富士電機技報
第89巻第3号(2016年9月)

特集
IoT 新時代の計測・制御ソリューション

特集 IoT新時代の計測・制御ソリューション

企画意図

昨今注目されているIoTは,あらゆる“モノ”をインターネットに接続して情報のやりとりを行い,ビッグデータや人工知能の発展と相まって,新たな顧客価値を創出し,従来の産業・社会構造を大きく変革しようとしています。
富士電機は,エネルギー・環境技術の革新に取り組み,“エネルギーの安定供給”“省エネルギーの実現”“安全・安心の提供”を柱に,お客さまの生産活動全体を対象として設備や施設のライフサイクル全般にわたるソリューションを提供しています。その中で,IoTは富士電機が提供するソリューションの大きな力になるものと確信しています。
本特集では,IoT新時代を見据えた富士電機の最新の計測・制御ソリューションを紹介します。

〔特集に寄せて〕IoTとオープンイノベーション

新  誠一
電気通信大学 情報理工学研究科 教授

〔現状と展望〕IoT新時代の計測・制御ソリューションの現状と展望

近藤 史郎 ・ 福住 光記

富士電機は,社会インフラ,産業用設備,ビルや店舗などの民生分野において,最新の計測・制御技術を展開し,省力化,自動化,高効率化など多くの先駆的実績を挙げてきた。今日では,エネルギー・環境技術により,安全・安心で持続可能な社会に貢献すべく取り組んでいる。近年、IoT(Internet of Things)が大きく注目されている中,富士電機は,現場データのセンシングから,ネットワーク接続技術,データ解析・予測技術,最適化技術,高度制御技術およびその実行基盤としての制御機器まで,一連の製品・技術を保有しており,IoTを活用した顧客価値を創出する各種ソリューションを用意している。本稿では,富士電機のIoTへの取組みと計測・制御ソリューションの現状と展望を述べる。

鉄鋼プラント向け操業最適化ソリューション

富田 嘉文 ・ 吉川  肇 ・ 鳴海 克則

代表的な素材産業である鉄鋼業は,顧客ニーズの多様化により,新たな課題に直面している。富士電機は,鉄鋼プラント向け操業最適化ソリューションをビジネスモデルの柱の一つとして捉えており,企業として重要な経営指標の中から,プラントの安全・安定操業,製品の品質向上,エネルギー原単位削減,操業ノウハウの継承などの課題について,新たなテクノロジーを活用したソリューションを提供し,さらなる付加価値の創出に貢献している。

プラントを最適に運用する計測・制御システムソリューション

吉川  譲 ・ 朱  剣云 ・ 小野 健一

計測・制御システムを取り巻く環境は,プラント運用の最適化や運転員の世代交代などにより,求められる機能が変わってきている。これまでは,単純な監視制御であったが,最近では,トラブルへの迅速な対応や安全・安定操業への課題を解決することが求められる。これに応えるため,富士電機では,プラント異常への迅速な対応を行うためのナビゲーショ ン機能や強制設定機能,ならびに運転員の教育を目的としたシミュレーション機能を提供している。さらに化学プラント, 石油・ガスパイプライン,清掃工場において分野に合わせたソリューションを展開している。

物流センター効率化ソリューション

髙木 秀記

近年,物流センターは,ジャスト・イン・タイムサービスなどのさまざまな物流サービスへの対応が要求され,機能が高度化するとともに大規模化している。一方,物流センター現場の作業はいまだに人手作業中心のため,運用に即した効率改善の仕組みが必要である。従来の仕組みでは効率改善が難しい通過型センターに対応し,富士電機は次の三つの機能 で属人化の解消や効率運用を実現する物流ソリューションを提案している。物流センターを出入りする物量を予測する物量予測機能をはじめ,最適化計画立案を支援する運用支援機能,制約時間内での輸配送完了などを行う車両誘導機能である。

計測・制御技術を活用した植物工場ソリューション

長瀬 一也 ・ 白木 崇志 ・ 岩崎 秀威

近年,農業人口の減少や異常気象に伴う農作物生産の不安定化などを背景に植物工場が注目される中,富士電機は,温度や湿度など複数の栽培環境因子を複合的にコントロールする複合環境制御システムを特徴とする植物工場ソリューションを展開している。現在,複合環境制御システムと連携する生産プロセスデータ予測システムの技術開発を進めており, その一つであるイチゴの収穫量予測機能では,1週間先まで収穫量を予測できるため,販売ロスの低減や人的資源の有効活用による収益改善が期待できる。今後,品種や作物などの違いにも対応する技術開発に取り組んでいく。

設備の安定稼動を支援するサービスソリューション

北谷 保治 ・ 藤田 史彦 ・ 大頭  威

生産計画を達成するためには,設備故障を減らして安定稼動を実現する保全活動が必要である。保全活動は,設備のライフサイクルを通して,時間とコストを考慮した保全計画を策定し,設備状態を常に把握して問題を解決する保全PDCAサイクルを回す活動が基本となる。富士電機は,IoTを活用したクラウド型設備保全サービスを提供し,設備保全による設備の安定稼動を支援している。設備カルテ,稼動監視機能,設備診断機能を連携させて,保全PDCAサイクルに必要な情報を総合的に管理している。

