富士電機技報
第87巻第4号(2014年12月)
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
企画意図
低炭素社会の実現に向けて,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの普及と,そのエネルギーを効率的に利用するパワーエレクトロニクス技術に対する世の中の期待は非常に高まっています。この期待に応えるため,富士電機では,環境,エネルギー,自動車,産業機械,社会インフラ,家電製品など多くの分野に向けて,エネルギー変換効率が高く,低ノイズで使いやすいパワー半導体製品を開発しています。
本特集では,パワーエレクトロニクス技術のキーデバイスであるパワー半導体について,最新の技術および製品を紹介します。
〔特集に寄せて〕パワー半導体― 材料科学とパワーエレクトロニクスの架け橋 ―
木本 恒暢
京都大学 大学院 工学研究科 教授
博士(工学)
〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望
高橋 良和 ・ 藤平 龍彦 ・ 宝泉 徹
地球環境との調和を図り,安全・安心で持続可能な社会を実現する上で,エネルギーの効率的な利用を支えるパワーエレクトロニクス(パワエレ)技術に対する世の中の期待は非常に大きい。このような期待の中,富士電機では,エネルギー変換効率が高く,低ノイズで地球環境にやさしいパワー半導体製品を開発している。パワー半導体は,エネルギーと環境分野の製品や,自動車,産業機械,社会インフラおよび家電製品に量産品として適用され,世の中に貢献している。本稿では,パワエレ技術のキーデバイスであるパワー半導体について,パワーモジュール,パワーディスクリート,パワーICを中心に最新の技術および製品の現状と展望について述べる。
1,200V 耐圧SiC ハイブリッドモジュール
小林 邦雄 ・ 北村 祥司 ・ 安達 和哉
富士電機は,省エネルギーに貢献するインバータ用のパワーデバイスとして,1,200 V 耐圧のSiC ハイブリッドモジュールの開発を推進している。このハイブリッドモジュールには,独立行政法人 産業技術総合研究所と共同で開発し,富士電機で量産立ち上げを行ったSiC-SBD(Schottky Barrier Diode)チップを採用した。IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)には,富士電機製で最新の第6 世代「V シリーズ」IGBT チップを採用した。300A品において,従来のSi モジュールに比べて約25%低い発生損失を確認した。
メガソーラー用パワーコンディショナ向けAll-SiC モジュール
梨子田典弘 ・ 仲村 秀世 ・ 岩本 進
メガソーラー用パワーコンディショナ向けのAll-SiCモジュールを開発した。All-SiCモジュール用に開発した構造は,ワイヤボンディングを使用した従来構造と比較して配線のインダクタンスを約80%低減している。これにより,大幅な損失低減が可能となり,SiCデバイスの高速スイッチングにおいて有利である。また,パワーサイクル試験による熱負荷に対しても,従来構造と比べて高い耐量を持つ。これらの技術を適用した昇圧回路用のAll-SiCチョッパモジュールを開発し,メガソーラー用パワーコンディショナに搭載することで,世界最高レベルの効率98.8%を達成した。
新型パッケージを採用した産業用RC-IGBT モジュール
高橋 美咲 ・ 吉田 崇一 ・ 堀尾 真史
富士電機は,IGBTと還流ダイオードFWDを一体化した産業用RC-IGBT(逆導通IGBT)を開発し,低熱抵抗と高信頼性を両立した新型パッケージと組み合わせることにより,IGBTモジュールの大幅な小型化とパワー密度向上を達成した。RC-IGBTは,従来のIGBT+FWDと同等の低損失化を実現し,熱抵抗の30%低減を達成した。RC-IGBTと新型パッケージを組み合わせた新型モジュールは,従来モジュールの42%の設置面積で,ほぼ同等のインバータ損失と,大幅なIGBT接合温度の低減を可能にする。また,同じIGBT接合温度で比較した場合では,58%大きい出力電流で動作が可能である。
マイルドハイブリッド車用RC-IGBT
