富士時報
第75巻第8号(2002年)

パワーエレクトロニクス技術特集

パワーエレクトロニクス技術の動向と展望

海田 英俊

地球環境問題に対する解決方法が模索される中,電気エネルギーはそのクリーン性から重要視されている。パワーエレクトロニクスは電気エネルギー変換のコア技術であり,その自在性と制御性は省エネルギー,省資源とそれによる経済効果を得る鍵を握っている。本稿ではパワーエレクトロニクスの課題と,技術開発に対する富士電機の取組みについて述べる。

逆阻止IGBTの適用技術

武井 学・小高 章弘・藤本 久

マトリックスコンバータに代表される直接変換形電力変換回路は直流平滑回路が不要であり,装置の小型化・低コスト化・長寿命化が可能となる方式として注目されている。この方式には双方向スイッチが必要とされているが,富士電機は逆耐圧性能を持つ逆阻止IGBTを開発し,逆並列接続した双方向スイッチを実現した。本稿では,逆阻止IGBTの概要,直接変換回路へ適用した場合の転流動作および損失評価結果について紹介する。

大容量6 in 1 IGBTモジュールの適用技術

滝沢 聡毅・吉田 收志・松原 邦夫

インバータなどの大容量パワーエレクトロニクス装置向けに,インバータブリッジ構成とした新コンセプトの大容量6 in 1 IGBTモジュールを製品化し,本モジュールの適用技術を開発した。大容量6 in 1 IGBTモジュールは従来製品に対して,約1/2の設置面積と約20%の損失低減を特徴としている。またその適用技術として,短絡時の保護動作および並列接続可能なゲート駆動回路,ならびに従来比約56%小型化を図った本モジュール専用の放熱器を開発した。

平型IGBT素子内部の電流測定技術

降矢 正保・石山 泰士

産業・電力・鉄道の分野に適用している電力変換装置には,小型・低コストといった要求とともに,社会基盤を支える大容量装置であるため,高い信頼性が求められる。大容量装置に適用される素子には,従来はサイリスタ,GTOが主に用いられてきた。近年では,IGBTが広く用いられるようになってきた。富士電機では,高耐圧・大電流デバイスである平型IGBTを開発し,製品展開を行っている。本稿では,平型IGBTパッケージ内部に配置されているチップごとに電流センサを取り付け,スイッチング時の電流を測定する技術について紹介する。

スイッチング電源用DC-DC変換技術

鷁頭 政和・西川 幸廣・野澤 武史

電子機器用電源として用いられるスイッチング電源の中で,電流共振型の変換方式は高い変換効率と低ノイズという優れた特性を有している。本稿では,回路方式とともに富士電機独自のスイッチ素子駆動方式として自励発振型ならびに変圧器補助巻線による駆動と低耐圧ICによる駆動を組み合わせた複合発振型を紹介する。また,電流共振型の課題であった,軽負荷時の回路損失を低減する技術,および多出力時の各出力電圧を可飽和リアクトルを用いて高精度に制御する技術についても紹介する。

AC-DC変換回路技術

三野 和明・五十嵐 征輝

入力電流高調波を低減し,高力率かつ高効率化を実現できるワールドワイド入力対応のAC-DC変換回路技術を紹介する。5kW以上の大容量器向けに三相AC 200VまたはAC 400V系共用のワールドワイド対応力率改善回路,200W以下の小容量機器向けには単相入力AC 100VまたはAC 200V系共用でワンコンバータ方式の簡易力率改善回路を開発し,入力電流高調波の低減,高力率化および高効率化が達成できた。

高圧IGBT多直列技術

阿部 康・丸山 宏二

汎用インバータなどの中小容量の電力変換装置には,スイッチング素子としてIGBTが広く適用されており,サイリスタが主流であった高圧・大容量分野にもIGBTを適用することが重要となっている。富士電機でも高耐圧IGBTを製品化しているが,用途拡大のためさらなる高電圧化を可能とするIGBTの素子直列接続技術の確立が必須になっている。本稿では,富士電機で開発を行った直列接続技術について,動作原理,シミュレーション解析,試験結果を中心に紹介する。

永久磁石同期電動機のセンサレス制御技術

野村 尚史・大沢 博

永久磁石同期電動機のセンサレス制御方式として「センサレスベクトル制御」と「V/f制御」を開発した。本稿では2種類のセンサレス制御の原理について述べ,実験結果をもとに特徴と性能を比較する。センサレスベクトル制御は,定格の150%以上の大きな始動トルクが得られ,制御誤差3%以下の高精度なトルク制御ができるのが特徴である。V/f制御は,ハードウェアを安価にでき,電流情報を使った高効率制御と安定化制御によりセンサレスベクトル制御と同等の高効率と速度応答が得られるのが特徴である。

モーションコントロール技術

金子 貴之・市川 誠

富士電機では,パワーエレクトロニクス応用分野として電動機制御へモーションコントロール技術を積極的に適用している。これらの分野はパワーモジュールやLSIなどの半導体技術のほか,制御理論,センサ技術,通信技術などの飛躍的な発展に合わせそれらの利点を取り入れ,着実に進歩している。本稿では,その中でも特にサーボシステムの制御技術に関し,主要技術および将来の展望について紹介する。

超小型サーボシステム「FALDIC-βシリーズ」

中村 和久・遠藤 実・高本 慎一

近年,産業機械の自動化・高性能化が進んでいるが,特に半導体・電子部品加工装置などの分野では,機械のタクトタイム短縮や高精度化,小型化の傾向があり,サーボシステムに対してもさらなる高性能・小型化の要求が一段と高まってきている。これらの要求に応えるために,業界トップレベルの制御性能と業界最小寸法を実現した「FALDIC-βシリーズ」を開発したので,その機能・特徴を紹介する。

瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」

田中 伸央・國中 孝文・内藤 英臣

落雷などによる瞬時電圧低下(瞬低)から負荷機器を守るため,UPS(無停電電源装置)を取り入れているユーザーは多い。小容量のUPSに搭載されているバッテリーは約3年で寿命による交換を必要とし,特に多数のミニUPSを導入しているユーザーには経済的にも労力としても大きな負担になっている。今回製品化した瞬低保護装置「DipHunter」では,蓄電装置にコンデンサを採用することにより,バッテリーを含めた部品交換を一切不要とする,メンテナンスフリー化を実現した。本稿では,その仕様,構成および特徴を紹介する。

24kV脱SF6形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」

小薗 秀明・熊谷 洋・國分 多喜雄

気候変動枠組み条約第3回締約国会議において削減対象ガスの一つに指定されたSF6ガスは,地球温暖化係数比較でCO2の23,900倍とかなり大きな温室効果を示す。そのため電気機器における脱SF6ガス化が求められている。このような観点から,SF6ガスをまったく使用しない24kV 脱SF6形ガス絶縁スイッチギヤ「C-GIS 2100」を製品化した。本稿ではSF6ガスの極少化を達成したC-GIS 2000 の技術に,加圧したドライエアにより絶縁するための新たな技術を付加し,同等の寸法にて脱SF6ガス化を達成したC-GIS 2100について紹介する。

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