電子行政ソリューション コラム
国や地方の行政をデジタル化する「自治体DX」の狙いと 先行事例に見る自治体・住民、双方のメリットとは

最近、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を見かけない日はない。民間企業の関心も高く、様々なベンダーが、様々な支援サービス・ソリューションを競うように提供し、DX市場が活況であるのはご存知のとおりだ。一方、国や自治体など行政機関においても、DXの取り組みが着々と進んでいる。今回は「自治体DX」をテーマに、民間企業におけるDXとの違いや必要とされる背景(解決すべき課題)、推進する上でのポイントや障壁などについて解説し、また最新事例についても紹介したい。

「自治体DX」とは

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というワードの起源は、ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が、2004年に発表した論文まで遡る。そのなかで、DXについて「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義づけている。一方、経済産業省は、企業向けにまとめたガイドラインのなかで「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織・プロセス・企業文化風土を変革」するものと表現している。いずれにしても「トランスフォーム=完全に形を変える」という単語が意味するとおり、大きな変革を伴うものであり、これを国や自治体など行政機関において実現するのが「自治体DX」ということになる。

政府は、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」閣僚会議のなかで、自治体DXで目指すデジタル社会について、“誰ひとり取り残さない” “人に優しいデジタル化”といったコンセプトを打ち出し、内閣直属の組織「デジタル庁」を司令塔として、すべての国民が恩恵を受けるデジタル社会の実現に向け邁進している。

国民全員が恩恵を受ける“デジタル社会”実現を支える「自治体DX」

では、なぜ自治体DXが必要なのか。まず根本的な要因として、“2040年問題”がある。高齢者人口がピークを迎える2040年に向け、介護や感染症対策など自治体業務が増加していく一方で、労働人口の減少や税収減による財源不足などにより、自治体職員数は減り続ける。その結果、行政サービスが立ちゆかなくなるのではないか、という予測から、そうなる前に、現時点から、デジタル技術を活用して業務の自動化・効率化を図ることが必要であり、至上命題とされている。

また、社会生活や経済活動における国と地方自治体の割合が大きいことから、行政機関のDX推進は社会全体のDXへの効果、もしくは影響が大きい。実際、国民1人ひとりの住所や、税や年金、法人、土地などに関する基本的な情報のほとんどを管理しているのは国や地方自治体であり、最大のデータ保有者である。企業の人事や会計においては、各種保険や納税などの行政手続きをする際、企業側がどれだけDXを進めていても行政機関側の受付が紙のままでは、ペーパーレスや業務効率化といった効果は限定的になってしまう。従って、自治体DXを進めることは、民間企業のDX推進という意味も含め、社会全体のDX化の実現に向けた必須要件となる。こうした考え方に基づき、国民の視点で国と地方自治体のDXを推進し、行政機関の取り組みを変えていくのが「デジタルガバメント実行計画」だ。

「自治体DX」によって実現されるメリット

2020年末、改定された「デジタルガバメント実行計画」では、“国・地方のデジタル化指針”として、下記11の個別目標が明記されている。2025年度末(2026年3月)までの実現によって、私たち国民にも大きなメリットがもたらされる。

  1. 1.

    あらゆる行政手続がスマートフォンから簡単にできる (デジタル・ファースト)

    • 窓口に出向いて紙で申請する必要がなくなり、24時間365日申請などの手続きがが可能に。

  2. 2.

    行政機関などから同じ情報を聞かれない (ワンスオンリー)

    • 部署や担当が変わるたびに、何度も同じ質問をされるストレスが解消される。

  3. 3.

    緊急時の事務を速やかに処理できる

    • 住民側の事前手続きの負荷を減らして、給付金などが速やかに支給されるように。

  4. 4.

    あらゆる行政サービスを迅速・確実に受けられる

    • 行政手続きに際して負担が軽減され、処理もスピードアップされる。

  5. 5.

    行政事務が抜本的に効率化され、正確性・サービスの質も向上する(業務改革(BPR))

  6. 6.

    公正な負担と給付が実現されている社会が創出される

  7. 7.

    システムコストを大幅に削減する

  8. 8.

    セキュリティが大きく向上する

    • 情報の濫用や漏えい、プライバシー侵害などの心配がなくなる。

  9. 9.

    安全でユーザフレンドリーなデジタル行政・取引が展開される

    • マイナンバーカードでなりすましを防止。1人ひとりにカスタマイズされたサービスが提供されるように。

  10. 10.

    政府のデータ活用などにより、官民の魅力あるサービスが創出される

  11. 11.

    政府のAPI活用などにより、民間企業の生産性が向上する

自治体DXの最新事例紹介

前段のメリットを踏まえつつ、実際に自治体DXで成果を上げている地方自治体の取り組み事例(注)を、3つのテーマ(業務改善/手続きのオンライン化/デジタルデバイド対策)ごとにいくつか紹介する。

(注)

出典:総務省「自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】」(令和3年7月7日)

▼業務改善の取り組み事例

【愛知県瀬戸市】電子決裁機能付き文書管理システムを導入。将来的な文書の電子管理、電子決裁移行への道筋とする。

  • 一部の部署で試行した電子決裁機能付きの文書管理システムを、全庁により、本格運用することで、行政事務をペーパーレス化。

  • 行政文書は、簿冊ではなく、ファイリングシステム(注)を導入することで、事務の効率化(文書の検索時間短縮)、文書管理の強化(情報の一元管理による組織対応力向上)、ライフサイクルの厳格化(期限満了文書廃棄の円滑化)などの効果を期待。

