富士電機技報
第95巻第3号(2023年2月)

特集
新しい価値を創造する富士電機の食品流通

特集 新しい価値を創造する富士電機の食品流通

企画意図

自動販売機は、飲料メーカーの売上拡大の一翼を担うまでに成長してきました。また、売り場に設置される店舗流通関連の製品は 、店舗の省エネルギーや業務の効率化に貢献してきました。昨今のSDGs やカーボンニュートラルの実現に向けた世界的な環境保護の流れ、さらには人口減少やコロナ禍などによるライフスタイルや働き方などの社会環境の変化は、ビジネスのありように大きく影響を与えています。富士電機は、これらの変化に対応するとともに、お客さまの求める一歩先を見据えた新しい価値を創造できる製品および技術を提供していきます。本特集では、自動販売機や店舗流通関連の製品だけでなく、コア技術である冷熱技術やIoT をはじめとした新しい価値を創造する技術について紹介します。

〔特集に寄せて〕熱のデジタルトランスフォーメーション実現に向けて

齋藤  潔
早稲田大学 持続的環境エネルギー社会共創研究機構 機構長
基幹理工学部 機械科学・航空宇宙学科 教授

〔現状と展望〕新しい価値を創造する富士電機の食品流通の現状と展望

石橋 剛信

SDGsの達成やカーボンニュートラルの実現に向けた世界的な環境保護の流れをはじめ、人口減少やコロナ禍などの社会環境の変化により、企業には環境保護や社会貢献が強く求められるようになっている。富士電機は、食品流通分野の市場変化に対応する技術の獲得に取り組み、新技術や新製品など新しい価値の創造を続けている。飲料自動販売機においては、庫外間ヒートポンプを不要とする独自のヒートポンプ技術を開発し、省エネルギー(省エネ)を実現した。ショーケースにおいては、電子膨脹弁を用いた冷凍装置の制御システムを開発し、省エネを実現した。店舗における省エネ施策においては、冷凍冷蔵設備や空調だけでなく外気導入の利用も検討し、省エネと快適性の両立する店舗対応省エネシステムを考案した。

自動販売機運用サービスの拡充

田中 誠一 ・ 柳川 弘行 ・ 水野 健太

自動販売機を運用する事業にて労働環境の改善や食品ロス削減など、SDGs に貢献する取組みが求められている。富士電機は、自動販売機の運用効率を改善する“自動販売機運用サービス”を展開しており、今回新たな機能を開発した。設定ルールに合わせて商品販売価格を変更する“ダイナミックプライシング”、自動販売機のリモコン操作を簡便化する“スマホリモコン”、ならびにQR コード決済を安価に導入可能な“新QR コード決済”である。これにより、オペレーションの作業時間の20% 削減をはじめとする容易な運用環境の構築、自動販売機の売上げの向上が期待できる。

飲料自動販売機のヒートポンプ適用技術

渡辺 忠男 ・ 河野  周

利便性が高く広く普及している飲料自動販売機は、エネルギー効率の向上が求められている。富士電機は、庫内間ヒートポンプの運転拡大とエネルギー効率の向上となる飲料自動販売機のヒートポンプ適用技術を開発した。目標の蒸発温度を維持するように電子膨張弁を用いて冷媒の膨張量をきめ細かく制御し、蒸発温度による負荷調整運転を行うことで、庫内間ヒートポンプの運転調整範囲を拡大した。凝縮温度は、PID 制御で目標値に合わせた運転を行った。この結果、庫内間ヒートポンプのみの運転を実現し、約4% の省エネルギーを達成した。

冷凍自動販売機「FROZEN STATION」

福田 勝彦 ・ 岩子  努 ・ 中西 寿一

近年の生活様式の変化により中食市場が急成長しており、中でも冷凍食品は冷凍技術の進展による味の向上と、食品ロス問題への解決手段としての期待からニーズが高まりつつある。今回さまざまなロケーションにおいて、店舗の商品を非対面かつ24 時間販売可能な冷凍自動販売機「FROZEN STATION」を開発した。大型商品の収容数で業界最多となる70 個を実現しつつ、さまざまな形態の冷凍商品に対応した収納構造と搬送技術により、落下姿勢を制御することで商品の姿勢を安定化させた。また、搬送シュータ形状の最適化により搬送抵抗を低減し、安定した商品搬送を可能にした。

カップミキシング式自動給茶機「とろみ給茶機」

畔栁 靖彦 ・ 喜田  明 ・ 小沢 竜徳

高齢化社会へと進んでいく日本において、介護現場における労働力不足の解消や就労環境の改善が課題となっている。富士電機は、カップ式自動販売機などで培った技術を生かして、とろみ飲料を簡単に提供できる「とろみ給茶機」を製品化した。とろみ飲料とは、飲食物が間違えて気管に入る誤嚥(ごえん)を予防するため、通常より粘り気を多くした飲料である。通常、医療や介護の現場では、要介護者一人一人の状態に合わせて手作業で調製する必要があり、介護者の負担になっていた。本製品により、要介護者に合わせて飲料温度や粘度を自動で調理できる。

グローバル汎用自動販売機「FGG160DCY」

阿部 順一

東南アジアにおける自動販売機を利用した小売市場では、消費者の購買要求の多様化が著しい。富士電機は、この動向に応じ、新たなグローバル対応の汎用自動販売機「FGG160DCY」を開発した。食品や飲料、医薬品などの大小さまざまな物品を安定して搬出する商品収納装置(ラック)とエレベータ機構を搭載し、収容量を大幅に拡大した。冷却性能にお いては、庫内の断熱構造の強化と吹き降ろし気流構造の採用で、全ての商品を1 から 8 ℃の温度帯で均一に保冷することができる。また、国外での輸送時の衝撃にも耐えられるよう、筐体(きょうたい)構造を強化した。

