富士電機技報
第87巻第1号(2014年4月)

特集 産業・社会に貢献する計測・制御ソリューション

特集 産業・社会に貢献する計測・制御ソリューション

企画意図

安全で安心して暮らすことのできる持続可能な社会の実現のために,環境汚染や地球温暖化などの課題を早急に解決することが求められています。人々の生活の基盤である産業・社会インフラの役割は,ますます大きくなってきています。
富士電機は,産業・社会インフラ分野において,“エネルギーの安定供給”“省エネルギーの実現”“安全・安心の提供”を3本柱に,お客さまの生産活動全体を対象に,設備や施設のライフサイクル全般のソリューションを提供することを目指しています。計測・制御技術は,そのための基盤技術です。センサ技術,制御技術,システム化技術,最適化アルゴリズムなどのコンポーネントがあり,これらをネットワークで有機的につないで,お客さまに最適なソリューションを提供しています。
本特集では,産業・社会に貢献する計測・制御のソリューションへの取組みと,それを支える最新技術および最新コンポーネントについて紹介します。

〔特集に寄せて〕新しい計測・制御技術への期待

増田 士朗
首都大学東京 システムデザイン学部教授
工学博士

ソリューションを支える計測・制御技術の現状と展望

近藤 史郎 ・ 福住 光記

富士電機の産業インフラ事業は,工場,施設,工業団地などを対象として,“エネルギーの安定供給”“省エネルギーの実現”“安全・安心の提供”を3本柱に,お客さまの“スマート化”を目指している。お客さまの生産活動全体を対象に,設備や施設のライフサイクル全てに対してソリューションを提供する。富士電機は,計測・制御技術を,産業インフラ事業の基盤技術として位置付けており,制御技術,センサ技術およびネットワーク技術で設備や施設を有機的につなぎ,見える化を実現してソリューションを提供する。本稿では,ソリューションを支える計測・制御技術の現状と展望を述べる。

安定操業・省エネルギー・環境保全を支える計測・制御システムソリューション

庄林 直樹  ・ 小出 哲也  ・ 稲村 康男

操業の安定化や高度化,エネルギー効率の向上,環境保全などが,さまざまな分野に共通する顧客の課題となっている。これに対して,富士電機は,計測機器における60 年以上の経験を生かし,計測・制御システムソリューションを提供している。鉄鋼業界では,製鉄所の安定操業,エネルギー運用の効率化,高品質製品の安定生産を支えている。化学,食品,医薬品業界では,多品種少量生産への対応,安全・安定操業,予防保全,製品製造記録の確保を支えている。また,清掃工場,ボイラ設備,セメント工場においては,安全・安定操業,環境対策などを支えている。

高速コントローラ・大容量ネットワークによる駆動制御システムソリューション

小田 孝一 ・ 常盤 欣史 ・ 大坪 宏輔

近年,プラント制御分野では,製品の高品質化と操業の安定化・高効率化のために,駆動制御システムに対して,制御応答の高速化や膨大な情報の高速処理が求められている。富士電機は,システムコンポーネントの高機能化とネットワークの高速・大容量化により,これらの要求に応えている。適用例として,プレス機械,鉄鋼プロセスライン,条鋼圧延ラインにおけるソリューションがある。鉄鋼プロセスラインでは,保守の合理化のために,インバータの遠隔監視・操作ができるインバータ透過接続機能を用いて保守ツールを統合している。

安全・安心に貢献する放射線管理ソリューション

中島 定雄 ・ 石倉  剛 ・ 松下 智行

富士電機は,商用の原子力発電が始まった1970 年代から,放射線取扱施設における人,物,施設および周辺環境の放射線管理ソリューションを開発し提供することで,放射線(能)に対する安全・安心に貢献してきた。2011 年3 月の東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故以来,放射線測定機器のニーズが大幅に高まっており,震災復旧・復興に向けた放射線管理ソリューションとして放射線測定機器を開発し,提供している。また,海外の放射線取扱施設向けに,その国の法令や国際規格に適合した放射線管理ソリューションも展開している。

プラントの安定操業・効率化を支援するサービスソリューション

福島 宗次 ・ 北谷 保治 ・ 占部  昇

プラントの安定操業・効率化を目指す上で,設備保全が必要不可欠である。特に,設置してから長い期間を経た高経年設備における事故の未然防止が最重要課題である。富士電機は,発電設備,受変電設備,生産設備,ユーティリティ設備などを対象としたライフサイクルサービスを提供している。保全計画立案において中心となる技術は,高圧遮断器,変圧器,回転機などの診断技術と延命・更新技術である。さらに,提供するサービスの品質と現場における保守技術力の強化をはじめ,グローバルコールセンターやロジスティクスセンターを設置し,サービスソリューションに取り組んでいる。

プラント制御におけるデータ分析技術

松井 哲郎 ・ 村上 賢哉 ・ 鈴木  聡

工場の機器からプラントまで安全かつ最適に制御するために,さまざまな制御技術が開発されている。富士電機は,プラントで計測された大量のデータを分析し,有効に活用するための技術開発を行っている。多変量統計的プロセス管理による異常診断技術を用いて,製造プロセスの異常を診断を的確に把握し,稼動率を向上させる。また,部分的最小二乗法による品質推定技術により,製造中の情報から製品品質を推定することで品質や歩留りを向上させる。さらに,パターンマイニングによるログ解析技術により,過去のデータを分析して暗黙知を形式知化することでオペレータを支援する。

