富士電機技報
第98巻第4号(2026年1月)
特集 カーボンニュートラルの実現に貢献するパワー半導体
特集 カーボンニュートラルの実現に貢献するパワー半導体
企画意図
現在、世界的にカーボンニュートラルの実現に向けた省エネルギー技術への期待が高まる中、富士電機は中核技術であるパワー半導体でそれに貢献しています。本特集では、電動車のCO2削減、再生可能エネルギーの普及、各種機器の省エネルギー・小型化を実現する産業IPMや電源ICの開発など、富士電機の革新的なパワー半導体技術に焦点を当てます。
また、今後のパワー半導体技術の基盤となる第3世代SiCトレンチゲートMOSFET素子や第8世代IGBT素子など、最先端の開発状況についても詳しく紹介します。
〔特集に寄せて〕
カーボンニュートラル実現に向けたパワー半導体の挑戦
カーボンニュートラル実現に向けたパワー半導体の挑戦
岩室 憲幸
筑波大学 数理物質系 教授 博士(工学)
〔現状と展望〕
カーボンニュートラルの実現に貢献するパワー半導体
カーボンニュートラルの実現に貢献するパワー半導体
大西 泰彦・宮坂 忠志・井川 修
世界的にカーボンニュートラルの実現に向けた省エネルギー(省エネ)技術への期待が高まる中、富士電機はその中核技術であるパワー半導体で重要な役割を果たしている。半導体事業では、自動車の電動化やパワーエレクトロニクス機器の小型化・省エネ化を通じて CO2排出量削減に貢献することで、中長期的に事業を拡大していくことを目指している。特に、需要拡大が継続する電動車や再生可能エネルギー向けのパワー半導体モジュール開発を強化し、これらに適用されるSi-IGBTやSiC-MOSFETの次世代素子の開発も推進している。また、エアコンなど家電製品の省エネ化に貢献するIPM(Intelligent Power Module)やスイッチング電源の高効率化に貢献する電源制御用ICの開発を進めている。
軽・小型xEV向けパワーモジュールのパッケージ技術
佐藤 悠司・今井 瑛二・山田 教文
カーボンニュートラルの実現に向けて、軽自動車や小型車のモータ出力容量50~100kWに対応した業界最小クラスのパワーモジュールを開発した。ウォータージャケットと組み合わせて冷却するパッケージとし、さらにリードフレーム配線を適用して配線スペースを縮小し、小型・低背化を実現した。また、内部部材との密着性に優れたゲルで封止し、リードフレーム形状を最適化するとともに接合するはんだを高強度化することにより、樹脂封止で必要であった工程を追加することなくΔTvjパワーサイクル耐量を向上し、自動車用途で要求される高い信頼性を確保した。
第3世代小容量IPM「P641シリーズ」
柴﨑 雄汰・田中 才工・小口 拓也
家電製品における省エネルギー化の進展に伴い、三相インバータブリッジ回路と制御回路、保護回路を内蔵したIPM(Intelligent Power Module)の普及が進んでいる。今回、インバータの小型化、高効率化の要求に応え、小型・低損失な第3世代小容量IPM「P641シリーズ」を開発した。改良した第7世代RC-IGBT、高放熱樹脂絶縁シート、およびリードフレーム構造の適用により、「P633Cシリーズ」に対して設置面積を44%削減するとともに起動時の損失を5%低減した。また、本パッケージ寸法で初めて定格電流40A品をラインアップすることで、エアコンなどの大出力化に貢献する。
臨界モードインターリーブPFC制御IC「FA1C20N」
矢口 幸宏・藪崎 純・鎌倉 竜馬
近年、電子機器の高効率化に向けて、高調波電流を低減し力率を向上する力率改善(PFC)回路を搭載したスイッチング電源の適用が進んでいる。今回、200W以上の比較的負荷電力の高いスイッチング電源で使用されるPFC回路の制御用に、臨界モードインターリーブPFC制御IC「FA1C20N」を開発した。独自の制御技術により、高効率化を目的とする動作切替時の音鳴り発生防止、優れた負荷追従性を実現するとともに、高調波電流の発生を抑制し国際規格IEC61000-3-2のクラスCに対応した。さらに、スイッチング素子ごとに電流検出抵抗を設け、高精度な過電流保護を実現した。
