富士電機技報
第96巻第4号(2024年2月)

特集 自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

特集 自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

企画意図

世界的にカーボンニュートラル実現に向けた脱炭素化の取組みが加速している中、富士電機は、“豊かさへの貢献”“創造への挑戦”“自然との調和”を経営理念に掲げ、エネルギー・環境事業で持続可能な社会の実現に貢献していくことを経営方針の柱に据えています。
自動車の電動化ならびにエネルギーの安定的かつ効率的利用のためのパワーエレクトロニクス機器の高効率化は、脱炭素化に向けた有効なアプローチであり、富士電機のパワー半導体は、これらのキーデバイスとして脱炭素化実現に貢献しています。
本特集では、富士電機のパワー半導体について、最新の技術および製品を紹介します。

〔特集に寄せて〕
ワイドバンドギャップパワー半導体 ―エネルギー転換の革命か進化か―

De Doncker, Rik W

〔現状と展望〕
自動車電動化・エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体

大西 泰彦・宮坂 忠志 ・井川 修

世界的にカーボンニュートラル実現に向けた脱炭素化の取組みが加速している。富士電機は、“豊かさへの貢献”“創造への挑戦”“自然との調和”を経営理念に掲げ、エネルギー・環境事業で持続可能な社会の実現に貢献していくことを経営方針の柱に据え、カーボンニュートラル実現に向けて、生産活動により排出されるGHG(Green House Gas)を2030 年度に、2019 年度比で46% 超低減することを目指している。自動車の電動化ならびにエネルギーの安定的かつ効率的利用のためのパワーエレクトロニクス機器の高効率化は、脱炭素化に向けた有効なアプローチであり、富士電機のパワー半導体は、そのためのキーデバイスとして貢献している。具体的には、パワー半導体の代表素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や炭化けい素(SiC)を用いたMOSFET(Metal- Oxide- Semiconductor Field- Effect Transistor)と、それを搭載するパッケージの開発を行い、さらなる高効率化、小型化、高信頼化などのニーズに応える製品を市場に提供している。
本稿では、パワー半導体の製品および技術の現状と展望について述べる。

中国向けBEV用新型IGBTモジュール「M675」

髙島 健介・吉田 崇一・立石 義博

近年、世界的に自動車の電動化が加速し特に中国では世界最大のBEV市場が形成され、大型車両の需要が高まっており、パワーモジュールは高出力化、高電力密度化が求められている。富士電機は、140kWクラスのモータ出力容量をターゲットとして、新型IGBTモジュール「M675」を開発した。低損失なRC-IGBT、高放熱な冷却器の組合せにより、従来品「M653」と本体サイズは同じでありながら、発生損失を13%低減、熱抵抗を20%低減し、出力電流を30%増加させた。その結果、高電力密度化を実現し、ターゲットとするモータ出力容量をM653の100kWから140kWまで拡大した。

xEV向けモジュールのパワーサイクル寿命向上

中村 瑶子・渡壁 翼・浅井 竜彦

電動車において、インバータとモータなどの駆動システムを統合した機電一体型システムの開発が進んでおり、このシステムに搭載されるパワーモジュールも高電力密度化・高信頼化が必要である。富士電機が開発した第4世代車載用パワーモジュールでは、リードフレーム配線と樹脂封止構造により高電力密度化と熱変形抑制による高信頼化を実現している。今回、さらなる高信頼性確保のため、樹脂密着性を向上するリードフレームの粗化技術を開発した。この技術により粗化未処理と比較して、密着力が2倍以上に向上し、モジュールの⊿Tvjパワーサイクル耐量は1.3倍に向上した。

産業向け大容量IGBTモジュール「HPnC」

日達 貴久・川畑 潤也・小平 悦宏

温室効果ガスの排出量を削減するために、再生可能エネルギーが注目されている。今後のさらなる普及に向けて、発電コストの低減および発電効率の向上のため、電力変換装置の大容量化が進んでいる。富士電機はこれに対応するため、並列接続の容易さと出力容量の拡大を実現した、産業向け大容量IGBTモジュール「HPnC」を開発した。定格電圧1,700V品は内部構造の最適化により製品の電流密度を上げることで、従来品に比べ出力電流が約33%拡大した。また、定格電圧2,300V品はDC1,500Vの電力変換装置に対応し、従来品に比べ出力容量が約18%拡大した。

