富士電機技報
第96巻第3号(2024年1月)

特集 カーボンニュートラルの実現に向けたソリューション・技術

特集 カーボンニュートラルの実現に向けたソリューション・技術

企画意図

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、富士電機はパワー半導体、パワーエレクトロニクス、計測・制御などのコア技術を活用して脱炭素に貢献する製品・ソリューションおよび新技術について幅広く取り組んでいます。これからも、電気、熱エネルギー技術の革新の追求により、エネルギーを最も効率的に利用できる製品を創り出し、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献していきます。
本特集では、カーボンニュートラルの実現に貢献する富士電機の取組みを紹介します。

〔特集に寄せて〕
カーボンニュートラルと電力システム

安田 恵一郎

〔現状と展望〕
カーボンニュートラルの実現に向けたソリューション・技術の現状と展望

大野 健・外山 健太郎

富士電機では、脱炭素社会の実現に向け、エネルギーの供給サイドから需要サイドおよびそれをつなぐ流通分野までのそれぞれに向けた商材・ソリューションを提供している。供給サイド向けには、再生可能エネルギーの導入拡大を支える需給管理システムや系統計画支援システム、電力の安定供給に貢献する系統用蓄電システム、分散型電力システムの設備設計向けシミュレーションなどがある。需要サイド関連では、デジタルツインモデル型地域エネルギーマネジメントシステム、電気推進船向け機器、船舶向け陸上給電設備、電動車向けパワー半導体、コンビニエンスストア店舗の省エネルギーソリューションなどがある。今後の展開を目指して、水素燃料電池システム、直流配電システム用DC/DCコンバータ、熱プロセスの電化に貢献する排熱回収・利用技術、水素・アンモニア向け計測機器の開発にも取り組んでいる。

全体最適を実現するデジタルツインモデル型CEMS

竜田 尚登・飯坂 達也・松本 宏治

近年、CO2排出量削減の社会的要求が高まっており、効率的なエネルギー運用が求められている。富士電機は、地域単位でのエネルギー需給一体の運用課題を解決するため、“新さっぽろ駅周辺地区I 街区開発プロジェクト”に参画し、AI技術を活用したデジタルツインモデル型の地域エネルギーマネジメントシステム(CEMS)を新たに構築した。街区内にある各施設のエネルギー需要を高精度に予測し、その予測に基づいてエネルギー供給側と需要側の双方を自動的に調整することにより、効率的なエネルギー運用を実現し、街区全体の大幅なCO2削減に貢献する。

再生可能エネルギーの導入拡大を支える電力流通ソリューション

岡林 弘樹・三好 龍之介・藤尾 昂弘

日本政府は“第6 次エネルギー基本計画”において、その取組みの一つとして太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー(再エネ)の導入を促進している。富士電機は、再エネ発電事業者向けに蓄電池を制御して発電出力を安定化させる、需給管理システムを開発している。また、新しい調整力として系統用蓄電池を運用する事業者向けに最適化技術を適用し需給調整市場に入札する、系統用蓄電池運用システムを開発している。さらに、送配電事業者向けに再エネの大量導入時に配電系統全体を俯瞰(ふかん)し、問題点を抽出して対策を検討できる系統計画支援システムを提供している。

電力の安定供給に貢献する系統用蓄電システム

金本 真依・毛内 俊晴・宮村 尚孝

再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、電力系統における需要と供給のバランスを保つための調整力として系統用蓄電システムが期待されている。富士電機はDC1,500 V に対応した大容量の蓄電池PCS を新たに開発し、高電圧化が進む蓄電池パッケージとの接続を実現し、設置面積を大幅に低減した。また、PCS は重耐塩仕様にも対応し、沿岸部の遊休地などにも設置でき、高効率で安定した運用を実現している。制御システムは、需給調整市場および卸電力市場に対応している。

新たな分散型電力システムの設備導入に向けた設備設計シミュレーション技術

石上 雄太・佐藤 智希・林 巨己

分散型エネルギー資源の導入拡大や電力取引市場に対応し、災害時も安定した電力供給ができる新たな分散型電力システムの実現が求められている。本システムの構築に必要な設備の設計や運用を事前に検証できる、用途別の三つの設備設計シミュレータを開発した。一つ目の需要家発電設備運用シミュレータは、再生可能エネルギー電源を最大限活用するための最適な蓄電池設備の検証を、二つ目の電力取引シミュレータは、複数の市場取引で収益を最大化するための系統用蓄電池の設備容量と最適運用の検証を、三つ目の分散型グリッド運用シミュレータは、自立運転の検証をそれぞれ可能とした。

船舶・港湾分野におけるカーボンニュートラルへの取組み

造田 大祐・林 寛明・項 東輝

脱炭素化に向けて船舶の電動化が期待されている。富士電機は、船舶・港湾分野の脱炭素化に貢献できる商材を開発している。船舶の電気推進システムは、電力変換器や推進用電動機の冷却方式を水冷ジャケット式とすることで空冷式に比べて小型化し、システムの設置スペースが削減できる。港湾の陸上給電設備は、電源設備をコンテナに収納しパッケージ化することで施工性が向上し、工期が短縮できる。港湾EMS では、水素・アンモニアなどの代替燃料も含めた港湾のエネルギーマネジメントにより、省エネルギーと脱炭素化を進めることができる。

