富士電機のSDGs
健康経営の取り組み

ESG 環境・社会・ガバナンス

働く者の安全と健康はすべてに優先する
富士電機の健康経営の取り組み

2023年10月公開。所属・業務内容は取材当時のものです。

人生100年時代の到来。そして、労働人口の減少……。今後の社会を考えると、健康経営の実践は、企業にとって必要不可欠な取り組みであると言える。すべての人財が、健康に不安を感じることなく、いきいきと仕事に向き合っていく。従業員のウェルビーイングは、企業の持続的な成長を担う原動力となるものだ。富士電機が推進する、健康経営の取り組みに焦点を当てる。

生活習慣の改善には環境へのアプローチが不可欠

健康管理センター所長 加藤憲忠
健康管理センター所長 加藤憲忠

従業員の健康管理を「経営課題」として捉え、従業員のウェルビーイングと会社の生産性向上を目指していく。1990年代にアメリカで提唱された健康経営という概念は、世界へと広がり、日本でも一般的な取り組みになったと言える。ただし、この問題は今に始まったことではない。三大生活習慣病といわれる「がん」「心疾患」「脳血管疾患」は、働き盛り世代の在職中の死亡や長期療養、医療費増大の原因となり、昔から企業や健康保険組合を悩ませてきたのだ。健康管理センター所長の加藤憲忠は、産業医としての見解を次のように話す。

「昨今、問題視されている『メンタルヘルス不調』にも深く関わってくる生活習慣。その改善は個人の努力だけでは限界があります。『お酒を控えてください』と言われても、誘惑に負けてしまうこともありますし、『休養が必要だ』と指摘されても、仕事を優先するあまり、それが難しいケースも出てきてしまいますよね。健康経営がなぜ必要なのか。それは、生活習慣が、組織や社会の影響を強く受けるものだからです。個人の意識に働きかけるだけでなく、『環境にアプローチ』していくことが必要不可欠だと言えるでしょうね」
従業員が生活習慣を改善できるように、経営陣が環境整備に努める。その効果は、一人ひとりのウェルビーイングはもとより、生産性の向上や業績アップにつながり、ひいては株価や採用ブランドの向上といった企業価値に大きく影響していくことになる。
「健康経営の実践は、企業にとっての投資なんです。経営トップが社内や社外に向けて明確なメッセージを打ち出し、自ら率先して取り組んでいく。人事・総務部門、健康管理センター、健康保険組合から構成される会議体を作り、ステークホルダーである現場の社員のさまざまな意見や取り組みをボトムアップで発信していく。目標値を定め、PDCAを回していく。成否のポイントは、実効性のある仕組みを構築できるかどうかにあるのではないでしょうか」(加藤)

健康経営の原点は独自の「企業文化」

安全部 部長 栗田久嗣
安全部 部長 栗田久嗣

富士電機の健康経営は、ブームに乗って始まったものでもなければ、企業の利益だけを目的にしたものでもない。富士電機は、30年以上前から、全社の産業医や産業保健スタッフが集まる「産業医会議」を開催。それぞれの立場で意見交換をしながら、法令、社会情勢や社員の健康課題に合わせた健康診断の在り方、感染症予防、メンタル不調者の復職支援プログラムなど、さまざまな安全衛生の枠組みを整備し、発展してきた。また、各製造拠点・支社でも独自に健康づくりや安全の取り組みを実施するなど、健康経営に対する意識は非常に高かったのだという。安全部部長の栗田久嗣は、その背景には、富士電機の企業文化が強く影響していると断言する。

「富士電機の企業行動基準は、『人を大切にします』という項目を最初の項目に掲げています。これは、富士電機とその社員の判断の拠り所や行動のあり方を定めたものであり、私たちの文化や風土を形成する最大の特徴だと言えるでしょう。こうした考え方は、富士電機の安全衛生基本理念である『働く者の安全と健康はすべてに優先する』に具体化されています。健康経営の実践は、昨日・今日に始まった一過性の取り組みではありません。安全で快適な職場環境を形成し、労働災害撲滅および心身の疾病予防に向けた質の高い安全衛生活動を実践することは、私たちにとっては当たり前のこと。すべては、『富士電機で活躍する人財を大切にしたい』という想いからの取り組みなんです」

富士電機は、それまで事業所ごとに活動してきた健康づくりの取り組み体制を統合し、2018年度から「全社健康づくり推進体制」を発足。全社健康管理委員会とその下部組織として、全社健康づくり推進会議メンバーを組織化し、全社統一の方針や共通施策に基づいた活動によって、社員の疾病予防・重症化予防対策を推進している。その特長は「安全衛生部門」「産業医・保健スタッフ」「健康保険組合」「就業規則などの制度企画部門」が、四者一体のチームとして活動をしていることだ。この整備によって、産業医が常駐していない小規模拠点にも健康増進に対する意識が浸透。さらには、各拠点独自の成功事例を共有し、水平展開するという好循環が生まれているそうだ。
「これまでは、医療スタッフと社員、事業所ごとの取り組みといったように、点のアプローチが中心でしたが、2018年を機に、あらゆる立場の人を巻き込んだ全社的な取り組みができるようになりました。全社の方針や目標をもとに、環境面の整備を含めた面のアプローチをしていける。この改革は、今まで懸命に努力し、富士電機の健康づくりに貢献してくれていた医療スタッフの皆さんにも、大きな力になってくれるものだと思います」(栗田)

