富士電機技報
第96巻第1号(2023年9月)
特集
自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御・情報システム
自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御・情報システム
特集 自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御・情報システム
企画意図
産業や生活を取り巻く環境は、脱炭素化に関わる環境対策需要の高まりや労働力不足などで大きく変化している。そのため、デジタル化やIoT化の手段の進化とともに、顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)につながる、さらなる自動化や省エネルギーのニーズが高まっています。富士電機は、計測機器、コントローラなどのフィールドデバイスに、エンジニアリング、サービスを組み合わせたシステムソリューションを提供しています。本特集では、自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御・情報システムと、それを支えるコンポーネント(機器)・技術、およびそのエンジニアリングやサービスについて紹介します。
〔特集に寄せて〕ソフトセンサーによるリアルタイム監視の展開
船津 公人
奈良先端科学技術大学院大学 データ駆動型サイエンス創造センター センター長特任教授
東京大学名誉教授
〔現状と展望〕自動化と省エネルギーに貢献する計測・制御・情報システムの現状と展望
鉄谷 裕司 ・ 松本 康
富士電機は、顧客のDXにつながるさらなる自動化や省エネルギーに貢献するために、計測機器、コントローラなどのフィールドデバイスに、エンジニアリング、サービスを組み合わせたシステムソリューションを提供している。プラント監視制御システムについては、各分野と規模に応じて最適な監視制御システムやそれを支える圧力発信器、流量計、分析計を展開している。ファクトリーオートメーションシステムについては、顧客が進めるDXに貢献する製造実行システム、モーションコントロールシステムなどを展開している。また、各種産業分野で培った計測・制御技術を活用して、船舶IoTシステム、放射線管理ソリューション、スマート保安サービスも展開している。
プラントシステムのエンジニアリング効率化を実現するグローバル対応監視制御システム
若井 大資 ・ 佐藤 好邦 ・ 吉原 大助
近年、プラント監視制御システムのエンジニアリング機能には、プラントのライフサイクル全体のサポートが求められている。このようなニーズに対応すべく、富士電機は、プラントシステムのエンジニアリングの効率化に向けて、グローバル対応監視制御システム「MICREX-View FOCUS Evolution」を開発した。MICREX-View FOCUS Evolutionは、容易なカスタマイズ性と高い汎用性を両立したシステムであり、マルチベンダ間での通信として標準的に用いられるOPC UAにも対応しており、ユーザーの要求する規模や用途に応じた柔軟な監視制御システムを構築できる。
プラントの操業最適化に貢献するソフトセンサ
田中 雅紀 ・ 加藤 泰輔 ・ 村上 賢哉
近年、生産性向上を目的にプロセス産業のDX推進に向けた取組みを進める企業が増えている。富士電機は、温度・圧力などのデータを用いてリアルタイムに品質を推定できるソフトセンサの技術開発を進めている。このたび開発したソフトセンサ構築ツールにより、従来は難しかった高精度な数式モデルを効率よく作成し、実装することができる。プロセスシミュレータを用いて、本ツールで構築したソフトセンサによるリアルタイム計測が難しい品質値の推算と、当該推算値に基づく制御のシミュレーションにより、原単位低減などによりコスト削減が期待できることを確認した。
エンジニアリングのリードタイム短縮と品質向上を実現してDXを加速する支援ツール
北村 純郎 ・ 吉野 稔 ・ 阿部 雄大
プラント・設備の新設、増設、更新におけるエンジニアリング業務において、従来は多くの手作業を行う必要があり、リードタイムと品質に大きなばらつきが発生していた。エンジニアリング支援ツール「HEART」は、自動化やデータとデジタル技術の活用などにより、エンジニアリング業務や、業務フロー、業務プロセスの変革を支援することでDXを加速する。制御機能仕様書と完成図書の作成を省力化し、制御プログラムの生成、各種仕様書・図面の変更箇所の可視化、試験結果の制御機能仕様書への記録を自動化することにより、リードタイム短縮と品質向上の実現に貢献する。
製造現場のDXに貢献する製造実行システム
中嶋 孝広 ・ 喜多村 卓
近年、製造業ではDXによって製造プロセスを効率化し、生産性や品質を向上させる、製造実行システム(MES)の導入が加速している。MESはさまざまなシステムと連携することで、製品のトレーサビリティの向上や、生産過程における問題の早期発見・解決などに貢献できる。富士電機は、製造現場を情報モデルとしてデジタルツイン化し、体系的に管理することで、食品製造をはじめとするさまざまな用途に対応できるMESを開発した。情報モデルの利用者間での共有や情報識別子の導入、生産情報モデルへの品質管理情報のひも付けなどの効果により、生産性と品質の向上に貢献できる。
工場設備の自動化に貢献するモーションコントローラ
久保隅 創
