富士時報
第79巻第2号(2006年3月)
特集1 交通・特機
特集2 グローバル化する低圧開閉機器
特集2 グローバル化する低圧開閉機器
特集1 交通・待機
交通・特機分野における最新技術と取組み
田中 滋夫
2005年2月に京都議定書が発効に至り,国際法としての効力を持つようになった。鉄道は最もエネルギー効率が高く,経済的で環境に優しい大量輸送機関であり発展を続けるものと考えられるが,今後は小型軽量・省エネルギー・省メンテナンスに加えて車内静粛性や高齢化対応などの快適性がますます求められるであろう。道路分野では環境基準の達成に向けて二酸化窒素濃度の軽減技術が求められる。これらの分野を総括するとともに,富士電機は今後ともさまざまな新しい取組みや新技術への挑戦によって貢献していく。
N700系新幹線車両用主回路システム
井上 亮二・坂本 守・神田 淳
新幹線車両用主回路システムは,東海道新幹線の1964年開業以来,安全性,信頼性,経済性に対する要求とその後の高速化,省エネルギー化,環境問題への対応などの時代の要請に応えながら,技術革新を実現してきた。その技術進歩は,主電動機を制御する変換器の主回路用パワーデバイスの高耐圧・大容量化と,マイクロプロセッサの高性能・高速化といったパワーエレクトロニクス技術の目覚ましい進歩に負うところが大きい。新幹線車両用主回路システムの技術変遷における現状と最新新幹線車両であるN700系の主回路システム電気品および今後の技術動向について紹介する。
在来線車両用補助電源装置
大庭 政利・青柳 嘉木・阿部 康
富士電機では,在来線車両用補助電源装置への高度化する要求に対応するために開発された三相個別瞬時制御,高機能ワンボード制御装置を適用した付加価値の高い製品を製作している。現在主流となっている3.3kV高耐圧IGBTでは素子発生損失が大きくキャリヤ周波数を高くすることができないため,フィルタリアクトルの小型軽量化,騒音の低減に限界があるが,それらの課題を克服し,さらなる高付加価値化を図るIGBTの多数個直列接続技術を開発したので紹介する。
リニアモーターカー「リニモ」の磁気浮上システム
岩谷 満・尾崎 覚・田村 浩明
2005年日本国際博覧会(愛知万博)の主要アクセスとして,日本で初めて実用化された常電導磁気浮上鉄道「リニモ」の磁気浮上システムを開発・納入した。本質的に不安定な制御系である吸引式磁気浮上系に対して,最新の制御技術を駆使することで安定な浮上特性を実現した。また,リニモの生命ともいえる浮上系の信頼性を確保するためさまざまな対策を実施した。
リニアモータ式側引戸用戸閉装置
梅澤幸太郎・辻村 勲・高橋 弘
車両の側引戸用戸閉装置(がわひきどようとじめそうち)は,乗客と直接接する装置であること,一つ一つが独立したシステムであること,また,その数が多いことから,安全性,信頼性,機能性が高く,また,省メンテナンスであるシステムが求められている。富士電機はリニアモータの直線動作を側引戸の直線動作に適用した戸閉装置を開発,製品化し,東日本旅客鉄道株式会社,ニューヨーク市交通局向けに納入している。本稿では装置についての開発の経緯,およびそれらの概要について紹介する。
最近の電気鉄道地上設備用パワーエレクトロニクス装置
山本 光俊・大宮司 充・鈴木 明夫
電気鉄道(電鉄)地上設備にパワーエレクトロニクス応用製品の適用が拡大している。不平衡負荷の補償を目的とした新幹線電鉄変電所用自励式無効電力補償装置(自励式SVC)およびつくばエクスプレスの直流変電所に採用されたPWM変換装置を取り上げ,適用の目的から技術内容の詳細,現地測定データによる効果などを紹介する。電鉄地上分野においても,パワーエレクトロニクス技術の適用により,変電システムの小型化,高機能化,高性能化がさらに加速すると考える。
環境対応・省保守・小型化を追求した最新の直流変電設備
粟飯原一雄・小林 正明・野尻 尚
富士電機では地球環境保護に加えて鉄道用電力設備として必須要件であるライフサイクルコストの低減,省保守,小型軽量の実現を目指して各種製品を開発しラインアップしている。本稿では直流き電変電設備で採用されている最新鋭製品である24kVドライエア絶縁スイッチギヤ,純水沸騰冷却式シリコン整流器・電力回生インバータ,100kA直流高速度真空遮断器ならびに回線単位形主制御用配電盤を紹介する。
列車無線高度化システム
新井 隆・永井 義久
列車無線システムは,列車運行を管理する指令所と列車乗務員間を結ぶ保安通信設備である。従来は音声通話のみを行ってきたが,指令業務効率の改善や乗客向け案内サービスの拡充などの顧客ニーズに対応するため,データ伝送を主とした高機能化技術を検討してきた。本稿では,列車という移動体に対する通信環境で,列車無線機能の高度化を実現した技術,中央システム・車載無線設備の概要について紹介する。
交流電界による電気集じん装置の高性能化
安本 浩二・瑞慶覧章朝・河野 良宏
電気集じん装置の長年の課題であった再飛散現象を抑制する交流電界形電気集じん装置の開発に成功した。交流電界による微粒子の集じん率向上と高電圧発生装置の開発について報告する。ディーゼル自動車排出ガス粒子を電気集じん装置で集じんした場合,再飛散現象により集じん率が低下する。矩形(くけい)波交流電圧を印加することにより,微粒子については直流形と同等の集じん率が,大粒径粒子については再飛散を抑制し集じん率が長時間維持することが可能となった。また,矩形波交流電源の高電圧発生装置を開発し製品化した。さらに今後生体系への影響が懸念されるナノ粒子の集じん率についても評価した。
