富士時報
第74巻第2号(2001年)

パワー半導体の現状と動向

関 康和

富士電機における最近のパワー半導体開発の経過を振り返る。これまでの富士電機におけるパワー半導体としてのトランジスタやIGBT の開発経緯などを,デザインルールの推移や,デバイス容量の推移などの図を用いて概説する。また開発の最前線として代表的なパワーMOSFET ,IGBT ,そしてアセンブリ技術について,それぞれSuper FAP ‐ G シリーズ,EconoPACK ‐ Plus ,そしてSnAg系の新はんだ材料におけるモジュールの信頼性について概説する。

サイリスタ内蔵パワー集積モジュール

佐藤 卓・小林 靖幸

産業用インバータなどの電力変換装置においては,装置の小型化,高信頼性化の要求が高まってきている。このたび,富士電機では,入力ダイオードブリッジ,出力IGBT ブリッジ,ダイナミックブレーキ用IGBT ,ケース温度保護用サーミスタに加え,直流中間コンデンサの突入電流制御用のサイリスタを1 パッケージに封入した製品を開発し,装置設計の簡素化を可能とした。

大容量6 in 1 IGBT モジュール「EconoPACK‐Plus 」

吉渡新一・別田 惣彦

産業用インバータなどの電力変換装置では40kW から1MW クラスの大容量品の需要が高まっており,これに使用される電力変換用半導体素子にはさらなる小型化,高信頼性化,大電流化,高性能化,使いやすさが求められている。これらの要求に対し富士電機は,大電流定格6個組IGBTモジュール「EconoPACK ‐ Plus」を製品化する。この製品は新世代IGBT/FWD適用による従来比約20%の損失改善(高性能化),サーミスタ内蔵による高精度な温度検出(高信頼性化),従来比約50%のベース面積削減(小型化),並列接続容易なパッケージ,チップ特性(大電流化)を実現する。

低損失・超高速パワーMOSFET 「SuperFAP‐G シリーズ」

山田 忠則・黒崎 淳・阿部 和

電気・電子機器に対する省エネルギー対策が進む中,これらの機器に搭載されているスイッチング電源に対しても,いままで以上の低消費電力化,高効率化,低待機電力化のニーズがある。富士電機ではこのようなニーズを踏まえ,高精度加工技術を用いてストライプセル設計の最適化を行い,オン抵抗‐ ターンオフ損失のトレードオフ特性を改善することで,低損失,超高速スイッチングを実現したパワーMOSFET を開発・製品化した。

ハイサイド高機能MOSFET

鳶坂 浩志・大江 崇智・市村 武

自動車用電子制御装置は年々増加の一途をたどっており,自動車電装メーカーでは,その小型,高性能,低コスト化を切望している。このたび,駆動・制御・保護などの回路と,パワーデバイスをワンチップ化したハイサイド高機能MOSFET F5045Pを開発中であるので紹介する。F5045Pの特徴は次のとおりである。(1)定格・パッ ケージ:50V ,1A ,SOP‐8 ,(2)過電流・過熱検出機能の内蔵,(3)最低動作電源電圧3 V ,(4)静止電源電流100μA ,(5)オン状態保持用として2入力端子構成。

電源用マルチチップパワーデバイス「M‐POWER 」

太田 裕之・寺沢 徳保

スイッチング電源は低消費電力,高調波・ノイズの低減など環境への配慮が求められている。そのため一つのコンバータでこれらの要求に対応できる電源を開発し,専用マルチチップパワーデバイス「M‐POWER」として商品化した。特徴は次のとおりである。
(1) 高効率:スナバエネルギー回生
(2) 待機時入力電力3W以下でエナジー2000適合:サブ電源不要
(3) 高調波規制IECクラスD適合:アクティブフィルタ回路不要
(4) ラッチ停止付き保護による保護機能の充実

超薄型パワーSMD

梅本 秀利・古島 達弥

インターネットなどによる急激な情報化社会の発展に伴い,携帯電子機器や情報通信の分野では,さらなる小型・軽量化,省エネルギー化,高効率化が求められている。これらの市場要求に対応すべく,放熱特性を確保したフラットリード構造を適用し,かつ,素子高さを従来品の約60%まで薄くした大電流・超薄型パワーSMD「SDシリーズ」および「TFPシリーズ」を開発・製品化したので,その概要について報告する。

電子レンジ用高圧ダイオード

久保山 貴博・渡島 豪人

最近の電子レンジの技術動向として,高周波出力の高出力化,高周波駆動型電子レンジの駆動周波数の増加がある。また,調理室(庫内)の有効容積率の改善に伴い,電源スペースは狭小となり,使用される高圧ダイオードには今まで以上の低損失駆動が求められる。一方,マグネトロンの異常放電による高サージ耐量の確保も必要とされる。富士電機ではこのような背景を踏まえ,低損失かつ高サージ耐量を実現した新規チップ設計による電子レンジ用高圧ダイオードを開発した。

4.5 kV 高耐圧平型IGBT

藤井 岳志・吉川功・松原 邦夫

IGBT 素子の高耐圧・大容量化の要求に対し,4,500V の耐圧で2,000A および1,200A の電流容量を有する平型IGBTを開発した。パッケージ構造の改善と,内蔵するIGBT,ダイオードチップの設計の最適化により,高い長期信頼性を実現するとともに,素子の高破壊耐量化が図られている。また,高いラプチャー耐量を持ち,平型構造を生かした直列接続による装置適用が容易となっている。現在さらなる素子特性の改善と,システムへの適用を進めている。

600V スーパーLLD

北村 祥司・松井 俊之

スイッチング電源においては,最近の高調波ノイズ規制の動きも相まって,力率改善回路への要求が高まっている。
力率改善回路のスイッチング損失を低減し,低ノイズとするには,ダイオードの逆回復電流の低減とソフトリカバリーが重要なポイントとなる。そのため,素子動作シミュレーション技術を活用し,素子構造の最適化を図ることで,逆回復電流を従来レベルの約半分で,しかもソフトリカバリーな600V スーパーLLD を開発した。

パワー半導体モジュールにおける信頼性設計技術

両角 朗・山田 克己・宮坂 忠志

パワー半導体モジュールの信頼性において最も重要視されるパワーサイクル信頼性について,寿命向上のための設計技術を紹介する。シリコンチップ接合部にPb 基はんだを用いるIGBTモジュールのパワーサイクル寿命は,実使用温度域でははんだ接合部の寿命が支配的である。そこで,はんだ接合部寿命の改善を行うべく,高強度で濡れ性に優れたSnAg系鉛レスはんだ材料を新たに開発した。シリコンチップ接合部に新開発のSnAg系はんだを適用し,パワーサイクル寿命の向上を達成した。さらに,破壊メカニズムを明らかにした。

過渡オン状態からのダイオード逆回復現象の解析

長畦 文男・田上 三郎・桐畑 文明

FWD においてその通電期間が1μs以下で起こるクリティカルな逆回復現象を,1,800V/800A IGBTモジュールを用いて実験的に調べた。この場合,きわめて高いdv/dtとスパイク電圧および電圧・電流の振動が観測される。この現象は短い通電期間による,nベース中へのキャリヤ注入が少ないことに起因する。また,電圧・電流の振動はFWDチップの完全な空乏化と,外部回路間のLC共振である。このように,素子の定格電圧を超える高いスパイク電圧は,FWDチップエッジのガードリング部にくさび状損傷を残す素子破壊に通じる。

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