富士電機技報
第98巻第3号(2025年12月)
特集 将来事業を支える先端・基盤技術
特集 将来事業を支える先端・基盤技術
企画意図
近年、脱炭素化に係わる環境対策の需要が高まっており、水素やアンモニアへの燃料転換、CO2回収やサーキュラーエコノミーなどへの対応は必須となってきています。これを受けて、GX(グリーントランスフォーメーション)につながる将来事業を実現するために不可欠な先端的な技術開発を推進しています。また、AIや機械学習、IoTの技術を駆使することで、開発効率や生産効率を向上させる抜本的な改革も必須となってきています。
そこで、このようなデジタル技術の研究開発にも積極的に取り組んでいます。
本特集では、富士電機の将来事業を実現するための先端技術と、それを支える共通基盤技術の研究開発について紹介します。
〔特集に寄せて〕
グリーン水素による脱炭素化の実現への期待
グリーン水素による脱炭素化の実現への期待
飯山 明裕
山梨大学 特任教授
水素・燃料電池ナノ材料研究センター長
兼 水素・燃料電池技術支援室長
〔現状と展望〕
先端・基盤技術の現状と展望
先端・基盤技術の現状と展望
玉手 道雄・松井 哲郎
富士電機は、持続可能な社会の実現に向けた先端・基盤技術の研究開発に取り組んでいる。2027年度以降の市場拡大を見据えた新製品・新事業を創出するための先端・基盤技術として、水素製造システムの制御技術やアニオン交換膜水電解技術、直流バスシステムの蓄電池制御技術、アンモニア漏えい検知技術などのエネルギー転換を見据えた技術、リサイクル樹脂や植物由来樹脂の製品適用技術、材料の加速試験技術などの環境負荷低減に貢献する技術開発を進めている。2026年度までに新製品を投入し事業拡大を目指すための技術として、GXを推進する上で核心となる系統用蓄電池を用いた電力取引に貢献する価格予測・取引計画最適化技術、DX推進を支える騒音シミュレーションや作業認識技術の開発を進めている。
海運のカーボンニュートラルに貢献するアンモニア燃料船への燃料補給における漏えい検知技術
武田 直希・寺岡 佑恭・小泉 和裕
温室効果ガスを排出しないアンモニアを燃料とする船舶を普及させるためには、燃料補給を安全に実施する技術が必要であり、その一つが燃料配管の接続部からのアンモニア漏えいを検知する技術である。富士電機は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業に他社とともに参画して、この技術を開発中である。検出感度を向上させた赤外線カメラを用いて、最大10mの遠隔から濃度25ppm以上の漏えいアンモニアガスを検知することを目標とし、現在はガス濃度に対する検出感度の評価などに取り組んでいる。
アニオン交換膜水電解による水素生成技術
大神田 貴治・佐藤 圭・渡来 壮一朗
富士電機では、次世代エネルギーとして注目されている水素を生成する技術として、低コスト・高効率なアニオン交換膜(AEM)水電解装置の開発に取り組んでいる。本方式は、貴金属触媒やふっ素樹脂を必要とせず、低コストかつ高出力であるという特徴を持つ。製品機の1/30サイズのセルを試作し、電解セル内の水分布を均一化することで電解効率を向上させ、電流密度2.0A/cm2における電解電圧1.71Vを達成した。また、起動停止模擬試験で40,000回後も劣化指標である水電解反応における電解電圧の上昇は約4.5%にとどまり、良好な耐久性を示した。
蓄電池と水電解装置を組み合わせた水素製造システムの制御技術
綱分 智則・小藤 健太郎・神通川 亨
脱炭素社会の実現に向けた次世代燃料として水素が期待されているが、その普及には製造コストの削減が課題である。この課題に対し富士電機は、水電解装置と蓄電池を連動させた水素製造システムの制御技術を開発している。この制御技術は安価な電力を調達して後から水素製造に利用するだけでなく、水電解装置と蓄電池の機能を活用して電力市場での取引きを実施し、売買価格差による収益を得ることができる機能を実現している。電力取引の利益により水素製造コストを補塡することでコスト削減を実現し、採算性を確保しながら水素を安価に供給する事業が成り立つ可能性を確認できた。
直流バスシステムにおける蓄電池制御技術
佐藤 智希・神通川 亨
太陽光発電や蓄電池、直流負荷などを接続して、電力を直流で授受する直流バスシステムが注目されている。このシステムでは直流バスの電圧を安定的に維持することが課題である。これを実現するため富士電機は、蓄電池のドループ特性(出力電流と電圧の関係を示す特性)を利用して複数の蓄電池を協調させて直流バス電圧を制御する技術を開発している。この電圧協調制御を持続的に適用するためには、各蓄電池の過充電や過放電を防ぐ必要がある。そのため、蓄電池ごとにその充電率に応じてドループ特性を変化させることで、各蓄電池の充電率を極力均等に保つ制御技術を開発している。
系統用蓄電池を用いた電力取引に貢献する価格予測・取引計画最適化技術
石橋 直人・林 巨己・新井 馨
