富士電機技報
第92巻第1号(2019年03月)

特集
食品流通の利便性向上・省力化・省エネルギー技術

特集 食品流通の利便性向上・省力化・省エネルギー技術

企画意図

食品流通の分野においても人手不足は深刻化し,労働力の獲得競争が激化しています。労働者の多様化に伴い,より使い勝手の良い製品や働きやすい環境が望まれています。一方,消費者の要求は多様化し,質の高い商品とサービスが求められています。富士電機は,流通業界におけるe コマース時代のリアル店舗の在り方,人手不足,高齢化社会,エネルギー問題など,急激に変化するお客さまの課題の一つひとつに応えるため,“利便性向上”“省力化”“省エネルギー技術”をキーワードに掲げ,関連技術の研究開発に取り組み,お客さまのニーズにマッチした製品を市場に展開しています。
本号では,食品流通事業のコア技術である冷熱技術やメカトロニクス,IoT と,これらを適用した製品ならびに自動販売機および店舗・流通機器に適用した要素技術などについて紹介します。

〔特集に寄せて〕食品流通の利便性向上に関する技術の発展への期待

青木 雅生
三重大学人文学部准教授 博士(経営学)

〔現状と展望〕食品流通の利便性向上・省力化・省エネルギー技術の現状と展望

杉本 幸治

労働人口の減少・外国人労働者の増加に伴い,より使い勝手の良い製品や働きやすい環境が求められている。この中で,質の高い製品やサービスの要求などの市場変化に対応するために,食品流通の部門においては,“利便性の向上”“省力化”“省エネルギー”の三つのキーワードを掲げ,関連技術の研究開発に取り組んでいる。利便性向上と多様化への対応においては,マイナス5℃飲料が販売可能な自動販売機,クラウド型自動販売機の開発やICTソリューションを提案した。省力化への対応には,冷凍機内蔵ショーケース,省力化ショーケース,自動つり銭機,ドリップコーヒー抽出技術を開発し,省エネルギーと環境への対応においては,正圧制御システム,鮮度保持技術を確立した。

マイナス5 ℃飲料が販売可能な自動販売機

大澤 克之

アサヒ飲料株式会社と富士電機は,容器のキャップを開くと飲料がシャーベット状に凍りだす氷点下飲料自動販売機を共同で開発した。これは,“開栓時の内部圧力変化で凍りだす”という過冷却現象を応用したものである。この現象をむらなく再現させるために,商品温度に影響を与えずに除霜を行うことができるホットガスデフロスト方式による除霜システムを採用した。また,庫内を氷点下温度域,予備冷却域,補充商品域の三つのゾーンに分けて,一日当たりの最大販売可能本数に合わせてゾーンの運用を行った。これにより,シャーベット状になる飲料を安定して供給することができる。

市場ニーズに即応可能なクラウド型自動販売機

田中 誠一 ・ 古賀 恒治 ・ 山田 毅人

海外の自動販売機市場において特に中国では成長期にあり,変化が激しい市場ニーズに合わせてスピーディーな対応が求められている。そこで富士電機は,変化する市場ニーズに即応可能なクラウド型自動販売機を開発した。一般的な自動販売機に搭載される商品サンプルや価格表示器,決済装置などの機能をスマートフォンとクラウドサーバに置き換え,商品搬出・加熱冷却機能といった必要最低限のソフトウェアのみを搭載した。これにより,自動販売機の低価格化が可能になるとともに,オペレーション作業の大幅な効率化を実現した。

ICT ソリューションによる自動販売機の業務プロセスの改善

ペレラ マドゥラ ・ 木村 友彦 ・ 柳川 弘行

自動販売機の機能の多様化で,オペレーション業務量が増加して煩雑化している一方,少子高齢化により労働力の確保が難しくなっている。そこで富士電機は,ICT(Information and Communication Technology)を活用したシステムを構築して,自動販売機オペレータに業務プロセスを改善できるサービスの提供を実現した。このサービスを提供するためのシステムは,サービスアプリケーション,クラウドデータサービス,グローバル通信プラットフォームから成り,自動販売機,通信機,基地局,交換局,クラウドサーバおよび顧客システムを,通信回線を使って接続した構成である。

冷凍機内蔵で設置工事不要なHFO 冷媒ショーケース

渡辺 忠男 ・ 矢野 隆幸 ・ 岩崎 高宏

富士電機は,コンビニエンスストア業界において,優良物件への出店と消費者のさらなる利便性向上を目指して,ビル内など設置工事に制約のある店舗への対応と環境への負荷を低減したショーケースを開発した。冷凍機システムを内蔵化し,設置工事やメンテナンスを簡易化した。また,商品陳列棚下にダクトと棚の先端に気流ガイドを設け,風量を最適化することにより侵入熱量を約30% 低減した。さらに,自動販売機で実績のあるHFO-1234yf 冷媒を業界で初めてショーケースに採用することにより,環境への負荷を大幅に低減した。

オペレーション負荷を軽減した省力化ショーケース

木下  卓 ・ 前川 勝彦 ・ 丹羽 良之

近年,少子高齢化が進み,ショーケースにおいても省人・省力化の要求が高まっている。ショーケースのオペレーション負荷を軽減するために,三つの省人・省力化アイテムを開発した。一つ目は,イージースライド傾斜棚である。商品補充時に棚を引き出すことができ,簡単に傾斜状態に切り替えることで作業を簡易化する。二つ目は,苦渋作業を抑制する「スウィングラック」である。商品補充時に重量物を運ぶ作業を補助するための可動式ラックを付加している。三つ目は,フィルタ簡易アクセス機構を持つ冷凍機内蔵ショーケースである。凝縮器エアフィルタを簡単に清掃することができる。

