富士電機技報
第97巻第1号(2024年8月)
特集 地球環境負荷低減と生産性向上に貢献するパワーエレクトロニクス
特集 地球環境負荷低減と生産性向上に貢献するパワーエレクトロニクス
企画意図
プラントやインフラの分野では自動化・省力化に加え、持続可能な社会の実現に向けて、省エネルギーや省資源など環境負荷を低減する取組みが推進されています。
本特集では、プラントやインフラの分野において、地球環境負荷低減(省エネルギー、脱炭素)と生産性向上(自動化、機器およびプラントの安定稼動)に貢献するため、富士電機が展開しているパワーエレクトロニクス製品を紹介します。
〔特集に寄せて〕
沸騰化する大地にエンジニアの英知を注ごう!
沸騰化する大地にエンジニアの英知を注ごう!
中川 聡子
東京都市大学名誉教授 日本学術会議会員
一般社団法人 電気学会 第106代 会長(令和元年度)
〔現状と展望〕
地球環境負荷低減と生産性向上に貢献するパワーエレクトロニクスの現状と展望
地球環境負荷低減と生産性向上に貢献するパワーエレクトロニクスの現状と展望
鉄谷 裕司・外山 健太郎・劉 江桁
富士電機は、顧客のサプライチェーン全体における地球環境負荷を低減するための技術と製品を提供している。Scope1では、化石燃料から電気や水素などのグリーン燃料に転換するソリューションを提供し、顧客自らの直接的な温室効果ガス排出を低減している。Scope2では、電気エネルギーの有効活用に寄与する高性能・高効率なインバータなどを提供し、顧客の電気や熱の使用に伴う温室効果ガスの間接排出を低減している。Scope3では、地産地消体制を構築し、顧客の調達に関わる温室効果ガスの排出低減に貢献している。
富士電機では、ISA-95で提示されている生産システムの階層モデルをベースに、各階層においてデジタルソリューションを提供して、顧客の生産性向上に貢献している。L0層の駆動機器においては、これまで主眼とした高速化と高性能化以外に、システムの突然停止を未然に防ぐための予防保全・予知保全機能を開発・製品化している。また、偶発故障時の設備ダウンタイムの短縮するため、故障箇所や故障原因を素早く特定するためのツールを開発・提供している。
プラントの省エネルギーと安定稼働に貢献する可変速駆動装置
日夏 遼・佐藤 和久・城市 洋
産業界ではカーボンニュートラルの実現に向けた設備の高効率化、人手不足の解消に向けた設備保全の省力・省人化が求められている。富士電機は、これらの要求に応えるプラント用可変速駆動装置「FRENIC-GSシリーズ」を開発した。直流配電方式による回生電力の有効利用や高調波フィルタ用抵抗器の削除による損失低減など設備の省エネルギー化を進め、また、冷却構造の改良によりインバータスタックおよび盤の小型化を実現した。さらに、制御LANと情報LANを分離することにより、ドライブ制御性能に影響を及ぼすことなく監視データを設備保全に活用可能とした。
鉄鋼圧延設備の省エネルギーに貢献する直流電動機互換型誘導電動機
植村 勇太
鉄鋼業界では、圧延工程の駆動システムを交流化することによる省エネルギー化が進められてきたが、800・600番形直流電動機は仕様が特殊で、交流化して更新するためには長期の更新期間が必要であった。富士電機は、直流電動機と同等の寸法、電気仕様、冷却構造を持つ直流電動機互換型誘導電動機を開発した。慣性モーメントを低減し、機械設備の急峻(きゅうしゅん)な動作にも対応できる。また、過酷な使用環境で要求される耐震性能も直流電動機と同等の5Gを確保した。本直流電動機互換型誘導電動機を適用することで、一般の誘導電動機を使用する場合に対し、更新工事期間を50%短縮することができる。
産業分野の自動化に貢献する高性能汎用形インバータシリーズ
木内 忠昭・矢山 高裕・ 山澤 航太朗
低圧インバータは、ファンやポンプなどのモータ駆動に加え、ファクトリーオートメーションの進展に伴い搬送装置での需要が拡大している。富士電機はこれらの用途に向けて、モータ制御方式とライン制御機能を拡充した高性能汎用形インバータ「FRENIC-Ace(E3)シリーズ」を開発した。ベーシックタイプに加え、データ収集・解析を容易にするEthernet内蔵タイプ、使用環境などに応じてインバータ排熱の冷却方式を自由に選択できるフィンレスタイプをラインアップした。また、重要構成部品であるIGBTモジュールの寿命予報など予防・予知保全機能を拡充した。
港湾の脱炭素化に貢献する陸上電力供給システム
宮下 皓高・渋谷 貴之・大路 桂二朗
港湾の脱炭素化に向けて、停泊中の船舶に陸上から給電する陸上電力供給システムの導入が進められている。富士電機は、国際規格に準拠し、周波数変換装置(SFC:Static Frequency Converter)と周辺機器をコンテナに収納した陸上電力供給システムを開発した。SFCは、単機容量が1.25MVAで、最大8台を並列接続することにより容量を10MVAまで拡張できる。富士電機独自のRB-IGBTを採用しており、業界トップクラスである96.3%の高効率を実現した。工場でパッケージ化して出荷することにより、現地施工期間および施工費用を大幅に削減できる。