野口 晴司 ・ 安達新一郎 ・ 吉田 崇一
環境意識の高まりを背景に,ハイブリッド車や電気自動車が注目されており,中でも1台のモータで駆動と発電を行うマイルドハイブリッド車の比率が増加すると予想されている。富士電機では,マイルドハイブリッド車用のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの低損失化・小型化のために,IGBTとFWD(Free Wheeling Diode)を1チップ化した650V耐圧のRC-IGBT(Reverse-Conducting IGBT)を開発した。RC-IGBTにより,従来のIGBT・FWDを超える低損失化とパッケージサイズの小型化を実現した。
ハイブリッド車用第2世代アルミニウム直接水冷パッケージ技術
郷原 広道 ・ 齊藤 隆 ・ 山田 教文
地球温暖化の防止や資源の有効利用に向けた取組みとして,ハイブリッド車などの環境対策車のさらなる燃費向上が求められている。そのため,ハイブリッド車用インテリジェントパワーモジュール(IPM)の小型・軽量化が必要である。これに応えるため,富士電機は三つの新パッケージ技術,すなわちアルミニウム直接水冷構造の冷却器設計技術,超音波接合技術,ならびに175℃連続動作を可能とする高耐熱化技術を開発した。これらの技術を適用した第2世代アルミニウム直接水冷型IPMは,第1世代に対して体積を30%,質量を60%低減した。
第3世代臨界モードPFC制御IC「FA1A00 シリーズ」
菅原 敬人 ・ 矢口 幸宏 ・ 松本 和則
電子機器に広く用いられているスイッチング電源には,高調波電流を抑えるために力率改善(PFC)回路が必要である。
富士電機は,電源の消費電力の削減と低コスト化という市場要求に応えるため,PFC回路用の第3世代臨界モードPFC制御IC「FA1A00 シリーズ」を開発した。ボトムスキップ機能により軽負荷時の効率を改善するとともに,パワーグッド信号出力機能により電源回路の部品の削減を可能にした。また,オーバーシュート低減機能や基準電圧精度の向上などにより,安全性を向上した。
LLC 電流共振電源の回路技術
川村 一裕 ・ 山本 毅 ・ 北條 公太
大画面テレビやサーバ機器などに用いられる比較的大きな容量の電源装置では,高効率化,小型化,低ノイズ化の要求を背景にLLC電流共振電源が一般的になっている。LLC電流共振電源は,トランスの漏れインダクタンスを共振に利用しており,電圧ゲインがスイッチング周波数により変化するため,トランスの設計が他の制御方式と比較して難しい。富士電機では,LLC 電流共振電源の制御用ICの開発・量産とともに,顧客の電源開発の技術サポートを行っている。LLC電流共振電源の動作原理,ならびにトランスの設計方法とその特性について解説する。
自動車用大電流IPS
岩水 守生 ・ 竹内 茂行 ・ 西村 武義
富士電機は,自動車用高出力モータの制御などに使用する大電流IPS(Intelligent Power Switch)を開発した。トレンチ構造を用いたパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)と制御部ICとをチップオンチップ構造とすることで,小型パッケージで低オン抵抗(最大5 mΩ)を実現している。高い信頼性を実現するために,過電流・過熱検出,低電圧検出などの保護機能を搭載した。また,放熱性の良いパッケージを採用し,並列接続時のエネルギー分担バランスの良い構成とすることで,低オン抵抗化による電流量の増加から生じる温度上昇に対処している。
新製品紹介
-
1,700 V 耐圧SiC ハイブリッドモジュール
-
AT-NPC 3 レベル大容量IGBT モジュール ― 大容量モジュール用パッケージ「M404 パッケージ」 ―
-
ディスクリートSiC-SBD
-
株式会社ジャパンビバレッジホールディングス向け超小型カップ式自動販売機
-
小型パッケージ“MiniSKiiP”製品の系列化
略語・商標
-
注
-
本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、Web掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。