富士時報
第84巻第5号(2011年11月)

特集 エネルギー・環境分野に貢献するパワー半導体

特集 エネルギー・環境分野に貢献するパワー半導体

〔巻頭言〕中国における新しいエネルギー開発に貢献するパワーエレクトロニクス

黄 立培
清華大学教授 工学博士

パワー半導体の現状と展望

井出 哲雄 ・ 高橋 良和 ・ 藤平 龍彦

富士電機では、CO2削減などの地球環境保護や再生可能エネルギーの発展に貢献する“エネルギー・環境”分野を事業の柱としている。その中でも、特にパワーエレクトロニクスの基幹部品であるパワー半導体に力を入れており、低損失化・低ノイズ化・小型化・高信頼性化・低コスト化を目指して開発している。本稿では、アドバンストNPC回路用IGBT モジュールやHEV・EV用IGBTモジュールなどのパワーモジュール、SJ-MOSFET搭載のパワーディスクリート、擬似共振制御パワーICといったパワー半導体の、技術開発の現状と展望について述べる。

アドバンストNPC 回路用IGBT モジュールの系列化

小松 康佑 ・ 原田 孝仁 ・ 楠木 善之

アドバンストNPC(A-NPC:Advanced Neutral-Point-Clamped)インバータを実現するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールを開発し、系列化した。本製品は、A-NPC回路3相分とサーミスタを1パッケージに集約している。素子には、第6世代IGBT、FWD(Free Wheeling Diode)とRB-IGBT(Reverse Blocking IGBT)を採用して発生損失を最小化した。発生損失は、従来の2レベルインバータに比べて51%、NPC3レベルインバータに比べて33%低減できた。端子形状は、顧客のニーズに応じて2種類のピンから選択できる。

アドバンストNPC 変換器用RB-IGBT

中澤 治雄 ・ 脇本 博樹 ・ 荻野 正明

アドバンストNPC(A-NPC:Advanced Neutral-Point-Clamped)変換器に適用する1,200V RB-IGBT(Reverse- Blocking Insulated Gate Bipolar Transistor)を開発した。RB-IGBT は、深いp+分離層を必要とするが、新しいハイブリッド型分離層形成プロセスを考案して、容易に製作できるようにした。IGBTとダイオードを組み合わせる従来の方法に比べて、損失を大幅に低減することができる。このRB-IGBTを用いたA-NPCインバータの発生損失は、従来の2レベルインバータよりも31%、NPCインバータよりも15%低減できる。電力変換効率は98.57%である。

車載用直接水冷IGBTモジュール

日達 貴久 ・ 郷原 広道 ・ 長畦 文男

“ユーザシステムの小型化に貢献するIGBTモジュール”をコンセプトに、小型で熱抵抗の小さい直接水冷IGBTモジュールを開発している。水冷のためのフィン形状を最適化するために、熱流体シミュレーションを活用し、放熱性能や冷却液の流速・圧力損失において総合的に優れている角ピンフィンを選択した。さらに、最適化した流路でチップ温度を実測し、シミュレーションとの誤差は2% 程度であることから、シミュレーションの妥当性を確認した。これらの検討から、直接水冷IGBTモジュールは従来構造に比べ、熱抵抗は30%低減し、サイズは40%の小型化を実現できる。

3,300V IGBTモジュールを適用したマルチレベル方式風力発電システム

五十嵐 征輝 ・ 西村 孝司 ・ 柴 建云

風力発電システムは、種々の制約から洋上設置が主流となり、大容量化が進められている。富士電機では、中国の清華大学と共同でマルチレベル方式風力発電システムの研究を実施している。この方式は、発電機の2次巻線を多巻線として、コンバータモジュールを直列に接続して高電圧の出力電圧を得ることができる。3,300V IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールを実規模機に適用した結果、低損失化・高放熱設計・高信頼性と長寿命化を実現できることが確認できた。このモジュールをマルチレベル方式風力発電システムに適用することで、大容量化が実現できる。

大容量第6世代IGBTモジュールの系列拡大

山本 拓也 ・ 吉渡 新一 ・ 市川 裕章

富士電機は、拡大を続ける風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に適用するため、大容量IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの系列拡大を行っている。大容量IGBTモジュールは、第6世代「Vシリーズ」IGBTを搭載し、チップ最大接合温度175℃における動作を保証するとともに、業界最高水準の低オン電圧と低スイッチング損失を達成した。また、超音波端子接合技術や高信頼性鉛フリーはんだ材の適用など最新のパッケージ技術を適用し、従来より高い信頼性を確保した。

