富士時報
第75巻第3号(2002年)
磁気ディスク媒体特集・感光体特集
高橋 伸幸・大月 章弘・小笠原友信
ハードディスク装置は,依然として高い記録密度の進展を続ける中,単位容量価格の大幅な低下を実現し,コンピュータからコンシューマーユースへと応用の拡大が期待されている。この技術進展を支えるキーテクノロジーである富士電機の磁気ディスクについて,技術の現状を概括する。要求される磁気特性とHDI (ヘッドディスク界面)特性の達成点について概要を述べるとともに,今後の技術課題を示す。さらに,応用の広がりを推進するうえで,期待できる新たな新規技術への,富士電機の取組み例を簡単に紹介する。
柏倉 良晴・松尾 壮太・安宍 善史
現在の長手記録方式磁気記録媒体の磁性成膜技術を紹介する。層構成としては,磁性記録層合金の多元化と層構成の多層化が,高記録密度化を可能にしてきた。30Gビット/in2以上を目指す今後の磁性技術には,R/W特性と熱安定性を両立することが不可欠である。その手段として,反強磁性結合を利用した新しい磁気記録媒体が有望視されている。層構成とともに成膜プロセス技術,基板表面加工技術が重要であり,これらの高度化と合わせて,現在100Gビット/in2を目指した磁性成膜技術開発を続けている。
宮里 真樹・永田 徳久・熊崎 博文
高記録密度化を実現するためには,磁気スペーシングの低減が重要になっている。カーボン保護膜の薄膜化技術として,「CVD成膜技術」と「FCA成膜技術」の現状を報告する。各成膜法について成膜原理を説明し,CVD法では薄膜領域でのCo析出量特性が良好であったことを,FCA法ではその膜物性について述べる。さらに,低浮上量のHDI品質達成のうえで鍵となる潤滑剤の挙動や浮上特性の改善について述べる。
増田 克也・安宅 豊路・中村 吾
モバイルパソコン,モバイルAV,高速サーバ用HDDにおいてはガラス磁気ディスク媒体が必須である。ガラス磁気ディスク媒体の主流は等方性媒体であるが,等方性媒体は今後のさらなる高記録密度化において電磁変換特性面で限界が近いといわれている。富士電機は,この特性面で優位とされている異方性媒体をガラス基板においても安価に製造できる技術開発・プロセス開発を実用化に向けて行っている。本稿ではこの開発状況を紹介する。
上住 洋之・酒井 泰志・竹野入俊司
ハードディスク装置は今後とも,特にAV用途のストレージ機器として急激に需要が伸びると予想され,大容量化が強く要求されている。富士電機では,300Gビット/in2以上の超高密度記録に対応可能な垂直磁気記録媒体の実現のための研究開発を推進している。本稿では,媒体ノイズの原因となる軟磁性裏打ち層の磁区構造制御技術や磁気力顕微鏡を用いた媒体の評価技術とともに,CoCrPt‐SiO2グラニュラ薄膜およびアモルファス薄膜を用いた超高密度記録対応の磁気記録層材料の開発成果を紹介する。
佐藤 公紀・二村 和男・斎藤 明
ハードディスク装置の磁気ヘッドを位置決めするためのサーボパターンと,その新しい書込み方式である磁気転写技術を紹介し,開発成果と今後の展開について報告する。磁気転写技術は,サーボパターンの原版であるマスタディスクと磁気ディスクを密着させて外部から磁界をかけ,サーボパターンを磁気ディスクへ一括記録するものである。密着時のクリーン度を保つことに成功し,2001年7月から量産を開始した。次世代ディスクへの適用可能性を確認し,次世代磁気転写装置とサーボ信号試験装置の自主開発を完了した。
川上春雄・成田 満・田中 辰雄
電子写真方式のプリンタ,複写機,およびそれらに用いられる感光体の市場動向と,それらに対応する富士電機の情況を概説する。ここ数年のプリンタの出荷台数は年率数%の伸びにとどまっているが,その中にあってカラープリンタが急速な伸びを示している。特に今後は15枚/分以上の中高速機が主流の一つになると見られている。また,オンデマンドプリンタが新しい市場を形成すると期待されている。複写機では,ディジタル複写機が順調に伸びており,アナログ複写機の置換えが進んでいる。
寺崎 成史・福島 幸二・森本 正博
レーザビームプリンタやLEDプリンタなどの電子写真方式のプリンタは,今後高速機やファクシミリ・コピー機能を有する多機能機,フルカラープリンタが伸長するものと考えられている。したがって,主要部品である感光体に要求される機能・品質は,より高度化している。富士電機ではこれらの要望に応えるために各種感光体を開発,製造している。本稿では,特に負帯電型プリンタ用有機感光体の概要とその特長について紹介する。
篠崎 美調・笠原 正彦・
複写機市場は,近年のディジタル化の流れにより,アナログ複写機からディジタル複写機へ急速に移行している。ディジタル複写機は,低・中速分野ではプリンタと競合するため,高速化に動いている。高速化の流れを受け,有機感光体には高感度,高耐刷性が要求されている。富士電機は,このような市場要求に応えるために,高性能化を図り,低・中速機から高速機まで幅広く対応できる製品を取りそろえている。本稿では,高感度型(タイプ10C)ディジタル複写機用有機感光体を中心に紹介する。
面川 真一・石井 秀幸・鍋田 修
富士電機では従来の低・中速度プリンタ向けに単層型正帯電有機感光体を生産してきたが,これに加えて新たに高感度・高耐刷型の単層型正帯電有機感光体(タイプ11D)を開発した。タイプ11Dは高い応答性を持つとともに,環境安定性,繰返し使用時の安定性,解像度,耐刷性などの点で優れた特性を持ち,高速プリンティング分野への適用が期待できる。
会沢 宏一・上野 芳弘・竹嶋 基浩
電子写真における画像の高解像度化のためには,感光体上に形成された1ドット潜像電位を評価することが有効である。本稿では微小面積における表面電位測定の新しい方法を紹介し,潜像の解析法について述べる。また,負帯電積層型有機感光体および正帯電単層型有機感光体の1ドット潜像電位の評価結果と潜像の膜厚依存性,電荷移動度依存性についても示す。
・浅川 唯志・田中 好彦
PPC,ファクシミリ,プリンタなどの電子写真装置のトレンドは,小型低価格化,ディジタル化,複合化およびカラー化である。これらでは,保守点検不要のため電子写真プロセスのユニット化が図られている。富士電機は,感光体の製品開発で培ったプロセス関連技術を活用し,感光体だけでなくプロセスユニットの生産も行っている。本稿では,ユニットの構成,種類,特徴,市場動向とともに富士電機の取組みについて概説する。また,特に上記トレンドに高い能力で対応可能な正帯電プロセスユニットの開発状況についても紹介する。
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注
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