自動車の電動化に貢献するパワー半導体

長畦 文男・池田 良成・松尾 壮太

自動車の電動化が加速している。電動車(xEV)においてパワートレイン系に適用されるパワー半導体は、電力制御を行ってモータを制御するため、自動車の走行性に直結し、人命を預かる重要なキーパーツである。富士電機は、信頼性が高く、高電力密度化と小型・薄型化を目指した、パワートレイン系用パワー半導体モジュール製品を量産化してきた。一方、これらの製品やその構成部品の生産においても、温室効果ガス排出量の削減が必要である。その遂行に向けて、再生可能エネルギー電力の購入や、自社内太陽光発電システムの設置、省エネルギー機器への更新を推進している。

コンビニエンスストア店舗向け省エネルギーソリューション

石原 雄大

近年、コンビニエンスストア各社は、2050 年カーボンニュートラルを目標とした取組みを加速している。直近では、電気料金高騰によるコンビニエンスストア本部および加盟店の負担増を受け、店舗の省エネルギー化への要望が強まっている。そこで、これまでの機器個別の最適化だけでなく、店舗全体の消費電力量を削減する取組みを始めている。ショーケースの除霜時期を予測して事前に調整する機能と、店舗全体の消費電力が最大需要電力を超えないようにリアルタイムに機器を制御する機能を備えることで、店舗の消費電力の平準化が期待できる。

水素社会の実現に貢献する燃料電池ソリューション

高野 洋

わが国は2017 年に“水素基本戦略”を策定し、水素社会の実現に向けて取り組んでいる。水素社会を構築する鍵の一つとして、水素から電気を作ることができる燃料電池がある。富士電機は、1998 年からりん酸形燃料電池を販売し、長期運転実績を獲得してきた。現在、定置用発電システムのみならず、港湾クレーンや船舶を対象とした移動体用発電システムに向け、信頼性が確認されている車載用燃料電池モジュールに燃料電池制御技術を組み合わせた燃料電池システムを開発し、評価している。ライフサイクルコストを低減する製品の提供により、これからの水素社会の実現に貢献していく。

高効率な直流配電システムの構築を可能にするDC/DC コンバータ

依田 和之・田重田 稔久・山田 隆二

再生可能エネルギーによる電力を直流で配電する際に、電力平準化に用いる蓄電池の充放電を行う、200 kW の双方向絶縁DC/DC コンバータを開発した。電池の電圧変動400 ~ 800 V に対応できる回路方式としてデュアルアクティブブリッジを採用し、SiC-MOSFET モジュールを用いてスイッチング周波数を16 kHz としたことにより、絶縁トランスを商用周波数用のものに比べて、体積は11% に、質量は7% に小型・軽量化した。変換効率は、定格条件で98% に達する高効率を得た。これを1 台のユニットとして直並列接続することにより、さらに大容量化が可能である。

熱プロセスの電化に貢献する排熱回収・利用技術

岩崎 正道・白井 英登・安嶋 賢哲

2050 年カーボンニュートラルの実現を目指して、熱プロセスの脱炭素化、省エネルギー(省エネ)化のニーズが高まっている。富士電機は、長年培ってきた自動販売機のヒートポンプ技術を独自に発展させ、主に産業分野における未利用排熱から効率的に熱エネルギーを回収し、さまざまな加熱・冷熱プロセスに再利用する技術の開発に取り組んでいる。高効率な加熱を実現する高温蒸気発生ヒートポンプ、および高効率な冷却を実現するエジェクタ冷却機により、食品や飲料、自動車、化学、半導体、データセンターなどの熱プロセスにおける省エネや、温室効果ガス排出量の削減が期待できる。

水素・アンモニアの普及を支える計測技術

小泉 和裕・山内 芳准・武田 直希

カーボンニュートラル実現に向けて拡大する水素・アンモニアの利用には、ガス濃度や流量の測定は欠かせない。そこで、光技術、超音波技術、微弱信号処理技術を駆使して水素・アンモニア向け計測機器の開発を進めている。ガス分析計では、低濃度を高精度で測定する高感度化技術、ならびに複数のガス成分を同時に測定する多成分測定技術を、流量計では、液体水素を測定対象とし、極低温の気液混相状態を高精度で測定する混相流量計測技術を開発している。これらの多様な計測技術で、水素・アンモニアの普及に貢献する。

新製品紹介論文

LED 照明用 第4 世代臨界モードPFC 制御IC「FA1B10N」

電子機器の小型・軽量化に伴い、スイッチング電源が普及している。スイッチング電源ではコンデンサインプット型の整流・平滑回路が採用されているため、AC電源ラインに大量の高調波電流が流れる。この高調波電流の増加は、機器の動作障害や、力率の低下による無効電力の増加などの問題を発生させる。

デザインを一新した「コマンドスイッチ」(φ 16 系、φ 22 系)

「コマンドスイッチ」は、富士電機の操作用スイッチの商品名で、産業界の自動化や工作機械などの発展に伴い、HMIを担う機器として成長してきた。
近年、工作機械メーカーなどにおいては商品価値を向上させるため、製品構成要素であるコマンドスイッチに対しても従来のFQCD(Function:機能、Quality:品質、Cost:価格、Delivery:納期)だけでなくデザイン要素が新たに要求されるようになり、次世代の機械や装置などに採用されるための重要な要素となっている。

ストライカ引外し式限流ヒューズ付高圧交流負荷開閉器

高圧交流負荷開閉器は、高圧受配電回路において負荷電流を開閉する装置のことである。中でもストライカ引外し式限流ヒューズ付LBSは、負荷電流の開閉から短絡電流の遮断に至る幅広い電流領域で開閉・保護性能を持っている。そのため、キュービクル式高圧受電設備の主遮断装置や変圧器の一次側の保護装置など、さまざまな用途で使用されている。特に、受電容量300 kVA 以下のPF・S 形高圧受電設備に用いられる主遮断装置の多くにLBS が採用されている。

略語・商標

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