富士電機技報
第94巻第4号(2022年3月)
特集
自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
特集 自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
企画意図
SDGs(Sustainable Development Goals)が目指す持続可能な社会の実現と気候変動問題の解決に向けて、脱炭素化への世界的な取組みが急速に進んでいます。富士電機は2019年に、“脱炭素社会の実現”“循環型社会の実現”“自然共生社会の実現”を柱とする“環境ビジョン2050”を発表し、クリーンエネルギー技術・省エネルギー製品の普及拡大を通じてこのビジョンの実現を目指しています。
“脱炭素社会の実現”については、CO2ガス排出量削減のための自動車電動化ならびにエネルギーの安定的かつ効率的利用のためのパワーエレクトロニクス機器の高効率化が必須です。これらの電動化、高効率化に富士電機のパワー半導体はキーデバイスとして貢献しています。
本特集では、富士電機のパワー半導体について、最新の技術および製品を紹介します。
〔特集に寄せて〕エネルギーシステムの改善を方向付けるパワー半導体
Blaabjerg, Frede, Ph.D. Professor, AAU Energy, Aalborg University, Denmark
デンマーク オールボー大学理工学部エネルギー学科 教授
〔現状と展望〕自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
大西 泰彦 ・ 宮坂 忠志 ・ 井川 修
気候変動問題の解決に向けて、脱炭素社会の実現に世界の関心が急激に高まっている。富士電機は2019年に、“環境ビジョン2050”を発表し、クリーンエネルギー技術・省エネルギー製品の普及拡大を通じて、脱炭素社会の実現を目指している。そのためには、自動車電動化およびエネルギーの安定的かつ効率的利用のためのパワーエレクトロニクス機器の高効率化が必須である。富士電機のパワー半導体は、これらの電動化と高効率化に対するキーデバイスであり、その技術革新を通じて持続可能な社会の実現に貢献していく。
本特集では、富士電機のパワー半導体の製品および技術の現状と展望について述べる。
xEV向け100kWクラス超小型RC-IGBTモジュール「M677」
安達新一郎 ・ 小幡 智幸 ・ 東 展弘
近年、世界的に自動車の電動化がますます加速しており、パワーモジュールは小型化、低価格化と高出力化が同時に求められている。富士電機は、100kWクラスのモータ出力容量をターゲットとして、業界トップクラスのxEV向け超小型RC-IGBTモジュール「M677」を開発した。低損失なRC-IGBT、リードフレーム配線を用いた新規パッケージ、高放熱冷却器の組合せにより、従来品よりインバータ動作時の発生損失20%低減、モジュール体格50%低減を達成した。その結果、2倍の高電力密度化を行い、100kWクラスのRC-IGBTモジュールを手のひらサイズで実現した。
xEV向け超小型RC-IGBTモジュールの冷却技術
立石 義博 ・ 小山 貴裕 ・ 吉田 大輝
電動車ではシステムの小型・高効率化を目的に機電一体型システムの開発が進んでおり、このシステムに搭載されるパワーモジュールも同様に高電力密度化が求められている。この要求に応えるため富士電機は、新たなアルミニウム冷却器を搭載したパワーモジュールを開発した。この冷却器は高精度化したシミュレーションを用いて設計しており、フィンと流路を最適化することで冷却性能の向上を図った。また、機能を集約し部品点数を削減することで小型化を実現した。その結果、第3世代(従来)のパワーモジュールに対して約2倍の電力密度を達成した。
第7世代「Xシリーズ」産業用RC-IGBTモジュール「Dual XT」
江袋 佑太 ・ 山野 彰生 ・ 掛布 光泰
近年、出力電力拡大、高信頼性化といった電力変換装置の高性能化が求められている。これに応えるため富士電機は、IGBTとFWDの機能をワンチップ化したRC-IGBTの開発を行い、この技術と第7世代「Xシリーズ」の技術を適用し、定格電圧1,200Vおよび1,700Vの産業用RC-IGBT モジュール「Dual XT」をラインアップした。このモジュールは同一パッケージを用いた従来製品と比較して、高い信頼性を確保しながらチップ接合温度を175℃に引き上げ、接合温度変動も大幅に改善した。これにより、電力変換装置のさらなる出力電力の拡大や高寿命化を実現した。
第7世代「Xシリーズ」大容量IGBT-IPM「P631」
皆川 啓 ・ 唐沢 達也 ・ 唐本 祐樹
