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会長CEOメッセージ

新たな100年に向けて

 2023年9月に創立100周年を迎え、2024年度は新たな100年に向けたスタートの年となります。富士電機は、地球社会の良き企業市民として、地域、顧客、パートナーとの信頼関係を深め、豊かさへの貢献、創造への挑戦、自然との調和を使命とすることを経営理念とし、エネルギー・環境事業で社会に貢献することを経営方針の柱に掲げています。その姿勢はこれからも変わりません。
 富士電機は1923年(大正12年)の創業以来、エネルギー・環境技術を徹底的に磨いて進化させ、業界トップレベルの電力変換効率を実現するパワー半導体とパワーエレクトロニクスを強みとして、産業・社会インフラ分野で、クリーンなエネルギー、エネルギーの安定供給、省エネ、自動化に貢献する製品をお客様に提供し続けてきました。
 現在、グローバルで脱炭素化に向けたさまざまな挑戦が進行しています。エネルギー・環境分野のコア技術・製品を有する当社にとって、持続可能な社会の実現への貢献は、私たちの使命であります。変化し続ける社会に対し、多様な業種のお客様とともに課題解決に向けて挑み続け、SDGsの発展、サステナブルな社会の実現に向けて取り組んでまいります。

2023年度中期経営計画の達成は社員のチーム力

 2023年度を最終年度とする5カ年の中期経営計画「令和.Prosperity2023」は、経営目標に売上高1兆円、営業利益率8%以上を掲げ、エネルギー・環境事業で繁栄(Prosperity)を目指すという思いで2019年度にスタートしました。当社を取り巻く環境は、この5年間で、過去に経験のない事態に遭遇し目まぐるしく変化しました。米中貿易摩擦、新型コロナウイルス感染症拡大、ロシアのウクライナ侵攻、さらに異常気象の拡大などです。これらが複合的に影響して、素材価格や動力費の高騰、部材調達難によるサプライチェーンの混乱などを引き起こしました。こうした経営の危機的な状況にあっても業績への影響を軽微に止めることができたのは、10余年にわたり取り組んできた、チーム力、ものつくり力の強化に負うところが大きいと考えています。また、ピンチの中でもチャンスに備え、成長分野であるエネルギー、インダストリー、半導体の将来の需要伸長を想定し、設備投資、研究開発費の投入を止めることなく継続して実行してきました。このことが、市場の変化に適応し、事業機会を逸することなく業績拡大につなげられたと考えています。
 エネルギー、インダストリーの受注強化に向けて、営業体制を刷新して事業本部と一体化した拡大に取り組みました。 デジタル化の進展を背景にデータセンター・半導体工場向けの需要が国内、アジアで伸長し、電気設備まるごとビジネスの2023年度売上高は2018年度比で倍増しました。海外においては、M&Aを通じてインドで地産地消の基盤を立ち上げ、インドの2023年度売上高は2018年度比で約5倍となりました。パワー半導体は、自動車の電動化が想定以上に伸長する中、前倒しで生産能力を増強し、撤退したディスク媒体の生産ラインをパワー半導体用に転用するなどの投資額の抑制を図り、追加投資も行いました。前工程シリコン(Si)8インチの2023年度生産能力は2018年度比5倍強になり、半導体の2023年度売上高は2018年度比で約倍増となりました。
 その結果、2023年度には売上高1兆1,032億円、営業利益1,061億円(利益率9.6%)、当期純利益754億円と、すべてにおいて過去最高を更新し、創立100周年という節目に大きな峠を越えることができました。さらに初めて時価総額1兆円超となったことは、当社のこれまでの取り組み成果と存在意義が株式市場に評価され、更なる成長への期待が高まっていると受け止めています。

