富士電機技報
第93巻第1号(2020年03月)

特集
自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御ソリューション

特集 自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御ソリューション

企画意図

産業分野では労働力不足を背景とした自動化・省力化に加え、設備稼働状況の見える化、設備不具合の予知や解析など、生産改革により競争力を高める動きが活発です。また、環境負荷を低減するための省エネルギー(省エネ)などが推進されています。
富士電機は、計測・制御ソリューションに必要な計測機器、コントローラなどの強いコンポーネント、およびそれらとIoT 技術を組み合わせたシステム化技術により、自動化や省エネへの貢献とグローバル化を目指しています。
本特集では、計測・制御ソリューションを支える最新コンポーネントと最新技術、およびそれらを組み合わせたソリューションを紹介します。

〔特集に寄せて〕Society 5.0 はCPHSoS で

本多  敏
慶應義塾大学名誉教授 慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所 上席研究員 工学博士

〔現状と展望〕自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御ソリューションの現状と展望

鉄谷 裕司 ・ 笹谷 俊幸

富士電機は,SDGsの取組みの中で、エネルギーと環境をキーワードに持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に貢献していくことを目指している。
本特集で紹介する計測・制御ソリューションの分野においては、計測機器やコントローラなどの強いコンポーネント、およびそれらとIoT技術を組み合わせたシステム化技術により、自動化と省エネルギーに取り組んでいる。
本稿では、安定・安全操業を維持するためのプラント運転支援における異常兆候検知や、AI技術を使ったエネルギーの最適化、さらにはプラント制御のパッケージ化による品質向上など、富士電機の計測・制御ソリューションにおける現状と展望について述べる。

蒸気のムダを見える化する世界初のクランプオン式蒸気用超音波流量計

宮本 汐里 ・ 木代 雅巳 ・ 坂上  智

近年、温室効果ガスの削減に向けて電気の見える化による省エネルギー(省エネ)が進む一方、蒸気の省エネへの取組みは遅れている。これは、蒸気のムダの見える化が困難であることが原因であった。そこで富士電機は、クランプオン式蒸気用超音波流量計を開発し、配管を切らずに蒸気のムダを見える化した。クランプオン式流量計は、液体の測定はすでに実用化され普及している。しかし、蒸気は配管からの超音波透過率が極めて小さく、製品化が困難であった。この課題に対し、ノイズ除去技術や板波利用技術、信号処理技術を適用し、世界で初めて低圧蒸気が測定できる流量計を実用化した。

船舶スクラバ向けレーザ方式ガス分析計

東  亮一 ・ 田原 雅哉 ・ 赤尾 幸造

船舶の排ガス規制の強化が進む中、SOX 規制に対応する排ガス浄化システム(EGCS)に不可欠な排ガス監視装置として、船舶スクラバ向けレーザ方式ガス分析計を開発した。レーザ方式により、測定対象以外のガスの影響を受けにくい。光源の変動を装置の内部で自ら補正でき、校正ガスを用いた頻繁な校正は不要であるため、メンテナンスが容易で頻度も低い。また、光軸を重ねる光学系をコンパクトにまとめ、信号処理回路も内蔵することにより小型・軽量化でき、検出部全体の運搬と設置を容易にした。さらに、一般財団法人 日本海事協会とDNV・GL 船級協会の認定を取得した。

モーションコントローラ「MICREX-SX SPH5000M」

下川 孝幸 ・ 宮下 裕史 ・ 久保隅 創

モーションコントローラには、より多くの制御軸で、かつ、より高速な制御周期で同期制御を行えることが求められて いる。富士電機は、この要求に応えるために「MICREX-SX シリーズ」の新CPU モジュールとして「SPH5000M」を開発した。マルチコアマイコンにより従来機種に対してアプリケーションの実行性能が3 倍向上した。また、シーケンス制御やモーション制御をマルチCPU に分散して並列・同期実行を行うことにより、アプリケーションプログラム実行周期を高速化した。これにより、従来と同様のシステム構成のままで、機械のさらなる高機能化と高速化を行うことが可能である。

保守性と信頼性を向上した監視制御システム「MICREX-VieW XX(ダブルエックス)」

笹野 喜三郎 ・ 藤澤 昭博 ・ 永塚 一人

監視制御システムは、熟練者でなくてもプラントの安全・安定操業ができるように、監視操作の簡単化、機器や部品の交換保守の容易化、および堅牢なシステムによる信頼性の向上が重要になっている。これらの課題を解決するため、富士電機は、定期交換時期をオペレーターに通知するハードウェア異常検知(予防保全)機能、プラントのデータを収集記録して再現表示するプラント過去再現機能、ならびに伝送回線の1 か所で故障が発生しても二重化の系切替えを行わずに継続運転ができるE-SX バスループ化機能などを監視制御システム「MICREX-VieW XX(ダブルエックス)」に搭載した。

