富士時報
第83巻第2号(2010年3月)

特集1 社会・産業インフラを支えるエネルギー・環境技術
特集2 受配電・制御機器コンポーネント
普通論文
解説

特集1 社会・産業インフラを支えるエネルギー・環境技術

社会・産業インフラに求められるエネルギー・環境対応

田中 滋夫
富士電機システムズ株式会社取締役

社会・産業インフラを支える環境・省エネルギー技術の現状と展望

川村 逸生 ・ 横幕 博行

2008 年後半、アメリカの金融危機に端を発した世界的経済危機が発生した。この危機を乗り切るために、地球環境保護をキーワードとした経済対策が行われ、世界各国で環境製品が注目を集め導入機運が高まっている。富士電機は、受変電分野や道路・交通分野、クリーンルーム分野、データセンタ分野など基盤分野と位置付けられる社会・産業インフラを支える産業プラントの領域でも、さまざまな省エネルギーや環境に配慮した新技術に挑戦している。“エネルギー・環境”で新たな時代の要求に応え、持続可能な社会の実現に貢献している。

リチウムイオンキャパシタ適用高圧瞬低対策装置「UPS8000H」

依田 和之 ・ 菊池 貴之 ・ 村岸 拓郎

富士電機は、蓄電デバイスに世界で初めてリチウムイオンキャパシタ(LiC)を適用した高圧瞬低対策装置「UPS8000H」を開発した。FDK株式会社と共同開発した専用LiCと各部にユニット構造を採用することで、従来比60%の小型化とメンテナンス性の向上を図った。さらに独自のワンパルス充電方式の適用により商用給電時の装置効率99.3% を実現した。ハイブリッド方式の高速停電検出と高速半導体スイッチの適用により、切替時間2 ms以下の無瞬断切替(JEC-2433 無停電電源システムクラス2)を実現している。

「モルトラ」の適用拡大に向けた最新技術

石田 努 ・ 須川 俊一

モールド変圧器「モルトラ」は難燃性、メンテナンスフリー、小型軽量に加え、油を使わないので環境にやさしいという特徴がある。新エネルギーである風力発電システム用途にはコイル縮小、相間および一次側盤面間のバリアレス化、H種絶縁の採用、二次端子・相間リードシールド構造を適用して、34.5 kV絶縁性能の確保や小型軽量化を実現した。電力貯蔵装置向けの特殊電源用には、一般高圧モルトラの4倍程度の過電圧入力に耐えるものを開発した。また、国内最大級容量モルトラについては、建物の高層階電気室への設置においてモルトラを分解し治具を用いて搬入制約条件に対処した。

首都高速中央環状新宿線 電気集じん設備

青木 幸男 ・ 瑞慶覧 章朝 ・ 中山 勉

都市部の高速道路は、交通渋滞や環境の問題から地下トンネル化が進められている。トンネル内の空気には自動車が排出した浮遊粒子状物質(SPM)が含まれ、トンネル外部への排気が環境基準を満たすための環境対策設備が必要である。
富士電機は、首都高速中央環状新宿線の環境対策設備として電気集じん装置(ESP)を納入した。ESP 内部構造および電源の見直しを図り、SPM の除去性能を維持したまま処理風速の高速化を実現した。SPMの再飛散を抑制するため、集じん部には矩形(くけい)波交流電圧を印加する方式を採用した。

第2世代ETC 用車両検知器「FVS-2」

長島 淳 ・ 田ノ下 勝 ・ 古田 裕次

各高速道路会社はETC(自動料金支払いシステム)を改良するため、設備間の接続条件(インタフェース)の明確化や統一化など第2世代のシステム仕様を決めた。富士電機は第1世代で培った車両検知器の技術を発展させ、新しい仕様に対応しただけでなく、虫や小動物、雪などの異物対策、筐体(きょうたい)の小型化の必要性、光軸調整や保守管理の容易化なども考慮して設計した。2009年度に第2世代ETC 用車両検知器「FVS-2」の製品化を行い、初号機を納入した。

