社長メッセージ

富士電機レポート2020

社会における富士電機の存在意義

 はじめに、このたびの新型コロナウイルス感染症に罹患された方々に謹んでお見舞い申し上げますとともに、医療従事者の方々、ならびに私たちの生活を支えてくださっているすべての方々に深く感謝申し上げます。
 今日、世界では気候変動、都市化、ならびに高齢化による人口構造の変化に加え、貿易摩擦をはじめとした地政学リスク、そして、新型コロナウイルス感染症がもたらす影響など、私たちを取り巻く経営環境は一層複雑化し、不確実な要素が多岐にわたっております。とりわけ、この感染症の世界的な拡大は、グローバルで人・モノの移動停止、サプライチェーンの分断を引き起こし、過去に経験のない社会・経済への多大なる影響をもたらしています。
 富士電機は、「豊かさへの貢献」「創造への挑戦」「自然との調和」を経営理念に掲げ、エネルギー・環境事業で持続可能な社会の実現に貢献していくことを経営方針の柱に据えておりますが、これはまさに、国際社会が目指す経済・社会・環境の統合的向上に応えるものであり、ウィズ・アフターコロナの時代においても不変であります。当社は、企業活動全体でSDGsを推進し、サプライチェーンを視野に入れて、地球温暖化をはじめとする社会・環境課題の解決に取り組み、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

2019年度業績は減収減益も、将来成長に向けた投資を遂行

 2019年度は、2023年度を最終年度に「売上高1兆円、営業利益率8%以上」を経営目標とする中期経営計画「令和.Prosperity2023」をスタートさせました。エネルギー・環境事業で社会と共に繁栄(Prosperity)を目指すという思いを込めています。2023年度に向け成長ドライバーと位置付けるのが、パワエレシステム事業とパワー半導体事業です。

図:2023年度中期経営計画 重要課題 持続的成長企業としての基盤確立。成長戦略の推進、収益力の更なる強化、経営基盤の継続的な強化
図:財務指標

 2019年度連結業績は、昨年度から続く米中貿易摩擦の長期化影響、加えて、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う移動制限や工場の一時閉鎖などの影響により、売上高は前年度比143億円減の9,006億円、営業利益は同175億円減の425億円、親会社株主に帰属する当期純利益は同115億円減の288億円と、大幅な減収減益となりました。ただ、この厳しい環境下でも将来成長に向けた投資を進め、注力地域である東南アジアでは、タイ工場に盤システムを担う第三棟を建設、インドで電源装置メーカーを買収し、事業拡大の礎を築くとともに、電動車向けパワー半導体では生産能力増強投資を実施しました。また、株主の皆様への配当は前年度と同額の80円、さらに社員への賞与も前年と同水準を支給することとしました。こうした意思決定ができたのは、リーマン・ショックで営業赤字に転落後、持株会社制廃止による事業の一体運営、事業ドメインの明確化、生産拠点の再編をはじめとする事業構造改革、地産地消の徹底やものつくり力の強化、社員の意識改革などにより、収益力が強化され、財務体質が着実に改善されているからにほかなりません。残念なのは、製品不具合が発生したことです。製品品質はお客様からの信頼・信用を獲得する大前提となるものであり、再発防止に徹底的に取り組みます。

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2020年度は中期経営計画目標に向けた新たな基盤確立の年

