水、圧縮空気等)の供給とを連携することで、工場・プラント内で最適なエネルギー管理が行われることが可能」とされています。

EMS(エネルギー管理システム)の意識調査結果のグラフ

EMS(エネルギー管理システム)について、本意識調査では「よく知っている」と回答したのは全体の12.8%、「ある程度知っている」が28.5%、「言葉を聞いたことがある」が28.8%となりました。「全く知らない」の回答は全体の29.9%という結果になりました。

化学業界のスマートファクトリー化と脱炭素化の今後

これらキーワードのうち、「デジタルツイン」と「ソフトセンサ―」については、各社実用化にむけて試行錯誤している段階で、広く普及するには解決すべき課題が多くあります。一方で、これら技術を先行して活用できた場合、先行者利益を享受できる可能性があります。

「スマート保安」や熱を含む「EMS(エネルギー管理システム)」は技術としては新しい技術ではありません。すでに実用化されているものですが、スマート保安やEMSで集めたビッグデータをAI・機械学習などの技術と組み合わせることで、いままで難しかった部分の生産性の向上や操業最適化などの実現が期待されます。

すべてのキーワード共通するのが「デジタル技術とデータの活用」です。言い換えれば、デジタル化、データの取得ができていないのであれば、スマートファクトリー化やカーボンニュートラルの実現が難しくなることを意味しています。

化学業界の現状と課題として主要なキーワードについて紹介しました。DXとカーボンニュートラルに関するソリューションや課題解決するための技術が今後増えていくことが予想されます。

コラム:遠隔作業支援技術による設備保全の効率化と人材不足対策

化学工業における設備保全は、人材不足や技術継承が課題となっています。遠隔作業支援技術は、人の作業を省力化し、技術継承に有効です。化学工場のスマート保安を実現するためには、IoT・AI技術の活用に加え遠隔作業支援技術を活用することが重要になります。