富士電機技報
第88巻第4号(2015年12月)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
企画意図
低炭素社会の実現に向けて,エネルギー利用の高効率化が非常に重要になっています。特に,電気エネルギーは,自動車,産業機械,社会インフラ,家電製品など多くの分野でなくてはならないものであり,電気エネルギーの高効率利用を実現するパワーエレクトロニクスの進展には大きな期待が寄せられています。富士電機では,パワーエレクトロニクス技術のキーデバイスであり,エネルギー変換効率が高く,低ノイズで使いやすいパワー半導体を開発しています。
本特集では,富士電機のパワー半導体について,最新の技術および製品を紹介します。
〔特集に寄せて〕出来そうもないこと,思いも寄らぬこと
清水 敏久
首都大学東京 理工学研究科 電気電子工学専攻 教授
〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望
高橋 良和 ・ 藤平 龍彦 ・ 宝泉 徹
地球温暖化を防止し,地球環境との調和を図りつつ,安全・安心で持続可能な社会を実現するため,エネルギーの効率的な利用を支えるパワーエレクトロニクス(パワエレ)技術に対する世の中の期待は非常に大きい。
このような期待の中,富士電機では,省エネルギーで地球環境にやさしいパワー半導体製品を開発し,製品化している。
本稿では,パワエレ技術のキーデバイスであるパワー半導体について,パワーモジュール,パワーIC,パワーディスクリートを中心に,最新の技術および製品の現状と展望について述べる。
All-SiC モジュールのパッケージ技術
仲村 秀世 ・ 西澤 龍男 ・ 梨子田典弘
メガソーラー用パワーコンディショナに新型パッケージ構造のAll-SiC モジュールを適用し,変換効率98.8% を達成して省エネルギーを実現した。このパッケージ構造は,従来のワイヤに変わる銅ピンとパワー基板を用いた三次元配線や,熱硬化性エポキシ樹脂によるフルモールド構造を採用することにより,小型,低インダクタンス,高信頼性という特徴を持つ。設計に当っては,構造設計によって性能の最適化を図るとともに,樹脂流動シミュレーションや樹脂流動の可視化によるモールドプロセス設計を行って,ボイドを抑制したフルモールド構造を実現した。
1,700 V 耐圧SiC ハイブリッドモジュール
小根澤 巧 ・ 北村 祥司 ・ 磯 亜紀良
省エネルギーに貢献するインバータ用のパワーデバイスとして,電気鉄道市場に向けた1,700 V 耐圧SiC ハイブリッドモ ジュールを開発した。IGBT には第6 世代のIGBT チップを搭載し,FWD にはSiC-SBD チップを搭載した。製品定格は, 1,700 V/1,200 A(2 in 1)であり,損失を重視した標準仕様と低スイッチング周波数に適した低V CE(sat)仕様との2 系列を持 つ。標準仕様は,従来のSi モジュールに対して発生損失の18% 低減を実現した。また,インバータにおける発生損失の比 較において,低V CE(sat)仕様は,低スイッチング周波数の条件において標準仕様に対して6% の低減を実現した。
3,300 V 耐圧SiC ハイブリッドモジュール技術
金子 悟史 ・ 金井 直之 ・ 辻 崇
パワーエレクトロニクス機器には,省エネルギー化に加えて小型・軽量化,高出力化などの性能向上が強く求められている。富士電機は,これに応えるため,3,300 V 耐圧SiC ハイブリッドモジュールの開発を推進している。共同研究体 つくばパワーエレクトロニクスコンステレーションと共同で開発したSiC-SBD を適用することで,現行のSi モジュールと比較し,発生損失を24% 低減した。また,Sn-Sb 系はんだを適用することで,高信頼性を確保して連続動作温度を25℃向上させた。発生損失の低減効果と合わせることで高パワー密度化を実現し,フットプリントサイズを約30% 低減した。
第7世代「X シリーズ」IGBT モジュール
川畑 潤也 ・ 百瀬 文彦 ・ 小野澤勇一
IGBT モジュールの市場において,近年,小型化,低損失化,高信頼性化が強く求められている。これらの要求に応えるため,第7 世代「X シリーズ」IGBT モジュールを開発した。IGBT・FWD チップの大幅な損失低減および高放熱・高耐熱・高信頼性パッケージの開発により,約36% のフットプリント低減,約10% の電力損失低減,長期信頼性を実現した。また,高温動作時の特性や耐量を向上させたことで,連続動作の最大温度を従来の150 ℃から175 ℃に向上させた。これにより,出力電流の大幅な増加が可能となり,電力変換装置のさらなる小型化と高パワー密度化を実現した。
第2世代小容量IPM
荒木 龍 ・ 白川 徹 ・ 小川 裕貴
富士電機は,モータドライブシステムの構築に必要なパワーデバイスや制御IC などを1 パッケージに集積した小容量IPM を開発している。さらなる省エネルギー化を図るため,第7 世代IGBT 技術をベースに第2 世代小容量IPM を開発した。5.6 kW のエアコンを想定した中間負荷領域において第1 世代に対して10% 以上の低損失化を実現し,定格・最大負荷領域においても20% 以上の低損失化を実現した。回路基板のはんだ付け部の温度上昇も第1 世代と比較して約20 ℃低減しており,省エネルギーの実現,出力電流の拡大,回路基板実装時の信頼性およびシステム設計の自由度が向上している。
IPM 用HVIC 技術
上西 顕寛 ・ 赤羽 正志 ・ 山路 将晴
高耐圧のゲートドライバIC であるHVIC(High Voltage Integrated Circuit)は,IPM(Intelligent Power Module)の高機能化を実現するキーデバイスの一つである。富士電機は,小・中容量IPM 向けに高機能・小型・高信頼性を特徴とする産業用600 V/1,200 V 保証HVIC 技術を開発した。省面積回路化,ならびに高耐圧技術や高ノイズ耐量レベルシフト回路技術の採用により,20% のチップサイズ縮小と高耐圧および高信頼性を同時に実現した。また,上アームIGBT の過熱・過電流の保護回路技術および異常通知信号のレベルダウン機能を実現した。
車載用第3世代直接水冷型パワーモジュール