カーボンニュートラルポートの実現に貢献する港湾クレーン向け燃料電池システム
三宅 薫・上原 深志・内田 之子
国土交通省が主導するカーボンニュートラルポートの形成に貢献する商材の一つとして、港湾荷役用の自走式門型クレーンの電源に適用する燃料電池システムを開発した。従来のディーゼルエンジン発電機を置き換えることにより、ゼロエミッション化を実現できる。開発したシステムでは、燃料電池と蓄電池を組み合わせることにより、電動機からの回生エネルギーを利用するとともに燃料電池を高効率に運転することができる。可燃性の水素を燃料に用いるための安全性の確保や、メンテナンスの容易な構造も実現した。
産業機器の安定稼働に貢献する高性能・高効率ミニUPSシリーズ
大島 雅文・小野木 理奈・上野 俊浩
電源トラブルの影響を受けずに安定した電力を供給する無停電電源装置として、富士電機は、さまざまな用途に対応する幅広い出力容量の製品をラインアップしている。今回新たに産業機器向けの「GX100シリーズ(リニューアル版)」を開発した。主に情報通信機器向けに提供してきた出力容量10kVAまでのGXシリーズの特徴である高い効率は維持した上で、産業機器用途に向けて、突入電流などの一時的な負荷変動を許容する耐量の拡大や無瞬断での保守を可能にする新規バイパス回路、簡素な動作設定機能などを新たに備えている。
普通論文
並列システムを採用する非常用発電機の短絡保護協調
安本 浩二・壹岐 浩幸・北谷 裕次
データセンターの非常用発電設備に多く採用されている並列システムでは、複数の発電機を並列に接続して同時に運転するので発電機の利用率が高いが、短絡事故時に全ての発電機が重故障により停止して電源供給が途絶えることのないよう短絡保護協調を構築する必要がある。加えて、短絡解除後の過電圧抑制や電圧回復後の変圧器励磁突入電流による不足電圧の回避も必要となる。短絡時の電圧・電流特性をシミュレーション解析した結果に基づいて、発電機遮断器と発電機フィーダ遮断器やサブ変電設備との間の理想的な短絡保護協調の取り方を検討した。
データセンターにおけるUPS 共通予備システムの電圧位相同期制御
安本 浩二・反町 直弘・木水 拓也
近年、データセンターではサーバやストレージ機器の高性能化、高集約化が進み、大量の電力を消費することから、大容量のUPSを複数台用いた信頼性の高い共通予備システムが採用されている。しかし、共通予備システムには、各UPSの出力電圧が非同期状態となり負荷に影響を与えるリスクがある。そこで、代表機のUPS出力電圧に他機が位相を合わせる電圧位相同期制御を付加した。停電時、故障時、保守時などのあらゆる場合にも各UPS出力電圧位相を合わせ、同期している電源を切り換えることで5 ms以内の無瞬断切換が可能となるため、さらに信頼性の高いシステムが構築できる。
新製品紹介論文
電磁接触器・電磁開閉器「SC-NEXTシリーズ」
近年、市場では電磁接触器・電磁開閉器のさらなる小型化、低消費電力化に加え、安全性や環境保護などの要求が高まっている。富士電機はこれらの要求に応えるため、小型・中型機種を全面モデルチェンジし、「SC-NEXTシリーズ」として2023年10月から発売を開始した。
全自動ドリップ式コーヒーマシン「Cafe Mania」
コーヒーは嗜好(しこう)品として人気が高く、コーヒー豆の生産地や焙煎(ばいせん)・抽出方法など、おいしさへのこだわりは強まり、その嗜好にも多様化が見られている。また、飲食店はもちろん、宿泊施設やオフィスなど、さまざまな場所で提供されている。こうした中で富士電機は、独自の抽出技術に加えて、清掃やメンテナンスなどの使いやすさにも配慮した、全自動ドリップ式コーヒーマシン「Cafe Mania」を開発し、発売した。
第3世代小容量IPM「P633Cシリーズ」系列拡大
富士電機は、2012年からエアコン向けを主要ターゲットとした三相インバータ回路に使用する小容量IPMを製品化してきた。2021年には国外市場のエアコン向けとして、機器の消費電力量削減と電磁ノイズ低減の両立が可能となるよう最適設計した第3世代小容量IPM「P633Cシリーズ」を開発した。今回、国内市場のインバータやサーボシステム向けにさらなる低損失化を進め、系列を拡大した。
第7世代「Xシリーズ」大容量IGBTモジュールの系列拡大
富士電機はこれまで多くの技術革新によって、IGBTモジュールの小型化、低損失化および高信頼化を進め、電力変換装置の小型化や低コスト化、高性能化に貢献してきた。最新世代の第7世代「Xシリーズ」IGBTモジュールでは、チップおよびパッケージの技術革新により、さらなる高パワー密度化を実現した。今回、太陽光・風力発電向け電力変換装置のさらなる大容量化の要求に対応するため、出力端子を追加した定格1,200V/1,800AのPrimePACK ™3+を製品化し、ラインアップに追加した。
略語・商標
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注
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