産業用機械・装置で活用されるモーション制御における高速化、高精度化、装置設計・デバッグ・立上げの効率向上などの顧客要求に応えるため「MICREX-SXシリーズ」のCPUモジュールを開発した。本製品は、シーケンス制御やモーション制御を並列実行することにより、アプリケーション実行性能を従来比で4倍に向上できる。また、オープンネットワークとして普及が加速しているEtherCATに対応し、顧客の要望に合わせて柔軟にシステムを構築できる。さらに、モーション制御用FBやロギング機能によって、プログラム開発・デバッグ効率、システムの信頼性を飛躍的に向上できる。
プラントの監視制御システムの高度化に貢献する差圧・圧力発信器
山下真一郎 ・ 坂上 智
富士電機の差圧・圧力発信器「FCXシリーズ」は、1989年の発売以来、さまざまな業界のプラントを監視制御する用途に使われてきた。このたび、お客さまの新たなニーズに応えるために開発した最新モデルの「FCX-A Ⅳシリーズ」は、静電容量式圧力センサを適用し、高い測定精度と長期安定性とともに、高速応答性や高い視認性と操作性を実現している。本シリーズは、独自の構造により対水素透過用途に、最適なダイヤフラム材料の選択により耐食用途に使用できる。さらに、ピエゾ式圧力センサを用いて、静電容量式圧力センサの適用範囲を超えた超高耐圧が求められる用途に使用できる。
EV 駆動部品の使用環境を再現する性能試験システム
大竹 克朋 ・ 三春 勉 ・ 宮本 洋圭
近年、自動車の電動化は、世界的な排ガス規制や脱炭素化が進む中、急速に進展している。特に、電気自動車(EV)の開発は複雑な制御が必要になるため試験工数が膨大となる可能性があり、EV向け試験装置の需要が高まっている。富士電機は、このような需要に対してEV駆動部品性能試験システムを開発した。本システムは、実路走行時の負荷の模擬や、供試体が使用される温度と湿度の実環境を模擬することで、試験効率と信頼性向上に貢献する。
排ガス浄化システムの効率的な運用管理を実現する船舶IoTシステム
安信 友裕
近年、船舶業界においては国際的な環境規制の強化により、船舶から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化システム(EGCS)が導入されている。その中で、普及が進んでいる船陸間ブロードバンド通信を活用した船舶IoTシステムを開発した。このシステムを用いると、EGCSの計測ログデータやアラームをクラウドサーバを利用して監視することができる。異常予兆診断機能も提供しており、機器が故障する前に適切なタイミングでメンテナンスを行うことで、機器のダウンタイム短縮とトラブル対応に要する作業を削減することが可能である。
安全・安心に貢献する放射線管理ソリューション
前川 修 ・ 阿部 洋平
富士電機は、放射性物質を取り扱う施設やその自治体に対して、安全・安心に貢献する放射線管理ソリューションを提供している。東日本大震災の復興支援に活用された環境放射線モニタでは、伝送機能の多様化により災害時の監視継続能力を改善したモニタリングポストや、検出の精度と安定性を向上させたリアルタイム線量率計を開発した。放射線量などの測定データを収集して画面表示する環境放射線監視テレメータシステムでは、顧客ニーズに合わせて拡張が可能なプラットフォームを、α線ダストモニタでは、ノイズ低減と高分解能化によりα線の測定性能を向上させた検出器を開発した。
保守、点検の効率化と予知保全の実現に貢献するスマート保安サービス
須長 祐悟 ・ 福島 宗次
受配電設備をはじめとする産業・エネルギー関連インフラでは、設備の経年劣化が進むとともに、保守、保全に当たる人材の高齢化と長期的な人材不足、技術・技能伝承力の低下などへの対応が喫緊の課題であり、スマート化による保守、点検の効率化と予知保全の実現が求められている。富士電機は、これらの設備から種々の情報を収集・分析することにより、保全計画立案、設備監視、保全管理策の提案まで、設備保全の最適化を実現する「まるごとスマート保安サービス」を展開し、設備の稼働状態と傾向監視、回転機振動監視など、新機能を取り込みながら適用拡大を図っている。
新製品紹介
1,700 V / 75 から 200 A 4 in 1 モジュール
堀江 峻太 ・ 小平 悦宏 ・ 鄭 茂
交流から直流、あるいは直流から交流など、電気エネルギーを変換する電力変換装置では、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールを中心としたパワーモジュールがキーデバイスとして広く用いられている。IGBTモジュールでは、高性能・高信頼性だけでなく、装置設計の簡便化および小型化への対応も要求されている。さらに、用途ごとに実用化されているさまざまな回路方式に適した特性を持つことも必要とされている。本稿では、高圧インバータの回路構成に最適となるように、新たに開発した1,700V/75~200A 4 in 1モジュールについて述べる。
配線用遮断器・漏電遮断器用の外部操作ハンドルと端子カバー
石動 秀樹
電気設備や機械設備などの制御盤に搭載される配線用遮断器や漏電遮断器(遮断器)において、盤外からオン、オフできる外部操作ハンドルや、端子の充電部を覆う感電防止のための端子カバーは、付属装置として広く使用されている。近年、使用環境の多様化が進み、盤の防水性の向上、盤内機器のメンテナンス時の安全性の向上、盤の施工性・保守性の向上などが求められている。これらの要求に対応し、最新の電気安全のための保護構造を満足した、「G-TWINシリーズ」32~100アンペアフレーム(AF)用N形外部操作ハンドル(遮断器に直接取り付けるタイプ)と端子カバーを同時に開発し、2021年12月から発売した。
略語・商標
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注
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