富士電機は、電力変換装置のさらなる高出力化、高効率化、高信頼性化の要求に応えるため、高出力で高い放熱性を兼ね備えた第7世代「X シリーズ」大容量IGBT-IPM「P631」を開発し、系列化した。現行品の大容量「Vシリーズ」IPM に比べ、定格電流を最大1.5倍まで拡大した。また、連続動作時の発生損失を約7% 改善するとともに、150℃での高温動作化を実現した。これにより、インバータの出力電流を約1.3倍増加できる。
第3世代小容量IPM「P633Cシリーズ」
上村 威 ・ 大橋 英知 ・ 田村 隆博
世界のエネルギー消費量は年々増加傾向にあり、省エネルギー(省エネ)に関する政策や規制が各国で進んでいる。この省エネ政策や規制に加えて、通信機器や制御機器などのEMC関連の規格に準拠した低ノイズ性や耐ノイズ性も同時に要求されている。これらの要求に応えるため富士電機は、省エネ性能とEMC性能を向上した第3世代小容量IPM「P633Cシリーズ」を開発した。第7世代FWDチップ技術を適用することで、発生損失と発生ノイズのトレードオフを改善した。また、新開発の3ch-HVICとLVICチップを搭載することで、外来サージに対する誤動作耐量や破壊耐量が向上した。
次世代小容量IPM用3ch-HVIC技術
上西 顕寛 ・ 山路 将晴 ・ 澄田 仁志
IPMは産業機械や家電製品、サーバ用電源などさまざまな用途で用いられている。富士電機は、電力変換システム向けに、次世代の小容量IPM用3ch-HVIC技術を開発した。従来の3チップで構成していた3チャネル分のハイサイド・ゲートドライバ回路(HVIC)を1チップに集積化し、レベルシフタとハイサイドウェル構造に高ノイズ耐量化技術を適用することで、チップ面積を増大させることなく、スイッチングノイズに対する高いノイズ耐量を実現した。また、開発した3ch-HVICの適用により制御部の実装面積を従来製品よりも約30%削減し、パッケージサイズを約10%小型化できる。
第2世代ディスクリートSiC-SBDシリーズ
渡邉 荘太 ・ 橋爪 悠一 ・ 島田 隆
データ通信量の増加に伴い、サーバや通信基地局の消費電力は増加傾向にあり、電力変換装置の高効率化による省電力化が求められている。富士電機は、サーバや通信基地局用電源の電流連続モード力率改善回路向けに、導通損失とサージ順電流が向上した第2世代ディスクリートSiC-SBDを開発した。独自のウェーハプロセス技術により、pn接合ダイオードの動作が向上した。また、n+SiC基盤の厚さを約1/3に薄化することで熱抵抗が低減し、放熱性が向上した。これらにより、サージ順電流の保証値が第1 世代に対して1.6倍向上した。
第2世代1,700V SiCトレンチゲートMOSFET
内田 貴史 ・ 奥村 啓樹 ・ 成田 舜基
富士電機は、地球温暖化をはじめとする社会・環境課題の解決に向けて、さまざまな高効率のパワーエレクトロニクス機器を市場に展開している。今回、第2世代1,200V SiCトレンチゲートMOSFETのトレンチゲート構造を応用し、プレーナゲート構造よりも規格化オン抵抗を60%低減した第2世代1,700V SiCトレンチゲートMOSFETを開発した。SiCの信頼性上の課題であるゲートバイアスによるゲートしきい値電圧の変動とボディダイオード通電による規格化オン抵抗の上昇を抑えた。また、インバータ動作時の損失は、従来のSiモジュールに比べて78%低減した。
新製品紹介
大容量無停電電源装置「UPS7500WX」
濵田 一平 ・ 絹田 隆紘 ・ 久保寺晋嗣
近年、北米やアジアを中心に建設が増大しているハイパースケールデータセンターでは、電力使用量が膨大となる。このため、停電などの電源異常時にも電力供給を継続する無停電電源装置(UPS)には、さらなる大容量化と省エネ化が求められている。
富士電機は、2018年度に北米市場の安全規格に適合する容量1,000kVAの「UPS7400WX」を発売した。今回、電力変換回路やUPSモジュールの並列制御技術などのプラットフォーム技術を基に、UPS7400WXの次世代機となる大容量無停電電源装置「UPS7500WX」を開発した。
船舶IoTシステム
河村 賢
近年、衛星通信を使った船陸間ブロードバンド通信の普及が急速に進み、海上を航行する船舶でも、定額で高速通信サービスを享受できるようになってきている。これにより、陸上との情報格差が解消されつつあり、リモートサービスに関するニーズが急増している。
このようなニーズに対応して富士電機が展開している排ガス浄化システム(EGCS:Exhaust Gas Cleaning Systems)において、よりよいサービスを提供する船舶IoT(Internet of Things)システムを開発した。
略語・商標
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注
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