富士電機技報
第92巻第3号(2019年09月)
特集
電力の安定供給と最適化に貢献するエネルギーソリューション
電力の安定供給と最適化に貢献するエネルギーソリューション
特集 電力の安定供給と最適化に貢献するエネルギーソリューション
企画意図
富士電機は,エネルギー需給環境の変化および社会インフラや産業システムの高度化に貢献するために,確かな技術で電力インフラを支え,電力の安定供給,最適化に取り組んでいます。また,エネルギー・環境技術の革新を追及し,付加価値の高い,環境にやさしい,国内外で使われる製品・システムづくりにも取り組んでいます。
本特集では,電力の安定供給と最適化に貢献する変圧器,配電盤,無停電電源装置(UPS)などの強いコンポーネントを支える最新技術をはじめ,電源設備のワンストップソリューションやエネルギーマネジメントシステム(EMS)などのエネルギーシステムソリューションを紹介します。
〔特集に寄せて〕将来の電力の安定供給と最適化を目指して
中西 要祐
早稲田大学理工学術院大学院教授 工学博士
〔現状と展望〕電力の安定供給と最適化に貢献する
エネルギーソリューションの現状と展望
エネルギーソリューションの現状と展望
森本 正博 ・ 松本 康
エネルギー需給環境の変化および社会インフラや産業システムの高度化に伴い,電力の安定供給や工場・施設における設備の安定稼動と省エネルギーに対するニーズが高まっている。
富士電機のエネルギーソリューションは,変圧器,配電盤,無停電電源装置などの強いコンポーネントとエネルギーマネジメントシステムなどを組み合わせ,一括で提案する電気設備まるごとソリューションを提供している。
本稿では,電力の安定供給と最適化に貢献するエネルギーソリューションの現状と展望を示す。
変電機器を小型化する最新の設計・解析技術
彦坂 知行 ・ 林田 広和 ・ 榎並 義晶
変圧器や開閉装置などの変電機器の小型化のニーズに応えるため,従来の変電機器に対して30% 以上の小型化を実現できる設計・解析技術を確立した。変圧器では,三次元の電界解析技術,磁界解析技術,熱流体解析技術を確立し,各検証モデルでの実測結果との照合により,容積を30% 低減した海外向け50 MVA 変圧器を開発した。開閉装置では,電気回路・電磁場・熱流体の連成解析技術,電界・熱流体の連成解析技術などを駆使し,品質改善を図った。これにより,据付面積を30%,質量を35% 低減した145 kV 新型GIS を開発した。
省エネルギー性・耐震性が向上した新世代モルトラ
宮田 智一
近年,環境配慮の取組みが進む中,モルトラを含む高圧配電用変圧器においては,省エネルギー(省エネ)性能の高い製品の需要が高まっている。また,東日本大震災を経て,変圧器にはより高い耐震性能が求められている。富士電機は省エネ技術を用いることにより,基準エネルギー消費効率に対して130% の省エネ性能を実現した「アモルファスモルトラ」「スーパーエコモルトラⅡ」をラインアップした。さらに,盤内収納変圧器に対して変圧器単体での耐震性能の向上に加えて,盤と一体での最適な耐震設計を実施し,さらなる耐震性能の向上を図った。
データセンター向け高圧盤の小型化
岩本 啓 ・ 藤本 義雄 ・ 大田 博
2005 年頃から増加してきたデータセンターは,都心近郊に建設されることが多いため,設置する電気機器の小型化や省スペース化が求められている。このような背景から,データセンター向けに,幅900 mm,奥行900 mm に小型化しつつ,前面保守型で背面側の保守スペースが不要な高圧盤を製品化した。小型化に当たり,真空遮断器(VCB)固定枠(クレードル)の機能を,盤側に組み込んで一体化した。また,最適な仕様の変流器(CT)を採用し,CT の小型化を実施した。これにより,UPS などを含めた設備全体の据付面積を従来比で約70% に縮小した。
ハイパースケールデータセンター向けUPS
佐藤 篤司 ・ 山方 義彦 ・ 濵田 一平
膨大なデータを集積するデータセンター(DC)は年々大規模化している。DC の安定運用に必要不可欠なUPS に対しては,大容量化とともに高効率化が求められる。富士電機は,DC 向けUPS に新たな方式として,システム効率が最大に近づくように運転台数を制御する機能や,商用給電の安定時に電力損失を少なくできる常時商用給電方式を搭載した。さらに,複数の盤を組み合わせて1 台のUPS を構成するモジュール型UPS や,リチウムイオン電池を採用した小型・軽量のバッテリ盤により,DC の効率的な運用を可能にした。
常時商用給電方式と台数制御機能を付加した
高効率UPS「UPS7000HX-T4」
高効率UPS「UPS7000HX-T4」
安本 浩二 ・ 濵田 一平 ・ 反町 直弘
近年,データセンターの無停電電源装置(UPS)システムの効率向上が求められている。これに対応するため,常時インバータ給電方式の三相4 線式「UPS7000HX-T4」に,常時商用給電機能を付加した。バイパス回路のサイリスタを連続点弧して商用電源から負荷に給電し,インバータを介してバッテリを充電する。装置最大効率は,整流器を停止させることで99% を達成した。また,常時インバータ給電時に高効率運用できる台数制御機能を付加した。待機UPS の整流器とインバータを停止させることで,軽負荷時の効率を向上させた。