大容量「Vシリーズ」IPMの系列化

清水 直樹 ・ 唐澤 達也 ・ 高際 和美

富士電機は、多様化したニーズに応えるため「Vシリーズ」IPM(Intelligent Power Module)の大容量タイプを系列化した。本製品は、高性能最新世代IGBTチップと新制御ICの搭載、およびパッケージのインダクタンス低減により、トータル発生損失と放射ノイズの低減を実現し、かつ電流容量を拡大させた。さらに、パッケージにおいては、新はんだ材の採用とDCB(Direct Copper Bonding)の分割化によりΔTcパワーサイクル耐量を大幅に向上させた。また、端子とねじ穴位置の互換性を維持し、大きく変更することなく既存品との置き換えを可能とした。

第6世代1,700 V「Vシリーズ」IGBT

尾崎 大輔 ・ 小野澤 勇一 ・ 山崎 智幸

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いた大規模な発電設備の普及に伴い、高い信頼性と優れた特性を持つ高耐圧、大電流のIGBT モジュールが要求されている。そこで、マイクロpベース構造と、高耐圧用に最適化されたフィールドストップ構造を適用した第6世代1,700V「Vシリーズ」IGBTを開発した。従来の1,700V「Uシリーズ」IGBTと比較して、ターンオフ損失とオン電圧のトレードオフを0.2V 改善した。さらに、新開発のフィールドストップ構造によって熱暴走温度を高めることに成功し、その結果、チップ最大接合温度Tjmaxを175 ℃まで高めることが可能となった。

Si-IGBT・SiC-SBDハイブリッドモジュール

中沢 将剛 ・ 三柳 俊之 ・ 岩本 進

省エネルギーに貢献する高効率インバータに適用するため、Si-IGBT(Silicon-Insulated Gate Bipolar Transistor)とSiC-SBD(Silicon Carbide-Schottky Barrier Diode)を組み合わせた、Si-IGBT・SiC-SBDハイブリッドモジュールを開発した。SiC-SBDには独立行政法人産業技術総合研究所と共同開発したチップを、Si-IGBTは富士電機製の最新チップである第6世代「Vシリーズ」IGBT チップを用いている。製品系列は600V系列50A、75A、100A定格品、1,200V系列で35A、50A定格品である。1,200V 50A定格品において従来品に対し約23%の発生損失低減を実現した。

SiCパワーモジュールのパッケージ技術

堀尾 真史 ・ 飯塚 祐二 ・ 池田 良成

次世代半導体デバイスとして、SiC(炭化けい素)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップデバイスが注目されている。富士電機は、SiCデバイスの特長を最大限引き出すことのできる新しいパッケージ技術を開発している。現在主流であるアルミワイヤボンディング・はんだ接合・シリコーンゲル封止構造を、銅ピン接続・銀焼結材接合・エポキシ樹脂封止構造に置き換え、パワーモジュールの小型化・低熱抵抗・高温駆動・高信頼性を実現した。この新しい構造によるAll-SiCモジュールとSiCダイオードモジュールを試作し、特性改善を評価した。

低損失SJ-MOSFET「Super-JMOS」

田村 隆博 ・ 澤田 睦美 ・ 島藤 貴行

SJ(超接合:Superjunction)-MOSFETの表面構造を最適化することにより、スイッチング損失を低減した「Super-JMOS」を開発した。素子の低損失化のため、ゲート長とチャネル濃度を調整してゲート・ドレイン容量としきい値電圧を最適化し、ターンオフ損失を低減した。定格600V/20A/0.19Ωの素子において、ターンオフdV/dt=10kV/μsでのターンオフ損失は160μJとなり、極めて高水準な値を実現した。素子の電源効率を評価した結果は94%以上となり、80PLUS認証を満たす高効率動作が可能である。

宇宙用pチャネルパワーMOSFET

井上 正範 ・ 北村 明夫 ・ 立道 秀平

宇宙用パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect-Transistor)の製品群に、新たにpチャネルパワーMOSFET 系列を追加した。既に製品化しているnチャネルパワーMOSFETと合わせて用途に応じて使い分けることで部品点数を削減でき、システム全体としての信頼性の向上が可能である。nチャネルパワーMOSFETと同様に擬平面接合技術を用い、ドリフト層の比抵抗を低くすることでオン抵抗を抑えた。また、全ての拡散層形成後にゲート酸化膜を形成する低温プロセスを適用し、TID(Total Ionizing Dose)耐量を確保した。

第4世代擬似共振制御IC「FA5640 シリーズ」

丸山 宏志 ・ 陳 健 ・ 山田谷 政幸

液晶TVの電源制御ICとして、低スタンバイ電力化と音鳴り防止を両立した第4世代擬似共振制御IC「FA5640シリー ズ」を開発した。スイッチング周波数を調整するボトムスキップ機能に乱れがあると音鳴りとなるため、軽負荷時に負荷レベルの検出にヒステリシスを付けることで安定化させ、音鳴りを防止している。さらに負荷の軽いスタンバイ時はバースト動作となるが、音鳴りしない小さな電力以下でバースト動作を行うように最適化し、外部調整回路が不要で使いやすい製品となっている。

解説

3レベルインバータ技術,ミラー期間

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