ソリューション・事例
業界初の「長いも選果ライン自動化」プロジェクトに迫る。

お客様のために、チーム一丸で挑む。

長いもの出荷量全国一を誇る、北海道は十勝地方。帯広市にあるJA帯広かわにし様では、長いもの箱詰め・出荷作業をする「選果場」の大幅な自動化計画が動いていた。近年では海外でもブランド化が進み輸出が拡大していること、そして、高齢化による働き手不足がその背景だった。
長いもの箱詰め作業は手作業で行われるのが当たり前だった。水分を多く含む長いもはそれだけ折れやすく、傷つきやすいという面も持っていることが理由だ。人手不足は進む一方。その上、大きいものでは1本1.5キロを超え、1日の取扱量が12万本にも上る重労働。自動化を推進するための企業探しが難航する中、JA帯広かわにし様が関心を抱いたのが、富士電機の自動化技術だった。

箱詰めされた十勝川西長いも

工業分野の技術を農業に応用。
「全員が同じベクトルを向いて」実現した業界初の自動化ライン

設計者手描きのポンチ絵

JA帯広かわにし様の担当者が富士電機を訪れたのは2018年8月。この時対応した富士電機エフテックの松田は「自動ラインの構築は長年やってきたことで、今回もその延長という感覚だった」と、話を伺った時の印象を振り返る。ヒアリングを元にラフに起こした機構のイメージ図は当社の生産技術のアイディアが詰め込まれたシンプルなもの。このイメージ図にJA帯広かわにし様の担当者も光明を見出し、プロジェクトがはじまった。

チームで難題に挑んだ富士電機エフテックの技術者

工業分野で培った技術は農業の分野にも必ず活かせる。そう信じて考えた機構が、アームのハンドが長いもをつかんで180度回転し、反対側を流れる段ボール箱に滑り落とすように入れるという「ダブルハンド機構」。しかし、はじまってみるとそのライン構築の難しさは生半可なものではなかった。仕様が決まっていて、同じものが流れてくる工業製品のラインと違い、野菜である長いもは形状や硬さ、サイズがひとつひとつ異なる。ある長いもには適していたつかむ力が、別の長いもだと強すぎて傷つけてしまうと言ったことが起こるのだ。絶妙な力加減を目指して試行錯誤を繰り返す改善の日々。JA帯広かわにし様立ち会いの最終調整という現場で、ハンドが掴んだ長いもが回転と同時にすっぽ抜け、まるでハンマー投げのように遠くへ飛んでいくという出来事まで発生した。それでも、「チーム全員が同じベクトルで、お客様のために実現に挑む。絶対に諦めない」という想いを胸に、それまで産業分野で培った技術を詰め込み、箱詰め時の衝撃を抑えるために最新のサーボシステム「ALPHA7」も採用し、国内初の箱詰め作業の自動化が実現した。

稼働の見える化。それは、選果場に想像以上の進化をもたらした。

箱詰めラインの自動化とともに、もうひとつ取り組んだのが、生産管理システム(トレーサビリティシステム)の構築だった。しかし、ここでも農業分野特有の課題が発生する。人手で担われる作業がいまでも多く存在するという状況の中で、トレーサビリティシステムの導入によってどんなメリットがあるのか、どんな進化をもたらすのかのイメージを共有することが難しいのだ。「システムを通してどんなことを実現したいのか。お客様と、施設の将来像を徹底して検討した」と、システム開発担当の林は振り返る。林は現地に何度も通い、生産管理システムで何ができて、そのためにはどのような機器が必要かなどを幾度となく提案し、イメージをすり合わせた。そして「リアルタイムの出来高管理」と「設備の稼働状況の見える化」という2つの要求達成をゴールとした。

システムを構築することよりも、林が腐心したのは協業する農業装置メーカーの協力を得ることだった。選果場での出来高管理には、当然前工程(洗浄・選別・袋詰)の稼働状況が関わってくる。その前工程を担当している4社の農業装置メーカーの協力をいかに得られるかが大きな課題となった。「納期も限られる中、各社ぎりぎりで自動化設備の調整に追われている。生産管理システムのデータ提供を依頼しても、後回しにされて取り合ってもらえなかった」と林は当時を語る。林はまずJA帯広かわにし様の協力を得るべく、前工程の設備データがいかに設備全体の稼働状況の見える化に欠かせないものか。さらには、今回の見える化に採用する「ダッシュボード(注)」を見学者にも見えるようにすれば、施設の先進性のPRもできる、という提案まで行った。そうした実直な活動が信頼獲得につながり、JA帯広かわにし様を介して農業装置メーカーとの連携も深まっていった。

(注)

設備の様々なデータを収集し、稼働状況などを表示するモニター

見学デッキに設置された当社製ダッシュボード
生産管理システムの構築に取り組んだ林

一人当たりの生産性は160%まで向上。
地域に貢献したいという想いが切り開いた新たな可能性。

プロジェクトの開始から約1年半経過した、2020年3月。ついにJA帯広かわにし様の新しい選果場が稼働した。全9箇所の箱詰めラインはすべて自動化された。前工程で一本ずつ個包装された長いもがハンドでキャッチされ、スムーズに箱に詰め込まれていく。作業者は重い長いもを何度も箱に入れる重労働から解放され、自動化により作業スピードの平準化を図ることができた。

選果場での箱詰め作業の状況は、リアルタイムにダッシュボードに表示されている。長いものサイズ別に箱詰めの出来高をひと目で確認でき、ラインが正常に動いているかどうかも色で判別可能。不具合発生時には収集したデータを元に要因をシステムが自動で解析して示すことで、設備の停止時間削減も実現した。休憩室では作業者たちが、ダッシュボードに表示される出来高を見て、自分たちの頑張りを讃えあう姿も見えた。1日あたりの選果高は3割増、選果場全体の一人当たりの生産性は160%(注)まで向上した。(注)箱詰め工程では260%

自動化ラインの設計を担当した富士電機エフテックのプロジェクトメンバーには、松田を含め、北海道出身者が3人いた。「地元に貢献したいという思いが、プロジェクトを遂行する支えになった」と松田は語る。JA帯広かわにし様の取り組みは農業界で大きな反響を呼び、地元紙にも取り上げられた。工業のフィールドで培った技術を農業界へ展開できたこと。製造現場の自動化を課題としているあらゆる業界に対し、まだまだ可能性は広がっている。

例えばこんなSDGs

産業と技術革新の基盤をつくろう

目標9

強靭なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な
産業化の促進およびイノベーションの推進を図る

就農人口が減少するなか、持続可能な力強い農業を実現することは、日本の農業の重要課題の一つです。十勝地方では、農業は基幹産業であり、農業の生産性向上が地域経済の発展に繋がります。
今回ご紹介した長いも選果場は、国の「産地パワーアップ事業」のモデル工場となり、その技術革新に注目が集まっています。
富士電機は2012年に「ロボット探検隊」を立ち上げ、以来自社工場、設備の内製化・自働化を推し進めてきました。
今回の成果は、これまで培ってきた技術の結晶です。

関連動画(お客様インタビュー)