富士電機技報
第88巻第1号(2015年3月)

特集 パワーエレクトロニクス機器

特集 パワーエレクトロニクス機器

企画意図

今日,パワーエレクトロニクスは,ライフラインを支える社会インフラから家電製品まで,エネルギーを“創る”“つなぐ”“使う”あらゆる場面におけるキーテクノロジーとなっています。また,メガソーラーなどの創エネルギーにおける高効率変換と,モータ駆動などの省エネルギー化により低炭素社会を実現するものとして大きく期待されています。富士電機は,インターネット社会を支えるデータセンター向け無停電電源装置(UPS)をはじめ,各種電動力応用機器,交通・流通インフラ向けにパワーエレクトロニクス技術を駆使した製品を開発し,社会に提供してきました。
本特集では,飛躍的な高効率化や小型・軽量化を実現するSiC(炭化けい素)パワーデバイスを応用したパワーエレクトロニクス機器をはじめ,パワーエレクトロニクス技術開発における基盤技術,グローバル市場に向けた国際標準化について紹介します。

〔特集に寄せて〕パワーエレクトロニクス機器の特集に寄せて

Johann W. Kolar
スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)教授

〔現状と展望〕パワーエレクトロニクス機器の現状と展望

友高 正嗣

パワーエレクトロニクス技術とその応用製品は,社会のあらゆる分野に普及するとともに,省エネルギーを実現する手段としても期待されている。一方,従来のシリコンデバイスに代わって,パワエレ機器の飛躍的な進歩を期待されているSiCパワーデバイスの出現や,グローバル市場における国際標準規格への適合要求など,パワエレ機器を取り巻く環境も大きく変化してきている。富士電機はこれらの多様な開発ニーズや開発のスピードアップに対応するために,プラットフォームを活用した製品開発や高度なシミュレーション技術を駆使した開発環境の整備を進めている。また,SiCパワーデバイス応用製品の開発をはじめ,電動力応用,回転機,輸送機器,電源機器などのさまざまな分野に向けてパワエレ機器を開発し,提供している。

All-SiC モジュール搭載のメガソーラー用PCS「PVI1000AJ-3/1000」

大島 雅文  ・ 前田 哲也  ・ 村津 宏樹

近年,太陽光発電に対して,より高い発電性能が求められている。その中心となるパワーコンディショナ(PCS)には,高効率をはじめ,継続して発電する信頼性,トータルコストの低減などが必要である。富士電機は,次世代半導体デバイスであるSiC(炭化けい素)-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor)とSiC-SBD(SchottkyBarrier Diode)から成るAll-SiCモジュールを搭載することにより,高効率なメガソーラー用PCSを開発した。

北米向け3レベル適用大容量高効率UPS「7000HX-T3U」

川崎 大介 ・ 濵田 一平 ・ 佐藤 篤司

近年,情報化社会における情報通信システムの発展により,データセンター市場は国内外で伸長している。これに伴い,システムを安定に稼動させる無停電電源装置(UPS)へのニーズも伸長している。北米市場向けに,定格電圧480Vで3レベル電力変換回路による大容量で高効率なUPS「7000HX-T3U」を開発した。富士電機独自のAT-NPC3レベルIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールを使用することで,最高効率97% 以上の高効率を達成した。さらに,従来機種と同様に高信頼性を実現しつつ,北米で求められるUL規格やNEC規格に対応した。

三相200V系大容量UPS「6000DX シリーズ」

玉井 康寛 ・ 木水 拓也 ・ 松永 和喜

金融機関,官公庁,病院などの設備では,200V出力の無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power System)の需要が多い。富士電機は,近年寄せられている市場要求に応え,三相200V系大容量UPS「6000DX シリーズ」を開発した。本シリーズの定格負荷力率は1.0であり,高力率負荷に標準で対応している。また,並列冗長運転方式,待機冗長運転方式などのUPSを複数台並列に接続する種々の運転方式に対応しており,信頼性の高いシステムが構築できる。電力供給の品質と信頼性をさらに向上させるとともに,液晶タッチパネルを採用することで,操作性・保守性を向上している。

グローバル対応の汎用インバータ「FRENIC-HVAC/AQUA シリーズ」「FRENIC-Ace シリーズ」

河野 博之  ・ 三垣  巧  ・ 皆見 崇之

近年,汎用インバータに要求される機能が多機能化し,専用のコントローラや可変速駆動装置を適用してきた分野においても,汎用インバータをカスタマイズして適用するケースが増加している。また,製品のグローバル化の要求も増加している。これらのニーズに応えるため,グローバル対応の汎用インバータ「FRENIC-HVAC/AQUA シリーズ」「FRENIC-Ace シリーズ」を開発した。カスタマイズロジック機能の標準搭載をはじめ,多言語対応機能やリージョンコードの導入など,グローバル化に対応した製品であるとともに,ノイズや機能安全などに関する国際標準規格に適合している。

SiCハイブリッドモジュールを搭載した690V系列インバータ「FRENIC-VG スタックシリーズ」

佐藤 和久  ・ 高野  信  ・ 野村 和貴

富士電機では,業界最高クラスの性能を持つ「FRENIC-VG シリーズ」に,690V系列のスタックタイプを用意している。船舶や海外の化学プラント,鉱業,水処理設備などでの需要が多く,これまで90から315 kWの容量であった690V系列に,355から450kWの容量をラインアップに追加した。低損失のSiCハイブリッドモジュールを搭載することで大容量化に伴う製品の大型化を抑制し,製品の幅寸法を220mmに維持している。また,複数台のスタックの並列接続により,2,700kWまでの多巻線モータの駆動や,ダイレクトパラ接続方式による1,200kWまでの大容量単巻線モータの駆動を可能にした。