見守り、支え続ける―― 富士電機ならではの支援を

健康管理センター 保健師 徳渕智絵
健康管理センター 保健師 徳渕智絵

富士電機では、健康保険組合が持つ「医療費と健康診断データの分析レポート」や、メンタルヘルス対策の指標となる「ストレスチェック結果」などのデータを活用して、社内の健康課題やリスクの抽出、施策の検討、評価を行っている。特筆すべきは、30年前から続く産業医会議が独自に作成した「健康管理統計」だ。これは、時代に合わせ調査項目を変化させながら富士電機独自のデータがまとめられている。ここに蓄積された知見の数々は、富士電機が「従業員の安全と健康」を本気で考え、守ろうとしてきた証だと言えるだろう。実際に、『屋内喫煙所の閉鎖』などの環境づくりによって、現場では禁煙が進んでいるし、『重症の糖尿病や重度高血圧の社員に対する積極的な受診勧奨ルールの導入』によって、未治療者が放置されない体制が整えられ、重症化予防に効果が見られているのだという。健康管理センターで保健師を務める徳渕智絵は、富士電機の取り組みの特長を次のように話す。

「富士電機の健康づくりのテーマはふたつ。『長く生き生きと働けるよう、社員のセルフケア力を高めること』と『健康づくりに取り組みやすい風土づくり』です。生活習慣を変えることは、その人の考え方や行動を変えていくこと。だからこそ、一人ひとりの社員とのコミュニケーションと環境の整備という両面のアプローチを行うことが重要になります。リスクを説明したり、注意喚起したりするだけでは、行動の変容は生まれませんからね」

一人ひとりの社員にしっかりと伴走し、健康づくりのための環境を整えることで、自然と意識が変わっていく。生活習慣が改められる。人を見守り、支えていくスタイルは、人を大切にする富士電機ならではのものだ。また、アプリを活用した「バーチャルウォーキングイベント」など、楽しみながらセルフケアを行える取り組みも活発だ。さらには、eラーニングによる「心とからだの健康教育」を全社一斉で行っており、その受講者はグループ各社を含めて2万人以上を数える。
「2019年度から導入した『心とからだの健康教育』は、今年度で5年目を迎える取り組みです。心がけたのは、できるだけわかりやすく、シンプルに、健康づくりを学んでいただくこと。試行錯誤を繰り返して、コンテンツをつくりあげました。昨年度からはメンタルヘルス対策を強化するために、幹部社員向けの『心の健康教育』も導入。メンバー一人ひとりを気にかけ、管理職自身も健康に留意しながら、会社全体が元気になればと考えています」

そのチャレンジは人生に幸せを運ぶ

現場の意見

何よりも人を大切にしよう。すべての人財がいきいきと働ける環境をつくろう。人への想いからスタートした取り組みは、確かな成果へとつながっている。数値面での向上はもちろんだが、何よりの成果は一人ひとりの社員の笑顔だった。病気を患いながらも、仕事に復帰できた社員。サポートをきっかけに、禁煙に成功した社員……。そうした人たちからの感謝の言葉は、メンバーたちを突き動かす原動力となっているようだ。
「産業医のやりがいは、社員一人ひとりに伴走し続けられることです。共に歩み、共に健康づくりに取り組んだ結果、その人が幸せになれる。それ以上の喜びは存在しません。トップの方針の下、現場の意見や専門家の知見を上手く取り入れながら、健康経営を実現していけることは、富士電機の大きな強みです。これらからも世の中の動向にフットワーク軽く対応しながら、社員の皆さんを支えていきたいと思っています」(加藤)

「私たちは、一人ひとりのライフサイクルに合わせて、健康の維持・向上を支えていきます。『健康で生き生きと働くことのできる制度や環境の整備』を進めることで、充実した会社生活を歩んでいただきたい。元気な状態で定年を迎え、健康で充実したセカンドライフを過ごしていただきたい。そんな想いをもって、この活動に向き合っています。社員の皆さんの幸せを支えられることが、私にとって何よりの喜びになっているんです」(徳渕)

「これらの取り組みによって、健康に関する数値は年々、向上し続けています。ただし、このテーマに『これでいい』というゴールは存在しません。富士電機の健康経営は、まだ道半ばにあります。今後の課題は、社会のボリュームゾーンであり、マネジメント層である50代の健康づくり。専門家の話では、50代を健康に過ごせるかどうかで、その先が決まるのだそうです。企業行動基準『人を大切にします』の実践を通じて、社員のウェルビーイングにつながるチャレンジを続けていきたいですね」(栗田)

健康管理センター メンバー

貢献するSDGs目標

働きがいも経済成長もすべての人に健康と福祉を
すべての人に健康と福祉を

当社は、企業行動基準に「人を大切にします」を掲げ、社員の健康と安全を最優先し、効率的で働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。社員のウェルビーイングと会社の生産性向上を目指す「健康経営」は、当社のSDGs目標「8. 働きがいも経済成長も」に貢献するものです。また、一人ひとりのライフサイクルに合わせて、健康の維持・向上を支える取り組みは、SDGs目標「3. すべての人に健康と福祉を」にも通じています。