荒井 裕久 ・ 樋口 恵一 ・ 小山 貴裕
富士電機は,ハイブリッド自動車および電気自動車向けに車載用第3 世代直接水冷型パワーモジュールを開発した。 100 kW クラスのモータ容量を想定した750 V/800 A 定格のパワーモジュールである。車載用パワーモジュールに対する市場の要求は,高効率化と小型化である。これに応えるため,水冷フィンとカバーを一体化したウォータージャケットにより放熱性を改善するとともに,はんだの信頼性を向上させて連続動作温度175 ℃を実現した。また,IGBT とFWD を一体化したRC-IGBT の適用により,パワーモジュールの小型化を実現した。
車載用第3世代パワーモジュールのパッケージ技術
郷原 広道 ・ 玉井 雄大 ・ 山田 教文
近年,ハイブリッド車や電気自動車の開発と普及が加速しており,燃費向上につながる小型・軽量化,低損失化かつ高出力化したパワーモジュールが求められている。富士電機は,直接水冷構造用高放熱冷却器,銅端子配線と電極の超音波接合技術および析出強化と固溶強化を組み合わせて複合強化した高寿命の新はんだなどを開発した。この技術をRC-IGBTチップを適用した車載用第3 世代パワーモジュールに適用し,高信頼性とフットプリントの30% 削減と薄型化を実現した。
車載用RC-IGBT
吉田 崇一 ・ 野口 晴司 ・ 向井 弘治
地球温暖化防止などの環境保護の観点から,CO2 排出量を低減するためにハイブリッド車や電気自動車の普及が進んでいる。これらの自動車では,燃費向上のために車載半導体素子の低損失化およびインバータの小型化が求められている。富士電機は,これに応えてIGBT とFWD を1 チップ化したRC-IGBT の製品化を進めている。今回,車載用RC-IGBT において,トレンチゲート間隔の最適化,フィールドストップ層の最適化,ライフタイム制御の最適化の改良を行った。これにより,従来の車載用RC-IGBT を適用した場合に比べてインバータ動作時の発生損失を約20% 低減した。
車載用燃料タンク圧検知相対圧センサ
加藤 博文 ・ 芦野 仁泰 ・ 佐藤 栄亮
近年,自動車には環境負荷の低減が強く求められるようになり,一例として,米国では燃料漏れの検出が義務化されている。富士電機は,気化燃料を回収してシリンダで焼却処理を行う気化燃料排出抑制装置の制御用途として,エンジンルーム内の配管に直接取り付けることが可能な車載用燃料タンク圧検知相対圧センサを開発した。第6 世代小型圧力センサの技術をベースに,気化燃料への耐性の向上,保護機能の向上およびEMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)の強化を行うことで,耐久性の確保と高精度な検知を両立させた。
ピーク負荷対応PWM 電源制御IC「FA8B00 シリーズ」
松本 晋治 ・ 山根 博樹 ・ 藪崎 純
近年,ノートPC やインクジェットプリンタの分野では,新CPU への対応やモータ駆動負荷などに向けた最大出力電力の増大が要求されている。富士電機では,これらの要求に応えたピーク負荷対応PWM 電源制御IC「FA8B00 シリーズ」を開発した。このIC は,FB 端子電圧の上昇に合わせてスイッチング周波数を最大で130 kHz まで上昇させることができるため,トランスの体積を増やすことなく電源の最大出力電力を増大することができる。さらに,スイッチング周波数ジッタの拡大機能により,変動する負荷に対しても低EMI ノイズ特性を実現した。
第2世代 低損失SJ-MOSFET「Super J MOS S2 シリーズ」
渡邉 荘太 ・ 坂田 敏明 ・ 山下 千穂
エネルギーを効率的に利用するために,電力変換機器にはよりいっそうの高効率化が求められており,これらに搭載されるパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)には,小型で低損失・低ノイズの製品が求められている。富士電機は,単位面積で規格化されたオン抵抗Ron・A を低減し,かつターンオフスイッチング損失 Eoff とターンオフスイッチング時のVDS サージのトレードオフ特性を改善した,低損失で使いやすい第2 世代 低損失SJ-MOSFET 「Super J MOS S2 シリーズ」を開発した。本製品を使用することで,電力変換機器の効率向上が期待できる。
高速ディスクリートIGBT「High-Speed W シリーズ」
原 幸仁 ・ 内藤 達也 ・ 加藤 由晴
無停電電源装置(UPS)や太陽光発電用パワーコンディショナ(PCS)においては,電力の変換効率が重要な性能であるため,使用するスイッチングデバイスに対して低損失化が求められている。また,小型のインバータ溶接機においては,持ち運びを容易にするため,使用するデバイスには高速スイッチングが可能で低損失であることが求められる。開発し,製品化した高速ディスクリートIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)は,活性部における寄生容量の低減,フィールドストップ層の最適化などにより,従来品に対して650 V 品で約10%,1,200 V 品で約19% の低損失化を達成した。
新製品紹介
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アモルファスモルトラ「FM-AT14」
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サーキットプロテクタ「CP30F シリーズ」
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第7 世代「X シリーズ」IGBT モジュール
略語・商標
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注
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本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、Web掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。