富士電機技報
第86巻第4号(2013年12月)

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

企画意図

低炭素社会の実現に向けて,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの普及と,そのエネルギーを効率的に利用するパワーエレクトロニクス技術に対する世の中の期待は非常に高まっています。この期待に応えるため,富士電機では,環境,エネルギー,自動車,産業機械,社会インフラ,家電製品など多くの分野に向けて,エネルギー変換効率が高く,低ノイズで使いやすいパワー半導体製品を開発しています。 本特集では,パワーエレクトロニクス技術のキーデバイスであるパワー半導体について,最新の技術および製品を紹介します。

〔特集に寄せて〕小型・高速・高効率への果てしなき挑戦

岩崎  誠
名古屋工業大学大学院工学研究科教授
工学博士

パワー半導体の現状と展望

高橋 良和 ・ 藤平 龍彦 ・  宝泉  徹

富士電機では、エネルギー変換効率が高く低ノイズの、地球環境にやさしいパワー半導体製品を開発している。これらの製品は,環境、エネルギー、自動車、産業機械、社会インフラ、家電製品などの分野に広く適用され、世の中に貢献している。本稿では、SiCハイブリッドモジュール、超小型・高信頼性All-SiCモジュール、3レベル電力変換器用大容量IGBTモジュール、ハイブリッド自動車用IPMなどのパワーモジュール製品、および第2世代LLC電流共振ICやワンチップリニア制御用IPSのパワーディスクリート・パワーIC製品、ならびにこれらを支える要素技術について現状と展望を述べる。

1,700V 耐圧SiC ハイブリッドモジュール

小林 邦雄  ・ 北村 祥司  ・ 安達 和哉

Siデバイスに替わり,耐熱性と高破壊電界耐量を持ったSiCデバイスが,装置の高効率化や小型化を実現するものとして有望視されている。富士電機では,高効率インバータ(690V系)向けに1,700V耐圧のSiCハイブリッドモジュールの開発を推進している。FWDには,独立行政法人産業技術総合研究所と共同で開発したSiC-SBDチップを適用し,IGBT には,富士電機製「V シリーズ」IGBT チップを適用した。漏れ電流特性やスイッチング特性を改善することにより,300A品において,従来のSiモジュールに比べて発生損失を約26%低減できることを確認した。

超小型・高信頼性All-SiCモジュール

仲野 逸人 ・ 日向 裕一朗 ・ 堀尾 真史

SiCデバイスは,高耐圧,低損失,高周波動作および高温動作を実現する優れたデバイス特性を持っている。富士電機のAll-SiC モジュールは,半導体素子接合と樹脂封止構造が特徴である。従来製品と比較して,フットプリントは50%小型化し,インダクタンスは75%低減し,スイッチング損失は約35%低減した。また,大容量化においてモジュールを4台並列接続した場合でも,スイッチングが可能であることを実証した。パワーサイクルだけでなく高温高湿の状態においても従来製品以上の信頼性を確認した。

175℃連続動作を保証するIGBTモジュールのパッケージ技術

百瀬 文彦 ・ 齊藤  隆 ・ 西村 芳孝

インバータの小型化とコストダウンの要求に応えるため,IGBTモジュールには従来に増して高パワー密度化が求められている。富士電機は,アルミニウムワイヤ,はんだおよび表面電極保護膜を新たに開発して,IGBT モジュールの連続動作温度を従来の150 ℃から175 ℃へ向上させることで高パワー密度化を実現した。パワーサイクル寿命は,全ての温度領域で従来に比べ2倍以上を達成した。これにより汎用インバータの最大出力を約20%向上させることが期待できる。

3レベル電力変換器用大容量IGBTモジュール

陳 土爽清 ・ 小川  省吾 ・ 磯  亜紀良

近年,再生可能エネルギーが注目され,特に太陽光発電や風力発電の市場が急速に伸びている。これらの分野では大容量電力変換装置を実現するため,複数の小・中容量IGBTモジュールを並列に接続して使用することが多いが,配線インダクタンスによる高いサージ電圧の発生などの課題がある。富士電機は,素子を1 パッケージ化した3レベル電力変換器用大容量IGBTモジュールを開発している。モジュール内部の主端子ブスバーをラミネート構造とし,内部インダクタンスの低減を達成している。これにより,電力変換効率の向上と装置の小型化が期待できる。

ハイブリッド自動車用IPMのパッケージ技術

郷原 広道 ・ 荒井 裕久 ・ 両角  朗

ハイブリッド自動車の電力を制御するインテリジェントパワーモジュール(IPM:Intelligent Power Module)は,燃費効率と快適性の要求から小型・軽量化を図る必要がある。富士電機は,この要求に応えるため,二つのインバータと昇降圧コンバータを統合した大容量のハイブリッド自動車用IPMを開発した。パッケージ技術である放熱設計技術と高強度はんだ技術により,モジュールとアルミニウムヒートシンクを一体化した直接水冷構造を実現した。本製品は,従来の間接冷却構造に比べて製品の体積30%,質量で60%の削減と,車両に要求される高信頼性を達成し,量産を開始した。

TIMプリペーストIGBTモジュール

磯 亜紀良 ・ 吉渡 新一

IGBTモジュールを実装するとき,IGBTモジュールから発生する熱を速やかに伝達するために,冷却フィンとIGBTモジュールの間にサーマルグリースを塗布する。このサーマルグリース塗布をIGBTサプライヤーに求める顧客が増えている。これに応えるために,フェーズチェンジタイプのTIM(Thermal Interface Material)を用いたプリペーストIGBTモジュールを開発した。採用したTIMは,従来の3倍以上の放熱性能を持つとともに,45℃付近で液状化し,それ以下の温度では固体化するので輸送性に優れている。これにより,放熱性と信頼性(サーマルマネジメント)を向上させたIGBTモジュールを実現した。

第2世代LLC電流共振制御IC「FA6A00N シリーズ」

陳  建 ・ 山田谷 政幸 ・ 城山 博伸

LLC電流共振電源は,ソフトスイッチング,デューティ比50%の共振制御,リーケージトランス構造という特徴があり,スイッチング電源の高効率化,低ノイズ化,薄型化に適している。富士電機は,第1 世代のLLC電流共振制御IC「FA5760N」の特徴を継承しながら,さらなる低待機電力化や保護機能を充実した第2世代の「FA6A00N シリーズ」を開発した。待機電力を従来よりもさらに約2割削減しながら,世界で初めて高精度の二次側過負荷保護機能を内蔵した。過電流保護機能は遅延時間を外部で調整することが可能である。

ワンチップリニア制御用IPS「F5106H」

中川  翔 ・ 大江 崇智 ・ 岩本 基光

自動車電装分野では,システムの小型化,高信頼性化,高機能化の要求が高まっている。これらの要求に応えるため,従来のIPS に高精度電流検出アンプを搭載したワンチップリニア制御用IPS「F5106H」を開発した。第4世代IPSデバイス・プロセス技術を適用してワンチップ化したことで,SOP-8パッケージへの搭載を可能にしている。さらに,接合部温度の最大定格を175℃とし,過酷な温度環境における耐久性を向上するとともに,4.5Vまでの低電源電圧動作が可能である。

新製品紹介

  • 富士電機のトップランナーモータ ―プレミアム効率モータ「MLU・MLKシリーズ」―

  • ストライカ引外し式限流ヒューズ付高圧交流負荷開閉器(LBS)

  • ディスクリートRB-IGBT 「FGW85N60RB」

略語・商標

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