店舗全体の省力化と省エネルギー化を実現する店舗空調 ソリューション

寺脇 宏幸 ・ 高野 幸裕 ・ 馬杉 卓弥

スーパーマーケットやコンビニエンスストア業界では,店内作業の省力化や店舗機器の省エネルギー化の要望が高くなっている。店舗全体視点での熱負荷や店内の空気の流れに着目した店舗熱収支分析ツールを開発した。店舗の立地条件や規模,機器構成,店舗レイアウトなどを考慮した解析により熱収支計算の精度が飛躍的に向上した。このツールの活用により,扉からの外気侵入が店舗の熱負荷として大きな割合を占めることが分かった。外気侵入低減のため,店内外の差圧を均圧化する正圧制御システムを開発した。店舗性能評価設備により,正圧化した店舗において約10% の省エネ効果を確認した。

コーヒーマシンにおけるドリップコーヒー抽出技術

永吉 賢也 ・ 西川 洋平 ・ 伊藤 修一

よりおいしく大容量のコーヒーを短時間で提供するために,コーヒーマシンにおけるドリップコーヒー抽出技術を開発した。コーヒーの味を左右するコーヒーミルについては,粉砕粒度のばらつきをより少なくするため,静電気の影響を排除するとともに粉砕刃の隙間(ギャップ)調整の精度向上を行った。また,コーヒーを抽出するブリュアについては,抽出中湯添加システムや傾斜式フィルタブロックにより,販売時間の短縮と大容量のコーヒーの連続抽出を実現した。さらに,海外での入手が難しいペーパーフィルタに替わる,より目の細かいメッシュフィルタを開発した。

変化する市場ニーズに対応した自動つり銭機「ECS-777」

中村 善宏 ・ 千國 量也 ・ 片山 修吾

近年,流通業界においては労働力の確保が難しくなっている。効率化や人件費削減,レジ待ち時間の短縮化を行うために,セルフチェックアウトシステムの採用が本格化している。このシステムでは,つり銭機の操作者が従来のレジスタッフではなく利用客になる。そのため,“操作のしやすさ”“紙幣・硬貨の詰まりにくさ”“安全性”が従来以上に求められる。このような市場ニーズに応える自動つり銭機「ECS-777」,幅狭棒金収納ストッカー「CST35」を開発した。

湿度環境制御による鮮度保持技術

市原 史基 ・ 山田 哲也 ・ 平方 聡樹

近年,食べられるのに捨てられてしまう食品(食品ロス)が社会問題となっている。そこで,富士電機は食品の乾燥に注目し,湿度環境を制御することで,食品の鮮度を維持できる技術を開発した。湿度環境を制御する手段として,富士電機の固体高分子型燃料電池の技術を応用している。制御において液体の水を使用しないため,細菌やかびの繁殖による食中毒などのリスクを大きく低減することができる。食材に応じた適正な湿度条件を見極め,食感を維持した保蔵を可能にすることで販売機会を延長し,食品ロスを軽減させる効果が期待できる。

普通論文

無停電電源装置システムの耐震性向上技術

安本 浩二 ・ 呉   平 ・ 志賀 洋之

無停電電源装置(UPS)は,安定した電源供給が必要なデータセンター,金融機関,病院など多くの場所で,停電時のバックアップ電源として使用されるので,十分な耐震性が必要である。また,東日本大震災を経て変圧器の耐震性について指針が示されている。そこで,地震波に対する建築物の加速度応答を考慮した加振試験によりUPS の安定した運転を確認した。さらに,有限要素法による変圧器の変位量を解析した結果に基づいて,変圧器の振れ止め対策や変圧器盤の筐体フレームの見直しを行い,耐震性を向上させた。

三相4 線式無停電電源装置を活用した高効率電源システム

安本 浩二 ・ 王  芳芳 ・ 滝沢  歩

近年,データセンターの電気使用量は増加傾向にあり,電源システムのさらなる効率向上が求められている。富士電機は,400 V 三相4 線式無停電電源装置(UPS)による電源システムを提供している。また,従来の200 V 三相3 線式UPS を使った三相4 線式の電源システムも提供している。いずれの構成もPDU 変圧器が不要なので高効率なシステムとなっている。短絡保護協調は,限流ブレーカの設置で実現できる。なお,絶縁監視装置をI gr 方式にすることで信頼性の高い絶縁監視が可能であり,規格品の電源に比べてK ファクターや変圧器等価容量など,高調波の影響を抑えることができる。

新製品紹介

山陽電気鉄道株式会社 5000 系リニューアル車向け
SiC ハイブリッドモジュール搭載の鉄道車両用VVVF インバータ

田島 宏一

地球温暖化などの環境問題に対処するため,輸送機器の省エネルギー化が進められている。鉄道車両においても,車両を駆動するVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)インバータ装置,および補助電源装置といったパワーエレクトロニクス機器の低損失化が進められている。このような背景の中,富士電機は,低損失のデバイスを搭載して小型・軽量化を図った在来線向けVVVFインバータを開発した。
本製品は,半導体デバイスとして,SiC-SBD(Silicon Carbide-Schottky Barrier Diode)とIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor) を組み合わせたSiC ハイブリッドモジュールを搭載し,インバータの発生損失を大幅に低減した。さらに,速度センサレスベクトル制御を採用することで外付けの速度センサを不要とし,信頼性の向上を図った。

略語・商標

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