富士時報
第85巻第3号(2012年5月)

特集 パワーエレクトロニクス機器

特集 パワーエレクトロニクス機器

〔特集に寄せて〕Power Electronics
- A Key Enabling Technology for Modern Society
パワーエレクトロニクス -- 現代社会の鍵となる実現技術 --

Rik W. De Doncker
Professor, RWTH Aachen University
Institute for Power Electronics and Electrical Drives
Institute for Power Generation and Storage Systems, E.ON ERC

パワーエレクトロニクス機器技術の現状と展望

河野 正志 ・ 廣瀬  順 ・ 藍原 隆司

富士電機は、エネルギー分野で世の中に貢献するために電気を自在に操るパワーエレクトロニクス(パワエレ)に注力している。パワエレ機器は、回路技術・制御システム・パワー半導体をベース技術としてさまざまな分野で発展を遂げている。インバータでは、機能安全規格対応をはじめ、EMC 解析技術、高速同期通信技術などを適用した。UPS では、ニッケル水素電池の搭載やA-NPC3 レベル変換技術を適用した。このほか、鉄道車両用や電気自動車用のパワエレ機器、高効率サーバ用電源および大容量PCS など、多岐にわたってパワエレ技術を展開し、安全化・小型・省エネ化などの要求に応えている。

汎用インバータ・サーボシステムの最新技術

酒井 利明 ・ 井本 博幸

汎用インバータは、搬送装置、空調装置および工作機械など幅広い産業分野に適用されている。同期ドライブシステムではオートチューニングやベクトル制御を用いたシステム構築の容易性を実現し、空調専用インバータでは温度差一定制御と推定末端圧制御の機能で省エネや電力削減を実施し、高性能ベクトル制御形インバータでは高速・多軸制御への適用範囲拡大などの要求に応えた新たな製品をラインアップした。サーボシステムでは、用途別オートチューニングによる最適調整の実現や旧型機種からの置換え手段の充実、ならびに使いやすさを考慮したパッケージの製品化など新たな製品を開発した。

高性能ベクトル制御形インバータ「FRENIC-VG」

田中 正男 ・ 山本 健 ・ 木内 忠昭

一般産業用途の交流機の可変速制御を行うインバータは、主に、V/f一定制御、ベクトル制御のいずれかを採用している。富士電機は、新たに高性能ベクトル制御形インバータ「FRENIC-VG」を開発し、高精度化と高機能化を実現するとともに機能安全規格にも対応した。検出回路の最適化、速度制御精度の改善、速度センサレスベクトル制御、多重化システムの採用、「E-SXバス」への接続などさまざまな特徴を持っている。また、適用事例として、伸線機では最適な張力制御や巻取機の制御回路の小型化ができ、クレーンでは大容量対応や高起動トルク、応荷重制御などができる。

高効率IPM モータ「GNS シリーズ」「GNP シリーズ」

廣瀬 英男 ・ 中園 仁

近年、地球規模で資源需要の急増とエネルギー使用量の削減が問題となっている。富士電機はそれらの問題を解決するために発生損失の低減を極限まで追求した高効率IPM モータ「GNS シリーズ」「GNP シリーズ」を開発した。
電動機の高効率化に加え、インバータなどのパワーエレクトロニクス機器との組合せによる回転速度制御の実施により、ファン・ポンプ用途において大幅な電力消費量が削減できる。また、既に使用している電動機からの置換えのしやすさや軸受交換のしやすさも考慮しており、省エネルギー関連の需要を喚起している。

水冷大容量高圧インバータ「FRENIC4800VM5」

木谷 昌史 ・ 花澤 昌彦 ・ 安達 昭夫

鉄鋼・非鉄圧延主機や、大型ブロワ・コンプレッサなどの駆動用として使用される高圧インバータは、設備の大規模化に伴い、大容量化と盤寸法の小型化が要求されている。富士電機では、それらの要求に対応するため水冷技術と小型化技術を研究している。解析と実験での検討を積み重ねて、水冷技術による冷却性能と信頼性の向上を図り、水冷大容量高圧インバータ「FRENIC4800VM5」を製品化した。当社従来比2.4 倍の大容量出力と、当社従来比1/3 のコンパクトな盤外形寸法を実現している。

電気自動車用急速充電器「FRCM シリーズ」

川浦 正人 ・ 畠中 伸治 ・ 守山 亨

電気自動車の発売が相次ぎ、国内では急速充電スポットの設置が加速している。富士電機は、汎用インバータを応用した急速充電器を開発し、市場へ参入した。今回、フロントエンド電源をベースに、電気自動車用急速充電器「FRCM シリーズ」を開発した。電源ユニットは、高周波絶縁タイプであり、高調波の問題を解決している。充電器盤は、質量210 kg と 軽量で、奥行きは一般的な自動販売機と同じ480 mm の薄形構造である。パネルは、ユニバーサルデザインによる設計で使いやすさを追求するとともに、非常時はハードウェアシーケンスで入力と出力の二重遮断を行う安全設計を取り入れている。

鉄道車両用パワーエレクトロニクス機器

梅澤 幸太郎

鉄道車両はエネルギー効率が高く、地球環境にやさしい、大量・高速・安全かつ経済的な輸送手段として世界的に注目を集めている。富士電機は、省エネルギーと環境の市場ニーズを先取りし、最新のパワーエレクトロニクス技術を適用した鉄道車両用電機品として、新幹線などの車両用プロパルジョンシステム(駆動システム)、補助電源装置、側引戸用戸閉装置などのドアシステムを国内および海外市場に提供している。また、北米、アジアなどの海外市場への展開を積極的に進め、海外規格や現地生産への対応を進めている。