工場ですぐ使えるタッチオペレーションの現場型診断装置「SignAiEdge(サインアイエッジ)」

松本 充弘 ・ 佐藤 好邦 ・ 坂井 一博

近年、IoT による製造業のデジタル化の中で、特にエッジコントローラによる現場情報の解析・最適化機能を搭載するエッジヘビー化が進められている。富士電機は、アナリティクス・AI を搭載した表示器一体型のエッジコントローラである「SignAiEdge(サインアイエッジ)」を開発した。バッチ生産とロット生産に対応している。導入から運用までをユーザー自身で行える。また、富士電機製品のプログラマブル表示器「MONITOUCH」を基にその技術を発展させることで、タッチオペレーションが可能であり、工場ですぐに使うことができる。

エッジコントローラで動作するモデル予測制御

丹下 吉雄 ・ 桐生 智志 ・ 松井 哲郎

省エネルギー化や多品種少量生産などの要求に応えるため、プラントのオートメーションにおいて、よりきめ細やかな運用を低コストで実現することが求められている。従来は、高性能な計算機を用いて運用されてきたモデル予測制御(MPC)を、富士電機のPLC「MICREX-SX」で実行できるようにしたエッジ型MPC を開発した。運転データからのMPC 用のモデル同定と最適ゲインの可視化をオフラインで行うことにより、オンライン制御では、安定した高度制御を実現できる。さらに、PLC の柔軟性と信頼性を生かし、現場に容易に導入できる。

異常兆候を検知し回避手順を示すプラント運転支援システム

鳴海 克則 ・ 鈴木  聡 ・ 館山 淳也

プラント操業では、さまざま場面に応じて適切に操作ができる技術が求められている。また、プラント設備では運転データなど多様なデータが大量に蓄積されている。富士電機は、大量のデータを解析することにより、適切な操作を行うことができるプラント運転支援システムを開発した。多変量解析などによる複数の予測モデルを用いて同時に予測を行い、予測値を総合することで予測精度が向上する。これにより、精度の高い異常兆候を早期に検知できる。また、異常兆候を検知すると回避手順データベースから該当する回避手順を検索し、ユーザーに通知する機能も実装した。

監視制御システムの設計工期短縮と品質向上を実現するエンジニアリング支援ツール「HEART」

北村 純郎 ・ 加藤 邦昭 ・ 吉野  稔

昨今、経験を積んだレベルの高いエンジニアが高齢化により引退することに加えて、国外においては離職率が高いために経験が浅いエンジニアの起用が必要となり、エンジニアリングそのものの容易化が求められている。エンジニアリング支援ツール「HEART」は、制御機能仕様書から制御ソフトウェアを自動作成し、エンジニアリングの各フェーズを圧縮し、大幅なリードタイムの短縮と品質向上に貢献する。さらに、記述に必要な各種シンボルなどを備え、使い慣れた汎用OAソフトウェアを用いて分かりやすい仕様書表現が容易に実現できる。

安定操業を実現するセメントプラント監視制御パッケージ

梅基 一生

富士電機は、世界中の顧客にセメントプラント監視制御システムを数多く納入してきた。リーズナブルな価格でシステムを提供できるようにするため、これまでに納入したシステムを整理してセメントプラント監視制御パッケージを完成した。本パッケージを適用することにより、受変電設備や駆動装置、制御機器、計測機器などを組み合わせて、顧客ごとに最適なソリューションをワンストップで提供できる。これは、最適で信頼性が高く、安定した操業を実現する監視制御システムを短期間で立ち上げることにつながり、顧客にとっても価値のあるものとなっている。

効率的な維持管理を実現するごみ焼却施設パッケージ

古川 浩司

PFI(Private Finance Initiative)事業には幾つもの方式がある中、ごみ焼却分野では、DBO(Design BuildOperate)方式を適用する事例がほとんどである。DBO 方式の狙いの一つとして、事業期間中に発生するライフサイクルコストの削減がある。富士電機は、技術ノウハウを伝承できる運転支援システムや異常兆候を検知し、最適な点検やメンテナンスの時期を知らせる異常兆候早期検出パッケージや設備管理などの定型業務と突発的な故障対応など非定型業務を最適かつ漏れなく支援する設備保全管理システムにより、プラントの効率的な維持管理に貢献している。

AI 技術により予測精度を高めたエネルギー制御パッケージ「EMS-Package」

鳴海 克則 ・ 丹下 吉雄 ・ 島崎 祐一

国外の製鉄所では、個別設備のエネルギーが計測できていないところが多く、製鉄所全体のエネルギーの見える化が進んでいない。そのため、需要予測の精度が上がらず、最適運用計画の省エネルギー(省エネ)効果も低い。これに応えるために富士電機は、AI 技術を用いて個別設備のエネルギーが計測できていない製鉄所にも適用できる予測方式を開発し、「EMS-Package」に追加した。本パッケージは、主にモデリング、可視化、最適運用、需要予測の機能で構成され、最適計算エンジンにより最適運用計画を作成し、これに沿ってオペレーターが運用することによって省エネが実現できる。