店舗向けネットワークサービス

徳永 勇貴 ・ 武藤 健二 ・ 石原 雄大

近年、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業界においても省エネルギー(省エネ)や少子高齢化による労働力不足の解消が喫緊の課題となっている。その対策として、店舗に設置されるショーケースなどの機器の稼働情報や警報履歴の収集、データ配信のために、機器ごとにクラウドとネットワーク接続するシステムを開発した。設備の稼働状態を分析して異常の兆候を検知する機能を備え、各機器の予知保全を実現する。また、店舗別や機器別の傾向を把握して運転制御条件やメンテナンス計画に反映し、省エネやオペレーション業務の効率化に貢献する。

ショーケースの省エネルギー技術

木下  卓

スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業界において、商品を適切な温度に保冷するショーケースに対して、さらなる省エネルギー(省エネ)を求めるニーズが高まっている。富士電機は、ショーケースの消費電力量を削減 するため、弁開度を緻密に制御できる電子膨張弁を採用し、冷媒の流量を最適に制御するシステムを開発した。また、冷媒配管への冷媒封入量の最適化や、複数のショーケースに対して、冷却の偏りをなくすために冷媒を均等に配分する設計を行った。この制御システムにより、従来の制御方法に比べて消費電力量を約20% 削減した。

店舗における省エネルギーの施策

宮越 智也 ・ 水澤 竜也

コンビニエンスストアをはじめとする店舗において、さらなる省エネルギー(省エネ)が求められている。その一方で、店舗内の快適性との両立も必要とされている。そこで、予想平均温冷感申告(PMV:Predicted Mean Vote)と呼ばれる指標を用いて、店舗内環境の解析を実施した。解析の結果、夏季の空調の温度設定を制御することが有効であることが分かった。また、冬季の低温の外気を利用してショーケースの負荷を低減する外気導入システムを開発した。熱流体解析ソフトウェアを用いて解析した結果、標準的な店舗に設置されるショーケースで1.84 kWh の消費電力量を低減できる。

機能性塗料による熱交換器の無着霜化技術

小川 莉玖 ・ 水澤 竜也 ・ 滝口 浩司

近年、省エネルギー(省エネ)が一層重要な社会課題となる中、店舗用冷熱機器のショーケースにも省エネが求められている。そこで、ショーケースに搭載される熱交換器において効率低下の要因である着霜を防止するため、機能性塗料を用いた無着霜化技術を開発している。この機能性塗料は、0 ℃以下でも水が凍結しない状態(過冷却)を促進可能な塗料である。今回は、熱交換器表面を模擬したアルミニウム小片にて、機能性塗料の塗膜が結露した液滴の過冷却を促進することを明らかにした。

次世代エッジデバイス基盤開発とその適用

ぺれら まどぅら ・ 竹内 志郎 ・ 濱田 公介

IoT システムは、クラウドシステムの利用を最小限に抑え、現場でデータ収集から分析までを完結させたいというニーズが高まっている。富士電機は、現場設備からデータを収集しクラウドシステムに中継するエッジデバイスの基盤を開発している。次世代エッジデバイスとして、ハードウェアは、有線・無線の多様なコネクティビティを実現し、処理能力を向上することでさまざまな製品への適用が可能である。また、高い拡張性を実現したビジネスアプリケーションフレームワークをはじめ、利便性の高いソフトウェアを搭載した。

新製品紹介

第7世代「X シリーズ」1,700 V / 800 A 産業用RC-IGBT モジュール「Dual XT」

山野 彰生 ・ 江袋 佑太 ・ 掛布 光泰

近年、安全・安心で持続可能な社会を実現するために、エネルギーを効率的に利用し、省エネルギーに貢献できるパワーエレクトロニクス技術への期待が高まっている。中でも産業、車載、再生可能エネルギーなどのさまざまな分野で用いられる電力変換装置のキーデバイスであるパワー半導体の需要が拡大している。富士電機はこれまで多くの技術革新を行い、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールを小型化、低損失化および高信頼性化をすることで、電力変換装置の小型化や低コスト化および高性能化に貢献してきた。チップおよびパッケージのさらなる技術革新を行った最新世代である第7 世代「X シリーズ」IGBT モジュールでは、低損失化と高信頼性化を両立し、一層の高パワー密度化を実現した。さらに第7 世代IGBT とFWD(Free Wheeling Diode)の機能をワンチップ化したRC-IGBT(逆導通IGBT:Reverse-Conducting IGBT) を開発し、IGBTとFWD のそれぞれのチップを組み合わせた従来のIGBTモジュールよりも一層の高パワー密度化と高信頼性の両立を実現した、X シリーズ産業用RC-IGBT モジュールの系列化を進めている。従来の定格電流が最大で600 Aであったのに対し、今回、定格電流を800 A まで拡大した。

第2世代 SiC-SBD 1,200 V シリーズ

原  幸仁 ・ 宮本  辰 ・ 中村 友士

近年、全世界のデータ通信量の増加に伴い、データセンターや通信基地局の設置が加速している。データセンターには電力の安定供給が求められるため、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power System)が使用される。UPS に適用されるパワー半導体に対しては、さらなる低損失化と耐久性の向上が要求されている。富士電機は、第1 世代ディスクリートSiC-SBD シリーズに比べ、順方向電圧V F の低減により低損失化と、サージ順電流I FSM の向上を実現した第2世代ディスクリートSiC-SBD 1,200 V シリーズを開発した。

略語・商標

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、Web掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。