富士時報
第74巻第8号(2001年)
水循環系を見守る水処理技術特集
臼井 正和・木田 友康・多田 弘
日本の水環境は,水の繰返し利用,多様な化学物質の環境への流出により,依然として汚染物質の水系内への蓄積・濃縮が進行している。今後は環境への排出負荷を自然界本来の浄化能力以下に抑制し,環境悪化に歯止めをかけていく必要がある。富士電機は,刻々と変化する水環境をオンライン監視するセンサ群,湖沼など閉鎖性水域での藻類増殖シミュレーション,上下水道プラントの保有能力を最大限に発揮するプロセス制御技術などの水環境保全技術を提供していく。
佐川 学・明瀬 郁郎・野田 直弘
湖沼やダム湖は,淡水資源を蓄え,飲料水を供給する水源として重要な役割を持つ。しかし近年,上流域からの自然または人為的な汚濁負荷流入により,短期間に湖沼の富栄養化が進み,さまざまな利水障害が生じるようになった。本稿では,湖沼の富栄養化を予防し,将来にわたって貴重な淡水資源を保全するためのソリューショ ン技術として,(1)生態系モデルを用いた水質予測シミュレーション,(2)湖沼水質のモニタリング,(3)湖沼の直接浄化技術,について紹介する。
青木 隆・平岡 睦久・菊池 智文
最近の環境水質問題は,突発性水質事故,富栄養化による藻類の発生,農薬・内分泌かく乱物質・有機化学物質による原水および地下水汚染,消毒副生成物の低減,クリプトスポリジウムなどの病原性微生物のリスク管理など多様化している。富士電機では,これらの課題に対し,さまざまな水質センサを開発し,モニタリングの自 動化による安全性向上と低減のためのソリューション技術を提供してきた。本稿では,新たに開発したハイブリッド微粒子カウンタ,トリハロメタン生成能計,油膜センサとその応用システムについて述べる。
加藤 康弘・森岡 崇行・星川 寛
原水に臭化物イオンを含む場合,オゾン処理による副生成物として臭素酸イオンが生成される。本稿では実験的検討を通じ,オゾンによるトリハロメタン生成能の低減反応は,臭素酸イオン生成反応よりも優先的,かつ速やかに進行することから,溶存オゾン濃度を監視し,必要最少量のオゾン注入制御を行うことで,臭素酸イオン 生成抑制が十分可能であることを示した。また,臭素酸イオン生成のリスクを極力低下させるための運転支援システムを提案した。
野中 規正・角川 功明・本山 信行
上水へ膜過設備を導入するうえで重要な技術的課題である膜のファウリング抑制に対して,オゾンの適用を検討した。その結果,設備性能の指標である膜過流束は,過の前段でオゾン注入した場合5m3/(m2・日),逆洗水に注入した場合2から3m3/(m2・日)となり,オゾン注入しない方式に比べ数倍の高流束を達成した。また,オゾン注入は,前者では膜過水中の溶存オゾン濃度を,後者では逆洗水中の溶存オゾン濃度を計測し,それぞれが所定濃度となるように制御した。
山本 総一郎・長倉 善則・伊藤 一
水道事業体においては,新エネルギー機器の導入により地球環境に優しいエネルギー利用によって省エネルギーと環境性の改善を,また災害時にはこれら機器により自前の電源を確保することでライフラインとしての水道施設機能維持を両立させる取組みが行われている。本稿では東京都水道局の東村山浄水場にこれまで納入した水力発電設備,コージェネレーション設備,太陽光発電設備などについて紹介する。
宮入 康寿・佐藤 匡則・田中 良春
最近の都市化の進展や産業の発展はさまざまな環境問題を引き起こし,下水処理場が水環境に果たす役割は重要となっている。本稿では,下水処理場に流入する有害化学物質が下水の生物処理の機能を阻害するため,有害物質を事前に監視できる毒物モニタを設置することの重要性とその原理などを述べる。また,汚泥の減量化,再資源化を推進し,処理場内の汚泥発生量の管理を厳密に行うための超音波式汚泥界面計と大都市の豪雨時,雨水ポンプ場のポンプ制御を効率的に行うための光水位計について紹介する。
奥田 昇・岡田 好丘・佐々木 康成
近年,湖沼や内海の富栄養化に伴う水道の異臭味被害,赤潮による漁業被害などが問題となっている。富栄養化は生活排水などに含まれる窒素,リンなどの栄養塩類が河川,湖沼,海に流入することにより促進されることから,都市部を中心に窒素・リン除去を主目的とした下水道の高度処理化が推進されている。本稿では,下水道 の高度処理化に対応した富士電機の取組みの中から,高度処理プロセスの制御方策,納入事例,シミュレーションを利用した処理水質向上の試みなどを紹介する。
高見澤 真司・川戸 研二・本山 浩
近年,上下水道事業においては,その普及率の向上に伴い操作員不足を引き起こしており,加えてその労働環境の改善への要求も強い。本稿では,この問題を解決する一助としてITを応用した次世代のオープン監視制御システムについて,その要求機能と導入事例を紹介する。次に,そのシステムの構築に適用できる富士電機のシ ステムコンポーネントについて,上位管理ステーション,広域ステーション,オペレータステーション,コントローラステーション,PIOステーション,およびネットワークの各階層に分けて記述する。
山本 総一郎・増澤 栄一・佐藤 治
地球温暖化防止京都会議を契機に,環境負荷軽減のための施策が実施されつつある。「改正省エネルギー法」「グリーン購入法」などの法整備も進み,施策の実施がさらに加速されるものと期待されている。本稿では,環境会計の柱ともなっている,省エネルギーとリサイクルについてこれらの法令に対応した製品を紹介し,今後の対応方法の一例を提言する。
筧 誠・丸山 智史・秋山 浩秀
経営に苦しんでいる水道事業体が多い中,2001年6月に改正された水道法は水道事業体の広域化統合,第三者への業務委託の制度化を図るとともに,需要者への情報公開,受水槽水道への規制強化による質の向上を目指している。このような環境の中で,富士電機は業務分析,運転管理,水質管理などのサービスメニューを整備し,水道事業体からの業務委託にこたえる体制を整えるとともに,業務委託を支援する広域管理センター構想を提案する。
-
注
-
本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。