富士時報
第74巻第6号(2001年)
シミュレーション技術特集
黒谷 憲一
シミュレーション技術は多岐の分野にわたっている。技術計算では「解析手順の容易化」「大衆化」「大規模化」が課題である。この解決のために,フリーメッシュや並列計算などの技術開発が行われている。富士電機では各分野においてシミュレーション技術を活用し,大きな実績・成果をあげてきた。今後は注力分野である「環境」「情報」「サービス」「コンポーネント」事業を中心にシミュレーション技術のさらなる向上に努めていく。
松本 廣太・浅川 修二
富士電機の技術計算で共用しているサーバを更新した。新しい技術計算サーバは,並列計算が可能なUNIXコンピュータで,EWS,PCからリモートログインでき,またWebからも利用できる。並列化により従来に比較して5倍から20倍に高速化しており,解析規模も拡大できる。技術計算サーバは流体解析,構造解析,電磁界解析,デバイスシミュレーションといった解析に使用される。また,PCクラスタによる並列計算は比較的大規模な解析ができるようになってきた。それぞれ用途により使い分けている。
古屋 勇治・橋田 邦彦・奥田 昇
富士電機では,下水処理場における活性汚泥法の生物反応モデルを利用して,処理場の運転支援を行うシステムを開発中である。シミュレーションは,運転制御条件の検討,生物反応槽の容量検討,機器の制御条件検討,運転・管理コスト削減,安定した処理水質の確保などを目的に導入の検討がされている。本稿では,監視制御コンピュータシステムに組み込んだ高度下水処理運転支援システムと,複数の活性汚泥法において上記の検討を行える高度下水処理シミュレータを紹介する。
塚本 輝彰・松本 晴幸・野村 和朗
都市ごみ焼却プラントの自動燃焼制御においては,ごみ質の変動や焼却炉の経年変化に合わせた制御パラメータの調整が必要である。そこで,制御パラメータの調整が容易なニューロ自動燃焼制御システムの構築を行った。本システムを導入することにより,従来制御と同等以上の制御性能を維持したまま,ごみ質の変動に伴うパラメータの調整が容易に行えるようになった。本稿では,ニューロ自動燃焼システム構築手順と,モデル作成時に用いたシミュレーションシステムについて紹介する。
仁井 真介
近年,電力系統の複雑化に伴い,電力系統解析において系統共振現象や多重事故解析など複雑な現象を扱うことが多くなっている。一方,電力規制緩和により今後特別高圧系統や配電系統に分散型電源が多数接続されることが予想され,従来の潮流制御方式や系統事故時における保護制御方式の見直しが必要になりつつある。このよ うな状況の中で,将来の電力系統を想定したシミュレータの必要性が生じている。本稿では,最近の電力事情を踏まえながら,最新のアナログシミュレータモデルについて紹介する。
村上 賢哉・平松 純一・長瀬 一也
自動販売機補充配送業務の計画立案を「ベンダ管理在庫(VMI)」として支援する,オリジナルなアルゴリズムMetroVMIを開発した。実データに基づくシミュレーションにより,MetroVMIを用いることで自動販売機補充配送業務が効率化されることが確認できた。本稿ではMetroVMIのアルゴリズムの概要とシミュレーションの結果について説明する。
高橋 潔・三好 正人
富士電機はこれまで,三次元CG の利用基礎技術の開発を行ってきたが,最近ではCGシーンを使った三次元CGシミュレーション技術の適用を行っている。CGシミュレーションの利用によって,システム完成の予想を実感できるだけでなく,問題点の早期抽出ができることで,出戻りの削減に効果を上げている。本稿では視認性,現実感,感性などを再現した三次元CGシミュレーションの適用例,および三次元CG作成時の効率化ツール(照明設定自動化ツールなど)を紹介する。
北川 慎治・福山 良和・中西 要祐
電力系統では,設備投資抑制などによる機器利用率向上や今後予想される電力自由化の進展により,信頼度に対するオンライン・オフラインでの定量的な評価が重要となる。富士電機は,過負荷および電圧安定度の信頼度評価を高速に行う分散並列処理を適用した信頼度評価システムを開発した。開発したシステムは,電力系統の標 準的なIEEE 例題系統を用いたシミュレーションにより,有効性および実用性を確認した。3台のPCクラスタにより,単純な1台のPCと比較し,約2.68倍の高速化が可能となった。
大野 勝史・武井 修・杉本 雅俊
最新の半導体技術の適用により,電子装置の小型化・高機能化・高速化が急速に進展し,その装置を設計・開発するには,ボードレベルでの各種シミュレーションによる事前検証が不可避となってきている。本稿では,電子回路設計環境の概要を紹介し,その中で近年注力している,(1)ボードレベル論理シミュレーション,(2)ディジタル・アナログ混在シミュレーション,(3)プリント基板における伝送線路シミュレーション,の3点について紹介する。
池田 良成・
パワーデバイスでは小型化,高信頼性,使いやすさが求められている。大容量パワーモジュールを小型化する場合,半導体素子で発生した熱をいかに効率よく放熱させるか,また,電気配線で発生するジュール熱をいかに抑えるかが重要な設計項目となる。本稿では,大電流定格のIGBTモジュール「EconoPACK‐Plus」におけるパッケージと電気配線の熱シミュレーションによる設計例を紹介する。製作したEconoPACK‐Plus の熱特性は,シミュレーションと一致し,本シミュレーション技術が有効であることを確認した。
岡 峰夫・小林 光男
ハードディスク装置(HDD)に利用される媒体の高記録密度化・低価格化に対応するため,設計・開発期間を短縮し,高性能媒体を短期間で開発することを可能にするコンピュータ数値シミュレーション技術について解説する。また,適用例として,ヘッドの低浮上量化に不可欠なヘッドディスク界面(HDI :Head Disk Interface )の解析技術に関連する媒体上のヘッド浮上シミュレーションと,高密度記録媒体の磁性層開発に必要な磁化(Micromagnetics )シミュレーションを紹介する。
鴻巣 直広・金子 公寿・塚本 直史
注出杯数を2倍にした生ビールディスペンサを開発した。注出杯数の増加は,冷却水槽内のかくはん翼を新たに開発することで達成した。なお,入力トルクは増加していない。開発により次のことが明らかとなった。(1)庫内の流速を増加させることにより,注出杯数を大幅に増加させることが可能である。(2)流体解析と可視化手法の併用により,高い精度で冷却水槽内の流速分布およびトルク予測が可能となる。(3)光造型による翼の機能試作は,開発期間の短縮に有効である。
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注
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