環境配慮型データセンタを支える省エネルギー冷却システム

峰岸 裕一郎 ・ 水村 信次 ・ 岩崎 正道

データセンタでは、サーバから発生する熱を効率よく除去する工夫が求められている。富士電機は、局所空調システムを開発した。局所冷却ユニットに取り込む空気の露点温度と冷媒温度を常時監視し、結露発生を未然に防止する。自動冗長機能により、異常発生時には局所冷却ユニットおよび冷媒ポンプユニットを冗長機へ自動切替えが可能である。また、気流解析による気流の均一化を図り、局所冷却ユニットの小型・高性能化も実現し、省エネルギー化を図っている。

最新鋭液晶クリーンルームシステムとコンポーネント

澤田 朋之 ・ 水谷 友範 ・ 松木 幹夫

フラットパネルディスプレイ(FPD)産業を牽引(けんいん)する液晶パネル工場では、生産性向上のためマザーガラスの大型化や高速化によるタクトタイム短縮が進んでいる。世界初の第10世代マザーガラスを用いた最新鋭液晶パネル工場向けに、新方式の気流制御でクリーンルームシステムを垂直立上げした。大型化するクリーンルームに対応した工事体制を築くため、実際のクリーンルームを模擬したラーニングセンタを富士電機内に設置して、工事作業者の入所前教育ができる体制も敷いている。さらに、歩留りを改善しつつタクトタイムを短縮するガラス基板精密温調装置も開発し、納品した。

過熱蒸気発生装置と誘導加熱の新技術

藤田 満 ・ 倉田 巌

誘導加熱(IH)は、非接触加熱、高効率、高い制御性およびクリーンで安全な作業環境などの特徴を持ち、金属の溶解やビレット・板の加熱など主に素形材分野で使われてきた。富士電機はIH 応用として、水からワンスルーで450 ℃、0.3 MPa の過熱蒸気を発生効率95%で発生できる装置(IHSS)を製品化し、素形材以外の食品加熱や殺菌、脱脂などの分野にも適用拡大を図っている。また、従来のMOSFET 電源よりも小型(体積を約60% に低減)で、髙効率化(変換効率97%)を図った5から50 kHz、100から2,000 kW 高周波IGBT電源を製品化した。

特集2 受配電・制御機器コンポーネント

エネルギーシステムを支える基盤技術

澤 孝一郎
慶應義塾大学名誉教授
日本工業大学特別研究員

開閉、操作・表示、制御機器の現状と展望

久保山 勝典 ・ 鹿野 俊介 ・ 月花 正志

低炭素社会を実現するため、エネルギーの発電・給電システムの多様化が進んでいる。多様化により太陽電池発電設備やデータセンタの直流回路向け器具の要求や電気設備の省エネルギー(省エネ)への要求が高まっている。この要求に応えるため、富士電機は配線用遮断器「Compact NSシリーズ」の機種を拡大した直流遮断器の提供や事業所などの電気・ガス・水道の使用量を監視する「F-MPC」を製品化し、ユーザの省エネ活動にも貢献している。なお、低圧機器の安全規格や法律の動向への対応を製品やシステムレベルで行えるようにし、ユーザ顧客設備の本質安全にも貢献している。

エネルギー監視システム・機器「F-MPC シリーズ」の取組み

町田 悟志

富士電機では地球温暖化対策に貢献するため、さまざまな省エネルギー・創エネルギー製品を提供している。エネルギー監視システムには、パソコン上で動作するソフトウェアとして、データを収集する「F-MPC-Net Web」とデータを解析する「F-MPC-EcoWeb」、これらソフトウェアの機能をコンパクト化しハードウェアで実現した「F-MPC Web」ユニットを取りそろえている。計測装置と組み合わせて、工場などの産業施設や学校・病院などの公共施設、店舗などの業務施設の電力・水道・ガスの使用量が監視できる。さらに、小規模から大規模施設への高い拡張性も特徴である。

