富士電機技報
第87巻第3号(2014年9月)

特集 受配電・開閉・制御機器コンポーネント

特集 受配電・開閉・制御機器コンポーネント

企画意図

地球温暖化防止などの環境保護や原子力発電に代わる新エネルギーへの期待を背景に、電気エネルギーを安定かつ効率的に供給する技術がますます注目を集めています。工場・生産設備だけでなく、オフィスビルや商業施設においても、省スペース・省エネルギーで信頼性の高い受配電・給電システムの需要が増えています。
富士電機はこの需要に応えて、受配電・給電システムおよび機械類の構成に最適な小型化機器、省エネルギーシステム機器、高圧機器について、これまでの実績をベースにした拡充開発やリニューアルなどを実施し、国内のみならず海外でもそれぞれの市場ニーズにマッチした製品をタイムリーに展開することでご好評を得てきました。
本特集では,富士電機の開閉・遮断技術をさらに進化させ、安全かつ効率的な電力供給に貢献する受配電・開閉・制御機器の最新技術および最新コンポーネントについて紹介します。

〔特集に寄せて〕電力システム改革の取組みと受配電・開閉・制御機器コンポーネント

田中 康規
金沢大学 理工研究域 電子情報学系 教授
博士(工学)

受配電・開閉・制御機器コンポーネントの現状と展望

淺川 浩司

受配電・開閉・制御機器コンポーネントは、電気設備に不可欠な構成要素であり、環境・エネルギー分野を下支えすることが期待されている。富士電機の電磁開閉器はこの役割を60年間担い続け、生産台数は3億台に達した。最近では、開閉機器は新しい電動機の制御方式やインバータ・サーボ回路に対応し、小型・高性能化を実現した。制御機器は、より高度な安全性への要求に対応した。低圧受配電機器や電力監視機器は、新エネルギーへの対応として直流高電圧機器を開発した。高圧受配電機器は、ライフサイクルコストや使いやすさを追求し、更新時にお客さまがメリットを得られる仕様を実現した。

電磁接触器「FJシリーズ」「SKシリーズ」の機種拡充

森下 文浩  ・ 深谷 直樹  ・ 堤  貴志

電磁接触器は,主としてモータの起動・停止を行う制御機器であり,東南アジアや中国の市場で需要が増加している。富士電機は,これらの市場に向けた経済型電磁接触器「FJシリーズ」およびインバータ・サーボアンプに最適なコンパクトサイズの電磁接触器「SKシリーズ」について機種拡充を行った。FJシリーズでは,40から95Aの定格を拡充し,支え摺動部設計の最適化を図ることにより小型かつ高信頼性を確保した。SKシリーズでは,従来の6から12Aの上位定格である18Aと22A品を開発し,突入電流の限界溶着性能を従来品比で2.5倍向上させた。

「シンクロセーフコンタクト」搭載 非常停止用押しボタンスイッチ(φ22,φ30)

町田 謹斎 ・ 野村 浩二 ・ 下山栄治郎

各種装置・機械に使用される操作スイッチの中でも,非常停止用押しボタンスイッチは,災害発生の防止を目的とする極めて重要なスイッチである。安全性に対する顧客の多様な要求に応えるため,富士電機独自の構造である「シンクロセーフコンタクト」を搭載した非常停止用押しボタンスイッチ(φ22とφ30)を発売した。接点分離構造を採用し,操作部と接点部が分離した状態になると,接点部の機構を同時かつ安全に動かすことができる。また,機械的耐久性・接触信頼性の向上を図り,耐環境性に優れた接点部構造をパネル奥行寸法47.5mmの中で実現した。

高圧真空遮断器「MULTI.VCB」「Auto.V」

岡崎 貴幸 ・ 臼井 英人 ・ 木村  剛

日本国内における6kVの電力系統では,主遮断装置として高圧真空遮断器(VCB)が広く使用されている。特に, JIS C 4620に規定されたCB形キュービクル式高圧受電設備では,固定形VCBが多く用いられる。これらの設備は屋外での使用も多いため,じんあいが多い,湿度が高いなど厳しい環境下での性能が求められている。富士電機は,耐環境性を高め,かつ機構の簡素化や互換性の維持により,ライフサイクルコストを抑えた「MULTI.VCB」(固定形)と,このVCBにCTおよびディジタル形OCRを組み合わせた「Auto.V」を開発した。

ストライカ引外し式限流ヒューズ付高圧交流負荷開閉器(LBS)