80 PLUS 適合の高効率フロントエンド電源

軽部 邦彦 ・ 多和田 信幸 ・ 中原 智喜

交流電源から直流電源に変換するスイッチング電源は、多くの電子機器に搭載され、電子機器の進歩とともにその市場は拡大している。富士電機は、小型、高効率、高品質が要求される情報通信関連のフロントエンド電源を含むスイッチング電源の開発・製品化を行い、80 PLUS プログラムが推進する電源の高効率化に注力している。5 機種が“Gold”ランクに、1機種が“Platinum”ランクに適合している。最新の半導体素子の適用によりさらなる電源の効率向上、高電力密度化を進め、新たに設定された“Titanium”ランクへの適合も進めている。

UPS 用電源管理プラットフォーム「FCPOP」

岩井 一博 ・ 木村 照道

富士電機では幅広い製品群のUPS をそろえており、中大容量UPS からミニUPSまでを対象に統一した電源管理システムを提供する必要がある。そこで、UPS用電源管理プラットフォーム「FCPOP」を構築し、これを基盤として各UPS に対応する部分を積み上げるという新たな構成の電源管理システムを開発した。電源管理システムは、UPS 監視ソフトウェア、 統合電源管理ソフトウェア、ネットワークインタフェースカード、シャットダウンソフトウェアなどから構成され、ユーザに統一した製品思想と操作性を提供できる。

UPS における新型電池の評価・適用技術

中澤 浩志 ・ 濵田 一平

富士電機は、環境に配慮し、環境規制物質を使用した鉛蓄電池に替わる新型電池を搭載したUPS の開発を行っている。また、蓄電デバイスの開発も行っており、電気自動車やハイブリッド自動車へ搭載されているリチウムイオン電池の適用技術を、電池メーカーとの共同で検証している。新型電池として国内でも注目されているオリビン型りん酸鉄リチウムイオン電池の評価を行い、UPSへの搭載を検討した。また、同様の評価方法のマンガン酸リチウムイオン電池を搭載したUPS を製品化した。

データセンター向けニッケル水素電池搭載ミニUPS「LX シリーズ」

大島 雅文 ・ 森藤 裕治郎 ・ 椎名 啓順

データセンターでは、電力使用効率を上げるため冷房設備の電力使用量を減らし、外気温度による冷却方式が採用されつつある。そのため、内部で使用する機器には高温度環境化での長寿命の要求が高まっている。富士電機は、データセンター向けにニッケル水素電池を採用したミニUPS「LX シリーズ」を開発し、製品化した。富士電機独自のデュアルコンバージョン方式を適用し、高温環境下におけるバッテリの長寿命化、装置の小型化ならびに高周波PWM 制御による高性能化を実現している。豊富なオプション群をそろえ、RoHS指令にも対応している。

メガソーラー向け屋外設置型高効率PCS「PVI1000」

藤井 幹介 ・ 藤倉 政信 ・ 菊池 貴之

太陽光発電の市場は、家庭用の小規模発電からメガソーラーといった大規模発電に拡大している。富士電機では、メガソーラー向けに最適な単機1 MW のパワーコンディショナ(PCS)を開発した。このPCS は、A-NPC 3 レベルIGBT モジュールを適用することにより、世界最高レベルの効率を実現している。また、高圧トランスとPCS を同一ベース上に一体化させたサブステーションタイプにしているため、設置コストを低減することができる。さらに、系統時の運転継続機能およびユニット並列冗長により、信頼性の高い太陽光発電が実現できる。

データセンター向けA-NPC 3 レベル適用大容量高効率UPS 「UPS 7000HX シリーズ」

山方 義彦 ・ 川崎 大介 ・ 高橋 昇

近年、ICTがますます発展する中、データセンターに代表されるビル市場では環境性能や経済性が重視され、その電源設備に対しては“高効率・高信頼・省スペース”の要求が高まっている。これに応えるため、大容量高効率UPS「UPS7000HXシリーズ」(400 V 系500 kVA 機)を開発した。最大効率97% の高効率であり、設置面積は従来機比で30% 低減している。また、並列運転による安定した電力の供給が可能である。これらを実現するため、電力変換回路の構成を3 レベ ルとし、スイッチング素子には富士電機が開発したRB-IGBT による3 レベル専用モジュールを使用した。

SiC デバイス搭載のパワーエレクトロニクス機器

松本 康 ・ 近藤 靖 ・ 木村 浩

パワーエレクトロニクス機器の革新的な小型、軽量、低損失化を実現するためには、SiC(炭化けい素)やGaN(窒化ガリウム)などワイドバンドギャップの材料を使用したパワー半導体の適用が有効である。汎用インバータにSi-IGBT・SiC-SBD半導体を用いたハイブリッドモジュールを搭載することで、インバータ部の損失を25% 低減することが可能である。また、太陽光発電用パワーコンディショナにAll-SiCモジュールを搭載することで、主回路部の効率を99% に高めるとともに、装置全体の体積を従来機比で4 分の1 と大幅な小型化が実現できることを実証した。

解説

80 PLUS、 電池容量と放電レート・充電レート、 PUE、 MPPT

略語・商標

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