電磁開閉器・接触器「NEO SC シリーズ」の機種拡充

渡邊 勝昭 ・ 代島 英樹 ・ 有吉 広亙

電磁接触器の小型軽量化、操作回路の低電圧直流化、直流操作回路の投入電力低減の市場ニーズに応えるため、富士電機は従来品との互換性(外形寸法、取付寸法、端子位置)を維持しつつ軽量化した交流操作形電磁接触器「SC-N5A」、従来品に比べて操作回路の投入電力を大幅に低減した直流操作形電磁接触器「SC-N4/G」「SC-N5/G」を開発し、5.5 kW から22 kW の「NEO SCシリーズ」の機種を拡充した。多目的アルゴリズムを活用した消費電力と電磁石寸法の最適化、電磁界運動連成解析、大変形解析、熱流体解析などを行い、新電磁石構造を開発した。

グローバルツインブレーカ「G-TWIN シリーズ」の新技術

岡本 泰道 ・ 佐藤 朗史 ・ 浜田 佳伸

富士電機は、市場のグローバル化を背景に、グローバルツインブレーカ「G-TWIN」の開発・製品化を順次進め、2009年1 月には32から800 AF のシリーズが完成し、本格的な市場展開を図っている。下位機器との遮断保護協調の関係で、小型・高限流化新技術としてフォーク型二接点遮断方式を採用した。また、電力の供給安定性・信頼性の観点から、近年需要伸長が期待されている母線直結形プラグインブレーカの機種を拡充した。さらに独自のアーク消弧機能を開発して、太陽電池やデータセンタなどの直流回路向け遮断器の機種も拡充した。

機械装置の信頼性を支える安全機器

石川 公忠 ・ 山先 孝雄 ・ 菅原 聡

工場、鉄道などで発生する事故を背景に、機械・設備安全への関心が高まっている。開発した瞬停再始動リレーは、停電時間に応じた瞬時再始動、時限再起動、再始動禁止の三つの機能を併せ持っていることが特徴であり、モータの再始動制御を安全に行うことができる。また、非常停止スイッチやワイヤトリップスイッチ、安全ドアスイッチ、ライトカーテン、安全マット、両手操作ステーション、安全リレーユニットなどの安全規格適合機器をそろえ、機械装置のリスク低減に貢献している。

電子機器・設備保護のための低圧用避雷器の適用技術

石川 雅英

雷害の増大、避雷器のJIS制定などで雷保護意識が高まり、避雷器の需要が拡大している。富士電機はこの需要に応える電源用や通信・信号用の低圧用避雷器の製品開発・シリーズ化に取り組んできた。電源用避雷器は被保護機器の電源線と接地端子の間に設置する。計装システムなどでは、信号用避雷器をセンサ側と監視室側の被保護機器のそばに設置することが望ましい。SPD(避雷器)分離器用として配線用遮断器の雷サージ電流耐量試験結果に基づいた不要動作が発生しない、接点溶着などの不具合現象を生じない配線用遮断器の機種選定ができるようにした。

開閉、操作・表示、制御機器の最適設計技術

坂田 昌良 ・ 恩地 俊行

開閉、操作・表示、制御機器では、高性能、高品質を達成するために、独自のシミュレーション技術や計測技術の工夫や開発を行っている。開閉機構に利用するスナップアクションではシミュレーションを用いた品質の向上、動作機構に利用されるソレノイドの開発では渦電流を考慮した電磁界解析の適用を行った。また、近年関心が高い直流遮断の開発ではアーク挙動の計測技術や遮断特性のシミュレーション技術、さらに、短絡時に発生する高温ガスの温度評価技術や漏洩(ろうえい)電流評価技術を用いて絶縁空間の最適化を行い、小型化や低消費電力化に貢献している。

普通論文

産業機器向けLED 照明・表示器の要素技術

吉田 隆 ・ 平山 紀友 ・ 坊野 憲司

LEDは発光効率が高いことや、紫外線による色あせを起こさないなどの特徴により一般照明だけでなく、産業用照明機器・表示機器への適用も注目されている。富士電機のLED 照明・表示器は導光板を用いた方式を採用し、少ない光源数で広範囲の照光ができる工夫を行っている。従来のLED照明・表示器と比べても、大幅な省エネルギーが期待できるだけでなく、蛍光灯外形よりも薄型で機械や装置などに組み込みやすく、導光板の形状を変えることで、さまざまな用途に対応可能なフレキシビリティを備えている。

解説

PUE(電力使用効率),COP(成績係数)

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