菊地 征範  ・ 宮﨑 哲司  ・ 徳永 圭秀

高圧受配電設備は,ビルや工場などへの電力供給の他,近年では太陽光発電設備をはじめとした分散型電源の電力系統連系用としての需要も増加している。富士電機は,高圧受配電設備の主要機器の一つであるストライカ引外し式限流ヒューズ付高圧交流負荷開閉器(LBS)で数多くの納入実績がある。このたび,従来2種類あった接触子の機能の一体化,ヒューズを可動させない主回路構造,消弧部構造の最適化による消弧性能の確保などにより,従来品に比べて小型でシンプルな構造を実現した。

直流高電圧用ブレーカの無極性遮断技術

佐藤 佑高

住宅用以外の太陽光発電設備では,システムの大容量化に伴い,高電圧化が進んでおり,逆方向の電流でも安全に遮断できる直流高電圧対応の無極性ブレーカが求められている。富士電機は,これを実現するために消弧室の構造を改良した。構造案1と構造案2の二つの案について,磁界解析や遮断試験による検証を行った。これらを基に,小電流から大電流まで安定した遮断性能を実現する改良構造を作成した。これにより,定格使用電圧,遮断容量,外形寸法は従来品と同一で互換性を持たせながら,直流高電圧ブレーカの無極性化を実現した。

直流配電システムの短絡故障・地絡故障推定技術

佐竹 修平 ・ 恩地 俊行 ・ 外山 健太郎

再生可能エネルギーの利用拡大により,直流配電システムの適用が拡大しつつあり,これを安全に運用するための保護技術の確立が急務である。富士電機は,直流配電システムの保護技術として,短絡故障および地絡故障の推定技術について検証を行い,これを確立した。蓄電池のインピーダンス特性を基に等価回路を構築することにより,蓄電池近傍の短絡故障を推定した。また,接地系統と非接地系統の地絡電流波形を解析し,地絡故障を推定した。さらに,これらの推定技術に基づいて適切な保護機器の選定ができるように製品のラインアップを行っている。

受配電・開閉・制御機器コンポーネントの製品評価

宮沢 秀和 ・ 秦 淳一郎 ・ 沼上  毅

受配電・開閉・制御機器コンポーネントの開発工程においては,市場の要求に対して製品の仕様を満足させるため,多項目にわたる製品の評価が必要である。
富士電機では,製品の性能を決める因子の絞込み評価,使用環境を考慮した信頼性評価,取扱い性を意識したインタフェース評価,製品規格に基づく特性評価の四つの観点で評価を行い,製品の品質をつくり込んでいる。これらの製品評価により製品の仕様を満足させることで,顧客満足度を高めるとともに,総合的な開発効率の向上を図っている。

受配電・開閉・制御機器コンポーネントの環境対応材料技術

原  永治 ・ 岩倉 忠弘  ・ 吉澤 利之

受配電・開閉・制御機器コンポーネントでは,RoHS指令などの環境規制の強化や地球温暖化などの環境問題への対応のため,使用材料に対する要求が年々厳しくなってきている。
富士電機は,金属材料について接点のCdフリー化を推進し,耐消耗性や温度上昇値の目標を達成して,これを実現した。また,高分子材料について,絶縁部品に使用する熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂へ代替することや,熱硬化性樹脂における廃棄物の削減(リデュース)を実現した。

アークシミュレーション技術

坂田 昌良 ・ 榎並 義晶

受配電・開閉・制御機器コンポーネントにおいては,接点の開閉時に発生するアークの挙動を予測し,制御することが重要な技術的課題である。富士電機は,コンポーネントのさらなる小型化や性能の向上,ならびに直流機器への対応を図るために,熱流体解析と電磁界解析を連成させたアークシミュレーション技術を開発した。アークシミュレーション技術により,実際の機器の構造を用いてアークの挙動を可視化し,ガス流や電磁気的な力などについて定量的な評価を行うことができる。

多様化するニーズに対応するものつくり

小川  拓

受配電・開閉・制御機器コンポーネントをめぐる市場環境はグローバル化や直流給電の普及により急激に変化しており,ニーズが多様化してきている。従来以上の品質・納期で製品を供給していくためには,ものつくりにおいてグローバルサプライチェーン体制の構築や新しい生産技術の開発が必要である。富士電機は,グローバルサプライチェーン体制の構築として,消費地生産化,一貫体制の構築,および生産ラインの多品種少量生産対応を進めている。また,新しい生産技術として,部品供給技術,接合技術,ロボット活用技術などを開発している。

新製品紹介

略語・商標

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