安全・安心に貢献する放射線管理サービスソリューション

前川  修 ・ 加藤  勉 ・ 安部  繁

富士電機は、放射性物質を取り扱う施設やその近隣自治体に対して、安全・安心に貢献する放射線管理サービスを提供している。東日本大震災の復旧・復興支援にも活用された、富士電機の放射線計測技術と最新のIoT 技術を融合した環境放射線監視サービス、放射線管理システムなどを開発した。クラウドサーバやMVNO などの携帯電話通信網の採用により、安価かつ短期間で導入できる。また、被ばく管理システムでは、線量計に通信機能を内蔵し、Wi-Fi やスマートフォンからシステムに接続することで、作業管理者が遠隔で作業者の被ばく線量をリアルタイムで把握できる。

普通論文

大容量UPS を用いたデータセンター向け共通予備システム

安本 浩二 ・ 濵田 一平 ・ 根本 健司

データセンターで使われている無停電電源システム(UPS)は、信頼性や省エネルギー、経済性が重要である。 これまで採用されていた待機冗長や並列冗長システムは、冗長容量が単機 UPS 容量となるので単機 UPS 容量の小さい方が経済性で優れていた。近年、さらに信頼性の高い共通予備システムの採用が望まれており、その場合には単機UPS 容量の大きい方が経済性に優れる。そこで富士電機は、単機 UPS 容量、負荷容量に関わらず冗長容量が変わらず、信頼性と経済性に優れた共通予備システムを構築した。

新製品紹介

太陽光発電用パワーコンディショナ「PIS-50/500(DC1,100 V/50 kVA)

木内 忠昭 ・ 辻村 記一 ・ 森嶋 洋介

太陽光発電で用いられるパワーコンディショナ(PCS)は,その発電規模により大きく二つのタイプに分けられる。MW(メガワット)以上の大規模発電には,大型のPCSで電力を集中変換するセントラル式が,小規模発電には,設置工事や管理が容易な小型のPCSを分散配置したストリング式が用いられてきた。しかし,近年,ストリング式PCS を複数台接続した大規模発電が増加している。その理由として,ストリング式PCSは,セントラル式より,小容量PCSの分散配置で故障時の発電量の低下リスクが低減できる。さらに,個別の昇圧回路による最大電力点追従(MPPT)制御で発電量が多く得られるなどの利点がある。また,基礎工事や搬入道路,重機を不要とする容易な施工に加え,PCSの容量増加により一台当たりのW(ワット)単価が低下した。これによりシステム全体の導入コストが抑制されたことが挙げられる。
富士電機は,これらの市場変化に合わせ,セントラル式PCSシリーズに加え,DC1,100V/50kVAクラスのストリング式PCS「PIS-50/500」をラインアップに加えた。

蒸気用超音波流量計(クランプオン式)

平山 紀友 ・ 金井 秀夫 ・ 木代 雅巳

2015 年に採択された地球温暖化など気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」(COP21)では、日本は温室効果ガス排出量を2030 年度までに2013 年度比で26% 減らすことを目標に掲げている。
また、2018 年の「エネルギー使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)の改正では、“省エネ再エネ高度化投資促進税制”によって、新たに購入した省エネルギー(省エネ)設備取得価格の30% の特別償却または7% の税額控除を措置する制度が新設されるなど、社会的に徹底的な省エネの推進が行われている。
このような協定や改正された法律に促されて、各家庭や事業所ではエコ製品の購入や太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用により電気の省エネが広く実施されている。
電気エネルギーは容易に測定できるので見える化によってさまざまな省エネが行われていて、これ以上の削減効果は望みにくい。一方、蒸気エネルギーは測定が難しく見える化が困難であるため省エネの実感が分かりにくく、実施できたとしても継続できずに止めてしまうことが多かった。しかし、さらなる省エネを実施する上で蒸気の省エネ化は避けて通ることができない。

電機高速コントローラ「MICREX-VieW XX(ダブルエックス) XCS-3000 Type E」

栗原  司 ・ 永塚 一人 ・ 大坪 宏輔

電動力応用プラントにおいて、近年プラント規模が拡大し操業効率の向上が求められている。さらには、生産現場ではトレーサビリティの重要度が増している。そのため、このようなプラントシステムで扱うデータ量が増大している。
表面処理設備や圧延設備に代表される鉄鋼プラントでは、電機品はインバータ制御によって駆動している。このようなプラントで使用されるコントローラは、システムの高度化に伴い、高速大容量メモリや高信頼性ネットワークを備えることが求められている。
そこで、生産設備の稼動状況を監視・制御し、高い信頼性を持たせながら、大容量の監視・制御データを高速に更新可能な電機高速コントローラシステムの主要コンポーネントであるコントローラ「MICREX-VieW XX(ダブルエックス) XCS-3000 Type E」を開発した。

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