(注)

文書を小分類フォルダ(BSフォルダ)に入れて、大分類と中分類の仕切りで区切った書庫棚へ収納する管理手法。

【神奈川県平塚市】プレミアム商品券の電子化により事務経費を削減

  • 紙媒体で実施していたプレミアム商品券に係る事業についてキャッシュレスの普及などを実現するため、令和2年度にプレミアム商品券電子化。

  • 事業規模が約8億円から約15億円に倍増したにも関わらず、1億4,800万円かかっていた事務経費を5,400万円に縮減。

  • 電子化により、消費者の消費行動がデータ化され、分析が容易になり、施策の評価や企画立案において有用な指標となった。

▼手続きのオンライン化の取り組み事例

【滋賀県】県と市町が共同でシステムを調達・導入することにより、職員の事務負担や費用負担を軽減

  • 住民が行政手続の申請をおこなうにあたり、必要書類などの判断が難しく、市町においても住民からの問い合わせ対応が事務負担となっていたことから、令和2年度に県が主導する形で、14市町と課題解決のための共同研究事業を実施。

  • まずはモデル事業として、(1)転入届などの引っ越しの際の手続や手続に必要となる書類・窓口などを案内するシステム、(2)申請書などを電子データで作成し、そのままオンライン申請できるシステムの試験運用を実施(令和2年10月1日から)。

  • 県内3市における試験運用後、県および14市町の一部で共同調達を開始。住民にとって統一的で使いやすい手続のインターフェースを構築するとともに、ワンストップでの行政手続を目指している。

【北海道北見市】BPRの取組みとあわせてシステム化を進め、書かない窓口、ワンストップ窓口を実現

  • 書かない窓口を実現:職員が来庁者の本人確認を実施し、来庁者から必要な証明書を聞き取りながらシステムを利用して、申請書の作成する支援を行う。来庁者は、申請書に署名をするだけでよく、申請手続が簡略化した。

  • ワンストップ窓口を実現:他課の手続を住民異動窓口に集約し、来庁者の移動や、課を回るごとに発生する重複する本人確認、異動内容の説明の手間を省略化。手続は、窓口支援システムで自動判定し、住民窓口で代理受付や案内をおこなうことに。

  • RPAの業務利用:証明書の交付申請および住民異動届の受付時のデジタルデータを活用し、証明書の交付および住民異動届の入力業務をRPAにより一部自動化。

▼デジタルデバイド対策の取り組み事例

【東京都】条例において、デジタルデバイドの是正を行政の責務として明記

  • 令和2年度にオンライン通則条例を東京デジタル・ファースト条例として抜本改正し、デジタルデバイドの是正に対する対策を行うことを都の責務として明記。

  • 令和3年度については、デジタル機器に不慣れな高齢者がスマホを安心して活用し、オンライン申請の利用につなげる取り組みを実施するとともに、区市町村が実施するデジタルデバイドの是正に資する事業の実証を行い、効果的な施策の横展開を行うことに。

【青森県】高齢者や障害者にiPadの使い方を教える地域人財を育成

  • 東日本大震災をきっかけに、高齢者や障害者に対して、(1)災害時にデジタル技術を活用した情報収集ができること、(2)日常生活や趣味を、より充実したものとすることを目的に、iPadの活用を教えることのできる講師の育成のため、平成25年度から講座を開催。これまで203名を育成。

  • 県内3ヵ所のエリアごとに、10回の講座を通じて1年かけて講師を育成。講座では、実際に障害者等に教える機会を設けており、受講後にスムーズに活動を行えるようカリキュラムを工夫している。

  • 講座を受けた講師は、周囲のデジタルに不慣れな人のサポートに従事。特に、八戸市では、受講者同士がサークルを結成し、地元施設を活用するなどして障害者などの支援を行っている。

3つの内部事務システムで、テレワークに欠かせないペーパーレスを支援

2020年12月に策定された「自治体DX推進計画(対象期間:2021年1から2026年3月まで)」では、自治体共通のクラウドサービス「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」を提供する方針が明記された。また具体的な推進テーマとして「自治体の情報システムの標準化・共通化」「マイナンバーカードの普及促進」「自治体の行政手続のオンライン化」「自治体のAI・RPAの利用推」「テレワークの推進」「セキュリティ対策の徹底」の6つを重点取り組み事項として挙げ、自治体のデジタル化を促進している。

このうち、「テレワークの推進」において鍵となるのが、ペーパーレス(紙を出さない)の実現である。富士電機は、「文書管理システム」「庶務事務システム」「会計年度任用職員管理システム」という3つの内部事務システムを提供し、自治体業務のデジタル化によるペーパーレスを支援。豊富な機能とシンプルで使いやすい画面構成などが評価され、都道府県、市区町村、国、独立行政法人などの多くの団体で導入されている。さらに、電子決裁共通基盤(「電子決裁システムの共通化」)も提供。業務システム間連携((注)地域情報PF、中間標準レイアウト等の標準技術を活用)により、連携するすべての業務システムの決裁処理が単一電子決裁システムでできるようになることで、業務効率化に貢献する。

「文書管理システム」を導入した神奈川県庁の事例資料はこちら

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神奈川県庁様事例

機能改善と現場の働きかけで電子決裁率80%超を達成
引き続き完全電子化による紙文書からの脱却を目指す

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