第7世代「Xシリーズ」中容量IGBT-IPM「P638」

藤井 優孝・城塚 直彦・唐本 祐樹

富士電機は、電力変換装置のさらなる小型化、低損失化の要求に応えるため、新パッケージ「P638」を適用した第7世代「Xシリーズ」IGBT-IPMを開発した。この製品は、第6世代IGBT-IPMの「P630」に比べ、モジュール設置面積を54%縮小した。また、第7世代チップ技術による発生損失の10%低減と、第7世代のパッケージ技術の適用による150℃での高温動作化の両方を実現することで、連続動作時の負荷電流を第6世代IGBT-IPM P630よりも増大でき、28%大きい負荷領域まで使用可能となった。

第4.5世代LLC電流共振制御IC「FA6C60 シリーズ」

小林 善則・山路 将晴・山本 毅

脱炭素社会の実現に向けて、電子機器に搭載されるスイッチング電源への低待機電力化、高効率化の需要が高まるとともに、電源に搭載する部品の削減によるコストダウンも強く求められている。富士電機は、降圧回路を内蔵したスイッチング電源向けLLC電流共振制御ICを開発した。これにより、電源に搭載する部品7個が削減可能である。降圧回路を内蔵する上でICの発熱が懸念されたが、ハイサイドドライバに新規レベルシフト素子を採用することにより、降圧回路を内蔵しても従来比で約40% の損失低減が可能となり、IC表面温度も約6℃低減した。

第7世代2,300V「Xシリーズ」IGBT/FWDチップ

松本 治輝・田村 隆博・唐本 祐樹

太陽光・風力発電など再生可能エネルギー分野で電力変換装置に利用されるパワー半導体の利用が拡大している。近年、発電出力拡大のため、搭載するIGBTモジュールの高電圧化や高耐圧化が求められている。富士電機は、この要求に応えるため、定格電圧2,300Vの「Xシリーズ」IGBTチップとFWDチップを開発した。IGBTとFWDともに、ドリフト層の厚さを薄くし、裏面構造を最適化することで、耐量と耐圧を確保し、既存の3,300Vチップに対して、IGBTはコレクタ・エミッタ間飽和電圧を39%、FWDは逆回復損失を43%低減した。

大容量モジュール内蔵ゲート抵抗チップ技術

狩野 太一・宮澤 康弘・鎌田 省吾

再生可能エネルギー分野で用いられる電力変換装置の大容量モジュールでは、さらなる高信頼化・高効率化を実現するために、短絡発振抑制と高温時のスイッチング損失低減を両立する必要がある。そのため、大容量モジュールのIGBTのゲートに接続されるゲート抵抗には抵抗値の最適化に加え、温度上昇に伴う抵抗増加の抑制が求められている。富士電機は、このような要求に応え、ポリシリコン抵抗体と低比抵抗Si基板を組み合わせ、抵抗値の温度係数が0ppm/℃以下のモジュール内蔵ゲート抵抗チップを開発した。この技術により、高温時のターンオン損失を13%低減した。

SJ構造適用によるSiC-MOSFETの低損失化と信頼性向上

俵 武志・竹中 研介・成田 舜基

SiC-MOSFETの性能改善に向け、スーパージャンクション(SJ)構造の研究を進めている。エピタキシャル成長(nカラム形成)とアルミニウム(Al)イオン注入(pカラム形成)を繰り返すマルチエピタキシャル法でSJ構造を製造したSiC-SJ-MOSFETは、Alイオン注入によるドリフト層のライフタイム低減効果により、従来のSiCトレンチゲートMOSFETに比べて、逆回復時の蓄積電荷量の増加が抑制され、ボディダイオードの通電劣化が抑制された。SiC-SJMOSFETにより、オン抵抗の低減のみならず、スイッチング損失低減や信頼性向上につながることが期待される。

新製品紹介論文

サーボシステム「ALPHA7」診断オプション

モーションシステムは、金属加工機械や包装機械、半導体製造装置など、さまざまな機械装置で位置や速度、加速度、力などを制御するために使用されている。
これまでのモーションシステムでは、生産性向上のため高速化が重視されてきたが、近年は加えて、機械装置の稼働中にリアルタイムで不良品を検出し、不良品の流出を防ぐことが求められている。
この要求に応えるため富士電機は、AI技術を活用した、サーボシステム「ALPHA7」診断オプションを開発した。

略語・商標

富士電機技報 vol.96 2023 年 総目次

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