富士時報
第84巻第3号(2011年5月)

特集 スマートコミュニティ

〔Preface〕Towards to a smart community: the role of smart grids
〔巻頭言〕スマートコミュニティに向けて─スマートグリッドの役割─

Deqiang Gan 甘 徳強
Professor, School of Electrical Engineering
Zhejiang University
浙江大学電気工程学院教授

Rongxiang Zhao 趙 栄祥
Professor, Zhejiang University
浙江大学教授

スマートコミュニティの現状と展望

菅井 賢三 ・ 小林 直人 ・ 桑山 仁平

スマート化された電力グリッドや高効率なエネルギー利用、安定した水供給などにより、低炭素で利便性の高い都市インフラを実現する“スマートコミュニティ”が世界的な動向となっている。富士電機では、得意とするパワーエレクトロニクス技術を中核とし、社会インフラに関わるスマートコミュニティ製品の拡充を進めている。これらの製品は、統一されたインタフェースを持ち、同時にエネルギーの見える化や設備の最適運用を実現する統合エネルギーマネジメントシステム(EMS)により全体制御される。スマートコミュニティ事業の展開は、海外輸出も視野に入れ進めている。

次世代エネルギー・社会システムへの取組み

笛木 豊 ・ 桑山 仁平

富士電機は、次世代エネルギー・社会システムとして「富士スマートネットワークシステム」を実現するために、対象地域の電力安定化と省エネルギー・低炭素化を地域分散型で実現し、送電系統に影響を与えることのないシステムの構築を目指している。太陽光発電の大量導入による電圧上昇、スマートメータを活用した直接・間接負荷制御による省エネルギー、熱やガスなどの相互融通などを地域全体で取り組み、エネルギーに関する課題を地域内で解決することを目的としたシステムである。国内では北九州市やけいはんな学研都市に参画し、海外ではNEDOからの委託を受け基礎調査を進めている。

離島向けマイクログリッドシステム

小島 武彦 ・ 福屋 善文

世界には無数の有人離島があり、その多くは独立した電力系統により運用されている。小中規模離島では系統規模が小さく、発電機の慣性エネルギーが小さいため、再生可能エネルギーの出力変動の影響を受けやすい。富士電機では、この問題を解決できる離島向けマイクログリッドシステムの構成検討を行うとともに、再生可能エネルギーを大量に導入したときの独立系統における課題とその対応方法を検討してきた。本稿では、マイクログリッドシステムを小中規模の離島に適用する上での課題と解決方法、ならびに九州電力管内の6島と沖縄電力管内の3島で実施中の実証試験の概要を示す。

浙江大学との産学連携の取組み─スマートグリッド関連事業の創出へ─

雷 云 ・ 金子 公寿 ・ 小林 直人

中国では、2000年代になってから経済の発展とともに市場が拡大している。富士電機では、中国顧客のニーズに合った製品を開発・製造するための施策として、中国のいくつかの大学と協力関係を持ち、産学連携活動を行ってきている。その中で、浙江大学と包括契約を結び、新製品および新規事業創出のための研究活動に加え、社会貢献活動を行うなど、独自の産学連携を推進している。スマートグリッド関連事業の創出のために、これまで行ってきた配電系統の電力品質計測でのGB規格(中国国家標準規格)に準拠したシステム開発や実証実験を経て、電力安定化技術などへ展開を行っている。

次世代の電力流通を支えるシステム技術

高橋 省 ・ 金澤 康久 ・ 鈴木 立夫

太陽光発電が大量に導入されると、逆潮流・電圧変動が発生する。また、正味の需要は把握できず需給制御に影響を及ぼすことが予想される。この課題を解決するために富士電機は、電圧制御機器の最適配置と整定値の最適化を行い、集中制御する方式を開発している。解析用機器モデル、太陽光発電の出力予測方式および需給制御機能も開発している。
高経年設備の取替えのために新IEDを適用したユニット更新タイプの保護リレーを、電力会社での運用形態の多様化のためにIPネットワーク機器、広域分散対応電力用ミドルウェア、防災危機管理支援システムを開発している。

スマートグリッドを支えるパワーエレクトロニクス技術

仁井 真介 ・ 加藤 正樹

スマートグリッドは、再生可能エネルギーの大量導入が系統全体に及ぼす影響を低減するシステムである。再生可能エネルギーは発電出力の制御が困難なものが多く、大量に導入するためには高速で高精度な制御を行うことができる電源システムが必要である。その実現のために、パワーエレクトロニクス(パワエレ)技術が重要な役割を担う。主なパワエレ応用技術に、充放電制御技術と需給制御技術がある。スマートグリッドに適用される機器として、配電用パワエレ機器、スマートPCSおよび新エネルギーパッケージがあり、「富士スマートネットワークシステム」への展開を目指している。

スマートグリッドを支えるメータリング技術

松田 秀樹 ・ 武田 康一 ・ 柳谷 慎之輔

近年、再生可能エネルギーを電力系統へ柔軟に連系する“スマートグリッド”が世界規模で注目されている。海外では、 スマートグリッドの構成要素の一つである“スマートメータ”の導入が先行し、電気事業者と各需要家間の双方向通信が可能となっている。日本では、スマートメータによる電力使用量の遠隔検針や遠隔操作による電力供給調整を主な目的とし、将来的には新しいサービスの提供が期待されている。富士電機は、需要家が省エネルギーやピークシフトに積極的に参加可能な“スマートメータリング”を開発している。

統合エネルギーマネジメントシステムプラットフォーム

堀口 浩 ・ 石川 健一 ・ 福山 良和

鉄鋼、一般産業、店舗流通、水処理、地域コミュニティなど、さまざまな分野におけるエネルギーの見える化や省エネルギー(省エネ)制御処理を統合し、エネルギーマネジメント機能を迅速かつ廉価に提供するための統合エネルギーマネジメントシステムプラットフォームを開発した。電力、ガス、水、熱などのさまざまなエネルギーモデルを扱うことができ、自然エネルギーも含めた省エネ最適制御が可能である。各種Web画面において各国の言語をサポートし、サーバ1台の小規模システムから数十台にも及ぶ大規模システムまでを同じエンジニアリングツールで簡単に構築できる。

小売店舗向けエネルギーマネジメントシステム

新海 徹二 ・ 武田 久孝 ・ 津村 明憲

「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)の改正により、小売店舗を数多く所有している事業者にはエネルギーの見える化や計画的な省エネルギー推進が義務付けられた。しかし、小売店舗にエネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入すると初期投資が膨大になる課題があった。これを解決するため、富士電機は導入コストを最小限に抑え、かつユーザの社内ネットワークへの接続を必要としないWeb型EMSを開発した。また、小型ながら多点計測が可能で、 さらにタッチパネルモニタを装備したエネルギー監視ユニットを製品化した。

解説

略語・商標

本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。