大容量パワーエレクトロニクス機器の品質向上と
環境負荷軽減に寄与する試験装置
環境負荷軽減に寄与する試験装置
梅沢 一喜 ・ 山田 歳也 ・ 千田 幸弘
昨今の電力変換装置の大容量化に伴い,要求性能や国内外の規格などの電源品質に準拠した適合試験を行う必要がある。さまざまな条件で効率的に試験するためには,1.5 MW の電力が必要になる場合もあるため,消費電力の低減が重要である。また,電力変動が発生する試験による電気設備への影響をなくす必要もある。これらの課題を解決するため,電力回生機能を持つ試験装置を開発し,導入した。これにより,適合試験の効率化と,試験時の消費電力低減を両立し,製品試験の期間短縮,品質向上および環境負荷軽減に寄与する。
設備保全の最適化を支援する「設備管理まるごとサービス」
福島 宗次
生産設備の安定操業・効率化を目指す上で,設備保全は必要不可欠である。設備オーナーは,機器のメンテナンスやトラブル対応だけでなく設備管理全般に対する支援サービスを求めている。富士電機は,日常点検から費用管理までの設備運用・管理の最適化により,設備保全費を低減し,故障未然防止,故障修復時間短縮など,設備の安定稼動を目指す「設備管理まるごとサービス」を提供している。これにより,管理対象設備と顧客の業務面において,課題の特定,課題の解決策,継続的な改善など,設備保全の最適化を支援し,安全・安心な設備運用・管理に貢献することができる。
大規模施設向け電源設備のワンストップソリューション
村岸 拓郎 ・ 高橋 淳
世界的な経済の加速により,景気動向に合わせた柔軟でタイムリーな設備の拡張性が求められている。富士電機は,半導体の新工場建設工事において,配電盤などの設備をEPC 案件として一括受注した。柔軟な拡張性・仕様変更への追従性に対するアイテムとしてモータコントロールセンター「M-Qube」を提案し,採用された。また,組立工場の建設工事においてもコージェネレーション設備をEPC として電源設備を一括受注した。このコージェネレーション設備は,コンテナパッケージを採用してコンパクト化するなど,トータルコストの削減やBCP への対応も可能にした。
高度な保守・運用を実現するデジタル変電所技術
石上 雄太 ・ 杉田 浩平 ・ 野川 方生
電力業界の変電所設備は高経年化が進み,多くの設備が更新時期を迎えている。変電所設備の更新では,更新工事の効率化やコスト抑制と,更新設備の高い信頼性や保守・運用の高度化が求められている。富士電機は,このようなニーズに応えるため,デジタル化された変電所を構成する国際標準規格であるIEC 61850 に準拠したIED とMU を開発した。複数のIED とMU をEthernet 通信ケーブルで接続し,IEC 61850 に対応したデジタル変電所システムの実用化に向けて開発を進め,オーバーサンプリング手法の採用や,保護性能(3 サイクル遮断)の検証を実施している。
配電分野における再生可能エネルギー大量導入の対策とBCP への対応
松枝 剣 ・ 望月 正希 ・ 神通川 亨
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の導入以降,太陽光発電などの再生可能エネルギーが配電系統に大量に導入され,配電系統の電圧管理が複雑化している。これに対応するため,電圧調整機器とそれらを集中的に制御する集中電圧制御システムを開発した。また,東日本大震災以降,強く求められるようになったBCP に対応するため,仮想化技術や独自開発の構成制御ミドルウェアを適用した広域バックアップ型配電自動化システムを開発した。NEDO プロジェクトに参加してインドにおいて,これらの技術を使った総合配電管理システムの構築と,実証試験を行った。
需給管理システムとVPP ソリューション
岡林 弘樹 ・ 寺田 岳生 ・ 藤尾 昂弘
2016 年4 月の電力小売全面自由化により,電気事業へ参入する新電力が増加している。このような電気事業者向けに富士電機は,業務フローに沿って運用が可能で,外部機関とデータを連係し,複数の個社(新電力)をまとめて代表契約者が計画値同時同量を行うバランシンググループ運用に対応して,高精度な予測機能などを組み込んだ,効率化運用を支援する需給管理システムを提供している。また,VPP の実証事業にも参加しており,需給管理システムと大型蓄電池システムが提供するサービスや,これら二つのシステムを組み合わせた新電力向けのVPP ソリューションが提供できる。
新製品紹介
船舶スクラバ向けレーザ方式ガス分析
田原 雅哉 ・ 東 亮一 ・ 赤尾 幸造
船舶からの排ガスに含まれる硫黄酸化物(SOX)などによる人体や環境への影響を低減するため,海洋汚染防止条約により燃料油中の硫黄分濃度が国際的に規制されている。2020年1月からこの規制が強化される。高硫黄燃料油の使用は,排ガス浄化システム(EGCS: Exhaust Gas Cleaning Systems)を搭載し,適切な運用をした場合に限られている。EGCS の要件を定めた国際海事機関のガイドラインにおいて,排ガス浄化性能の指標として二酸化硫黄(SO2)と二酸化炭素(CO2)のガス濃度比を定め,この指標が規制値以下であることを連続監視することを義務付けている。