 中期経営計画初年度から苦戦を強いられましたが、私は現時点で、2023年度経営目標の「売上高1兆円、営業利益率8%以上」を変えるつもりはありません。当社の手掛けるエネルギー・環境事業は、中長期的にグローバルで求められる技術と商材であると確信しているからです。低炭素社会の実現に向け、クリーンエネルギー、エネルギーの安定供給、省エネのニーズが一層高まるなか、当社の得意とするパワー半導体技術やパワーエレクトロニクス技術を生かしたビジネスチャンスは広がっています。また、国内における労働力不足の問題に新型コロナウイルス感染防止対策も加わり、自動化による省力化・省人化、遠隔監視・非接触のニーズが高まるとみています。
 今年度は2023年度中期経営計画の目標に向けた新たな基盤確立の年と位置付け、パワエレシステムおよびパワー半導体を核とする成長分野への経営資源の傾注、ならびに、更なる収益力強化に向けたものつくり力の強化に継続して取り組んでいきます。
 財務の方針としては、当面は非常事態に備え、十分な手元流動性を確保します。中期的には、事業拡大に向け成長投資に振り向けるとともに、株主還元はこれまで通り安定継続配当を重視します。また、資本効率面では、利益の向上とともに、運転資金の圧縮に加え、政策保有株式の有効活用も視野に入れ、ROEの質的向上に継続して取り組んでいきます。
 なお、2020年度業績予想につきましては、新型コロナウイルス感染症の影響により、現時点で顧客の設備投資動向および生産動向を予測するのが非常に困難な状況であるため、発表を見送らせていただいておりますが、上期決算の発表時期には通期業績予想を発表できるよう準備する考えです。

電動車向けパワー半導体に積極投資

 パワー半導体は世界トップレベルの技術力と信頼性を強みに、自動車の電動化や再生可能エネルギーの普及拡大を成長機会として積極投資を継続します。とりわけ、世界各国での環境規制の強化により、中長期的に電動車の需要拡大が見込まれるなか、当社は小型化と高信頼性で他社に先行しているRC-IGBT(逆導通IGBT)で、お客様より高い評価をいただいており、電動車市場の動向を見極めながら、投資のリスク分散も視野に入れ、生産能力の増強を図ります。

パワエレシステムは海外事業拡大

 幅広い産業分野に顧客基盤を持つパワエレシステムは、強いコンポーネントにエンジニアリング・サービス、最適制御技術、IoTを組み合わせたシステム事業の強化に取り組んでいます。これを成長ポテンシャルの高い海外でいかに拡大できるかが鍵です。社会・産業インフラ整備が進み、電力の安定供給や省エネの需要拡大が見込まれるインド、東南アジアでは、事業拡大に向け着実に基盤整備ができてきました。インドでの製造・販売・サービス拠点の再編・拡充、東南アジアでのプラントシステムの製造・エンジニアリング体制強化を踏まえ、グローバルでシステム事業の拡大を図ります。

ものつくりのデジタル改革、
海外生産拠点の自律化に向けた人財育成を推進

 私は、社長就任以来、メーカーとしての原点であり利益の源泉となる「ものつくり力」を重視し、一貫して社員に言い続け、その強化に取り組んできました。これまで内製化、標準化を進めるとともに、熟練度を要する作業、重労働作業、試験検査の自動化に取り組み、生産性を向上させてきました。さらに、革新的な生産性向上に向け、IoTを活用したものつくりのデジタル改革に取り組み、設計、購買、製造、試験の情報の見える化、共有化による工程間・拠点間の連携を進めます。また、品質記録のデジタル化を通じて、開発・試験品質の向上に徹底して取り組みます。
 中長期的に海外事業を拡大していくなか、地産地消をさらに徹底するとともに、日本のものつくり、技術を海外生産拠点に移管し、現地リーダー層の人財育成を継続的に行うことで、自律化を進め、競争力を高めていきます。

SDGsを全社活動として推進

 持続的成長に向け「SDGs達成貢献」を全社活動と位置付け、事業機会の創出と経営リスクの低減の両面から、長期的な企業価値向上に取り組みます。
 今年4月、SDGs推進を経営レベルで議論・決定・評価することを目的にSDGs推進委員会を新設しました。本委員会では、SDGs視点からの重要課題の審議、施策の評価を行い、当面の課題として、サプライチェーン全体を通じての環境、人権、および、人財活躍推進と働き方改革に取り組んでいきます。

