物流倉庫の改善コラム
物流・倉庫現場に求められるデータ活用

データ利活用は大規模企業中心に進んでいる

物流業界だけではなく、企業のデータの活用への関心は高い傾向にあります。

例えば現場の業務改善を進めたい企業は多くあると思いますが、改善活動をデータで客観的評価ができるようにならなければ、業務に携わる人々がどこで努力をした評価できず、正しい人事考課が難しくなります。正しく評価されない場合は、改善活動の継続は期待できず、結果として業務改善が進まないということになってしまいます。よって、企業は業務改善や労働生産性を向上させるためにもデータの活用に取り組む必要があるのです。

データ活用状況については「データの収集・蓄積」が最も進んでいます。一方で、「データ分析による現状把握」「データ分析による予測」と活用ステージがより高度になるにつれ、対応できている企業は少ないのが現状です。

関連:作業とマテハン機器をリアルタイムに見える化するWES

WES(倉庫実行管理システム)はWMSでは管理しきれない物流現場のデータをリアルタイムに把握することができます。マテハン機器やIoT機器の制御を可能にし、作業と設備の稼働を一括管理を可能にします。

物流の各業務では、日々さまざまなデータが発生しています。他の業界と比較すると量も種類も多いのではないでしょうか。例えば在庫データ、ハンディターミナルからの各種情報、マテハン機器の稼働状況、現場環境に関する情報などがあります。データのうち、量・種類ともに多いデータを"ビッグデータ"といいます。

今後、IoTやAIなどビッグデータに関連する市場が成長するに従い、企業のデータ利活用は進んでいくと考えられます。

富士電機が2020年に製造業向けに実施した調査「製造業におけるIoT/ITと物流システムの利用動向調査」によると、「IoT/IT」で収集・取得したデータを「積極的に活用している」「ある程度活用している」と回答は全体の66%でした。

「IoT/IT」で収集・取得したデータの利活用状況 出所:富士電機「製造業におけるIoT/ITと物流システムの利用動向調査」(2020年)

前述の総務省の調査の結果と比較するのは難しいですが、総務省調査から5年以上過ぎたこの調査から、データ活用は進んでいるものの部分的な活用にとどまっている企業が多いことを示唆しています。 一方で「今後活用を検討している」を加えると、今後データの活用に取り組む可能性がある回答が90%以上となり、データ活用のトレンド自体は続くと考えられます。

従業員規模別で回答結果を集計すると、従業員数が多い企業ほどデータの活用が進んでいる傾向がみられました。具体的には従業員数100名未満の企業では「積極的に活用している」の回答は6.1%となった一方で、従業員規模1,000名以上の企業では40.9%という回答が得られました。

データの活用目的と種類

出所:総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)

データの活用は企業により様々です。

総務省の調査(情報通信白書 平成27年版) によると「経営全般」、「企画、開発、マーケティング」、「生産、製造」、「物流、在庫管理」、「保守、メンテナンス」の5つのデータ活用領域のうち、「経営全般」、「企画、開発、マーケティング」でのデータ活用の割合が高く、またいずれかの領域でデータを活用している企業は約8割という調査結果があります。

とくに「物流、在庫管理」はデータ活用をした場合の達成率が高く、各領域のデータ活用効果が最も高い達成率(67%)となっています。

またデータの活用は業務効率化だけではなく、付加価値向上/競争力強化の狙いがあると考えられます。

物流・倉庫現場でデータ利活用をどう進めるのか

物流・倉庫現場に限らず、データの利活用により業務効率化や売上増大などが期待されています。背景にはIoTなどの技術革新が進んだことや、少子高齢化社会が進むことによる労働力不足への対応に迫られていること、物流ニーズの拡大により物流業務の拡大・複雑化が進んでいることなどが背景にあると考えられます。

日本経団連では、Society5.0時代の物流のあり方とその実現に向けた課題を整理したレポートを公開していますが、このレポートの中で物流はデータの利活用による変革が最も期待される産業の一つであるとしています。

データの活用という点では国土交通省が公開している「物流事業者におけるKPI導入の手引き」という資料もあります。物流データの活用するメリットや活用方法を知ることができ、「物流管理」が適切に実施されているかどうかを数値で評価することが有効であることを説明しています。