富士電機は,EGCS において SOXを低減するスクラバに不可欠な排ガス監視装置として,小型でメンテナンス頻度が少ない船舶スクラバ向けレーザ方式ガス分析計を開発した。
第7 世代「X シリーズ」IGBT モジュール1,700V 系列
永井 大嗣 ・ 増田 晋一 ・ 吉田 健一
近年,地球温暖化対策の観点から,CO2 排出量の削減が求められている。エネルギー変換効率の改善や,風力発電や太陽光発電などといった再生可能エネルギーの利用が拡大している。これに伴い,電力変換装置 1 台当たりの出力電流が拡大する傾向にあり,キーデバイスである大容量 IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの需要が拡大している。同時に,上述の装置は社会インフラの一部を構成するため高信頼性であることも求められている。
このような電力変換装置における出力電流の拡大,低消費電力化および高信頼性化の要求に応えるため,富士電機では第 7 世代「X シリーズ」IGBT モジュールの1,700 V 製品を開発した。
EV リユース蓄電池システム
山野 博之 ・ 宮村 尚孝 ・ 松井 裕志
昨今の電気自動車(EV)の普及に伴い,EV で使い終わった中古電池を安全に有効活用する体制が整ってきている。
一方,需要家に設置する蓄電池システムは,従来,ピークカットによる契約電力低減に伴うエネルギー費用の削減が目的であった。2016 年度から2020 年度までの予定で実施されている経済産業省のバーチャルパワープラント(VPP)実証事業の成果が制度化すれば,ピークカット以外の収入が得られるようになり,投資回収効果が高くなる。
本システムは,EV リユース蓄電池を採用し,ピークカット,VPP 対応機能,さらに事業継続計画(BCP)に対応可能な需要家向け蓄電池システムである。
小容量UPS「GX シリーズ」用ネットワークカード
「Web/SNMP カードⅡ」
「Web/SNMP カードⅡ」
森藤 裕治郎 ・ 初見 博 ・ 畠中 伸治
無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power System) は,産業分野では半導体製造装置やデジタルプリンタなどの電源保護として利用され,IT分野ではデータセンターなどのサーバ機器やネットワーク機器などの電算機器を電源保護として利用される。特にIT分野では,電源が遮断される前にデータを退避したり,基本ソフト(OS:Operating System)を適切な処理で安全に停止するOSシャットダウン処理を行ったりすることが必要である。UPS にUPS 管理システムを連携させることで,バッテリの電力が残っている間にOSシャットダウン処理を自動で実行させることができ,無人化されたサーバルームなどのIT 機器を電源異常から守ることができる。
UPS管理システムには,サーバやPC などのコンピュータにインストールして動作させるアプリケーションソフトウェアと,UPSに直接実装してネットワーク経由で管理が可能なネットワークカードによるものがある。前者ではUPS管理用として専用のコンピュータが必要になるのに対し,後者ではUPSに組み込むので専用コンピュータは不要となる。データセンターなどのIT分野では限られたスペースに多くのサーバを配置するため,後者の省スペースタイプのニーズが高い。また,昨今のIT分野では,ネットワークの暗号化や仮想化技術を取り込んだ技術への対応が重要視されるようになってきている。
富士電機は,これらの機能に対応した小容量UPS「GXシリーズ」用ネットワークカード「Web/SNMP カードⅡ」を開発した。
第7 世代「X シリーズ」1,200 V/2,400 A
RC-IGBT モジュール
RC-IGBT モジュール
高崎 愛子 ・ 掛布 光泰 ・ 山野 彰生
人口増加や経済成長により,エネルギー需要は世界的に拡大の一途をたどっている。CO2排出抑制による地球温暖化対策や,安全・安心で持続可能な社会を実現するために,電気エネルギーを効率的に変換するパワーエレクトロニクス技術への期待が高まっている。中でも,産業,民生,自動車,再生可能エネルギーといった幅広い分野で用いられる電力変換装置のキーデバイスとして,パワー半導体であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの需要が拡大している。電力変換装置の小型化や低コスト化,高性能化に伴い,IGBT モジュールのパワー出力拡大や高信頼性化が求められている。
富士電機は,チップおよびパッケージの技術革新により,高いパワー出力および信頼性を実現した第7世代「X シリーズ」 1,200V/2,400A RC-IGBT モジュールを開発した。
略語・商標
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注
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本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、Web掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。