図:SDGs推進体制 SDGs推進体制、人権・人財活躍推進部会→SDGs推進委員会→経営会議→取締役会

「環境ビジョン2050」の推進

 富士電機は本業であるエネルギー・環境事業を通じて、社会のCO2削減に貢献できることが最大の強みです。地球温暖化対策を積極的に進める顧客からの相談が増え、商談活動も活発化しています。当社は「環境ビジョン2050」を柱に、生産活動におけるCO2の削減、製品による社会のCO2の削減、そして製品・部材のリデュース・リユース・リサイクルによる資源有効活用を推進し、サプライチェーンにおける低炭素社会の実現、循環型社会の実現を目指します。また、今年6月、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同表明し、環境に係る情報開示を一層充実させるとともに、気候変動リスクへの対応力を強化していきます。

人権尊重と多様な人財の活躍推進

 「人」は企業の競争力の源泉であるとの考えのもと、企業行動基準に「人を大切にする」を掲げ、人権尊重と多様な人財の活躍を推進しています。グローバルな事業拡大に欠かせないのが、サプライチェーンにおける人権課題です。国内外の子会社、お取引先様も含めて、人権に対する当社方針の理解浸透と、人権デュー・デリジェンスに取り組みます。
 加えて、シニア世代や女性の活躍推進はますます重要になっています。制度や支援の仕組みは整備されてきており、これからは実行面で多様な人財が働きがいをもって、仕事ができるようにしていくことです。70歳代の社員がいきいきと働いている、女性の役職者が仕事と家庭を両立させ意思決定に参画している、こうした経営を目指していきたいと思います。また、新型コロナウイルス感染防止対策として本格的に活用が始まったテレワークですが、これを機会と捉え、社員の安全と健康、生産性向上に向けた働き方改革によりワーク・ライフ・バランスの推進につなげていきます。こうした取り組みと並行して、社員の意識調査を毎年継続して行い、部門長である執行役員がしっかりと認識共有を図り、全社的な視点で対策を講じるとともに、各職場でもより働きやすい環境づくりに努めていきます。

持続的成長に向け、ガバナンスの実効性を向上

 昨今、経営リスクが多様化し、変化のスピードが激しくなっているなか、リスクマネジメントの重要性が一層増しています。これまで以上に多面的視点、かつ、迅速な対応が求められており、大規模災害や感染症拡大への対応も含めた事業継続力のさらなる強化に取り組みます。加えて、昨年7月、社外取締役を委員長とし、過半数を社外取締役で構成する指名・報酬委員会を設置しており、取締役、監査役の選解任および報酬等につき透明性・客観性を強化し、持続的成長に向け、総合的にガバナンスの実効性向上に努めています。

「熱く、高く、そして優しく」Prosperityを追求

 全社活動Pro-7は、収益力改善を目的として2012年にスタートさせたもので、Prosperity(会社の繁栄、株主様への還元、社員の幸せ)に向け、社員がチームをつくり、仕事のやり方をゼロベースで見直し、業務効率・業務品質を向上させる取り組みです。間接部門も含め現場の隅々まで浸透し、社員の意識を変え、今や、Pro-7活動は業務そのものとなっています。
 こうした社員の行動や意識の源泉には、経営スローガンに掲げる「熱く、高く、そして優しく」があります。新しい技術や製品を生み出し、社会に貢献するという「熱い」気持ち。「高い」目標を掲げ、どんな困難にも立ち向かっていく気概。そして、お客様、仲間、家族に感謝し、大切に思う「優しさ」。この優しさこそ、代々受け継がれてきた富士電機のDNAであり、揺るぎない価値観です。このDNAを大切にしていきたいとの思いから、私はあらゆる場を通じて社員に言い続けてきました。そして、経営スローガンを共有する社員全員がチームでPro-7活動を進化させることで、当社の経営基盤は一層強くなるものと考えています。
 富士電機は2023年に100周年を迎えます。これからも持続的に発展していける企業であるために、多様な個性を持った社員がチームで総合力を発揮し、エネルギー・環境技術にさらに磨きをかけて、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献し続けます。
 株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆様におかれましては、今後とも一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。