燃料費を削減するボイラ燃焼ソリューション

稲村 康男 ・ 小澤 秀二 ・ 赤尾 幸造

富士電機は,ボイラの燃焼効率を改善し,排ガス熱損失の低減により燃料費を約1%削減できるボイラ燃焼ソリューションを発売した。燃料に対する空気の量を極限まで下げる超希薄空気燃焼によりボイラ排ガスO2濃度を2.40%から0.86%に低減し,450t/hの温水ボイラで年間約28百万円の燃料費が削減できる。ボイラ排ガス中のCO濃度は,リアルタイム測定が可能なレーザ方式CO分析計と組み合わせることで,環境基準値内に抑えることができる。熱源供給用ボイラで試運転を行い,良好な結果を得た。

「エアロゾル複合分析計」を用いたPM2.5発生源推定ソリューション

小泉 和裕 ・ 武田 直希 ・ 中村 裕介

近年,粒径2.5μm以下の微粒子(PM2.5)による大気汚染が懸念されている。特に汚染が深刻なアジア地域では,今後,PM2.5削減の取組みが本格化する見通しであり,効果的な削減策が求められている。富士電機の「エアロゾル複合分析計」は,このPM2.5の主要成分を自動で分析できる。成分の測定データには発生源の情報が含まれるため,データ解析により主要な発生源を推定し,効果的な削減策につながることが期待できる。川崎市や中国での測定例において,発生源の大まかな位置を推定できることが分かった。

新型電子式個人線量計によるリアルタイム遠隔監視システム

中島 定雄 ・ 前川  修 ・ 安部  繁

従来の被ばく管理手法は,あらかじめ設定した被ばく線量に達すると線量計が警報を発し,それ以上の被ばくを防ぐというものである。一方,リアルタイム遠隔監視システムは,管理者がリアルタイムに作業者の被ばく線量を把握し,警報設定値に達する前に適切な指示を与えることで,不要な被ばくを防ぐ処置ができるものである。富士電機が開発した新型 電子式個人線量計は,Wi-Fi規格に対応した汎用のアクセスポイント,クラウドサーバおよびWebアプリケーションを活用することができるため,初期投資を低く抑えてリアルタイム遠隔監視システムを構築することができる。

進化する監視制御システム「MICREX-VieW XX(ダブルエックス)」

永塚 一人 ・ 佐藤 好邦 ・ 笹野喜三郎

中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」は,発売以来,顧客の課題に応えるべく進化を続けている。今までのシステム構成に,コストパフォーマンスの高いオールインワンステーションによるシステム構成やリモート監視ができるシステム構成を加えた。マイグレーション専用のコントローラである「XCS-3000R」,マイグレーションツールおよび ネットワークアダプタにより,既存システムからの柔軟な更新も可能にした。現在,IoTへの対応として,プラントの監視 対象規模の拡大,監視データの長期記録・保存,インターネット接続による応用,セキュリティ確保などを進めている。

統合EMSと容易に連携可能な設備監視システム「MICREX-VieW PARTNER」

鈴木 健浩 ・ 堀口  浩 ・ 臼田 拓史

設備監視システムは,EMS(Energy Management System)と実際の設備とをつなぎ,最適運用を行う基盤システムとして,EMS の市場拡大とともに大きな伸長が予測される。今回開発した設備監視システム「MICREX-VieW PARTNER」 は,統合EMSとの連携機能およびエンジニアリングツールを標準で装備しており,統合EMSと連携する際の導入コストおよび導入期間の最小化を実現する。また,標準的な機能に加えて,スケジュール制御機能やデマンド監視機能,簡易言語によるカスタマイズ機能などを装備することで,さまざまな設備に共通で使用可能である。

IoTソリューションを支える数理応用技術

松井 哲郎 ・ 村上 賢哉 ・ 丹下 吉雄

IoT(Internet of Things)が普及するにつれて,これまでネットワークに接続されていなかった機器が接続され,計測できていなかったデータが収集できるようになる。収集された多種多様なデータを活用し,価値を見いだして提供することが重要である。これを実現するため,富士電機はデータ解析や最適化などの数理応用技術を開発してきた。最新の数理 応用技術には,バッチプロセス向け異常診断技術,アンサンブル予測に基づく予兆検出技術,数式処理最適化による省エネ余地可視化技術があり,さまざまな製品やシステムに適用している。

新製品紹介

  • SiCハイブリッドモジュールの製品系列(600V・1,200V・1,700V)

  • 新デジタル形送電線保護リレー装置(DUJ 形)

  • 屋外設置が可能なデジタルサイネージ型自動販売機

  • 第2世代低損失SJ-MOSFET
    「Super J MOS S2シリーズ」「Super J MOS S2FD シリーズ」

  • 高速ディスクリートIGBT「High-Speed W シリーズ」

略語・商標

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