富士時報
第76巻第4号(2003年)

シミュレーション技術特集

富士電機のシミュレーション技術への取組み

北出雄二郎

製造業においては,従来にない独創的な発想に基づく新しい製品コンセプトの創出と同時にそれを実現するための設計手段として,コンピュータを用いたシミュレーションを事前の現象把握のため,製品開発やシステム解析に積極的に活用している。本稿ではシミュレーション技術の動向と富士電機の取組みについて展望する。

分散型電源のシミュレーション技術

小島  浩・中西 要祐

電力系統の安定的な運用を維持しながら,分散型電源の導入の促進を図るためには,分散型電源が混在した電力系統についてのシミュレーション技術が重要となる。本稿では,配電系統における分散型電源連系時の課題について整理し,これらの課題に対するシミュレーション技術について,分散型電源のモデル化技術,解析例などを紹介する。

並列計算による変圧器の三次元電磁界解析技術

松本 悟史・藤井  清

科学技術計算は,製品の設計・開発に不可欠な手法である。大規模化する技術計算の高速化要求に対して,並列計算技術の適用は非常に有効である。今回,並列計算による電磁界解析ソフトウェアを開発し,これを変圧器の解析に適用した例を示す。解析結果は,実現象とよく一致している。また対象全体の挙動が観察できることから,大規模電磁界解析が変圧器の設計・開発に有用であることを述べる。

配線用遮断器の遮断シミュレーション技術

恩地 俊行・磯崎  優・和田 正義

配線用遮断器(MCCB)の遮断性能を解析する三相短絡遮断シミュレーションについて報告する。本シミュレーションでは,MCCBの可動接点に作用する電磁反発力による運動方程式とアーク電圧をモデル化した電気回路を逐次解析することにより,三相遮断現象を解析することが可能となった。本シミュレーションを用いて解析することにより,任意の回路条件における遮断性能を事前に推定・評価することが可能である。

半導体デバイスと回路の連成シミュレーション解析技術

阿部  康・丸山 宏二

パワーエレクトロニクス分野では,半導体デバイスの進展によって電力変換装置の小型化・低価格化・高性能化などが進んでいる。富士電機では,このような電力変換装置を短期間でさらなる高性能化を実現するために,回路シミュレータによる回路設計を検討している。今回,シミュレータとしてデバイスと回路モデルの連成シミュレーションが可能な,ISE社のISE-TCADの適用を検討した。本稿では,本シミュレータを用いて高圧IGBTを適用した回路を例に,幾つかの事例について解析を行い,その結果を紹介する。

自動販売機庫内の気流解析技術

齋藤 秀介・久保山公道

富士電機では地球温暖化防止のために,自動販売機の消費電力を2001年までに約59%低減してきたが,さらなる省エネルギーに取り組んでいる。自動販売機はファンで空気を循環させることにより飲料を加熱・冷却しているので,流れの挙動が消費電力に影響する。しかし,自動販売機内部は構造が複雑で,実験などにより大まかな流れを把握するにとどまっていた。本稿では,ステレオPIV装置で可視化したファン特性をデータベース化して組み込み,流れの挙動が把握できる自動販売機用の熱流体シミュレータを開発したので紹介する。

自動販売機ラック内の商品挙動解析技術

山田 隆典・中山 和哉

自動販売機の最適設計のため,収納庫(ラック)内における缶商品の落下挙動シミュレーション技術を確立した。液体を封入した中空物体である商品の転がり,跳ね返り,姿勢の挙動を定量的に,かつ短時間で解析するため,商品や機器内の通路部品を剛体として近似モデル化し,運動解析シミュレーションを用いて三次元挙動解析を行う。解析の結果と実機挙動がよく一致したため,本解析手法の妥当性が確認できた。この手法により,設計図面から商品の落下挙動を定量的に予測することが可能であるため,開発効率の向上が図れる。

シミュレーションによる最適設計支援技術

坂田 昌良・松本 廣太

開発期間の短縮,品質向上,性能向上,コスト削減に対して,限 られた条件・期間の中で最適な構造を設計しなければならない。こ のような状況の中,設計者の負担を軽減する手法として,コン ピュータが最適な構造を決定する最適設計手法の利用が進みつつある。本稿では,最適設計支援技術としてパワーエレクトロニクスに 用いられる冷却フィンの最適設計やプラスチックの射出成形条件の 最適化に対する適用事例を紹介する。

HDD媒体の潤滑剤流動シミュレーション技術

岡  峰夫

HDD媒体の潤滑剤は耐摩耗性,耐衝撃性に関し重要な役割を果たしており,その流動特性はスピンオフ特性や復元過程に影響する。潤滑剤の選定のため流動特性をなるべく簡単なパラメータで整理することが重要である。これまで初期形状がステップ状と仮定した場合の拡散係数が用いられてきた。初期形状は実際にはステップ状でなく,拡散係数を大きく見積もる問題があった。ここでは初期形状に測定データを用い数値計算で正確な拡散係数を求める方法を説明し,適用例を示した。この算定方法は測定結果とよく一致した。

材料設計シミュレーション技術

小西 義則・大沢 通夫・米澤 喜幸

ペロブスカイト型の遷移金属酸化物は多彩な機能を有する材料群であり,薄膜デバイス応用に有望な新物質が見いだされる可能性が高い。富士電機では,材料開発による製品の差別化を目指しており,第一原理計算を用いた材料設計シミュレーションによる材料探索を行っている。また,材料探索を超高速化・超効率化する方法論として,近年注目されているコンビナトリアル手法を用いて新物質の合成条件検討を行っている。本稿では,新規な強誘電体材料の開発に取り組んだ例を紹介する。

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