富士電機は何が変わったのか

 富士電機の利益体質が強くなったこと、すなわち、当社の経営は、何が変わったのか、何を変えたのかを振り返ってみます。
 変えたことは、社員の当社への求心力を高め、潜在力を発揮する環境を作ったことです。そのためには経営を変えなくてはならない。経営の意思決定をスピーディーに行い、しかも組織に周知徹底するため、執行役員を53名から18名に減らし、かつ、執行役員は組織の基礎を構成する本部長・室長を原則として配置しました。次に、事業ドメインを「エネルギー・環境」、コアコンピタンスを「パワーエレクトロニクス」とし、強みを明確にしました。経営の大きな目標、目指す姿を経営方針に反映するとともに、中期的な目標を明確にし、グループ会社全体で共有しました。売上高1兆円を目指す「Dream1」、営業利益 率7%を目指す「Pro-7」活動は、その最たるものです。
 経営の実行にあたっては、経営の軸はぶれずに目標はシンプルにし全社員が自分ごととして受け止められることを、意識して取り組んできました。目標は達成するもの、これを社員に直接、訴え続け、意識改革を図りました。経営スローガン「熱く、高く、そして優しく」を繰り返し社員に説き、業績の結果は、処遇に反映させることを宣言し、社員に対峙してきました。
 こうした取り組みを継続することで、大きく変わったのは、「社員の意識」、目標を達成することで、社員・組織の自信になっていきました。もう一つは、「ものつくり力=工場の利益を生み出す力」です。利益の源泉は工場にあります。内製化、自働化、標準化、生産技術力、すべてが利益に直結します。10余年の積み重ねの結果だと考えています。

中期経営計画「熱く、高く、そして優しく2026」

 2024年5月に2026年度を最終年度とする3カ年の中期経営計画「熱く、高く、そして優しく2026」を発表しました。宿願の売上高1兆円、営業利益率8%以上を達成した今だからこそ、改めて経営の原点に立ち返り、サステナビリティ経営を追求していかなければならないと考えました。熱い気持ち、高い目標は、私たち自身との闘いでもあります。長い歴史の中で磨き上げてきた「パワーエレクトロニクス」を強みとして「エネルギー・環境事業」で、経営の柱となる第5の事業をつくり、世界の富士電機を目指します。その実現には、お客様、お取引先様、株主・投資家などステークホルダーの皆様から信頼される企業であり続けることが不可欠です。今の富士電機をベンチマークとして、社会の変化に照らしてどうあるべきかを考え、さらに究めることと変えることを明確にし、進化し続けます。

利益重視経営の継続と成長戦略の推進

 2026年度中期経営計画の目標には、これまでの売上高、営業利益(率)、ROEに純利益(率)とROICを加え、利益重視の経営をより明確にしました。収益力を強化するための成長戦略の核となるのは、これまで強化してきた、クリーンなエネルギーの創出、エネルギーの安定化、省エネ・自動化・電化の領域です。お客様のニーズも絶えず変化しています。キーデバイスのパワー半導体に、その適用製品のコンポーネント、それを組み合わせたシステムというビジネスモデルをさらに進化させていきます。とりわけ、当社の強みを活かせる「まるごとビジネス」は、お客様との信頼関係の基に成り立つものです。お客様とお取引先様、そして当社の3者のWIN-WINの関係構築が、中長期の成長、持続性、ひいては社会への貢献になるものと確信しています。
 この3カ年では、設備投資として約2,500億円を投じる計画です。既存事業の収益性を高めてキャッシュを生み出し、そのキャッシュを成長分野および将来の当社の柱となる事業創出に向けた投資に振り向けていきます。半導体には、シリコン・カーバイド(SiC)の生産能力増強を中心にして1,800億円を計画しています。市場動向を見極め、投資のタイミングを見誤ることなく実行していきます。
研究開発、調達・ものつくり、事業部門などが横断的に一体となって新製品・新事業を生み出し、持続的な成長企業としての基盤を確かなものにしていきます。
 生産物量が増大する中で収益力を高めるには、生産性の向上が重要課題です。デジタル・AIの活用による仕組み・基盤を構築していきます。さらに、前中期経営計画においても資本コストを意識した事業運営を行っていましたが、セグメントのROICは10%をハードルレートとして、強固な事業ポートフォリオにより利益拡大を図ります。成長性と財務健全性の両立を維持しながら、株主の皆様への配当性向は30%を目安とし、安定的・継続的に還元いたします。
 成長戦略の推進においては、日本市場での投資拡大の機会を着実に受注につなげると同時に、成長著しいインドや東南アジアを中心に、エネルギー、インダストリーの事業を拡大させます。M&Aも選択肢として持ち、地設・地産地消の更なる拡大、グローバル製品の投入を進め、海外事業の拡大を図ります。