企業の課題は「費用対効果」と「人材不足」

出所:総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

データ活用に関する機運が高まる一方で問題・課題もあります。

ITの様々なメディアや調査会社が企業のビッグデータ活用に関する調査が行われております。問題・課題として散見されるのは「費用対効果が不明であること」「データを活用する人材の不足」です。

総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)によると、とくに日本の企業における問題・課題は「収集データの利活用方法の欠如、費用対効果が不明瞭」と「データを取り扱う人材の不足」という調査結果があります。

つまり、データ活用を企業として推進していくためには「費用対効果を明確にするための工夫」と、「データを扱える人材を確保するための工夫」を考え、問題を解決することが重要になります。

人材不足を解消するための工夫

出所:総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)

データの利活用は必ずしも統計などの専門知識のある人材を確保しなくてはいけないというわけではなりません。費用対効果も工夫すれば改善できる可能性があります。

総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)によると、「業務に応じた各担当者」が「Excel、Access等の基本ソフト」を使った場合、データ分析を行う場合は、データ活用効果を「得られた」と「得られなかった」にはあまり差がなく、「専門のデータ分析担当者」が「データ分析ソフト、統計ソフト」を使った場合、データ活用の効果が得られやすい結果が出ています。

例えば、「業務に応じた各担当者」が高度な分析ツールを使わなくとも、データ活用効果がでるような工夫はできないでしょうか。分析方法をパターン化したり、分析対象のデータの簡単に扱える環境を整備することで、人材不足を解消し、費用対効果を高める動きも可能であると考えられます。

つまり、データ活用を企業として推進していくためには「費用対効果を明確にするための工夫」と、「データをだれでも簡単に扱えるようにする工夫」を考えることが重要になります。

データ活用の進め方の例

まずは現状を把握し、どのステップ、どのステージを目標としてデータ利活用を推進していくのかを決める必要があります。

[ビジネスへの活用段階]

  • STAGE 1:管理単位での活用

  • STAGE 2:倉庫単位での活用

  • STAGE 3:物流全体での活用

データ活用に対し経験を積んでいる企業であれば、WMSやBI/BAシステムの導入や専門家の支援を受けることでSTAGE3を目指すことも可能です。しかし、データ活用に先進的な企業を除けばSTAGE1・2の段階にある企業が多いのではないでしょうか。この場合は、現場で取得可能な予算を確保し、大きさ問わず成功事例を作ることが重要です。その後全社に展開させることが現実的な進め方になります。

今までデータ管理の主力がExcelやAccessになっている場合、古い自社開発システムや基幹系データ検索システムの再構築する場合は、現状把握はとくに重要になります。どのデータが必要/不要で、どのようにすれば効率よくデータを活用できるのかを見直す必要があります。

[データの活用段階]

  • STEP 1:収集・蓄積

  • STEP 2:可視化

  • STEP 3:分析・解析

  • STEP 4:業務改革

近年、データ収集などのコストが低下していており、いままで取得できなかったデータも容易に取得できるようになりました。しかし、ただ新たにデータを収集するのではなく、活用されていないデータの有効活用や、データの利活用業務の効率化(データを入手するまでの手続き)を検討したほうが、業務改善や売上拡大に貢献できる可能性があります。

新たに必要になるデータは蓄積するのに時間を要しますが、活用されていないだけのデータは用途を見つけさえすればすぐに使うことができるからです。

また、最新のITを活用することも有効です。例えばWMSやWESは様々な情報を保有することができ、人、商品やマテハン機器の情報の可視化等が可能になります。

物流現場のデータ活用からはじめる業務改善

物流倉庫の効率化や改善活動を進めていこうとした場合、現在の作業やプロセスの優劣を評価をすることは容易ではありません。感覚的な優劣が付けらる人がいたとしても、「どれぐらい優れているか」はなかなか説明ができないと思われます。また物流センターや物流倉庫は広く、もしくは在庫品やマテハン機器が多くあり、働く人々のスキルも一定ではありません。拠点や作業が増えれば、より評価が難しくなります。

データを用いることで、物流の作業やプロセスを定量的に評価できるようになります。数値化することで現状の問題点を正確に把握できるようになり、また目標指標を設けることで業務改善活動がしやすくなります。

データ活用は企業活動に貢献します。ポイントはすでにあるデータを有効活用することにあります。

データの活用を進めていけば、最終的には諸活動をデータで評価できるようになるため、人やチームなど改善活動にたいする努力を評価しやすくなります。また、データの活用は属人化しにくいため、長期的な改善活動を可能にします。

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