特機分野におけるパルスチューブ冷凍機の適用
竹内 孝行・松下 智行・大嶋 恵司
富士電機は,約30年前にスターリング冷凍機の製品化を進め,赤外線暗視装置用として完成させた。また,その実績と継続的な開発により,地球観測用人工衛星に搭載され,赤外線センサ冷却用として高い評価が得られた。さらに,2005年6月,5万時間の高信頼性を有するパルスチューブ冷凍機の販売を開始したので,製品を紹介するとともに,その用途として通信設備,半導体製造装置などのセンサ冷却に適用されるだけでなく,衛星搭載など環境仕様が厳しい特機分野へ適用する際の特徴を紹介する。
特集2 グローバル化する低圧開閉機器
低圧遮断器の動向と富士電機の対応
内田 直司・小塙明比古
世界貿易機関(WTO)のTBT(Technical Barriers of Trade)協定の受入れにより,低圧電気設備のIEC 規格への整合化が急速に進行している。一方,地球温暖化防止に関する京都議定書の発効により,二酸化炭素の削減を目的とした省エネルギー法の適用の拡大が図られている。低圧遮断器でもこうした状況の変化を受けて,新しい動向に添う製品化,例えば,グローバル規格対応の遮断器,より過電流保護の安全性を向上させた小型モータブレーカ,電力計測機能付ブレーカなどを製品化している。本稿では,低圧遮断器を取り巻く動向の分析と富士電機の対応について述べる。
新グローバルMCCB/ELCB「G-Twin」シリーズ
久保山 勝典・小塙明比古
低圧電気設備の主要な部材である配線用遮断器(MCCB)・漏電遮断器(ELCB)について,顧客のグローバル化,および国内電気設備へのIEC規格の取入れの流れを受けて,IEC規格に整合した新JISが発行された。富士電機では,この流れを分析した結果,市場ニーズを実現する次世代の低圧遮断器として新グローバルMCCB/ELCBが必要であるとの結論を出し,要素技術から開発を進めた。本稿では,全世界の規格に適合する新グローバルMCCB/ELCB「G-Twin」シリーズの特長,仕様の概要,開発技術などを紹介する。
新グローバルMCCB/ELCBの要素技術開発
中野 雅祥・恩地 俊行・杉山 修一
新グローバルMCCB/ELCBとして,IEC,JIS,UL,GBなど世界の主要な規格に規定されている性能を1機種で満足させることを基本コンセプトに開発を行った。本稿では,開発にあたって適用した,ガス流制御および細げき構造の最適化による高遮断性能,電源回路およびトリップコイルの小型化による1相欠相時の漏電保護動作,短絡電流遮断時の圧力上昇を考慮した筐体(きょうたい)の高強度化に関する要素技術について紹介する。
新グローバルMCCB/ELCBの環境対応技術
潮崎 克郎
「RoHS指令」(特定有害物質使用禁止指令)が2003年2月13日に発効した。このRoHS指令はEU域外にも影響を及ぼし,中国,韓国などでも同様の規制を制定する動きがある。また日本でも「電気・電子機器の特定の化学物質の含有表示方法」が制定された。新グローバルMCCB/ELCBはこれらの内外の環境規制に十分配慮して開発したものである。本稿では新グローバルMCCB/ELCBを開発するにあたって,その開発を支えた材料面からの幾つかの環境対応技術を紹介する。またこの環境対応技術を維持するための,受入れから出荷までの管理体制についても紹介する
新グローバル電動機制御方式
永廣 勇
IEC60947シリーズとJIS C 8201 の整合を発端として,電動機制御分野では,コンポーネントのグローバル仕様への要求が強まってきている。本稿では,富士電機独自の遮断技術を応用したことによって,「省スペース化」「高遮断化」「タイプ2:短絡保護協調」などを達成したマニュアルモータスタータ(MMS)やコンビネーションスタータに代表される,新しい電動機制御機器について,規格の動向を交えて紹介する。
低圧配電システムのネットワーク化と省エネルギー支援機器
鹿野 俊介・高島 敏和・大石 晴信
ISO14000シリーズ(環境マネジメントシステム)導入企業における環境活動の拡大や,改正省エネルギー法による規制強化などにより,省エネルギーシステム支援機器の導入は急速に拡大するとともに,省エネルギー支援システムのネットワーク化により,低圧配電設備へのネットワーク適用も進んでいる。本稿では,省エネルギー法対応を踏まえた,省エネルギー支援機器および省エネルギーシステムの機器の動向や,省エネルギー監視システムとして普及が著しい低圧配電設備のネットワークの内容を紹介するとともに,今後の低圧配電設備への適用動向について述べる。
エネルギー管理システム用機器
吉田 隆・谷 敏明・高橋 文人
最適な機器選択によるエネルギー管理システムを構築するため,遮断器一体形シリーズの電力監視機器を開発した。「FePSU」は主に新設設備用途に最適な機器で,電子式電力量計「JFシリーズ」はテナント盤での課金用途,分電盤に最適な機器である。また,F-MPCシリーズおよびFePSUをEthernetに接続するためのネットワーク機器として「MPC-Webユニット」を開発したので,これらの機器について紹介する。
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注
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本誌に記載されている会社名および製品名は、それぞれの会社が所有する商標または登録商標である場合があります。著者に社外の人が含まれる場合、ウェブ掲載の許諾がとれたもののみ掲載しています。