サステナビリティ経営の推進

 持続的な企業価値の向上には、経営理念・経営方針に沿ってたゆまぬ努力を続けること、その上で、2026年度中期経営計画で掲げた「環境ビジョン2050の推進」、「ウェルビーイングの実現」、「ガバナンスの更なる強化」の取り組みは不可欠です。
 世界はグリーン社会への移行に向け、その取り組みは加速してきていますが、ゴールに至るには紆余曲折があることは明らかです。サプライチェーン全体で脱炭素化を推し進めるためには、ステークホルダーとの相互理解のもとで、いろいろな選択肢を持つことが必要です。限りある資源を有効に活用するサーキュラーエコノミー(循環経済)視点を重要課題ととらえ、お客様の設備やビジネスモデルにおけるCO2削減に貢献する新製品の開発や新事業の立ち上げに経営資源を注いでいきます。その具体化には、お取引先様との相互協力のもと、欧州から進むエコデザイン規制に対応し、グリーンサプライチェーンの構築を目指します。
 人財は企業価値向上の源泉です。私は、企業の成長には、「従業員ファースト」という経営者の揺るぎない姿勢が欠かせないと考えています。その従業員ファーストに、社員のウェルビーイングという視点を加え、社員の成長、会社の繁栄、社員・株主・社会への還元、というトライアングルの好循環をさら に発展させていきたいと考えています。
 国内では、今後、労働力不足や労働のミスマッチへの対応が重要課題となります。人財の確保には、富士電機の魅力度を高めること、そして、その魅力を知ってもらうことが必要です。そのためにも、社員がいきいきと働く会社であり、職場でなくてはなりません。多様性を重視し、社員の活躍を後押しす る制度・運営の充実を図ります。事業ニーズに応じた公募制度の活性化、社員の働きがいとキャリア形成の向上に資する人事処遇制度の刷新やリスキリングを重要課題として推進します。女性役職者数の拡大に引き続き取り組むとともに、シニア社員の働き方と処遇の見直しを行います。一方、グローバル では、コロナ禍で停滞したグローバル人財の育成を再活性化させ、現地オペレーションの自立化に向けた経営人財育成、報酬制度構築に着手します。
 「ガバナンスの更なる強化」として、海外子会社を含むグループ全体でのコンプライアンス、リスクマネジメントに注力していきます。事業の推進にESG視点を組み込み、グループ全体のサポートを通じて、透明性と実効性のあるガバナンスを推進していきます。株式市場において、PERに加えPBRが重視さ れるようになる中で、当社の時価総額は1兆円超えとなりました。今回、取締役の報酬について、株式価値との連動性をより明確にした業績連動型株式報酬制度を導入しました。株式価値に対する意識をより高め、株主の期待に応える経営を目指します。

富士電機のDNA

 経営スローガン「熱く、高く、そして優しく」は社員に大切に引き継いでもらいたい当社のDNAです。「熱く」は新しい技術・製品を開発し、世の中に貢献するという熱い気持ち。「高く」は高い目標を持ち、チームで共有する。「優しく」は、これこそが諸先輩方が築き上げてきた富士電機のDNAであり、お 客様、仲間、家族に対する優しさや感謝の気持ち。これがあって初めてチームは強くなります。高い志・目標を持ち続けるには、リーダー自身がその姿勢を保ち続け、大きな目標を常にチームで共有することが必要です。エネルギー・環境事業を、お客様、お取引先様とともに進化させ、社会・環境課題の解 決、お客様価値の創造に貢献し、持続的に企業価値向上を図ってまいります。株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆様におかれましては、今後も一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

代表取締役会長CEO

2024年9月

注:本ページは富士電機レポート2024の会長CEOメッセージを掲載しています。