近年、系統用蓄電池を活用した電力取引のニーズが高まっている。富士電機は、これを実現するために市場価格予測と取引計画最適化の二つの技術からなる電力取引支援技術を開発した。市場価格予測は、複数の機械学習手法からなるアンサンブル予測モデルを適用することで、卸電力市場や需給調整市場のさまざまな市場に対し安定して高精度な予測が可能である。取引計画最適化は、蓄電池特性、電力システム制度を数理計画法によりモデル化することで、厳密な取引計画を立案可能である。この電力取引支援技術により、系統用蓄電池を活用した電力取引の収益性向上に貢献できる。
製品の低騒音化に貢献する騒音シミュレーション
大野 和彦・直島 勇斗
発電・変電設備や電動機など、使用環境に応じて動作音の低減を求められる製品が多くある。富士電機は、これらの製品の低騒音化に貢献する騒音シミュレーション技術の開発に取り組んでいる。この技術は、音源から発生する騒音を模擬する音源シミュレーションと、発生した騒音が対象者に届くまでの伝搬経路を推定する伝搬経路シミュレーションで構成される。モータを対象に音源を模擬した結果、騒音を高精度に推定することができた。アイスショーケースでは、分析結果に基づいて騒音への影響が大きい伝搬経路を推定することにより、効果的な低騒音化対策の実現に寄与した。
骨格推定AIを活用した作業認識技術
石河 範明・野間 拓耶・鈴木 崇大
労働力不足が深刻化する製造現場において、品質管理の高度化や作業効率の向上への対応が求められており、その解決策としてAIを活用した取組みが急速に広がっている。これに応えるため富士電機は、良品率向上と工程改善を目的とした骨格推定AIを活用した作業認識技術を開発中である。カメラで撮影した動画から作業者の関節位置(関節点)を自動的に認識し、その関節点の位置や動きを時系列的に解析することで、作業者の動作や作業内容を判定することが可能である。また、作業ミスをリアルタイムで検知して通知できるため、不良品の発生を未然に防ぐことが可能である。
リサイクル樹脂・植物由来樹脂の製品適用技術
長谷川 知貴・西沢 祐里・山城 啓輔
カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に向け、産業用電気機器においてもリサイクル樹脂や植物由来樹脂の採用が求められている。しかし、これらの環境対応樹脂は物性や長期信頼性が石油由来樹脂に劣る。この問題を解決するため、リサイクル樹脂では劣化の要因を解明し、それを抑制するための加水分解安定化剤、ラジカル捕捉剤を添加することにより、製品寿命の目標である10年を超える約15年の寿命を実現した。また、植物由来樹脂では相溶化剤を用いてバージン材との相溶性を向上させることで、バージン材と同等の機械強度を維持できることを確認した。
樹脂部品の紫外線・温度・湿度に対する加速試験技術
柳瀬 博雅・西沢 祐里・山城 啓輔
屋外機器で使用される樹脂部品は、紫外線、温度、湿度などの劣化因子により劣化するため、信頼性を担保するには耐候性評価が重要である。従来の促進耐候性試験(SWOM、XWOM)の課題を解決するため、紫外線、温度、湿度を個別に制御可能な恒温恒湿紫外線照射試験機を開発した。ポリカーボネートを対象に黄変度、フーリエ変換赤外吸収分光、曲げ強度を比較した結果、SWOM試験やXWOM試験に対して、大幅な試験時間の短縮が可能であることが確認できた。また、同一の黄変、分子量低下、強度保持率変化などの構造変化も再現可能であることを確認した。
新製品紹介論文
地熱二相流量計測システム
地熱井戸(生産井)から噴出する流体は、一般的に蒸気と熱水が混合した二相流であり、発電には地熱蒸気を利用する。安定した発電運用のためには、生産井ごとの二相流の生産量を継続的に測定して各井戸の状態を把握し、圧力や生産量の減衰の将来予測を行うことが重要である。従来は、生産井ごとの二相流量(蒸気流量、熱水流量)を連続的に計測する適切な方法がなく、年に数回程度の手分析による流量計測にとどまっていた。こうした中、富士電機は、配管に外付けしたセンサによる計測システムを開発し、生産井ごとの二相流量の連続計測を実現した。これにより、生産井の状態変化をきめ細かく把握し、圧力や生産量の減衰兆候への早期対策や的確なメンテナンス計画の立案など、運用の最適化に貢献する。
臨界モードインターリーブPFC制御IC「FA1C20N」
脱炭素社会の実現に向けて、電力の利用効率や品質の向上ならびに電源装置の小型化への要求が高まっている。交流電力の利用効率や品質を示す指標の一つに力率があり、総量である皮相電力に対する有効電力の割合を示す。力率改善(PFC:Power Factor Correction)回路は入力電流波形を入力電圧波形と同相の正弦波に近づけるように制御することで力率を高める機能を持ち、近年、需要が増加している。富士電機では、200W未満の低負荷電力のスイッチング電源向けにスイッチングノイズが小さい臨界モードPFC制御ICを展開してきた。今回、200W以上の比較的高負荷電力のスイッチング電源向けに、高出力が得やすいなどの利点を持つインターリーブ回路に対応した臨界モードインターリーブPFC制御IC「FA1C20N」を開発した。
略語・商標
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注
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