富士電機技報
第95巻第1号(2022年7月)

特集
電力安定供給と省エネルギーに貢献する電源システム

特集 電力安定供給と省エネルギーに貢献する電源システム

企画意図

再生可能エネルギーの利用拡大などによるエネルギー需給環境の変化、ならびにデジタル化の進展による社会インフラや産業システムの高度化に伴い、電力の安定供給や工場・施設における設備の安定稼働のニーズがさらに高まっています。また、国際的に取組み強化が進む環境対応、機器の小型化などのニーズも同様に高まっています。
本特集では、これらのニーズに応えて富士電機が展開している、設備の安定稼働や環境対応(省エネルギー、環境負荷低減)、機器の小型化に貢献する強いコンポーネント(機器)およびシステムを支える技術について紹介します。

〔特集に寄せて〕電力の安定供給の変遷と挑戦

三谷 康範
九州工業大学 学長 工学博士

〔現状と展望〕電力安定供給と省エネルギーに貢献する電源システムの現状と展望

河野 正志 ・ 松本  康

富士電機は、電力安定供給、設備安定稼働、省エネルギーに貢献する機器およびシステムを提供している。データセンターの電源システムについては、多くの納入経験を生かし、特高受変電設備、非常用発電設備、変電設備、UPSシステムを含めた「電気設備まるごと提案」を推進している。また、電力安定供給に向けて、地域マイクログリッド技術の開発と展開、高電圧・大容量の変圧器やガス絶縁開閉装置(GIS)の開発、産業用電源として変圧整流装置の開発とともに電源システムとしての課題解決にも取り組んでいる。

データセンターの電力安定供給に貢献する大容量無停電電源システム

濵田 一平

近年、情報システムのクラウド化や電子商取引の増加に伴い、世界中で大規模なデータセンター(DC)の新設が進んでいる。このDCに安定した電力を供給するための大容量無停電電源システムの需要が高まっている。富士電機は、電源システムに関連する電気設備を製品ラインアップし、給電信頼性および経済性を高める「電気設備まるごと提案」を推進している。電源システムの主要装置である無停電電源装置(UPS)の小型化によるUPSシステムの設置面積の削減や、I/O-Mの機能を周辺盤に移管することによる設置工事期間の短縮化、HEモードによる省エネルギー化を実現した。

冗長性および保守性を高めた電源システムの構築技術

安本 浩二 ・ 根本 健司 ・ 北谷 裕次

データセンター(DC)の大規模化に伴い無停電電源装置(UPS)の容量拡大が進んでいる。UPSを用いた電源システム では、保守時における冗長性確保や誤操作防止をはじめ、電源切換時や大容量変圧器投入時の電圧変動の抑制が課題である。
冗長性および保守性を高めた電源システムの構築を行うために、N+2冗長システムで冗長性を確保し、回転制御キースイッチを用いたシーケンス回路により、電源切換時の誤操作を防止する。また、電源切換時の遮断器の順次投入や、2並列の高圧変圧器を大容量化した1台にすることで、電圧変動の要因となる励磁突入電流を抑制できる。

電力の安定供給に貢献するデータセンター向け電源切換盤

村津 宏樹 ・ 若林 郁也 ・ 徳田  剛

情報システムのクラウド化や電子商取引の増加に伴い、サーバなどの情報機器への電力の安定供給のニーズが高まっている。電源システムの冗長構成の一つである2N(二重化)システムにおいて、電源系統の切換えに必要な電源切換盤を開発した。切換えの高速化と、低損失・小型化を実現するため、機械式スイッチと半導体スイッチを併用したハイブリッド型切換器を採用した。また、保守バイパス用のブレーカの内蔵や、主要機器の冗長化、UPS同期機能による切換時の負荷への影響低減などにより、電源システムの信頼性を向上することで、電力の安定供給に貢献する。

省エネルギー・小型化のニーズに対応する矩形大容量5脚モルトラ

永露 友宏 ・ 宮田 智一

カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現に向けて、電気設備に対してはエネルギー効率の向上による温室効果ガスの排出量低減が求められている。近年、データセンター(DC)や半導体工場では、電力需要の高まりを受け、モールド変圧器の大容量化が進んでいるとともに、機器の小型化も求められている。これに応えるため富士電機は、矩形(くけい)大容量5脚モルトラ「V-ECO MOLTRA」を開発した。このモルトラは、鉄心とコイルを矩形状にした5脚巻鉄心を採用している。これにより、従来品同等の省エネルギー性能および設置面積を維持しつつ、高さ寸法15%の縮小を実現した。