富士電機のトップランナーモータ ――「プレミアム効率モータ」の損失低減技術――

舘  憲弘 ・ 鯉渕 博文 ・ 高橋 和利

モータは,社会生活や産業活動に欠かせないキーコンポーネントであり,その使用電力量は全世界の使用エネルギーの約40%に達する。そのため,モータの高効率化が世界の主要国の課題であり,日本ではトップランナー制度によって2015年4月から効率の規制が始まる。富士電機が開発した「プレミアム効率モータ」は,スロット形状の最適化,低損失の電磁鋼鈑の採用などの損失低減技術によって効率規制値を満足している。高効率に加え,低騒音も実現した環境に配慮した製品である。

インバータ一体型モータ

宇津野 良 ・ 松井 康平

近年,電動機(モータ)の高効率化や可変速システムによる省エネルギー化が加速している。富士電機は,モータにインバータ機能を内蔵したインバータ一体型モータを開発した。モータ単体が高効率であるだけでなく,インバータ制御による可変速運転を組み合わせることで大幅な省エネルギー効果が得られ,また一体化による小型化も実現している。省エネルギー効果は,効率クラスIE1の標準モータに対して45%低減(1,923kWh/年),IE3の「プレミアム効率モータ」に対して43%低減(1,742kWh/年)となった。

鉄道車両用パワーエレクトロニクス機器の小型・軽量化技術

滝沢 将光 ・ 西嶋 与貴

近年,鉄道車両に取り付けられる機器や装置に搭載するパワーエレクトロニクス(パワエレ)機器には,省エネルギーだけでなく小型・軽量化が強く求められている。富士電機は,冷却技術・機器実装技術の向上により,これらの要求に応えてきた。また,小型化に限界があった絶縁トランスにおいては,高周波絶縁回路技術と直流給電方式の採用,および最適設計を行うことにより,装置に対する占有率が減少し,さらなる小型・軽量化を実現した。新幹線などの鉄道車両用プロパルジョンシステムや補助電源装置など,最新の技術を用いたパワエレ機器を国内外に提供している。

鉄道車両用ドアの最新動向と安全・信頼性技術

梅澤 幸太郎 ・ 寺崎 富雄  ・ 稲玉 繁樹

富士電機は,鉄道車両用ドアにおいて,モータの運動方向を側引戸の直線動作に適用して機構を簡素化した戸閉装置(リニアモータ方式,FCPM 方式)を開発し,製品化している。鉄道車両用ドアは,乗客の乗降や走行中の安全を確保するとともに,鉄道の定時運行にも関わる重要な装置である。このため,安全性,信頼性,機能性が高く,また,省メンテナンスであることが求められている。故障モード影響解析や危険分析などによる設計時の安全性の評価をはじめ,3重フィードバック制御,外力抑制制御,押し返し制御などの制御技術などにより,これらを実現している。

北陸新幹線新黒部変電所向け電力補償装置

尾曽  弘 ・ 金子 知実  ・ 鈴木 明夫

北陸新幹線の長野・金沢間にある新黒部変電所に電力補償装置を納入した。本装置は,列車の走行時に生じる三相不平衡と電圧変動を長野方と金沢方の2回路間の電力融通によって補償し,さらに列車から発生する特別高圧の高調波電流を補償するものであり,インバータ装置やインバータ変圧器などから成る。インバータ装置では,IGBT(Insulated GateBipolar Transistor)の電流分担の均等化およびユニットの水冷方式を開発することにより,装置の大容量化・小型化を実現した。インバータ変圧器では,ギャップレス変圧器の採用により低騒音化・高信頼性化を実現した。

港湾および造船所向け多機能陸電設備

宮下  勉 ・ 梅沢 一喜  ・ 城市  洋

近年,海運業や造船業においても環境負荷の低減が求められている。これに応えるため,富士電機は,商用(所内)系統から船内負荷への給電機能と船内発電機の負荷試験機能を併せ持った多機能陸電設備を開発した。本設備は屋外に設置されるため,メンテナンスが容易な配置や効果的な冷却方式を検討し,主要装置をコンテナハウスに収納した。コンテナハウスは複数台並列に接続できるため,大容量化が容易である。制御機能の特徴は,任意の電圧・周波数で船内負荷へ給電できること,船内発電機の負荷試験を抵抗消費だけでなく電源回生でも行えることなどである。

パワーエレクトロニクス機器のシミュレーション技術

松本 寛之 ・ 玉手 道雄  ・ 吉川  功

パワーエレクトロニクス機器のさらなる高電力密度化,高効率化への要求が高まる中,これまで個別に行ってきた配線構造設計,冷却構造設計,EMI(Electromagnetic Interference)設計を連係して開発することが重要になっている。富士電機は、デバイスシミュレーションモデルを用いた連係開発に取り組んでいる。このモデルを用いて,実装時のスイッチング特性を正確に把握し各設計に活用する。設計段階で部品温度やノイズの流出などを高精度で推定できるため,冷却構造やEMIフィルタをこれまでより短期間で開発することが可能である。

パワーエレクトロニクス機器の国際標準化活動

高橋  弘 ・ 吉岡 康哉  ・ 佐藤以久也

国際規格には,ISO(国際標準化機構),IEC(国際電気標準会議),ITU(国際電気通信連合)で規定するものがある。富士電機は,以前からパワーエレクトロニクス機器に関係する国際規格,特にIECで規定する規格の策定活動を行ってきた。CISPR国際標準化,太陽光発電システムEMC製品規格標準化,可変速駆動システムの効率規格,および可変速駆動システムの機能安全規格対応などにおける活動は,日本がリードしている。また,2014年のIEC東京大会では,IECヤングプロフェッショナルプログラムのテクニカルビジットを川崎工場に招致した。

新製品紹介

略語・商標

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