第3世代SiCトレンチゲートMOSFETチップ
豊田 善昭・林 真吾・市川 義人
脱炭素社会の実現に向けて導入が進む電気自動車、太陽光発電、風力発電などで使用されるパワーデバイスに対するさらなる高効率化と小型化の要求に対応するため、第3世代SiCトレンチゲートMOSFETチップを開発した。チップ構造の簡素化と微細化により、第2世代トレンチゲートMOSFETチップに対し単位面積当たりのオン抵抗を23%低減した。また、連続ゲート電圧印加に伴う経時的なゲートしきい値電圧の変動やボディダイオード通電によるオン抵抗上昇を抑制し、高い信頼性を確保した。
第8世代IGBTおよびFWDチップ
伊倉 巧裕・内藤 達也・岸 朋哉
再生可能エネルギーへの転換やモビリティの電動化が進んでおり、電力変換装置に使用されるIGBTモジュールにはさらなる性能向上が求められている。この要求に応え富士電機は、表面セル構造の微細化と配置パターンの最適化により、損失を低減しつつ従来と同等の破壊耐量を持つ第8世代IGBTおよびFWDチップを開発した。IGBTモジュールに搭載し、再生可能エネルギー向けPCSを想定した条件で動作させたとき、第7世代に対して10%の損失低減が可能となる。これにより、電力変換装置のさらなる高効率化や小型化、高信頼化に貢献する。
半導体デバイスの開発を加速する分子レベル計算技術
広瀬 隆之・大内 祐貴・佐伯 英紀
半導体デバイスの開発を加速するため、デバイスを試作・分析することなく製造プロセスや条件の検討が可能な分子レベル計算の活用を進めている。SiC-MOSFETの例では、低損失化に向け電子移動度を向上するため、ゲート酸化膜とSiCの界面に電子移動度を向上するN原子を導入しつつ、低下させるC = C結合を低減可能な処理条件を検討した。分子動力学計算を適用することで、従来の試作・分析では把握できなかった反応機構を解明し、最適な界面構造を形成するための処理条件をデバイスを試作することなくシミュレーションより短期間で推定した。
普通論文
シリコンユニポーラデバイスの理想オン抵抗
藤平 龍彦
Si(シリコン)ユニポーラデバイスの最適設計は、これまでNPT(Non-Punch-Through)型においてのみ明らかにされていたが、今回、ほとんどの製品に適用されているPT(Punch-Through)型についても解明した。PT型Siユニポーラデバイスのドリフト領域の厚さの最適設計値が、同じドーピング密度の場合で従来最適と考えられていた値の9/8であることを明らかにし、PT型Siデバイスの新たな最適設計指針を提示した。この指針に従うと、PT型では理想オン抵抗(Siリミット)が従来報告されていたNPT型の値よりも約12%低くなり、より低損失なデバイスを実現できる可能性が示された。
新製品紹介論文
自家消費・PPA 事業者向けストリングPCS「PIS-112/420」
太陽光発電で用いられるパワーコンディショナ(PCS:Power Conditioning System)においては、大型で出力当たりの単価が安いセントラル式(集中式)に比べて、小型で設置工事や管理が容易なストリング式(分散式)の需要が、近年高まっている。これまでに富士電機は、システム容量500kW以下の小規模発電向けに最適容量となる単機容量50kWのストリングPCSを開発して市場展開してきた。しかし、今後は、オフサイトPPA(Power Purchase Agreement)向けに中規模発電向けの需要が高まる見通しである。また、FIT制度(Feed-in Tariff)買取期間の終了に伴う設備の更新として置き換えるケースも増えている。これらのシステム容量1MW程度の中規模発電用途においては、単機容量100kWクラスのストリングPCSが求められる。そこで、DC1,000V/112.5kWの大容量ストリング式PCS「PIS-112/420」を新たにラインアップに加えた。
略語・商標
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注
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