JAXA種子島宇宙センターの電力安定供給に貢献する大型蓄電池制御システム

荒井  広 ・ 原  篤史

JAXA種子島宇宙センターには、ロケット発射場として、電力供給のさらなる信頼性、電力品質の向上、経済性が求められている。富士電機は、これらのニーズに応えるため、大容量NAS電池に組み合わせ、既存の発電機の運転状況によって充放電を行う大型蓄電池制御システムを納入した。これにより、発電機故障時でも蓄電池のバックアップ機能で電源冗長性の維持を図り、電力供給の信頼性を高めた。負荷変動は蓄電池の充放電で緩和させ、電源周波数の安定化と電力品質の向上を図った。発電機負荷率を高効率領域にする蓄電池充放電により、燃料削減につながる経済的な発電機運転を実現した。

鉄道の安全・安定輸送に貢献する電力管理システム

植草 秀明 ・ 山地 智文 ・ 白倉 善積

変電所やき電区分所から電車・駅に電力を供給するために、電力系統を集中管理する電力管理システムには、安定した電力を継続的に供給するという役割に加え、変電所などの系統運用や保守運用を効率化する機能が求められている。
富士電機は、こうした顧客ニーズに対応した電力管理システムを提供することにより、故障復旧機能などを充実させるとともに画面表示の視認性の向上やシステムのコンパクト化を実現し、鉄道の安全・安定輸送に貢献している。

素材製造設備の安定稼働に貢献する産業用電源

渡部 幸平 ・ 岡崎 洋平 ・ 浅田 雅人

素材製造設備にはその用途に応じてさまざまな産業用電源が使用されている。中でも、アルミニウム製錬に使用される変圧整流装置は1台当たり数百MVAを超える大容量であり、それに起因する特有の課題がある。こうした課題解決のため、各種シミュレーションや高調波系統解析を活用した最適設計を進めた。その結果、各種解析精度の向上や材料の最適化による変圧整流装置の小型化や信頼性の向上、整流器内での短絡事故シミュレーションによる事故時の安全性確認、変圧整流装置から発生する高調波の解析による電源システム全体の電源品質低下防止などを実現した。

リプレース対応の強化と安定稼働性を向上した中容量無停電電源装置

川崎 大介 ・ 附田 原大 ・ 筒井 重男

停電や電源トラブル時の給電継続のため、工場や放送設備向けの中容量無停電電源装置(UPS)は需要が高まっている。各負荷設備の仕様に対応するため、中容量UPSは多様な製品ラインアップが求められる。また、設備更新ニーズへの柔軟な対応や、安定稼働を実現する予知保全も望まれている。富士電機が新たに開発した中容量UPS「FXシリーズ」は、設置面積削減やバッテリ適用電圧範囲の拡大により、リプレースにおける多様なニーズに対応が可能である。また、異常兆候検知機能による部品故障診断で、劣化が進んだ部品を故障前に交換でき、安定稼働性を向上させた。

環境負荷低減に貢献するパームヤシ脂肪酸エステル変圧器

彦坂 知行 ・ 千葉公一郎

油入変圧器の絶縁油に用いられてきた鉱油は、廃棄時のCO2漏油時の環境汚染といった問題がある。また、植物系の絶縁油は冷却効果や酸化安定性などに課題があった。富士電機はライオン株式会社と共同で、パームヤシ油をエステル化・蒸留・精製処理を行うことで、低動粘度・高酸化安定性を持つパームヤシ脂肪酸エステル(PFAE)を開発した。さらに、PFAE を用いたパームヤシ脂肪酸エステル変圧器を開発し、優れた絶縁・冷却・長期安定性を確認した。PFAEは、廃棄処理時も特別な処理が不要で再利用でき、土壌に漏油した場合も微生物による生分解により環境への影響を小さくできる。

新製品紹介

小型汎用自動販売機「マルチ君」

大坪 智憲 ・ 中西 寿一

新型コロナウイルスの感染を防ぎたいという社会的な要望が高まる中、非対面で商品を購入できる自動販売機のニーズが高まっている。また、都市部の小売店などでは、店頭などの限られたスペースで、店舗の営業時間外でも販売機会を増やしたいという要望が増えている。こうした中で富士電機は、省スペースで屋外設置可能な小型汎用自動販売機「マルチ君」を開発し、発売した。

略語・商標

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