安定と安全を支える情報・プロセス制御システム「MICREX-NX」

篠 淳一郎 ・ 鈴木 健浩 ・ 小野 健一

生産現場を支えてきた制御システムは,上位システムとの情報統合,安全システムとの統合,セキュリティの強化などが進んでいる。このような中,更新時期を迎える設備も多く,既設資産の継承と技術革新,国際規格化への対応が求められている。富士電機は,数多くの納入実績がある情報・プロセス制御システム「MICREX-NX」において,新たなバージョンV8.0を市場に投入した。ワイド画面やWindows7への対応,視認性・操作性が向上した画面デザイン,国際規格に適合できるアラーム管理・セキュリティ対応機器・安全計装システムなどでプラント操業の安定と安全を支えるシステムである。

顧客資産の継承と進化を実現する中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」

西脇 敏之 ・ 藤田 史彦 ・ 永塚 一人

中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」は,顧客設備の更新において,既存設備の画面やプログラムの資産を継承するとともに,既設ネットワークとの接続を実現する。画面やプログラムは,垂直水平統合エンジニアリング環境により効率的に作成できる。また,豊富な通信インタフェースを内蔵した小型・高性能・高信頼性コントローラ,高速・大容量二重化I/Oバスなどにより,共通部分のない二重化システムを構築できる。多重故障モードにおいても継続運転が可能であり,高信頼性を実現している。

中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」の最新オペレーション機能とエンジニアリング機能

佐藤 好邦 ・ 北村 純郎 ・ 日向 一人

中小規模監視制御システム「MICREX-VieW XX」は,次の最新機能を備えている。オペレータステーション「XOS-3000」は,マルチウィンドウプラットフォーム「MPF」により高い操作性を実現する。データベースステーション「XDS-3000」は,RDB(Relational DataBase)を用いたデータの分析と,データ欠損のない二重化構成が可能である。統合エンジニアリングステーション「XES-3000」は,TAGや変数の統合データベースと,実機を必要としないシミュレーション機能により,高効率・高品質エンジニアリングが可能である。

機械制御から高度なモーション制御まで実現する統合コントローラ「MICREX-SX シリーズ」

石井  靖

統合コントローラ「MICREX-SX シリーズ」は,小規模システムから大規模システムまで一貫して国際標準規格IEC61131-3に準拠したエンジニアリングが可能である。これによりソフトウェアの部品化が進み,制御システムの開発効率が飛躍的に向上することが期待できる。また,富士電機の駆動製品とネットワークで接続することにより,機械制御から多軸・高速・高精度なモーション制御まで実現できる。主な適用例には,サーボアンプやベクトルインバータと組み合わせたモーション制御と,鉄鋼プロセスラインの制御がある。

省エネルギーに貢献する直接挿入レーザ方式ガス分析計「ZSS」

小西 英之 ・ 金井 秀夫 ・ 小川 敬晴

富士電機は,プロセスの総合的な省エネルギー(省エネ)に貢献するガス分析計を開発してきた。直接挿入レーザ方式ガス分析計は,煙道に直接設置して測定することから高速応答が可能であり,省エネを目的とした制御に適している。従来,1成分に限定されていた装置当たりの測定成分を2成分とする技術を開発し,世界で初めて直接挿入レーザ方式の2成分(O2+CO)ガス分析計「ZSS」を製品化した。O2測定用パージガスに計装エアを使用でき,測定ガス中の耐環境性能(耐阻害物質対策)も向上している。鉄鋼プラントの転炉プロセスや燃焼プロセスへの適用が期待できる。

MEMS 応用感振センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステム

坂上  智 ・ 村上 敬三 ・ 北川 慎治

近年,加速度センサなどのセンサ技術を利用して,地震や常時微動の応答波形から建物の構造性能を診断する構造ヘルスモニタリング(SHM:Structure Health Monitoring)への取組みが盛んになってきている。富士電機ではMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を応用した感振センサと,これを用いた一時診断モニタリングシステムを製品化した。サーボ式加速度計の代わりにMEMS応用感振センサを用いることで,低価格なシステムの構築が可能である。現在,SHMシステムの実用化に向け,建物の健全性を表す指標(特徴量)を推定するための解析技術の研究開発を行っている。

クランプ式無線電力センサ「FeMIEL-SC」「FeMIELWL」によるエネルギーの見える化

項  東輝 ・ 太田 英樹 ・ 中野 年康

EMSの基本機能として,電力をはじめとするエネルギーの計測による見える化が必要である。計測機器の低価格化や選択肢の多様化が進んでいるが,計測箇所が離れている場合,設置・配線工事費が増大し,電力計測システムの導入を阻む要因となっている。そこで,CTをクランプ式にし,無線通信を使用することで工事費の低減を図るクランプ式無線電力センサ「FeMIEL-SC」「FeMIEL-WL」を開発し,発売した。汎用無線LAN と周波数帯が異なる920 MHz 特定小電力無線の採用と,通信エラーによる欠測を回避する連送機能により,フィールドテストでシステムの安定性を実証した。

普通論文

データセンター向け間接外気活用省エネルギーハイブリッド空調機「F-COOL NEO」

大賀 俊輔 ・ 高松 武史 ・ 高橋 正樹

サーバの高性能・高密度化により発熱量が飛躍的に増加しているデータセンターの空調機を省エネルギー化するため,自然エネルギーである外気の冷熱を用いたシステムの導入が進められている。富士電機は,外気に含まれるじんあいや腐食性物質などの影響を受けにくい間接方式の外気冷房(間接外気冷房)と,蒸気圧縮式の冷凍冷房を組み合わせたハイブリッド空調機「F-COOL NEO」を開発した。F-COOL NEOは,外気温度と冷房負荷に応じて,両者の運転割合を自動で制御する。評価の結果,年間を通じた消費電力量が一般の空調機と比較して約1/3となる高い効率を達成できることを確認した。

新製品紹介

  • 自動車用タンク圧センサ「EPL11E-GM」―― 燃料漏れ検出用圧力センサ ――

  • 「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」――

略語・商標

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